ストライク・ザ・ブラッド 〜同族殺しの不死の王〜   作:國靜 繋

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戦王の使者
戦王の使者


月齢二十一 弦月の夜

 

特区警備隊強襲班が、湾岸地区にある古い倉庫を襲撃していた。

その様子をダアトは、全身を蝙蝠にして各地を空から見ていた。

 

「お、那月ちゃん見っけ」

 

豹頭の男を鎖でがんじからめ縛りつけている那月を見つけたので、そちらの方へと無数の蝙蝠が一か所へと向かった。

無数に蝙蝠化している全身を那月の元へと集め人の形へと変貌した。

 

「ご苦労様那月ちゃん」

 

「貴様か」

 

「それで、これが、クリストフ・ガルドシュの部下で、黒死皇派の一味か。懐かしいね黒死皇派」

 

「貴様、まさか」

 

那月の手によってがんじがらめに拘束されている獣人は、獣人特有の敏感な嗅覚によって、ダアトから発せられる幾千幾万では収まらない程の血の臭い、そして、獣としての直感によってこの男は危険だと感じ取り、空隙の魔女である南宮那月と親しげな所から一つの存在を思い出した。

 

不死の君(ノーライフキング)何故貴様までここに居る」

 

欧州出身だからこそ知っている、ダアトの危険性。

もし、此奴が本気で動き出したらそれこそ、国一つ滅ぼして尚お釣りが来る。

下手をしたら、夜の帝国(ドミニオン)を単身で滅ぼし得る存在である事は、過去の戦いで既に証明されている。

だからこそ、豹頭の男は不安を禁じ得なかった。

既に計画は動き出している。

しかし、空隙の魔女と不死の君(ノーライフキング)の二人が動いたらどうなるだろうか。

空隙の魔女だけならばこの都市は滅びる運命だっただろう。

だが、ここに不死の君(ノーライフキング)がいる。

 

「何を考えているんだい」

 

「俺が、何か考えたとしてそれを言うと思うか」

 

「いや全然」

 

厄災は表情こそ柔和な笑みを浮かべているが、今にも気絶しそうなまでの迫力を醸し出している。

 

「だからこそ、楽しいのじゃないか。那月ちゃんは明日の学校の準備があるだろ?もう帰った方がいいよ」

 

それにここから先はお子様には見せられないからね。

良いわしなかったが、那月には伝わった様で、若干イラッと来ているようだったが、それ以上にダアトから発せられるドSの気配に引き気味だった。

まあ、どの道これ以上ここに居ても仕方ないと結論付けたのだろう。

那月は、ゆらりと空間に波紋を残して姿をかき消した。

 

「さて、那月ちゃんも居なくなったことだし、キリキリ話してもらおうかね」

 

その日、絃神島全体に男と野太い悲鳴声が聞こえたとか聞こえなかったとか。

 

 

 

その日の朝、学校にある那月専用の一室にてダアトは正座をさせられていた。

 

「それで、何か聞き出せたのか」

 

「ふふふ、勿論だとも」

 

傍から見たら微笑ましい光景だろうが、那月の持つカリスマ性の御蔭でダアトが説教されているのが一目でわかった。

 

「ならさっさと教えろ」

 

「え~どうしようかな~」

 

あまりに勿体ぶるダアトにイラッと来たのか那月は黒いフリルの扇子でダアトの眉間を撃ちぬいた。

 

「たぁああ」

 

「さっさと言わない貴様が悪い」

 

どう考えても理不尽だろと思いつつも形式上は那月の方が上なので渋々教えてやることにした。

 

「なら取り合えず、聞き出せた範囲で、カノウ・アルケミカル・インダストリー社開発部、ここにあるらしいよ」

 

それから、行動を起こしたのは放課後に為ってからだ。

何だかんだ言って、那月は教職を楽しんでいるようだな~と思ったダアトだった。

 

 

 

「えっと、ここであってるんだけっけ?」

 

ダアトは、影の中から那月に聞いたら、そうだ、と素っ気無い態度で那月が答え、黒い背広の男の一人が何か研究室の隔壁前で操作していると、前触れもなく突然開いた。

 

「開きました教官」

 

那月を先頭に黒服二人を従えた様子はさながらどこかのお嬢様とSPの様だった。

 

「なんだ、君たちは。ここはクラスⅥの機密区画だぞ。職員以外の立ち入りは」

 

縄張りを荒らされたとでも思ったのだろうか、白い白衣を着た男は、黒服たちを威嚇したが、黒服たちが提示した身分証によって、表情を凍りつかせた。

 

「カノウ・アルケミカル・インダストリー社開発部の槇村洋介だな。この研究所内で扱っている物の中に魔導貿易管理令に違反する物品が含まれている疑いがある。速やかに書内の全資料の開示、並びに荷物の引き渡しを要求する」

 

抑制の乏しい機械的な声で黒服の一人が言った。

 

「貿易管理令?」

 

槇村と言う男はあくまで白を着るつもりらしい。

まあ、それはそれで構わないのだけどね。

結局、結果は変わらないのだから。

そう思っていたら、黒服の一人が、槇村の腕をつかみ手錠をかける、と思われた瞬間、黒服に鈍い衝撃が襲った。

見るからに非力そうな槇村だが、全身が膨れ上がり筋肉が白衣を引き裂いた。

獣人化、それも人狼か。

もう一人の黒服が咄嗟に眷獣を抜き、槇村に人狼殺し(ラインカンキラー)とも呼ばれる銀イリジウム合金弾を撃ち放った。

しかし、槇村はその銃撃を潜り抜け、銃を叩き落させ、そのままの勢いで跳躍した。

開け放たれたままの隔壁から逃げようとしたのだろう。

 

「矢張り、未登録魔族、黒死皇派の賛同者か」

 

そんな槇村の後姿を見送った那月はつまらなそうに呟き、命令を下した。

 

「アスタルテ、少しくらい手荒に扱っても構わん。そいつを拘束せよ」

 

命令受諾(アクセプト)

 

アスタルテは、大きく背中の空いたエプロンドレス(メイド服)を着て、獣人化した槇村の前に立ちはだかった。

 

人工生命体(ホムンクルス)程度が俺を止めれると思うなよ」

 

「――実行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)

 

次の瞬間、アスタルテの肉体を突き破るかのように背中から虹色に輝く翼が出現した。

撒き散らされた衝撃で、研究室内の大気を歪ませる。

 

「なっ……」

 

背中から出現した翼は、巨大な腕に変化し、槇村を正面から殴りつけた。

 

「け、眷獣だと!?馬鹿な……どして人工生命体(ホムンクルス)が」

 

血の塊を吐きながら、弱弱しくうめいた。

その隙を黒服が見逃すわけもなく直ぐに槇村は拘束された。

 

「南宮教官、申し訳ない。御蔭で助かりました」

 

先にやられた黒服が、折れたのであろう右腕を抑えながら、那月に礼を言った。

 

「礼には及ばん。働いたのは私じゃない」

 

つまらなそうに鼻を鳴らしながら答えた那月だが、黒服は喜んでいるよういさえ見えた。

那月の影から見ていたダアトは、奴は真正のマゾかと思ったのはいつも通りの事だった。

 

「対象確認不能。既に当施設から運び出されたと推定されます」

 

那月が、黒服の相手をしている間に調べてきたことをアスタルテは淡々と答えた。

 

「出遅れたみたいだね那月ちゃん」

 

「煩い。お前がさっさと言っていれば」

 

「まあまあ、落ち着いて」

 

不機嫌になった那月をどう宥めたものかと思っていたら、那月が何かに気が付いたよう。

黒服たちもいなくなったからいいかと思い、那月の影から出て那月が見ている先を見たらそこには、懐かしい骨董品の名前があった。

 

「ナラクヴェーラか、あのカビの生えた骨董品を持ち出して何をする気だろうね」

 

ダアトがぼそりと呟いたが、その声は那月には届かなかった。




前回はベルフェゴールの独壇場だったな~
と言うか、サタンの使い辛さが半端ない

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