ストライク・ザ・ブラッド 〜同族殺しの不死の王〜   作:國靜 繋

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聖者の右腕 3

翌日のメディアは、謎の爆発事件のニュース一色だった。

新聞の一面にデカデカと惨状の様子が載せられており、テレビや動画サイトなどにも目撃者の対話談、遠目からの撮影された映像などが永遠と再生され続けていた。

その中の一部にダアトの眷獣、怠惰なる辺獄烈火(ベルフェゴール)が乗っていた時は流石に焦った。

怠惰なる辺獄烈火(ベルフェゴール)自体巨大なのも原因の一つなのだが。

まあ、そんな訳でやり過ぎだと古城たちを逃がした後にやって来た那月に朝まで延々と説教を喰らっていた。

 

「しかし、これでお前の居場所が知られるところに為ったのだが、どうするつもりだ?」

 

「どうするもこうするも、俺は那月ちゃんの居る所に居るつもりだからねぇ~それに今は、他の真祖達と敵対する心算は無いからね~まあ、それはお互い様だけど」

 

「ふん、どうせ契約に縛られているからだろ。契約さえなければこんな所に居まい」

 

「そんな事は無いよ。俺は那月ちゃん一筋だから!!」

 

無駄にキリッとした表情でそう言った。

 

「お前は良く恥ずかしい事を臆面もなく言えるな」

 

「ふっ、事実だからね」

 

「あ~はいはい」

 

素っ気無い態度で、あしらいながらもその表情はどこか嬉しそうな那月だった。

 

 

 

 

その日の学校の昼休みと言う時間、那月の居城の一つともいえる生徒指導室に昨日の生徒、暁古城と姫柊と言われた女生徒が訪れた。

那月が事前に教えてくれなかったから、焦って那月の影の中に逃げ込む羽目になった。

当の那月は俺の焦っている姿に笑いを堪えていたが。

何で、呼び出したか那月の影から見ていたら、どうやら魔族狩りについての忠告だったらしい。

そして、古城たちが出て行ったのを確認してから俺は那月の影から出てきた。

 

「良かったのか、昨日の事聞かなくて?」

 

「どうせ、聞いても言わなかっただろうよ」

 

「まあ、確かにそうだろうけど……」

 

「それに、獅子王機関の小娘からの情報提供何て癪だからな」

 

絶対、そっちが理由だろと内心思ってしまった。

 

「第一、お前が相手の素性は兎も角どんな容姿だったか覚えていればこれほど苦労はしないのだがな」

 

それを言われるとつらい。

だって覚えているとしたら、ほぼ直接戦闘した幼女(ホムンクルス)の事しか覚えていないのは仕方ないと思う。

寧ろあんなむさっ苦しい男の事を覚えるだけ無駄だと言うものだ。

だから、説教が伸びたのだがな。

 

 

 

暇だなぁ~と憂鬱気に学校の屋上にある給水タンクの上に寝ながら空を見上げていた、その時だった。

絃神島全体を揺るがす程の地震が起きたのだ。

その地震により給水タンクから顔から落ち鼻を摩りながら那月の元へと急いで向かった。

体全身を蝙蝠化させ、那月の部屋へ壁抜けする事で文字通り直接たどり着いたのだ。

 

「那月、この揺れは!!」

 

「ああ、ダアトか。どうやら魔族狩りの犯人がキーストーンゲートを襲撃したみたいだ」

 

いつものふざけた様子の無いダアトに、いつも通りのクールな那月。

いつもこの調子ならいいのにと那月が内心思っていたり思っていなかったりするが今は関係ない事だ。

 

「犯人は、依然下の方に向ってるそうだ」

 

「でも、そこにはアンカーブロックがあるだけじゃ……」

 

「ああ、お前は知らなかったな。まあ、相手の目的がこれではっきりした以上何れは知られるか……」

 

那月が、何か一人で思考し、完結させたようだ。

 

「なら教えてやろう、あそこには…………」

 

 

 

ダアトが、キーストーンゲート最下層へ壁抜けの要領で直接着いた時には、既に戦闘が始まっていた。

普通、こんな場所で戦うかと突っ込みたくなったのは仕方ない事だ。

しかし、毎度毎度、あの暁古城(第四真祖)には先を越されるなと思いつつも割り込むのは無粋かと思ったので暫く隠れて様子見をする事にした。

それにしても、まさか本当にあるとは思わなかった。

西欧教会に仕えたと言う聖人の遺体、俗い言う聖遺物。

その右腕が、半透明の石の中にあるのだ。

滅多に見れるものではないので見ておこうと思い遠目で見ていたら、幼女(ホムンクルス)と目が合ってしまった。

 

警告します(ウオーニン)、第三勢力と思わしき存在を確認しました」

 

幼女(ホムンクルス)の警告でその場にいる残りの者達にも気づかれてしまった。

 

「いやぁ~確かに、普通に隠れているだけだからばれるとは思ったけど、こんなに早くばれるとはねぇ~」

 

壊された扉を乗り越えながら現れた軽薄な雰囲気を纏ったダアトに一番敵意を向けて来ていたのは、法衣を着た男だった。

 

「貴方でしたか。貴方なら例えこの島を沈めた程度で滅びる存在ではない事位分かっていました。正確には思い出したですけど。それにしても私とも在ろう者が貴方と言う存在を見紛うとは、いや、貴方にとって姿形は関係なかったですね。だとしてもとんだ失態です。最悪の吸血鬼、不死の君(ノーライフキング)よ!!」

 

懐かしい呼び名で呼ばれたものだ。

 

「その名を知っているとは、いや欧州方面の奴らなら当たり前か……」

 

「貴方のやった事は我ら欧州の者の心に未だ深い傷をつけていますからね」

 

「昔の事ではないか、それを掘り返してくるとは、執念深すぎるだろ」

 

深い傷って言われても、ダアト自身も十分殺された回数があるのだが、それは棚上げするのか。

自分達だけ被害者面とか反吐が出る。

 

「オッサン、俺を忘れてねえか!!」

 

そう言い、古城は法衣を着た男に殴りかかったが、流石に何も訓練されていない古城の攻撃は空振りに終わった。

 

「忘れてなどいません。第四真祖よ。しかし、最強の吸血鬼に、最悪の吸血鬼ですか。舐めて掛かっていい相手ではありませんね。故にここからは、覚悟を持っていかせてもらいます!!」

 

法衣を着た男の全身から噴き出した凄まじい呪力に、古城の顔から血の気が引いたようだ。

この程度の呪力で血の気が引く様なら、他の真祖と戦うようなことが有ったら気絶するのではと思ってしまう程だ。

 

「ロタリンギアの技術によって造られし聖戦装備”要塞の衣(アルカサバ)”――この光を持ってわが障害を排除する!」

 

攻撃速度が増した。

装甲の鎧が、如何やら筋力を強化しているようだ。

吸血鬼二人を相手にする身からしたらこの程度の強化では心もとないだろうに、なのに古城は非難の声を上げた。

まあ、先ほどまでの戦い方からして今まで真面に戦った事が無いのだろう。

そこを差し引くならまあ、仕方ないと言えなくもない。

 

「おいおい、この程度の攻撃余裕で避けようぜ、第四真祖」

 

遂に、避けきれず真正面から斬撃を受けてしまった古城はその余波で吹き飛ばされてしまった。

古城を吹き飛ばしたら、そのままダアトに向けて斬撃を放ってきたが、ダアトはその斬撃を紙一重で常にかわし続けていた。

 

「流石に貴方には通用しませんか」

 

「いやいや、ただの人間にしては十分強いと思うよ。ただ俺がそれ以上なだけだ」

 

上から目線で見下しながら言い放った。

 

「オッサンがその気なら、こちらも遠慮なく使わせてもらうぜ。死ぬなよ、オッサン!!」

 

吹き飛ばされていた、古城はゆらりと立ち上がった。

ダアトの相手をしていたが、本能的に危険を察知したのだろうか、後方へと跳んだ。

そして、ダアトと法衣を着た男の丁度中間地点に突き出した古城の右腕が、鮮血を噴いた。

 

焔光の夜伯(カレイドブラッド)の血脈を継ぎし者、暁古城が、汝の枷を放つ」

その鮮血が、輝く雷光へと変わり、凝縮されて巨大な獣の姿を形作った。

 

疾く在れ(きやがれ)、五番目の眷獣、獅子の黄金(レグルスアウルム)

出現したのは、雷光の獅子。

 

「ほう、今度は眷獣を出したか。それにしても懐かしいものだ」

 

先代の第四真祖と、戦った事のあるダアトとしては、まだまだ妥協点どまりの古城の評価が、僅かばかり宇和片修正された。

それにしても、先ほどから獅子の黄金(レグルスアウルム)が異様なほどダアトを警戒している。

如何やら、過去の戦いを覚えているようだ。

なら仕方ないと言えなくもない。

しかし、今回の相手はダアトではない事は、宿主である古城によって知らされている。

だからだろうか、獅子の黄金(レグルスアウルム)は警戒はしつつも、敵意は向けてこなかった。

そして、獅子の黄金(レグルスアウルム)はいきなり法衣を着た男に飛び掛かると、前足をかすめる程度だったが、数メートルは撥ね飛ばされていた。

稲妻が生み出す衝撃波で装甲鎧が火花を散らし、雷の高温で戦斧の刃は融解していた。

 

「アスタルテ――」

 

命令を受け、幼女(ホムンクルス)…アスタルテは、雪菜の攻撃を振り切り、獅子の黄金(レグルスアウルム)の前へと立ちはだかった。

獅子の黄金(レグルスアウルム)は、半ば古城の意思を無視して、巨大な前足を雷霆と化して、アスタルテの身に纏っている人型の眷獣を殴りつけた。

その瞬間、アスタルテの眷獣を包む虹色が輝きを増し獅子の黄金(レグルスアウルム)の攻撃を受け止め、反射したのだ。

 

「ふむ、矢張りあれは、獅子王機関の神格振動波を使っているのか、でも俺の前じゃ意味をなさないな、来い、『怠惰なる辺獄烈火』(ベルフェゴール)

 

 ダアトの背後から、倉庫街で見かけた時と同じ様に闇色の炎が燃え盛り、それを纏った王冠を被り煌びやかな装飾がされた貴金属をはめた骸骨がいた。

 

「燃やし尽くせ!!」

 

ダアトの命令を受けると、闇色の炎がアスタルテと雷の獅子へと津波の様に迫り燃やし出した。

 

「おい、何をしている!!」

 

古城が焦ったようにこちらへと殴りかかって来た。

 

「おいおい、人の心配する暇が有ったら自分の眷獣の心配でもしておけよ」

 

「何……」

 

訝しげな表情を向けて来るが、己の眷獣を見て驚愕の表情へと変わった。

燃えているいるのだ、己の眷獣が。

そして、遂に形を保てなくなったのか、古城の中へと戻って行った。

 

「何をしやがった!!」

 

「いや何、この部屋にある異能を燃やし尽くしただけだよ。ああ、君はこの場所に施されている術式が心配なのか、それなら心配には及ばない。標的を眷獣の身に絞ったからね。まあ、だから今回はかなり精神的に消耗したがね。それよりも良いのかあっちは」

 

そう言われ、姫柊たちの方を見ると、怠惰なる辺獄烈火(ベルフェゴール)によって燃え盛る人型の眷獣とそれを纏っているアスタルテ。

アスタルテの眷獣も維持するだけの力がなくなったのか、眷獣が霧散するようにいなくなった。

 

「さて、幕引きだな」

 

『怠惰なる辺獄烈火』(ベルフェゴール)の纏う炎もお構いなしとばかりにそこを通ってきたため、纏う要塞の衣(アルカサバ)が燃えながらも融解した戦斧で斬撃とも言えない斬撃をしてきた。

しかし、最初の頃までの繊細な動きもなくなっており、かわす必要が無いのではと思う程、動きが遅くスローモーションに見える程だ。

カウンターを人を文字通りボロ雑巾に出来る怪力を腹部に与え、喰らった場所の鎧は砕け、くの字に体を折り曲げ完全に沈黙を確認した。

 

 

 

 

「いや~終わった終わった」

 

特にこれと言った事をしたダアトではないが、確かに戦いは終わった、終わっただけで何も解決していない。

 

「それで結局お前は何なんだ」

 

「うん?ああ、そう言えば知らないんだっけ。そうだね~」

 

何と答えたものかと腕を組んで悩んで、悩んだ結果

 

「そこの子に効いた方が早いんじゃないかな?俺、説明とか苦手だし」

 

それだけを言い残すと、アスタルテとその主である法衣を着た男を俵を持つように肩に担ぎ去って行こうとした。

 

「おい、そいつらをどうする気だ!!」

 

「どうするかは俺は知らないよ。あ、此奴らのこと心配してるのなら大丈夫何もしないから」

 

俺意外は、と付け足して今度こそ去って行った。

 

 

 

 

 

アスタルテ達を担いで現れたダアトに対し、厳戒態勢を敷いていた特区警備隊(アイランドガード)がその銃口を向けた。

が、特区警備隊(アイランドガード)の中から現れた、黒いフリルを着た女性の指示によって発砲される事はなかった。

 

「遅かったじゃないか。また悪い癖でも出して遊んでいたか」

 

「ははははは」

 

「笑っても誤魔化されないぞ」

 

笑って誤魔化そうと言う手段は無理だったようだ。

 

「いやね、先客がいたから俺が出なくていいかなとついね」

 

「はぁ……で、此奴らが」

 

「あぁ~そうだった、ほらよ」

 

何時までもむさっ苦しいオッサンを担いでいるのはダアトの意に反するので、そちらだけを片手で器用に特区警備隊(アイランドガード)に向けて投げ飛ばした。

 

「おい、そっちもよこせ!!」

 

「待って待って、那月ちゃん。この子の中に眷獣がいるからね、一応那月ちゃんの許可を得てから眷属にしようと思って」

 

「はぁ……お前何を言っているのか分かっているのか?」

 

「分かっているつもりだけど。まあ一応ね」

 

特区警備隊(アイランドガード)に囲まれ、アスタルテは未だに肩に担ぎながら移動し話していた。

 

「私は責任取らないぞ」

 

「つまり…………」

 

ダアトは、口元を釣り上げながら悪い笑みを浮かべた。




アスタルテを吸血鬼化させるかさせないかどっちがいいだろうか

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