ストライク・ザ・ブラッド 〜同族殺しの不死の王〜   作:國靜 繋

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錬金術師の帰還2

翌日――

早朝に警察局から、依頼の連絡があった為、彩海学園には来ることはなく外を周っている。

何の依頼かは教えて貰えず、後から行くから小さい那月を守っておけと言われたため、ダアトは大人しく那月の執務室の方にいた。

だからと言って、何かをするにはこの部屋はあまりにも暇だ。

豪華ではあるが、嗜好品が紅茶やお茶請け用のお菓子位しかないのは、あまりにもつまらな過ぎる。

だからと言って、人形などで飾りつけすると絶対那月がキレるのは目に見えてることだ。

自分は、ゴシックロリータ服がを吸い好んで来ているのにだ。

やることがなさ過ぎて、ダアトは執務室に取り付けられているソファーの上で寝そべっていた。

幼い那月は、アスタルテに絵本を読んでもらっている、というのもダアトの暇さに拍車をかけていた。

かと言って、昨日みたいに岬を弄るには、もうすぐそこまで迫った宿泊研修の為にも、頑張って溜まりに溜まった仕事を必死に消化しているのを邪魔するには気が引けると……いうわけではない。

どちらかというと、邪魔をしたくて仕方ないのだが、那月に注意されたからというのが実情だ。

 

「面白い事ないかな……」

 

暇だ暇だと嘆いてもどうにもならない、かと言って面白いことがないかな、と呟いたところで、どうせ何も来ないのは分かり切ってもついついぼやいてしまうものだ。

しかし今日に限っては、そうではなかった。

絶対那月が独りで開けるには無理があるだろうと、常々思わされる分厚い木製の扉が開きながら、

 

「悪い、那月ちゃん。ちょっと訊きたいことがあるんだけど――」

 

そう言いながら、古城が入って来たのだ。

古城は、那月ちゃん呼ばわりしたことに対して、やってしまったと思い警戒したが、代りに部屋の奥から感情の籠っていない冷静な声が聞こえた。

 

「おはようございます、第四真祖」

 

「おはよ~」

 

「……アスタルテと那月ちゃん?って、ことは……」

 

「むろん、俺もいるよ」

 

「やっぱりか。あれ?教師の方の那月ちゃんは?」

 

「警察局に行ってるよ~詳しくは知らないが」

 

ダアトの回答に、古城は不吉な予感を感じた。

南宮那月と言う人物を紹介する上で外せないのは、彩海学園英語教師と国家攻魔官だ。

”魔族特区”内の教育機関には、緊急時のことを考慮して、生徒保護のための攻魔資格を持つ職員を一定数配置することを義務付けられており、那月もそんな兼任攻魔師の一人なのだ。

しかも”空隙の魔女”の異名を持ち、特区警備隊(アイランドガード)の実技指導も行い、さらに”不死の君”、”一人総軍”、”何アイツ、殺しても死なないんだけど”、”チートじゃねアイツ”など等いろいろ言われているダアトを飼いならしている、世界でも屈指の実力者だ。

幼女体型だけども。

 

 

「そうか……」

 

「なにか悩み事でしょうか、第四真祖?」

 

「悩みっていうか、ちょっと相談があったんだ。プライベートな内容で」

 

「認識。私でよければ相談にのりますが」

 

「ああ……そうか。じゃあ、とりあえず教えてほしいことがあるんだが――」

 

「回答します―――”今週のあなたは恋愛運が好調。小うるさい監視役が不在の隙に、クラスのちょっと派手波でしい女を自宅に連れ込んで押し倒すといいでしょう”」

 

「まあ、ヘタレな古城には無理だろうがな」

 

「ヘタレへテレ」

 

よく意味の分かっていないであろう、幼い那月はダアトの言葉の中から何となく面白そうな単語を繰り返した。

それが如何に傷つけるものか知らずに。

 

「ヘタレって言うな、俺だってやる時はやるわ――って、何言わせるんだよ!!そして、誰が恋愛相談に乗ってくれって言ったよ!?」

 

真顔で珍妙なアドバイスを始める人工生命体に、碌でもないことを言う歴史の生き証人にして最凶とされる化け物、何も知らないが故に一番辛いとこを着いて来る幼い担任の魂の片割れに対し、古城は全力で突っ込んだ。

 

「思春期の男子生徒への助言と言うのは、こういうものではないのでしょうか?」

 

「いやまあ、そういう悩みを抱えている奴も多いかもしれないけど――ていうか、なんだその具体的かつ犯罪教唆ギリギリの危険な占いは!?」

 

「実際にやれば犯罪だけどね。先に通報しておくか」

 

「ちょっと待て!!」

 

ダアトが、徐に那月の執務机の上に備え付けられている電話で通報しようとしたことに気が付いた古城は、人生、否吸血生の中でも一、二位を争うほどの俊敏さを発揮して通報しようとしたのを止めた。

 

「南宮教官によれば、他人に相談する人間の殆どは、すでに本人の中で答えが出ている。だから本人がやりたいことを、そっと後押ししてやるのが助言者の務めだ、というとですので実践してみましたが間違っていたでしょうか?」

 

「そこだけ聞いていると、那月ちゃんが真面なことを言っているような気がするんだが……って、何を根拠に、俺が浅葱を押し倒したがっていると判断した!?」

 

「ほかの女子のほうがよかった、という意味でしょうか?」

 

「そもそも浅葱なんて、アスタルテは一言も発していないがな。それと古城、これ浅葱に聞かせたらどうなるかな」

 

徐にダアトが取り出したのは、ボイスレコーダーだった。

そして、再生ボタンを押すと、ピッっと機械的音が鳴ると同時に、

 

「俺が浅葱を押し倒したがっている」

 

と流れた。

若干惜しいが、聴き方次第では十分面白いことに為る代物だ。

 

「ちょっと待て!!」

 

「え、やだ!!」

 

そして、ダアトが何かを操作すると――

 

「あ、ごめん那月ちゃんに送っちゃった」

 

「何てことを、一番聴かれたらまずい人に」

 

古城は、崩れ落ち両手を地面についた。

 

「まあ、そんなことはさておき、どうして来たんだい」

 

「あ、ああ……そうだったな」

 

古城は、精気の抜け落ちた表情で応えた。

まさか、ここまでとは。

ダアトは、罪悪感を感じるよりも面白い新しいおもちゃを見つけたと内心思ったが、流石に追い打ちを掛けたらあれ?首括るんじゃねといった雰囲気を古城は出しているので言わなかった。

 

「なあ、アスタルテ……人工生命体って、錬金術で生み出されたんだよな」

 

「肯定。現代の人工生命体は、生物工学や医学による影響を強く受けていますが、基礎理論はあくまでも錬金術の延長線上にあります」

 

「だったら、分かるか?錬金術師の目的ってなんなんだ?」

 

人工生命体の少女を見上げて、古城は訊く。

錬金術によって造られたアスタルテは、産まれる前から錬金術に関する基本的な知識を刷り込まれている。

古城は、そこから何かを得たいのだろう。

 

「一括りに錬金術師といっても様々な階梯の術者が存在しますが、究極的には、錬金術も目的は人間の限界を超えて、”神”に近づくことです」

 

古い記憶を探るように目を細めて、アスタルテは淡々と質問に答えた。

 

「神?鉄や鉛を金に変えることじゃないのか?」

 

古城は、一般的に錬金術師が目指していると思われる元素変換の方を想像していた。

 

「黄金変成は、錬金術師が”神”に近づく過程で生じる副産物です。全ての不完全なものを完全な存在に変えることが、錬金術の原理ですから」

 

「そうか……人間を神に変えられるんだから、鉛を金に変えるくらいは余裕ってことか」

 

古城は、何かを思い出しながらしみじみとしていた。

ダアトも過去あった錬金術師たちのことを思い出していた。

肉体を液体金属にし無限に魔力を得続けることを目標にしていた、錬金術師たち。

 

「だけど、神になるって、具体的にどうすればそんなことできるんだ……?」

 

「”神”という言葉の定義が曖昧なため私は回答不能。この世界で唯一、神について知っている人物については、知っています」

 

「そちらでダメ吸血鬼丸出しの方です」

 

辛辣な表現をされたダアトは、しかしその通りダメ吸血鬼を体現するかのように、ソファーに寝転がっているばかりだった。

 

「ん?なに?」

 

「否、何でもない。他には何か知っているか、アスタルテ?」

 

何でこんなダメ丸出しなやつが、錬金術師が追い求めている”神”について知っているか問いただしたいところだが、ダアトの性格を考慮すると訊いたとしてもはぐらかされることが目に見えているため、古城は今行くことを諦めた。

 

「他でしたら、肉体を保ったまま永遠に近い生命を手に入れるということであれば、過去に成功例があります」

 

「成功例?」

 

「ひとつはあなたです、暁古城。人間として生まれながら、吸血鬼の力を手に入れた四番目の真祖。ただしそれはいわゆる”神”とは対極に位置する存在ですが」

 

「思いっきり失敗しているじゃねえかよ……」

 

がっくりと肩を落としながら、古城は恨みがましく呟いた。

 

「で、他には?」

 

「私です。人工生命体として生み出されながら、ダアト(マスター)によって吸血鬼にされました。しかし私は吸血鬼として、使役される側であり本当の意味では未だ不完全です」

 

古城は、いまいち理解できていない様で、頭に?マークを幻視するほどだった。

 

「他にもいくつかありますが、錬金術と関係があるとしたらやはり、”賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)”です」

 

「なんだ、それは?」

 

古城は聞きなれない言葉であったので、真顔で訊き返した。

それにアスタルテがゆっくりと首を振る。

 

「詳細不明。ですが、ニーナ・アデラードは、自ら創製した、”賢者の霊血”の力を借りて、不滅の肉体と無尽蔵の魔力を手に入れたと伝えられています」

 

「アデレード……!?」

 

古城は小さく息を呑んだ。

 

「古の大錬金術師。伝説上の人物です。生きていれば二百七十歳を超えているはずですが……ダアトは何か知っていますか?」

 

そう言って、アスタルテはダアトに話を振った。

本来立場的に、アスタルテのマスターで在るはずのダアトだが、最近那月の教育の賜物(所為)でダアトに対して、敬う気配が一切感じられなくなってきた。

いくら那月がヒエラルキーのトップだからって酷くないか?と常々ダアトは思っている。

 

「うん?あ、ああ、会ったことはあるよ。でも、その頃はまだ研究段階だったから直接”賢者の霊血”を見た訳じゃないから何とも言えないな。ただ概要は教えて貰った(盗み見た)から知ってるよ」

 

古城は暗闇の中、手探りで調べていたことに一筋の光明が差し込んで来たとばかりに喜んだ。

詳しくそのことを聞こうとした時だった。

授業開始のチャイムが鳴った。

古城は慌てて那月の執務室から飛び出し教室へと向かうのをダアトとアスタルテは見送った。

ダアトは幼い那月が嫌に大人しいなと思い、探してみると、難しい話をしていた為那月はダアトとは反対側のソファーで寝ていた。

 

「すまんアスタルテ、那月ちゃんにタオルケットか何か掛けておいてあげて」

 

命令受諾(アクセプト)

 

アスタルテは、ダアトの命に従いタオルケットを取りに行った。

そんな中ダアトは珍しく真顔で、那月ちゃんの元へと行くべきか思案していた。

あの時のダアトは、完成した”賢者の霊血”を見た訳では無い、だがあの時聞いた通りの性能を持っているなら厄介だ。

そう、ダアトにとって所詮完成した存在程度、厄介でしかない。

化け物を殺せるのはいつだって、人間だ。

いくら化け物呼ばわりしても人間には変わりないのだから。

その点を考えると、古城は肉体こそ吸血鬼だが、その存在の在り方、魂の有り方は人間だ。

化け物が人間以上に人間らしいというのもあるが――

 

「まあ、どっちにしろ俺は死ぬ訳にはいかないがな」

 

そのままダアトは、影に溶け込むように消えて行った。

天塚汞を探すために……

そして過去の罪の一つを清算するために――




何か気が付いたらかなりの月日が経ってました。
決して、ランスや戦女神をやっていたわけでは成りませんよ……

そして、ルシファーの炎の色ですが、いろいろなアイディアありがとうございます。
CØDE:BREAKERの方では、サタンの上位互換で青色の炎と明示されていましたが、やっぱり色分けたいので、意見の多かった金色にしようかと思います。
本当に多数の意見ありがとうございます。

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