ストライク・ザ・ブラッド 〜同族殺しの不死の王〜 作:國靜 繋
錬金術師の帰還
波朧院フェスタが終わってからかなりの日日が立った。
季節にして十一月もうすぐ冬も本番というべきなのだろうが、生憎ここ絃神島は、太平洋のど真ん中に存在する。
冬何か、関係ないと言わんばかりの強い日差しを一身に受けている絃神島は、今日も暑かった。
そんな絃神島に存在する、彩海学園中等部の引率の教師は、目先に差し迫った宿泊研修の準備とその間に出来ない仕事を終わらせようといつも以上のハードスケジュールで仕事をしていた。
「ダアトさんも手伝ってくださいよ~」
精根尽きたといった表情で、仕事机に突っ伏しているのは、私服としても仕事着としてもチャイナ服を愛用している笹崎岬だ。
「お前な、どうしたらこれだけの仕事を溜めていられるんだよ」
呆れ切った表情で、ダアトは岬を見上げている。
見上げているというのも、現在ダアトは天井に足を付けているからだ。
たまに物理的に視点を変えることで、新たな
「私だって、好きでこんなに溜めた訳じゃないんですよ。公社が私に仕事を寄こすのがいけないんです!!」
「いや、それでも那月ちゃんはきちんとこなしてるけど……」
「先輩は特別ですよ!」
不貞腐れたように岬は呟いた。
言いたいことは、分からなくもないが、それを言ってしまったら那月の努力否定し、才能や魔女としての力だからと判断されてしまう。
幼少期を知っているダアトにとって、そんなこと断じて認めるわけにはいかないのだが、那月自身あまり自分が努力してますよアピールをするのを好まないので、中々反論し辛いところだ。
そんな時だった。
不意に職員室の扉が勢いよく開け放たれた。
「あ~こんなところにいた!!」
彩海学園が幾ら学生を養育する場所だからとはいえ、あまりにも場違いで幼く舌足らずな声が職員室に響き渡った。
その声の主は、ダアトの目の前というよりかは頭上に駆けて来た。
「ダアト遅いよ!一緒にお出かけしようって言ったじゃない!!」
声の主は、未だに本来の那月と同化しきれていない分かたれた魂だ。
本来なら既に一つとなって眠りにつくはずなのだが、どうも幼き日の自我や今では、体裁や立場といった問題から甘えられない那月の抑制していた気持ちが一点に集約した結果の姿だ。
この事については、那月の想像以上の力を持ってしまっているため、本来の力の全力でも半分しか出せない那月では一度で戻すのは不可能だったのだ。
そもそも那月は、空間制御の魔術に対しては他の追随を許さぬ魔女だが、こと魂といった分野ではそこまでも得意といえたものではない。
未だ人類にとって謎である、魂に対して分からないことだらけなのだ。
悪魔と魂を使って契約することで、絶大な力を手に入れる魔女にとっても未だ分からないことだらけだ。
だから那月は阿夜にかけられた呪いを、時間を掛けて解きつつ同化させるという手しか打てなかったのだ。
そんな中で分かった事が一つだけある。
それは、幼い那月が愉しみ満足すればするほど、那月との同化が早まっているということだ。
同化が出来ていない理由の一つが、那月の抑制していた、ダアトに甘えたいという気持ちが満たされたのが原因だという風に思われる、という結果にたどり着いた那月は、ダアトに一つの命令を下していた、『暫く、こいつの面倒見ていろ』と。
ダアトとしては、言われなくてもそのつもりだったのだが、と頭を掻いたのは思い出しても久しいことだ。
「ごめんごめん、岬が駄々をこねていてな」
「駄々なんてこねてませんって、ダアトさん」
机に突っ伏す暇があるなら、手を動かせと思うダアトだが、実際目の前の仕事をしないといけないと分かっていながらも、その膨大な量に嫌気が指してギリギリまでしないのは誰でも同じことだ。
結局の所終わらせないといけないと、岬本人も分かっていながら現実逃避してしまっている。
「それにしても、幼い先輩も可愛いですね~」
「何を当たり前なことを!この世で那月ちゃん以上に可愛い者何て居るわけないだろ」
ダアトは、胸を張って言い切った。
「抱っこしたり、撫でたり、撫でまわしたりして良いですか!!」
「それよりも、仕事しろよ」
「これはこれ、それはそれですよ」
家は家、他所は他所みたいな言い方して、と呆れるダアトだった。
岬はそんなこと一切気にせず、小さい那月を掴まえると太腿の上に座らせ、撫でまわしていた。
「だ、ダアト助けて」
捕えられ、撫でまわされている那月は、堪ったものではないと涙目で助けを求めて来た。
そんな涙目な那月ちゃんも可愛いな~と内心思いつつも、自分以外が那月を撫でまわしているのが気に喰わなかったダアトは、早々に岬から奪い返した。
「那月ちゃんを撫でまわしていいのは俺だけだ!!」
「何おう!!」
ダアトと岬の背後に白虎と魔王の姿を教務室にいた教師たちは幻視したのは、きっと関係ないことだ。
「喧嘩はダメ――!!」
怯えた声ながらも、教務室全体に響き渡る声で那月が叫んだ。
ダアトと岬は冗談のつもりだったのだが、那月にはそう見えなかった様だ。
「ごめんな那月ちゃん。俺ら喧嘩してるわけじゃないから」
「そうです」
「ほんと」
目尻に涙を若干溜めながらの上目使いに、ダアトは
「じゃあ、アイスも買ってくれる?」
「あげるあげる」
「お洋服も」
「買う買う」
「じゃあ、許してあげる」
成程、こうやって甘やかしたから
小さい那月を引き連れて、商業地区のショッピングモールへと来ていた。
当時の記憶から考えて、何もかもが様変わりしているのだ。
ここ最近いろいろな所に連れて行ってはいるものの、全てが全て、那月にとって”初めて”なのだ。
そんな那月を見ているだけで、ダアトは胸に熱いパトスを感じていた。
絃神島の人にとって、ある意味見慣れた光景だから今更通報される事はないが、これが本土だったら間違いなく刑務所送りだ。
「ねえねえ、ダアト今度あっち見に行こう!!」
「分かったよ。だから、そんなに焦らない焦らない」
小さい那月は、ダアトの手を引いて今度は、洋服売り場に来ていた。
この頃から既に、フリルが多いゴスロリ衣装が好きだった、那月がフリルの多いドレスを選んだのは必然と言えるだろう。
「これなんてどう?」
多くのフリルであしらわれ、それでいて熱くなり過ぎない白色のワンピースドレス選んだ那月は、それを試着して、その場でファッションショーみたいに、クルリと回って見せた。
「可愛いと思うよ。若干フリルが多すぎる気もするけど」
「えーそれが良いんじゃない」
「まあ、気に入ったなら買うから、とりあえず店員に採寸してもらおう」
「うん!!」
それから、次々と試着しては気に行ったり、思ったのとは違い戻したりし、気に入ったのは、店員を呼びその場で採寸してもらった。
そんなことをしていた為、洋服だけでかなりの時間を費やした。
「もう、いいんじゃない?」
「え~」
幼くなっても那月は、那月ということか、まだまだ選び足りない那月は、不服そうに頬を膨らませた。
これでも足りないとか……、周りの買い物客からいろんな視線を感じた。
カップル客の男性からは、どこにそんな金が有るのだよ。
女性からは、自分の男はまずこんなこと出来ないなと、どこか諦め気味の視線が。
店員からは、上客だと認識された。
それもその筈、幼いながらも目利きが効いている那月が選んだ服は、超が付く高級ブランド店だ。
小物を持っているだけでもステータスになる様な店だから、常に一定以上の客が店にいるが、だからと言って簡単に買うと即決するには、庶民にとっては些か以上に悩まないといけない店だ。
一着当たりの値段もかなりいい値段をしており、どんな小物でも最大の価値を持つ紙幣二枚は必要になり、モノによってはそれこそ一括現金払いするならアタッシュケースを持ってこなければならないような物さえある。
そんな店で、簡単に大量に買っているのだ。
日常では、まず見られない光景だ。
「仕方ないな~じゃあ、アイス次はアイスね」
「はいはい」
そう言いながら、ダアトは支払いをしに行った。
「合計、――」
一般人が聞いたら間違いなく卒倒する様な金額を提示されてもダアトは動じず、普通に真っ黒いカードを提示した。
そのカードこそダアトが、これほどの買い物をしてなお余裕である証拠だ。
永久中立国にある銀行で、あらゆる国家、組織、機関の圧力、要求にも屈することなく、また誰が顧客かさえ分からないようにしてあるところだ。
それでいて全ての国、そして
ある意味、信用、信頼とはこの銀行を指すために生まれたようなものだと誰かが言った。
「じゃあ、アイス買に行こう!!」
子供は、本当にどこからこれ程の元気が湧いて来るのか謎だ。
本当に歳は取りたくないなと、ダアトは心の中で呟いた。
「ここのアイス食べてみたいと思ってたんだ!!」
那月がアイスを買う上で指定したのは”るる家”という店だ。
そこで那月が注文したのは、るる家史上滅多に注文されない四段重ね、トッピング全部盛りのアイスの原形を一切留めていない超豪華なアイスだ。
ついでに何故、滅多に注文されないかというと持ち運ぶのが凄く困難という理由だ。
近くのカフェテラスで休憩することにし、那月はその超豪華アイスと格闘し始めた。
ダアトは、買っておいた紅茶を飲みつつ、本来吸血鬼の弱点とされている日の光が最も強い夕日を見ていた。
そんな時、三人もの女子中学生を侍らせた、パーカーを着た少年の一団がやって来た。
三人が三人とも種類は違うが、美少女には間違いない。
そんな三人と一緒にいる、古城は周りの男性陣から殺気交じりの視線を一身に浴びていた。
まあ、侍らせたというよりかは、荷物持ちをやらされているようだが。
「那月ちゃん」
「うん?なに」
「あれを見てごらん、あれがハーレムって奴だから」
ダアトは、”わざ”とあの一団に聞こえるように大声で言った。
「へ~そおなんだ」
幼いからこその純粋さからなのか、那月は納得したようにうなずいた。
「変なこと教えるなよ!!」
一団の中で荷物持ちをやらされていた少年、暁古城はとっさにツッコんできた。
これで、世界最強の吸血鬼、第四真祖なのだから世の中は、中々にして面白くできていると言うものだ。
「あ、ダアトさん、那月ちゃんこんにちは」
「こんにちは」
「何を成されているのですか?」
三人の美少女も古城の後ろから現れ、挨拶をしてきた。
「こんにちはー!!」
那月は元気よく三人に挨拶を返すと、またアイスと格闘し始めた。
「うわ、それるる家でも、伝説と言われてる四段重ねトッピング全部盛りじゃなですか!!」
古城の妹、凪沙は驚いていた。
「へ~そうなんですか」
夏音は、いつも通りのおっとりとした様子だ。
「何をって、普通に買い物だよ。ほらそこの住宅地区と商業地区の間辺りにあるブティックあるだろ。あそこに行って来たんだよ」
「あそこって確か、王室から海外の大富豪層御用達の超高級店じゃないですか!!」
剣巫と言っても女の子ということか、雪菜はどこか世間知らずな所もあるが、やはりそう言った事は詳しかった様だ。
「そんなに高いか?カードで一発だろ」
真っ黒いカードをヒラヒラと古城たちにダアトは見せた。
そのカードを目にした途端、古城たちは目が点となり呆然としていた。
夏音は、凄いですね~とマイペースだったが。
「そりゃあ、そのカードなら何でも一発だろ!!」
古城は人目がかなり有る中で大声で叫んでしまった。
普段の雪菜たちなら、嗜めていただろうが今回は、ことがことだけに仕方ないと思っていた。
「まあまあ、落ち着いて。で、君たちは……と時期が時期だからそう言うことだね。古城は荷物持ちということか」
「ああ、そうだよ」
古城は、とても嫌そうな顔で応えた。
「全く古城君、何が不満なの?こんなに美少女に囲まれて、同じクラスの男子なら性転換してでも一緒に来たがってたのに」
凪沙が口走った言葉に、ダアトは彩海学園の中等部、本当に大丈夫かと不安を感じずにはいられなかった。
「たべた――!!」
不意に那月が、大きな声で叫んだ。
振り返ると、そこには那月の頭と同等のサイズのアイスが、ものの見事に消えていたのだ。
「よ、よく食べれたね」
流石のダアトも唖然としてしまった。
「じゃあ、帰るよ」
「うん!!」
ダアトが、立ち上がった時だった。
視界に赤白チェック柄の帽子にネクタイ、純白のマントに左手には銀のステッキを持った二十代前半に見える青年が入って来た。
奇術師めいた姿だが、多くの人の血の匂い、だがそれ以上に銀の臭いが青年からしていた。
まるで、半身が金属で出来ているかのような――
去り際に、ダアトは古城に耳打ちした。
『真理の探究者には気を付けておけ』と。
また、
ダアトは、そんな予感を感じながらも、那月と手をつないで満足げに帰宅した。
久々に投稿して、ランキングに入っていたことに凄く驚いています。
現在ランキング四位とか……とりあえず今日は疲れた。
そして、ルシファーの炎の色って何色にしたらいいかアイデアが在ったらドシドシ感想でもメッセージでも良いのでください。
ぶっちゃけ、炎の色が決まらない限り中々出せない。
出したらいけない気もするが……
では、また次の話で。