ストライク・ザ・ブラッド 〜同族殺しの不死の王〜   作:國靜 繋

18 / 28
蒼き魔女の迷宮3

メイヤー姉妹が絃神島に来た翌日の朝、矢張り那月と連絡が取れない。

那月の服にこっそりとばれない様に、ダアトがつけていた発信機や呪符の反応が途切れたのだ。

しかし、ダアトの中にある拘束術式は、まだしっかりと機能している以上、那月が生きている事だけは確かだ。

今のダアトにとって、拘束術式が機能していることだけが那月の安否確認ができる手段であるのは皮肉な話だ。

 

「さて、どうしたものか」

 

那月がいない以上、ダアトを命令することの出来る人は現状いなくなった事に為る。

だからと言って、下手な行動を起こすと那月が戻ってきた後に何を言われるか分かったものではない。

だからこそ、如何したものかと困っていた時、扉を開けて”メイド服の”アスタルテが入って来たのだ。

 

「どうした、アスタルテ?何か用か?」

 

「肯定。事前に教官から伝えられている対応手順に則り、マスターに教官からの命令を伝えます。叶瀬夏音の保護を最優先事項とした後、私が戻るまで眠って(死んで)おけ、との事です」

 

アスタルテから那月の命令を聞くとダアトは、あからさまに嫌そうな顔をした。

那月がいないと、ダアトとアスタルテ二人に対する血の供給が行われなくなる。

今までは、那月の伝手でどうにかなったが今は、その那月がいない。

そうなると必然的に備蓄されている分に為るが、那月がどれ程の期間で戻ってこれるか見当がつかない以上どちらか一方が居なくなるのが望ましい事に為る。

那月が、ダアトに眠っておけと言うのも必然という事に為る。

ダアトは強いのは、那月も認めるところだが、それ以上にダアトが血を求めだした時の方がリスクが高い。

アスタルテの方なら、最悪処分することが可能だ。

それだけの武装や人材が絃神島にはあるからだ。

 

「了解。じゃあ、さっさと探しに行くか。アスタルテ」

 

アスタルテを引き連れながら、ダアトは嫌々部屋を後にした。

 

 

 

 

「と、言っても行く当てがないんだよな~」

 

アスタルテを勢いで連れ出したまでは良かったものの、夏音がどこにいるかダアトは知らない。

むろんそれはアスタルテにも言えた事だ。

でなければ、アスタルテが早々に夏音を保護しているだろう。

どうしたものかとダアトは、頭を掻きながら清々しいまでに晴れ晴れとした嫌な天気を見上げながら思った。

 

「あれにでも上って探してみるか、アスタルテ?」

 

ダアトがあれと言って指さしたのは、絃神島のど真ん中に在る、キーストーンゲート最上部の展望ホールの事だ。

あれなら、絃神島が文字通り一望できる。

だが、時期的な事もあり間違いなく人で込み合っている事は予想できる。

そんな人ごみの中にアスタルテを連れて行くのは気が引ける。

魔族特区の観光に来た人々にとって、人工生命体(ホムンクルス)で吸血鬼であるアスタルテは分かりやすい象徴と言ってもいいからだ。

本土の人間には、アスタルテや那月の様な幼児体型を好む性癖を持った人間もいると言う。

そんな奴らにアスタルテや那月を見せたくはない。

直接的な手段に訴えかけてきたら間違いなく、相手側がやられるが写真などなら間接的に”使われる”ため誰がいつと言った事が分からない。

そうなると、本土を物理的に地獄絵図にしなければならないなと、ダアトが物騒な事を考えている中、アスタルテはダアトが指さした展望ホールが気に為るのかキーストーンゲートの方へと歩いて行っていた。

 

「待って、アスタルテ!!」

 

アスタルテを追いかけて行くダアトの姿は、本土の人間だったら間違いなく通報即逮捕、裁判だろうが、良くも悪くもそちら方面では、知れ渡ったダアトだ。

通報されても紛らわしいと注意されるか、捕まっても直ぐに釈放される程度には信頼されている。

 

「結局あそこ行くの?」

 

「肯定」

 

「それならそうと言ってくれよ」

 

”メイド服の”アスタルテに追い付き、横に並びながら言った。

未だ表情が硬いアスタルテだが、最初のころに比べたら幾分か柔らかくなったものだ。

あの頃のアスタルテは、本当に人形に近い人工生命体(ホムンクルス)だったが、今は比較的ではあるが、人間に近くなった人工生命体(ホムンクルス)とダアトの主観では思っている。

それに比べて、ダアトはその変態性がましているなと那月が居たら思った事だろう。

 

 

 

 

キーストーンゲートの地上十二階でエレベーターを乗り換えを行う時、係員に特別に発行されたフリーパスを見せて展望塔へと向かうエレベーターに乗り換えた。

こういった時、人脈が如何に大事かをダアトは感じ取った。

ダアトと違って、アスタルテは比較的特区警備隊(アイランドガード)の隊員たちと良好な関係を持っている。

那月にいつも付いて回っている様子が、隊員たちにとっては微笑ましく映ったのだろう。

ダアトが付いて回るといつも舌打ちしたり、あからさまに敵意を向けて来る連中なのにだ。

エレベーターの扉が開くと、そこには空中に浮かぶ全面ガラス張りの広間だった。

『こう言った場所は、高所恐怖症の人には向かないだろうなぁ』と思いつつも普通にダアトは側面から古城たちを見つけられないかなと思い移動しようと思った時だった。

ダアトの思っていた通り、観光で来ていた本土の人間がアスタルテが、人工生命体(ホムンクルス)だと気が付いたのか、軽く騒ぎだした。

アスタルテの服装が、あからさまに場違いなメイド服であり、藍色の髪に、淡い水色の瞳。

人形めいた無機質な美貌は、人でない事に幾ら疎い本土の人間でもアスタルテの正体に気が付くのは必然だろう。

 

「ほら、散れ散れ。邪魔だ邪魔だ」

 

幾ら観光に来た人々だろうと、自分の眷属が見せ者扱いされるが嫌だった、ダアトは虫でも払うかのようにシッシと集まって来た人たちを手で払いのけながら進んだ。

 

「あっ!!」

 

「索敵対象を目視にて確認」

 

「ア…アスタルテ?」

 

夏音を高い所から探そうと思いキーストーンゲートの展望塔まで来たらまさか、古城たちと一緒に夏音がいるとは思いもせずダアトは、柄にもなく驚いていた。

元より、全身を蝙蝠や百足に変えて索敵しても良かったが、流石にそこまでして探すようなまでに急を要すような事ではなかったのでそこまでしなかった。

 

「”魔族特区”のメイドはこんな感じなのかい、古城?」

 

見知らぬ顔の少女が、驚いた顔でアスタルテの服装について古城に訊いている。

 

「すごいな。まさか人工生命体のメイドと知り合いだなんて……」

 

「いや、その子は別にメイドが本職ってわけじゃないんだが」

 

アスタルテの名誉の為に古城は釈明した。

彼女がそんな服装をしているのは、単に現在の保護者であるところの那月と目の前にいるダアトの趣味である。

アスタルテ自身もべつに嫌がっているわけではないようだが。

 

「それで、古城君”また”新しい女なんか連れて、ハーレムデートですか?」

 

「違う(ます)!!」

 

奇しくも、古城と雪菜は息がピッタリと合って否定した。

これで、違うと言ったら何に為るんだよとダアトはちょっとばかり思ってしまった。

 

「ただの幼馴染だよ。仙都木優麻って言うんだ」

 

「仙都木優麻です。どうぞよろしく」

 

ダアトが、古城をからかっている様子を面白そうに観ながら、少女は礼儀正しく頭を下げた。

優麻を上から下まで観て、那月に近い力を持っているな――そんな感覚をダアトは覚えた。

能力的には違うだろうが、間違いなく――魔女。

この事実は、古城たちの様子から見ても間違いなく知らないだろう。

知ったとしても態度が変わるような連中でもないかとダアトは思い直した。

 

「それでこんなところでなにやってたんだ、アスタルテ。那月ちゃんに何か頼まれたのか?」

 

無意識に警戒しながら、古城が訊く。

あの横暴な担任教師が、古城にまた何か厄介な仕事の手伝いを要求して来たのではないかと思ったのだ。

しかしアスタルテの回答は、思いがけないものだった。

 

「現状報告。本日午前九時の定時連絡を持って教官との連絡が途絶しました」

 

「……連絡が途絶?」

 

「南宮先生が失踪したという事ですか?」

 

古城と雪菜が、半信半疑の表情で訊きかえす。

淡々と首肯するアスタルテ。

 

「肯定。発信機、および呪符の反応も消失。マスターが個人的に付けていた物も消失しました」

 

「マジか……って、個人的って、それ犯罪だろ」

 

とっさにツッコミを入れてしまった古城だが、胸の奥にじわじわと不安が広がって行く。

南宮那月が失踪したといわれても、あまり現実感が伴わない。

見た目は兎も角今さら家出という年齢でもないだろうし、あれだけ好き勝手に暮らしている那月に限って、自分から姿を消すという事などあり得ないだろう。

かといって、彼女を拉致できる様な者がそうそういるとは思えないし、それ以前に目の前にいる存在がそれを許すはずがない。

古城や雪菜はもちろん、あの戦闘狂(バトルマニア)のディミトリエ・ヴァトラーですら、まともに那月と戦って勝てるかどうか――

だが、もし本当に那月が失踪したのなら、そんな彼女の身に何かが起きるレベルの脅威が絃神島に存在している、ということでもある。

 

「このような場合の対応手順を、事前に教官から伝えられています」

 

動揺を隠しきれない古城たちに、アスタルテが事務的な口調で告げた。

 

「対応手順?」

 

「叶瀬夏音を優先保護対象に設定せよ、とのことです」

 

「そ、そうか……」

 

やはり那月も後見人として夏音のことは気にかけていたらしい。

 

「……って、那月ちゃんは自分が居なくなるって前から知っていたのか?」

 

「不明。データ不足により回答不能」

 

「……だよな。すまん」

 

「まあ、那月ちゃんからの命令は果たしたから後は俺だけか――」

 

アスタルテや古城は、那月が居なくなったことに不安を覚えているがダアトは違った。

なんせ、那月がダアトに施した拘束術式が生きているのだから、無事でないわけがない、そう確信していた。

だからだろう、アスタルテは那月が失踪したことに対してそこまでも不安を覚えてはいなかった。

 

「仕方ないよなぁ……暁古城、後の事は任せるからな!アスタルテに変な事をしたら那月ちゃんがとってたあの写真を絃神島全体にばらまくからな」

 

「なっ!!」

 

あの写真と言うのが、何を指すのかこの場にいる女子たちは分からなかったが、古城には心当たりがあった。

 

「まあ、そういうことだから。後はよろしくね」

 

古城の方をポンと叩くと、ガラス張りの床をすり抜ける様にその場から墜ちて行った。

その様子を見ていた観光客が悲鳴を上げ、人々が一斉に落ちて言っているダアトを見た。

ダアトは墜ちて言っているさなか、全身を霧のようにしながら霧散していき、その時を境にダアトの反応もこの絃神島から消え失せた。




話が一気に飛びます。
次回の話は、原作を読んでおくことを推奨します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。