ストライク・ザ・ブラッド 〜同族殺しの不死の王〜   作:國靜 繋

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天使炎上4

「――”仮面憑き”」

 

「思ったよりも早く表れたな。アスタルテ、花火の時間だ、と公社の連中に連絡しろ」

 

命令受諾(アクセプト)

 

那月の指示を受けたアスタルテが、浴衣の袖口から無線機らしきものを取り出し操作する。

古城はそれを怪訝そうな顔で眺め

 

「那月ちゃん、花火ってなんだ?」

 

「今時の若者は、打ち上げ花火も知らんのか」

 

愛用の扇子を広げながら、那月が呆れたようにつぶやいた。

その直後、古城たちの背後で、ドン、と爆音がなり、色とりどりの火花が、夜空に大輪の花模様を描く。

 

本物の打ち上げ花火。

発射地点は、ちょうど、”仮面憑き”の出現地点とは逆方向だ。

 

「何か、連絡してると思ったら、此れだったんだ」

 

「そうだ。これで庶民どもの目はあちらを向く。多少の爆発や騒ぎは誤魔化せるはずだ」

 

「なるほど……って、もしかしてこの時期に夜店なんかやってたのも、このためか……!?」

 

「当たり前じゃないか。全くこの程度の事も分からないのか」

 

意外とも思える那月の用意周到さに、古城は感心し、ダアトは自分の事の様に言った。

実際の所、この計画についてダアトは那月からは知らされておらず、この後の事についても知っていたのは、この面子の中では那月を覗いてアスタルテのみだ。

その事実をダアトが知ったら間違いなく、三日は那月の影の中に引きこもる事は確実なので、那月はその事を言わないだろう。

問題があるとしたら、ダアトの眷属であるアスタルテが喋ってしまう事だが、アスタルテに限ってそのような事は起こり得ないから安心だ。

 

「花火に気を取られている庶民どもが、異変に気付く前に片づける。跳ぶぞ」

 

「えっ?跳ぶって――」

 

那月は、足元に空間転移の魔術を展開するとダアトを除いた面子を跳ばしたのだ。

 

 

「…………あれっ?俺は――――――」

 

一人ぽつんと、テティスモールに残されたダアトの、呟きは花火の爆音でかき消された。

 

 

 

 

 

 

「うおおおおっ!?なんだこれ!?何でこんな所に……!?」

 

危うく足を踏み外しかけ、古城は慌てて近くに合った剥き出しの鉄骨に捕まった。

赤津白に塗り分けられた電波塔の骨組み。

戦闘中の”仮面憑き”たちの真下である。

那月が得意とする空間転移の魔術で、無理やり連れてこられたのだ。

 

「先輩、上です。気を付けて――!」

 

古城と一緒に連れてこられた雪菜が、頭上を見上げて鋭く叫ぶ。

その声につられて顔をあげた古城は、思いがけない至近距離で、”仮面憑き”を目撃して、息を呑んだ。

二体との”仮面憑き”は、共に小柄な女性の姿をしていた。

だが彼女たちの背中には、血管まみれの醜悪な翼が何枚も不揃いに生えていた。

彼女たちが翼を広げるたびに、いびつに波打つ光の刃が撃ち放たれ、陽炎のように揺らめく障壁画、それらを次々に撃ち落とす。

遺体の戦闘が激化するにつれ、たちまち市街地の被害が広がって行く。

 

「……なるほど。確かに違和感があるな。あのような魔術の術式、私は知らんぞ」

 

那月が、無責任な傍観者の様な口調で淡々と呟く。

 

「はい。あれではまるで魔術と言うよりも……わたしたちが使う神がかりの様な……」

 

「そういや、那月ちゃん。あと一人は?」

 

「知らんな」

 

「あとひ「知らんな」とり」

 

如何やら、那月はダアトを意図的に置いて来た事を否定したいらしい。

幾ら手加減が出来ないからと言って、故意に戦力を減らすのは那月らしくない事だ。

 

「”七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)”か……ちょうどいい。手を貸せ、姫柊雪菜。あの馬鹿が来る前に、まとめて仕留めるぞ」

 

那月が、雪菜の返事を待たずに無造作に右手を振った。

その瞬間、彼女の周囲の空間が、ゆらりと破門の様に揺れた。

そして何もない虚空から、銀色の鎖が矢のように放たれ、空中を舞う”仮面憑き”二体を絡め捕る。

直後、雪菜が鉄骨を蹴って宙に舞った。

古城はただ息を呑んでそれを見た。

雪菜はそのまま、空中に張り巡らされた鎖の上に着地。

目のくらむような高さをものともせず、一気に鎖を駆け上がる。

 

「――”雪霞狼”」

 

雪菜の詠唱する祝詞に呼応して、彼女の槍が眩くも神々しい光に包まれた。

予期せぬ乱入者に戸惑う”仮面憑き”たち目掛けて雪花槍を構え、光り輝くその刃をいびつな翼に突き立てるが、

 

「えっ!?」

 

激突の瞬間、伝わってくる異様な手ごたえに、雪菜は息を呑んだ。

”仮面憑き”を覆う禍々しい光が輝きを増す。

その輝きが、”雪霞狼”の直撃を阻む。

あらゆる結界を切り裂くはずの刃が、見えない障壁に阻まれて激しい火花を散らす。

不揃いな黒い翼を広げて、”仮面憑き”が咆哮する。

彼女たちを縛っていた鎖がはじけ飛び、その衝撃に巻き込まれ吹き飛ばされる。

そして、咆哮した”仮面憑き”は、さらなる乱入者の手によって吹き飛ばされた。

 

 

 

 

上空から降ってくるように来たダアトは、そのまま二体まとめて”仮面憑き”を殴り飛ばした。

”仮面憑き”が二体とも地表に激突し土煙を巻き上げるのを確認して、那月の元へと向かい、足の甲を器用に鉄骨にかけ、逆さに為る形で、那月と迎えあった。

 

「全く酷いよ那月ちゃん。置いて行くなんて」

 

「ちっ、もう来やがったか」

 

「そんなに悪態付けなくていいじゃないか、那月ちゃん。俺は那月ちゃんに何かあるんじゃないかと思って、気が気でなかったと言うのに」

 

やれやれと言った顔で、ダアトが言った直後、”仮面憑き”が落ちた場所から土煙が張れない中、一体が飛び出し上空へと向かい、一体はいびつな翼をはためかせ土煙を払った。

 

「あ~やっぱりか~。手応えがおかしいと思ったからな~」

 

頭を掻きながら、純粋な筋力だけで、逆さの状態から起き上がり鉄骨に立った。

上と下、両方に敵がいる状態だ。

どちらか一方だけを警戒するわけにはいかない。

どうしたものかと、考えていたら、ふとダアトの目に古城が映った。

そして、古城に声を掛けようとした時だった。

下の方に居る方が、仮面の下の唇を張り裂けんばかりに開いて咆哮し、その全身が赤い光を放った。

 

「いかん!」

 

”仮面憑き”の攻撃が、電波塔の根元部分を、ごっそりと半円球場に抉り取る。

それを見た那月が表情を凍らせた。

侍従を支えきれなくなった電波塔が傾き、折れた鉄骨をばらまきながら、ゆっくりと倒れて行く。

その先にあるのは渋滞中の幹線道路と対岸のビル群。

このままでは間違いなく大参事に為る。

 

「那月ちゃん。俺の拘束術式を一部解除してくれ」

 

「ちっ、緊急事態だ、今回だけだぞ」

 

それだけを言い残すと、那月は空間転移で消えた。

ダアトの腹の中から、一本の鎖がボロボロに崩れ落ちながら出てきた。

たったそれだけ、それだけで、ダアトから感じる気配が格段に大きく膨れ上がった。

 

「少しだが戻った。戻ったぞ。俺の力だ。俺の俺だけの」

 

崩れゆく電波塔の鉄骨の一部に未だ乗りながら狂気を孕んでダアトは叫んだ。

そして、ダアトの全身ががどす黒い血の様に染まりそこから、あらゆるところから目が見開いたのだ。

最早ダアトと言う形は保っておらず、背中から翼の様に無数の目が開いた無数の腕の形をした何かが現れ、足から何かが広がり電波塔全体を包み込むと、電波塔は倒壊を緩めて行った。

前触れもなく地面から伸びてきた無数の鎖が、ダアトを後押しするかのように絡みつき、完全に止まったのだ。

 

「さて、何時までもこのままと言う訳にもいかないし、どうせ壊すからいいだろう。『強欲の冥府双灯火(マモン)』」

 

二体の藍青色と黄色を纏った骸骨の鳥が、ダアトによって電波塔を包んでいる何かから羽ばたいて現れたのだ。

 

「ちょっとの間、古城あいつらの相手しておいてね。飛翔()強欲の冥府双灯火(マモン)

 

「あ、ちょっ、くそっ!!疾く在れ(きやがれ)、九番目の眷獣、双角の深緋(アルナスル・ミニウム)

 

猛り狂った”仮面憑き”の相手を古城に任せ、電波塔の処理する為にダアトは命じた。

強欲の冥府双灯火(マモン)は、ダアトの命に従い互いが互いの逆方向に周りながら飛翔した。

瞬間、目に見えない灼熱の竜巻がダアト諸共電波塔を消滅させた。

 

「なっ!!」

 

眷獣の力の凶悪さを知っている古城でも、驚きを隠せなかった様だ。

 

「さて、憂いはなくなったし久々に力を揮える」

 

自分の眷獣によって消し飛ばされたダアトは、僅かに飛び散っていた己の血から早々に復活し、ダアトは脚力だけで飛び上がり古城の眷獣に合わせる様に”仮面憑き”を殴りつけた。

”仮面憑き”は、眷獣をやり過ごし、古城たちに止めを刺そうと思って生み出したのであろう巨大な光剣に気を取られ、ダアトに気が付くのが一拍遅れたため、顔面にその拳を受け吹き飛び、もう一人の”仮面憑き”にぶつかった。

ぶつかった衝撃で、もう一体の”仮面憑き”の仮面が外れてしまったのだ。

素肌に浮かび上がる電子回路の様な紋様に、ダアトの眷獣である強欲の冥府双灯火(マモン)の炎によって、その素顔を照らし出した。

 

「……馬鹿な!あいつ……あの顔!?」

 

「嘘……」

 

”仮面憑き”と呼ばれていた少女の素顔を目にした瞬間、古城と雪菜は言葉を失ったが、ダアトは一切関係なく眷獣に命じた。

 

飛翔(とべ)

 

二体一対の眷獣は、お互いが互いの逆方向に回りながら、夏音ともう一体の”仮面憑き”に向って羽ばたいた。

電波塔をも一瞬で消滅させるほどの灼熱の竜巻、生身で受けたら文字通り消し飛ぶ。

それこそダアトの様な存在か相殺する術を持っていない限り、まず無事という事はありえない。

しかし、そのどちらでもなく、強欲の冥府双灯火(マモン)の羽ばたきをそよ風のように受け流したのだ。

 

「ちっ!!効かんか」

 

忌々しいと思いながらも、近くのビルを足場にし叶瀬に殴りかかろうとした時だった。

 

「やめろぉぉおおおお」

 

ダアトに対して、横っ腹から古城が殴りかかって来たのだ。

邪魔だと思い、背中から出ている腕の形をした何かで殴り飛ばしたが、その際古城が、その腕を掴んだ為バランスを崩したためもう一体の”仮面憑き”を蹴り落とした。

 

「何故邪魔をする、古城」

 

「そいつは、叶瀬だ」

 

「だから何だ?俺達は捕まえろと命じられたはずだ。それともお前が捕まえるか」

 

蹴り落とした”仮面憑き”を背中から出ている腕の形をした何かで強制的に押さえつけながら、ダアトは言い放った。

流石に、”仮面憑き”状態の叶瀬を相手に戦い、二度ダアトに落とされ為か、あまり抵抗はしてこなかった。

正確に言うと、抵抗をしても無意味なほどの力で、それこそ車程度ならスクラップに為るほどの力で押さえつけていては、抵抗の使用もないと言うものだ。

 

「それは、……」

 

古城が言い淀んでいる時だった、叶瀬がダアトに向って全速力で急降下して来たのだ。

それに反応したダアトは、もう一度強欲の冥府双灯火(マモン)を飛翔させた。

強欲の冥府双灯火(マモン)と叶瀬、お互いがお互いに対して突っ込む形になった。

しかし、今度も強欲の冥府双灯火(マモン)の攻撃は叶瀬には、効かなかった。

これ以上時間を掛けては、また拘束術式が再起動して力を封じられてしまう。

そうなっては、体の形を変える事さえままならなくなってしまう。

 

「しかたない。来い」

 

ダアトは、さらなる眷獣を呼び出した。

その眷獣は、那月の拘束術式の影響の為、全身を黒炎で包み込みその上から鎖で雁字搦めにされてダアトと繋げられていたのだ。

しかし、気配だけは尋常じゃなかった。

今の状態からでも分かるほどだ。

それが、今解放されようとしている。

その危険性をいち早く察知したのは、他でもない”仮面憑き”の叶瀬だった。

明確な目的は、ダアト達は分からないが、叶瀬は目的が達成できないと認識したのだろう。

上空で翼をはためかせていた叶瀬は、今一度大きく羽ばたくと禍々しい光に包まれて夜空に溶け込むように消えて行った。

ダアトは、すぐさまにでも追いかけようとしたが、もう一体の”仮面憑き”を古城たちに任せたとして逃げられない保証がどこにもない以上追いかけるわけにもいかず。

どの道リミットが来たため、追いかけるのを断念した。

拘束術式の一時解除のリミットが来たため、ダアトに対して虚空から鎖が数本、呼び出したばかりの眷獣を捲き込んで、絡まりダアトと同化した。

 

「ちっ!!まあ、一匹捕まえたから許してくれるだろ」

 

再度拘束術式が機能しだしたため、腕の形をした何かもダアトの中に引っ込んだので、足で”仮面憑き”を踏みつけて言った。




戦闘描写マジで難しい。
それと、0評価付けたの同一人物じゃね?と思ってしまったのは俺くらいだろうか?
それに、0評価の際のコメントに内容が薄いと書かれていたけど、あらすじに書く事ではないけど、内容が薄いと書いてあるのに読んで0評価って、理不尽じゃねと思ってしまいました。

すみません愚痴を書いてしまって。

次の更新は、早くて土曜日になります。

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