ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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FATE/ zero 空気読めない狐と読んだ上で好き勝手に振舞う大熊猫 上

万能の願望機を巡る何人の魔術師と英霊の闘い『聖杯戦争』。これは始まりへと至る物語―――が紛れ込んだイレギュラーによって無茶苦茶でカオスになる話である。

 

 

「……マスターをしなくて良い?」

 

 聖杯戦争で優勝する為にアインツベルンの当主が雇った魔術師殺し衛宮切嗣は突如告げられた内容に戸惑う。彼の目的は聖杯を使って恒久的な世界平和を実現させる事。ゆえにアインツベルンにサポートをして貰った上での計画を数年かけて立てていたのだ。

 

「ああ、急遽協力すると言ってきたのでな。お前には奴のサポートを頼む」

 

「それで代わりのマスターは?」

 

 切嗣が次の策を練りつつ尋ねた時、廊下からコツコツという靴音が聞こえてきた。やがて足音の主がドアの前に立つとノックの音が響く。アハト翁が入室を許可した時、スイカを持ったパンダが窓から飛び込んできた。

 

「タッチダーウン! からのぉ……トライフォーポイントキックショーット!!」

 

 真上に蹴り上げられたスイカは天井を突き破り、空の彼方の星を一つ破壊。この日、優雅さを家訓としている顎鬚の私室に隕石が飛来した。

 

「奴の名はアンノウン。……聞いた事位はあるな?」

 

 無論切嗣は知っていた。その名は旧約聖書にも登場し、知恵の実を食い尽くし謎の生物の名前であり、アダムとイブに知恵の実を食わせたサマエルの友人と記されている。だが、それだけではない。世界中の神話や伝説にもその名は登場し、ギルガメッシュ叙事詩にはギルガメッシュの友の片割れ、ケルト神話ではフィオナ騎士団の所属する国を滅ぼし、ギリシャ神話では王女時代のメディアやゴルゴン三姉妹のペット、そしてアーサー王伝説では選定の剣に悪戯をした犯人であったとされている。

 

 歴史的資料にもその存在を示す記述は多く、聖女ジャンヌ・ダルクや暴君ネロやアレキサンダー大王の友として知られている。分かっているのは白黒の熊のような生物というだけであり、正体不明を現すアンノウンという言葉の語源でもある。

 

 そして、封印指定永久除外対象という肩書きも有していた。ただ、理由は何故か語られていない。ただ、奴には関わるな、とだけ伝わっていた……。

 

「……まさかパンダだったとはな」

 

 何処から取り出したのかビーチチェアに寝転んでビーチパラソルの下で暖かい青汁を飲むアンノウンの姿を見ながら切嗣は呟いた。

 

 

 

 

 

「……ツッコミは入れないのか?」

 

「ツッコミを入れたら負け、と誰かか囁いてきたからね」

 

 

 

 

 

 

 

「みったせ、みったせ、てっきとうにみったせー」

 

 鼻の穴両方に吹き戻し(くじ引きのハズレ賞品で有りがちな、咥える部分を吹くと音と共に先端が伸びるアレ)を突っ込んでコサックダンスを踊るアンノウンはちゃんと呪文を唱えようともせずに煎餅を齧る。召喚の為の魔法陣は激しく輝き、召喚が正常に働いているのが伺えた。

 

「満たせー、満たせー、適当に満たせー」

 

 その横では切嗣の一人娘であるイリヤが謎の着ぐるみ集団の担ぐ神輿の上で召喚の為の触媒である料理の乗った皿を掲げながら呪文を繰り返す。アンノウンからの要請なので切嗣は断れず、妻のアイリスフィールは楽しそうにその姿を眺めていた。

 

(……意味が分からない)

 

 触媒のクジだと言って差し出された箱に突っ込んだ切嗣の右手は納豆臭くなっており、納豆しか入っていない其の箱はアハト翁の私室に乱暴に放り込まれて中身を床にぶちまけている。やがて光は最高潮に達し、何者かの声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「うふふふふ。感じましたイケメン魂。貴方が私の……」

 

 現れたのは着物を着崩した露出強(誤字にあらず)の狐耳の女性。彼女はアンノウンの姿を見て固まり、次にイリヤの持つア()()()()()シの皿を見てポンッと手を打つ。

 

「お…おっぎゃぁああああああああああああああああああっ!? なんでテメェがいやがるんですかぁ、アンノウンっ!? ってか、アンタが私のご主人様ぁっ!? マスター交代っ! マスター交代プリィーズ!!」

 

「あっ! 紹介するね。僕の玩具(友達)で本体は太陽神の玉ちゃん。尻尾は二本だからそこそこ強いよ。……三本以上にするのは集中に飽きたから止めた」

 

「……成る程。玉藻の前か。しかし、キャスターとは……」

 

 最弱の英霊とされるキャスターである事に残念さを覚える切嗣だが、そもそも目の前のパンダは神が居た時代に神を虐殺したとされる存在。英雄のコピーである英霊が敵う存在ではない事を思い出した。

 

「まぁ、特に問題にはならないか」

 

 

 

 

 

 

「ちょいっと! 此奴にツッコミをっ! 私? 疲れるから拒否ですよぉっ!」

 

「……僕も余計な労力は使いたくないんだ」

 

 最初は英霊などと話す気のなかった切嗣だが、同情したので話をしてあげる事にした。

 

 

 

 

 

「所でアンノウン。イリヤが参加する意味はあったのかい?」

 

「特に意味はない。ノリでやった。反省はした事ない」

 

 

 

 

 

 

 そして、他の陣営も順調に英霊を召喚していた。

 

 

「勝ったぞ、綺礼! この戦争、我々の勝利だっ!」

 

 最終的にギルガメッシュを裏切る予定で召喚した遠坂時臣は臣下の礼を彼に対してとる。跪いた彼の頭頂部は隕石が掠って禿げており、最終的に英霊を自害させる気、と文字になる様に毛が残っていた。

 

「くくくくく。奴がまだ生きていたか。……面白いっ! 今度こそ我が勝つぞっ!」

 

「……王よ。どうかいたしましたか?」

 

「なぁに。我の友が貴様が我を裏切るつもりだと知らせてきただけだ」

 

 ギルガメッシュは唖然とした後に青ざめて言い繕う時臣を無視し、昔アンノウンから貰った知恵の実を齧る。この瞬間、彼は肉体を得た。

 

 

 ただし、全裸だ。

 

 

 

 

 

「ほぅ。あやつ、この戦争に参加する気か」

 

 ライダーのクラスで降臨したアレキサンダー大王ことイスカンダルはマスターであるウェイバーに声を掛ける前に空に浮かぶ星を見てニカッと笑う。星を破壊して砕けたスイカの種は散らばって他の星も破壊し、新たな星座『パンダ座』が出来上がっていた。

 

「面白いではないかっ! 今度こそ奴を屈服させてやるぞっ! ……まぁ、その前に酒を共に飲むのも良いな」

 

 

 

「……アレは」

 

 アサシンとして喚ばれたハサンは教会の庭に降り注いだ隕石群で描かれた模様を見て納得する。

 

「その状態で一つの肉体に一人格だし、受肉で良くない? か。なるほど、奴らしい」

 

 

 

「「何故か嫌な予感がするな(します)……」」

 

 セイバーとランサーは直感を発動させていた。なお、この日は殺人鬼がこの世から一人減ったらしい……。


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