ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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自由な大熊猫の聖杯戦争 ㊤

とある深い森の中に其の怪物は住んでいた。誰も近付かない魔法の木を日がな一日守り続ける彼の名はシアバーン。単眼で手足が一本ずつしかない巨人族である。

 

「ねえねえ、シアちゃん。また木の実貰って良~い?」

 

 たった一人で暮らす彼にも友人といえる存在がいた。どうも異国のパンダとかいう熊の仲間らしいが何故か喋り、木の実を食べようとしたのを邪魔する為に戦ったら強かった。結局木の実は幾つか盗まれたが、何故か気に入られたらしく何度も土産を持って遊びに来るうちに仲良くなったのだ。

 

「……またか。お前は食べ過ぎだ。というより、若返りの効果があるその実をあれだけ食べて見た目が変わらん? ……一個だけだぞ」

 

「僕はシアちゃんよりもず~っと長生きしてるからね。世界が一つだった頃の王様とも友人だったんだよ?」

 

 アンノウンは何の遠慮もなしに一番大きくて熟している物をもぎ取ると齧り付いた。

 

「そうそう、暫く他の国に行くけどさ、お土産持ってくるから楽しみにしててね」

 

「そうか。期待しないでおこう」

 

 流石は友達といった所かシワバーンのアンノウンに対する信用は限りなく零に近いようだ。そして帰る際、アンノウンはふと思い出したように言った。

 

「あっ、最近この辺りに女連れの騎士が逃げて来たらしいけど、気をつけてね。強いらしいし、人間ってのは強欲で執拗で姑息で自己弁護が上手いからさ。特に若返りなんて事を漏らしちゃ駄目だよ?」

 

だがしかし、心優しかった巨人は騎士団に追われている二人に同情して匿い、うっかり木の実の効果を漏らしてしまう。そして、木の実が欲しくなった女は絶対に手を出さないという約束を破り、怒った巨人は騎士の手で殺された……。

 

 

 

 

 

 

 そして騎士はやがて裏切りの報いを受け死に、アンノウンは森の動物から巨人の死を知らされた。

 

「……そう。その男は死んだんだ。でも、女は生きてるんだね。だったらさ、僕がシアちゃんの仇を取るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計塔、それは魔術師達の学び舎の名門。其処の教授であるケイネス・アーチボルト・ロードエルメロイは

教え子のウェイバー・ベルベットにアレキサンダー大王のマントの切れ端を盗まれる。だが、彼の用意した聖遺物は其れだけではなかった。

 

「クソッ! 忌々しい事だ!! ……だが、アレさえあれば」

 

 本命のマントこそ盗まれたものの、まだ予備の聖遺物は用意している。ケイネスが厳重に隠してあった金庫の戸を開けると、

 

 

『なんか面白そうだからこれ貰うね。誰の聖遺物か知らないけど、他に良いのが見つから無かったんだ』

 

 というメッセージとパンダのイラストが書かれたメモが入っていた。

 

 

「あら、どうしたの? ケイネス。さっきこの部屋にパンダが居たけど。まあ、『魔術師の学校に居ても変じゃないパンダ』って名札付けてたから気にならなかったけど」

 

「……そうか。ならば気にする必要はないな。誰だ、私の聖遺物を盗んだ奴はっ!!」

 

 どう考えてもそのパンダだろう。

 

 

 

「地を這う虫けら不在が誰の許しを得て面を上げる? 貴様は俺を見るに能わぬ」

 

 

 そして数日後、日本の冬木市で聖杯戦争が始まった。公式での初戦は遠坂邸での黄金のサーヴァント(アーチャー)捨て駒(アサシン)の戦い。その戦いはキャスター陣営以外が見ており、ランサー陣営以外は使い魔を通してその戦いを見ていた。

 

 

 

 

「やっほー! 久しぶりギルギル!」

 

 そしてアンノウンは普通に自ら見に来ていた。アサシンが結界を破壊した庭園に入り込むと屋敷の屋根の上に立つアーチャーに馴れ馴れしく手を振っている。その手にはマスターの証である令呪が刻まれていた。

 

「……ほぅ。まさか貴様も参加しているとはな。久しいな、も……」

 

「あっ! 今の僕は正体不明(アンノウン)って名乗ってるから。そうそう、喧嘩したからって宝物盗んでごめんねー」

 

「ふん。気にせぬとは我は怒ってなどおらぬ。……さて、久々に酒でも酌み交わしたいが日が悪いな。では、今宵は帰れ。また日を改めて会うとしよう」

 

 そう言いながらアーチャーは消えていく。その口元は僅かに緩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「……王よ。あの喋る奇妙なパンダとお知り合いですか」

 

「ぬっ? 時臣、貴様は我の物語を知らんのか? 奴は我たった二人の友の片方だ。……その顔からすると知らんのではなく記録に残っておらぬようだな」

 

 アーチャーはマスターである時臣の反応を見ると不快そうに顔を顰めた。

 

「……聖杯に願う事ができた。奴が我の友として記録に残っておらぬのは気に入らんからな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとっ! 喋るパンダとなっ!?」

 

「あ、ああ。なんか嬉しそうだなライダー」

 

 その頃、アレキサンダー大王をライダーとして喚びだしたウェイバーは先程の戦闘の様子を話した途端に上機嫌になったライダーに困惑していた。

 

「なぁに、そのパンダは恐らく吾輩の朋輩だ。それにアーチャーの真名も分かったぞ。アンノウンから話を聞いておったからの! まさか英雄王と武を競えるとは思わなんだ! ……しかし、そうなるとちと惜しくなったな」

 

 ライダーは顎に手をやると何やら企み出す。その姿を見たウェイバーは嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……喋るパンダ。それもアンノウンと名乗ったのですね?」

 

 マスターである切嗣の妻アイリスフィールから話を聞いたセイバーは怒りを顕にしてブルブル震えだした。

 

「セ、セイバー? どうかしたの?」

 

「……いえ、少し昔の恨みを思い出しまして。くくく、あの時の屈辱、果たさせて貰うぞアンノウン!!!」

 

 

 

 

(……何を怒っているのか知らないが、これはプランの練り直しが必要だな。まったく、これだから騎士って連中は嫌になる……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数日後、湾岸倉庫でセイバーとランサーの戦いが始まっていた。最初は互いに様子見で互角だった戦いだが、徐々にランサーが押し出す。その理由は供給される魔力量の差。ランサーに供給される魔力は令呪によるブースターよりも大量に注がれ出したのだ。

 

「此処までだな、セイバー」

 

 そして不治の呪いを掛ける必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)がセイバーの腕を深く切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『舞弥、ランサーのマスターはあのパンダ……で良いんだな?』

 

『ええ、おそらく……』

 

 切嗣は隠匿の魔術を掛けてもいないアンノウンに戸惑いながらも……そもそもパンダが喋ってマスターをやっていたら流石の彼でも戸惑うだろうが、それでも何とか狙撃を行う。だが、何発頭に打ち込んでも効いた様子はなかった。

 

 

 そこから先は原作通りなので省略。ライダーが二人の間に割り込んで戦闘の邪魔をし勧誘。あとはアーチャーが挑発に乗って出てきて、

 

「ほぅ。貴様も奴の友か。……苦労するな」

 

「なぁに、あれはあれで楽しかったぞ。……胃は痛くなったがな」

 

 互いに哀れんだ以外は特に変わらず、バーサーカーが現れてアーチャーが下がり、バーサーカーがセイバーに襲いかかったのをランサーが止めた場面まで飛んだ。

 

 

 

「其処までにしておけ、狂犬。そこのセイバーとは俺が先約を入れている」

 

「いや、良い加減にするのは君だよ、ランサー。あっ、イスカン久しぶり! ……君さぁ、騎士道とか言った割には挑発に負けて主の奥さんに手を出したり、仲間を殺したり、さんざん外道な事しておいて、更には主の為に倒すべき敵を助けるとかさ」

 

「主っ!?」

 

 そして何時の間にか出てきたアンノウンは珍しくランサーを責め立てていた。

 

「アンノウンよ、お主にしては刺々しいの」

 

 ライダーは驚いた様子で尋ね、アンノウンは頬を膨らませてランサーを指さした。

 

 

 

「だってさ、此奴って僕の友人を殺したんだよ。しかも恩仇な理由だよ。命の恩人の宝に手を出して、怒ったら殺すなんて強盗殺人だよね、腐れ外道だよね、犬畜生にも劣るよね! ……あっ、イスカン。ギルギルと今度会う約束したんだけど、君も一緒に酒盛りでもしない? じゃあ、ランサー。適当に戦ったら戻ってきてね」

 

 好きなだけ言ったアンノウンは項垂れるランサーを無視して風船に付いた紐を腕に結び、空気を抜いて何処かに消えていった……。

 

 

 

 

 

 

 

「……話に入る隙がなかった」

 

 忘れられていたセイバーであった……。

 




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