ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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さて勢いで書いてしまったが……ソフトがあってもGBAが見付からないから記憶と攻略サイト頼みだっ!


格闘料理伝説D×D

 定食屋『トウチンケン』、駒王街の商店街の外れにあるこの店は部活帰りの学生や家族連れで賑わう人気店だ。厨房に篭って姿を見せない店長の考えから雑誌などの宣伝は断っており、営業時間である朝の10字から昼の六時三十分まで馴染みの客を中心に満員御礼だ。

 

「……ビーフカレーとあんみつとクリームソーダを三つずつお願いします。全部大盛りで……」

 

「じゃあ、私はダイエット中だし海老ピラフの小をお願いするわ」

 

 この日も常連の一人である小猫が主であるリアスを連れてやって来ていた。リアスは和洋中エスニック各種を取り揃えたメニューに驚きながらも注文をし、暫く待つと少々無表情なウエイトレスが料理を運んできた。

 

「……お待たせしました」

 

「じゃあ、食べようかしら。……!?」

 

 そして一口食べた時、リアスの体に電撃が走る。その海老ピラフはもう海老ピラフと言って良いレベルではなかった。

 

「こ…これは……」

 

 その海老ピラフが海老ピラフだというのなら、今までリアスが口にした海老ピラフなど米と具材を適当に混ぜ合わせた生ゴミ同然でしかない。気付いた時、既にリアスの皿は空になっていた。リアスは公爵令嬢としての教育を受けており食事のマナーもキチンと身に付けているにも関わらず夢中で掻き込んでいたのだ。そして、それなりの量だったにも関わらずリアスの舌と胃はもっと食えと要求していた。

 

「……すみません。海老ピラフの小を三皿……いえ、大盛りを五皿お願い!」

 

「私はカレー全品大盛りを三皿ずつ……」

 

 結局、リアスはダイエット中にも関わらず腹が妊婦のようになるまで海老ピラフを食べてしまった。

 

 

 

 

「ふぅ~、食べた食べた。もう、こんな良い店があるのならもっと早く教えてくれれば良かったのに」

 

「じゃあ、また皆で来ましょう」

 

 それはもうすぐリアスが三年生となる春間近の事であった。

 

 

 

 

 

「店長、今のお客で最後です」

 

「うん、そっか。もうオーダーストップの時間だし今日は終わろうね。……今日は金曜日だしさ」

 

「分かったわ。じゃあ、皆にも言ってくる」

 

 先ほどの無表情なウエイトレスは食材のチェックをしていた店長に近づくと皿を洗い出す。その近くではオカメみたいな化粧をしたオバさんが食器の整理をしており、双子の兄弟が帳簿のチェックをしていた。

 

 

 

 

 

 『トウチンケン』には裏の顔がある。普段は普通の定食屋なのだが、第二第四金曜の深夜のみ得別な店へと変わる。時計の針が十二時になった途端に店の空間が歪み内装が変化する。それと共に店長は金庫に入れていた包丁を取り出した。真っ白な仮面の中央に目玉の模様がある仮面を付けた彼は食料庫の扉を開く。其処には人間界の食材ではないモノまで入っていた。

 

「アヤメちゃん、本日のお客様は?」

 

「帝釈天様御一行、シャルバ・ベルゼブブ様御一行、オーディン様御一行、ハーデス様御一行、そしてサーゼクス・ルシファー様御一行です」

 

 月に二度、この店は高い地位に立つ人外の客専門で、五組限定完全予約制の店へと変貌する。此処での一番重要なルールは『喧嘩御法度』。もし破れば二度と入店する事が出来ず、敵対関係にある勢力同士が鉢合わせしても争いが起きない。それほどまでにこの店の料理は彼らの心を掴んでいたのだ。

 

 

 

「……アレは」

 

 シャルバ・ベルゼブブはすぐ後ろの席に座ったアジュカ・ベルゼブブに気付いて立ち上がろうとするのだが、同行したカテレア・レヴィアタンとクルゼレイ・アスモデウスに睨まれて大人しく座った。

 

「止めなさい、シャルバ。この店に二度と来れなくなったら……殺しますよ?」

 

「くっ……」

 

「敵対している知り合いに会っても知らないフリをする、それがこの店のルールだ」

 

「お待たせしました。ミノタウロスのタンシチューとネクタルです」

 

「来たかっ!」

 

 

 シャルバは忌々しそうな顔から一変、顔を綻ばせ夢中でシチューを口に運ぶ。その顔はまるで誕生日プレゼントをの包みを開ける時の子供の様な笑顔だ。

 

 

 

「ハーデス様、今宵のスペシャルで御座います」

 

 トウチンケンにはひと組にだけ出す特別メニューがある。毎回四組目に予約を入れた者だけが注文する事が出来るそのメニューは全部で六種類でどれになるかはランダムだ。他の客はこの時だけは食べるのを忘れて立ち上がった。

 

「今回の特別メニューは”スパイスレシピ”となっております」

 

《おお、待ちわびたぞ》

 

 

 

 どの勢力の権力者もまるで誘蛾灯に誘われる蛾のように店に引き寄せられ、薬物中毒者が薬を求めるかの様にこの店の料理を求める。そして何故其処までの腕にも関わらず誰かのお抱えになっていないのか、それは本人にその気がなく、勧誘する側も彼を勧誘すれば他の勢力から纏めて狙われるという事が分かっているからだ。

 

 

 

「それでは皆様、またのお越しをお待ちしております」

 

 莫大な代金を受け取った店長は帰っていく客の頭を下げると片付けを始める。朝日が昇る頃には店から人の姿が消えていた。

 

 

 

 

 

 それから暫く経ち、店が休みのとある日の深夜の事。廃屋に一人の男性の姿があった。逞しい体つきをした三十代の男性で、顎鬚を生やし髪を後頭部で括っている。

 

「お前、不味そうだな。でも、別に良いか」

 

 彼の前には獣の下半身と女性の上半身を持つ巨大な化物が立ち塞がっており今にも男性を殺して食べようとしている。対する男性はその場から動かず、化物は恐怖によるものだと思っていた。

 

(……参ったね、これは。血の匂いがするから来てみればはぐれ悪魔なんてさ……)

 

 だが男性は冷静に状況を判断しており、怪物に恐怖など感じていない。その指の間には一枚のカードが挟まっていた。

 

「まあ、人を食べるなら見過ぎせないか。……来い”いかメッシー”」

 

「なっ……」

 

 怪物の眼前に現れたのは自身の倍の大きさを持つ怪物。そして怪物が何かするよりも早く、長い触手が怪物を叩き潰した。建物中に振動が走り窓ガラスが割れて壁にひびが入る。よく見れば天井が少し崩れていた。

 

「やりすぎた、参ったな……ナツメちゃんに怒られる」

 

 男性が困ったように腕を組んだ時、後ろの方から駆け足の音と声が聞こえてくる。声の主達はすぐに男性がいた部屋に入って来たが、男性は間一髪窓から飛び出して茂みに隠れていた。

 

「はぐれ悪魔バイサー、覚悟しなさい! ……あれ?」

 

「……部長、アレ」

 

 どうやら先程の怪物を退治しに来たらしい集団は建物内を捜索した後に諦めて帰っていった……。

 




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