ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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死神姫と邪龍の聖杯戦争 ② 

 メディア(キャスター)が目を覚ますと其処は見慣れぬ部屋のベットの中。自身の体からは生前の彼女に匹敵する程の魔力が満ち溢れており、その魔力の持ち主であろう少女はベットの横の椅子に座ってでスヤスヤと眠っていた。

 

「……この子が助けてくれたようね」

 

 だがメディアはすぐにアイル(少女)を信用しない。生前裏切られ続け、また裏切り続けた彼女は容易には人を信用しない。どうやら魔術師らしいし、英霊である自分を利用するつもりだろう、そう思った時、アイルの寝言が聞こえてきた……。

 

「ん…お母様…好き…」

 

「……そういえばこの子が私の顔を見て”お母様”って呼んだような……!」

 

 メディアは背後から感じ取った気配に身を竦ませる。それは幻獣種の頂点であり、彼女が知るどの様な存在よりも遥かに巨大で邪悪な力の持ち主。全身から汗が噴き出し体が恐怖で震えそうになるもキャスターは矜持から平静を装って振り返る。

 

 

 

 

「目が覚めたか、メディア」

 

 其処にはヒヨコのイラストが描かれたエプロンを着ているクロウクルワッハ(人型)の気配があった

 

「ぶほぉっ!?」。

 

 もはやプライドとか何処かに飛び去って吹き出したキャスターに特に反応を見せないクロウクルワッハはオムライスとサラダとプリンを乗せたトレイをテーブルに置くとアイルの体を揺り動かした。

 

「起きろ。夕御飯だ。今日は中々上手く出来たぞ。……グレンデルには負けてられん」

 

「ん~。……オムライス!」

 

「あの、貴方達は一体……」

 

「説明は夕食を食べ終えてからだ。……むっ、お前も必要だったか?」

 

 クロウクルワッハは自分もオムライスを口に運びながら訊き、メディアはを横に振る。なんか非常に疲れた顔をしていた……。

 

 

 

 

 

 

「……要するに貴方達は異世界の存在で、この子はそっちの世界の私の娘って訳ね」

 

「記憶を少し読ませたんだ。確認する必要などないだろう?」

 

「無茶苦茶すぎて信じたくないのよっ! なんで邪龍が家事全般が得意なのよっ!? っていうか、幼児の時から知っている子の子供と結婚って、そっちの私何やってるのっ!?」

 

「長寿種になったんだ。別に年の差など気にする必要などないだろう。」

 

「……ああ、なんかドッと疲れたわ」

 

 叫び続けるキャスターと全くテンションの変わらないクロウクルワッハ。ちなみにアイルは夕食後の勉強をしに別の部屋に行っている。なお、この家は金の力とアイルによる魔術での催眠で買った空家だ。既にクロウクルワッハの手で整備が整っており、電気ガス水道だけでなくネットも完備している。

 

 

 

 

「お母様…じゃなかった、キャスターさんとのお話終わったの?」

 

「いや、まだだ。勉強は終わったのか?」

 

「喉が渇いたの」

 

 アイルはクロウクルワッハが沸かした後で冷やした麦茶を二つのコップに注ぐと一つをキャスターの前に置いた。

 

「はい」

 

「私には必要ないわよ? ……まあ、せっかく入れて貰ったから頂きましょう」

 

 キャスターは麦茶のコップを傾けると一気に飲み干す。彼女が麦茶を飲む間、クロウクルワッハは何やら考え事をしていた。

 

 

 

 

「……それで聖杯戦争はどうするのかしら? 私はできれば”故郷に帰る”、という願いを叶えたいのだけど」

 

 メディアはこの少しの間にアイルの才能と膨大な魔力を感じ取り、最弱の英霊と呼ばれるキャスターの自分でも勝機があると感じていた。だが問題は目の前のクロウクルワッハだ。少しだけ読み取った記憶では会うたびにアイルの世話を焼き、仲間からは”姪っ子に甘いオッサンみたい”、とまで呼ばれている彼だけに危険な目に合わせるとは思えない。第一、キャスターには彼を御しきれる自信はない。

 

 

「ねぇ、クロウさん。私、参加したい!」

 

「……お嬢ちゃん。私としては嬉しいけど危険よ?」

 

 ほんの少しだけ読取った記憶で異世界とは言え自分の娘だと知ったからか、それとも殺した我が子に似ていたのかキャスターはアイルが参加すると言い出したことに迷いを覚える。横のクロウクルワッハもしぶ顔だ。

 

「……参加する理由は?」

 

「お母様とお父様がね、”何事も中途半端はいけません”、って何時も言っているの。一度助けたのに後は知らないって放ったらかしにするのは良くないと思うし……もうすぐお母様の誕生日だから聖杯をプレゼントにしたいの」

 

「ず、随分と豪華なプレゼントね……」

 

 キャスターがアイルの発言に若干引く中、クロウクルワッハは溜息を吐いて立ち上がるとアイルの頭にそっと手を乗せた。

 

「……俺がやってやるのはお前の護衛と食事の用意だけだ。その他は知らん。そして帰れる日が来たら帰るぞ。……其れで良いな」

 

「うん!」

 

 

 

 アイルは元気に返事をし、キャスターは安堵する。こうしてキャスター陣営の聖杯戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 ……のだが、此処で問題が起きた。アイル自体が規格外な強さを持ち、さらに上を行く規格外が守っているのでマスターを守る必要は無く、魔力も過剰に集まっており竜牙兵もアサシンにやや劣る程度の強さを持たせることができる。だが、流石に三騎士クラス相手にキャスター一人で戦うのは無理があり、拠点を移動するというのは却下された。

 

 

「あくまで此方は協力しているだけだ。戦闘は其方で何とかしろ」

 

 本来なら消えいく運命(正確には枯れ果てた殺人鬼と出会う運命だったのだが知る由もない)だったので諦めるしかなく、裏技的な方法を取る事にした。

 

 

「素に天空と大地。 礎に太陽の子と大海の娘。 祖には我がコルキスの守護神ヘカテー。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 本来ならば魔術師しかできない英霊召喚。だがキャスターは”魔術師”であり、規格外の魔力と規格外の力を持つ触媒(アイルがクロウクルワッハに頼み込んで元の世界から送って貰った物)を使って召喚を可能にしていた。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 クロウクルワッハ(邪龍)色々な血(伝説の龍の力を持つ)を引くアイル(死神と太陽神と神代の魔女)の血を混ぜた塗料で描かれた魔法陣に魔力が徐々に注がれていく。

 

              

「Anfang――――――告げる。――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 魔法陣の近くには触媒として一本の剣が設置されている。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 そして今、キャスターの手によって英霊が呼び出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――問おう。アナタが私のマスターか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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