それは新聞配達の人達が置き出す早朝の頃、一人の男が目を覚ました。年齢は二十代後半でボサボサの黒髪に鍛え上げられた肉体、ツリ目の三白眼と鋭い犬歯は凶暴そうなイメージを駆り立てる。彼の名は
「オラッ! さっさと起きろや、一誠! モテる為に体鍛えるって言ったのオメーだろがよー!」
「……まだ早すぎだろ。あと五分だけぇっ!?」
「さっさとジャージに着替えやがれボケが」
弟である一誠の頭に鉄拳を落とした彼は一誠をベットから引き摺り出すとまだ肌寒い外に放り出した。
「とりあえずランニング五キロ。帰ったら腕立て・腹筋・スクワット各百回ずつな」
「うげっ!? な、なぁ、兄貴。もう少し軽く……」
「何? その倍やりたいだと? 良い根性だな、一誠!」
「いや、俺はそんな事……」
「あぁん?」
「はい! 頑張ってやらせて頂きます!!」
こうして軽い気持ちから始まった朝のトレーニングは地獄と化し、一誠は昨日の自分を呪いながら重くなった足を必死に動かして走り続けた。やがて両親が置き出す頃には腰に手を当てて牛乳を一気飲みする長男と、全身汗だくでゼィゼィ言っている次男の姿があった。
「零観。そろそろ出かけないと遅れるんじゃないの」
「おー、もうそんな時間か。んじゃ、行ってくるわ」
零観は似合わないスーツに着替えると家から出ていく。彼の勤め先は駒王学園。弟の一誠が通う高校の体育教師が彼の職業だ。
「兵藤先生、お早う御座います」
「おう、支取か。今日もご苦労なこった」
校門の前では生徒会長の支取蒼那率いる生徒会が抜き打ちの持ち物検査をしていた。変態二人組と呼ばれる松田と元浜が捕まっている。ちなみに弟の一誠も変態になりかけたが、おっぱいを題材にした紙芝居に通おうとした所を鉄拳制裁し止めさせた。ちなみに紙芝居のおじさんは警察に捕まったらしい。
「ん? なんだオメーも帰りか一誠。……どーかしたのか?」
その日の放課後、仕事が早く終わって帰路に着いていた零観は道端で呆然と立ち尽くす一誠を見付けて話しかける。だが話し掛けても一誠は固まったまま動かず、朝同様に頭に鉄拳が落とされた。
「いてぇっ!? って、兄貴っ!?」
「ったく、道端で何ボーッとしてんだ気持ちわりぃ」
「俺はボーッとしてるだけで気持ち悪いのかよっ!? ……なあ、兄貴。俺、告白されちまった」
「ああ、立ったまま寝てやがったのか。オメーも器用な奴だな」
「違うからねっ!? って、何すんだよ」
零観は一誠が苦労してセットした髪をグシャグシャと掻き回しゲラゲラ笑う。
「まだ時間あるし何処か寄ってくか?」
「んじゃ、キャバクラ!」
「アホかオメーは。んな所は自分で自分の世話が焼ける様になった一人前が行く所だ。餓鬼が行けると思うなアホ。ラーメン食いに行くぞ、ラーメン」
零観は一誠の背中を乱暴に叩きながらお気に入りのラーメン屋に向かう。そして数日後、告白してきた少女とデートに向かった一誠は何時の間にか帰って来ており、周囲の人間から彼女に関する記憶が消えていた。
「ああ? オメーの彼女だろ。覚えてるに決まってるじゃねぇか」
「だ、だよなっ!? でも、誰も知らねぇって言うんだ」
「苛められてるんじゃねぇのか? オメーも二人程じゃなくても変態だしよ」
「それが兄の言い草かよっ!?」
周囲の人間の中で唯一記憶が消えていなかった零観は今回の事態に首を捻りながらも、どうでもいーか、と気にしない。そして更に数日後の飲みに出かけた帰り、上機嫌で帰っていた彼の目の前に今にも殺されそうな一誠の姿が映った。
「下等なはぐれ悪魔よ。これで消えて…あごっ!?」
「俺の弟に何やってんだよクソヤロー。いっぺん死ぬか、あぁん?」
「兄貴っ!」
一誠に槍を向けていた男は後頭部に蹴りを食らってブロック塀に頭から激突する。悶えている男の後頭部を掴んだ零観は乱暴に地面に叩きつけると頭を何度も踏みつける。やがて男はピクピク痙攣しながら気を失った。
「おいコラ一誠。こんな時間に何してんだよオメーはよー。校則違反だろが。明後日までに反省文十枚な。……テメーもだ、グレモリー。てかオメー、何処から出て来たんだ?」
零観が振り開けると其処には三年生のリアス・グレモリーの姿。先程まで居なかった筈なのに何時の間にか立っていた。
「あら、気付いてたのね先生。詳しい話しは明日使いを出すから部室でしましょ」
「それよりもオメーも反省文十枚な。遅れたら一日毎に五枚追加だから頑張れよ」
「……はい」
リアスは魔法陣の中に消えていき、零観は手品か何かかと考えながら帰路に着いた。
「そういや一誠。血ぃ出ってっけど大丈夫か?」
「あ、ああ、なんか痛むけど歩ける」
「そっか。んじゃ、一応病院行くぞ。あのオッサンもケーサツに……っていねぇっ!?」
男も何時の間にか消えており、二人は病院に急患窓口を利用した後で帰路に着いた。
「……随分妙な装飾品だな、おい。部費じゃ足りねぇんじゃねぇか? てか、なんでシャワーが付いてんだ?」
翌日、リアスが部長を務めるオカルト研究部の部室がある旧校舎まで向かうと其処は異様な部屋だった。魔法陣やオカルトちっくな装飾品、極めつけはシャワーだった。
「まあまあ、気にしないでください先生。許可は取ってますから」
「……な~んか納得いかねぇな。まあ、今日はそんな話しに来たんじゃねぇ。……あの手品…いや、手品じゃねぇよな?」
「ええ、そうよ。兵藤一誠君…イッセーって呼ばせて貰うわね。私達は貴方を歓迎するわ。悪魔としてね」
「ああ、これが厨二病か、やっぱオカルト研究部ってのはそういうのの集まりなのか?」
「違うわよ! ほら、悪魔の羽!」
リアス達オカルト研究部の部員は背中から蝙蝠の様な羽を出現させる。
「コスプレか。って、制服から出てんじゃねーか! 制服の改造は禁止だぞ、おい!」
「……朱乃。私帰っても良いかしら?」
「……気持ちは分かりますが落ち着いて下さい、部長」
その後、いろいろ説明する事で零観達に悪魔の事を信じさせる事ができ、三すくみの事や一誠が悪魔に転生した事、神器の事も説明した。
「じゃあ、貴方の神器を調べるからこの魔法陣の上で自分が一番強いと思う者の真似をしてちょうだい」
「……知る中で一番強い。……ど頭かち割るぞ三下がぁっ!!」
「おー、俺の真似か。中坊ん時にヤーさん五十人くらいぶちのめした時のセリフだな。んで、その赤い籠手がテメーの神器って奴か」
「此処まで来たんだし、先生もやってみたらどうかしら?」
「そーだな。結構面白そうだ」
零観は魔法陣の上に立つとしばし考え出す。
「ど頭かち割るぞ三下がぁっ!!」
「あの先生、知る中で一番強い者の真似ですが……」
「俺の知る中で俺より強い奴は居ねぇ。……出ねぇな」
「先生に記憶削除が効かなかったのは偶々耐性があっただけの様ね」
「んじゃ、俺は帰るわ」
零観はそのまま部室を後にした。
(……にしても妙な言葉が浮かんだな。”
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