ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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前世マフィアで今ドラゴン? ③

匙元士郎は中学時代荒れていた。だが更生し、今では名門校に通っている。ただし、悪魔として……。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「ああ、何とかな」

 

匙は契約の仕事として喚ばれた先ではぐれエクソシストのフリードに襲われ、今は先輩である朱乃に心配されている。最近初めて出来た彼女に殺されリアスに下僕悪魔として転生させられたのだ。悪魔は人間よりも強い。だが、やはりたかが不良であった彼が対悪魔の訓練を受けたフリードに敵うはずもなく、紙袋を被った二人組によって助けられ、リアス達が駆けつけた頃には二人は消えていた。

 

「しかし、あの二人誰だったんだ?」

 

 

 

その頃、一誠とヴァーリは用意された家で寛いでいた。ゴミ箱には昼間買ったパンを入れていた紙袋に穴を空けた物が二つ入っている。

 

「しかし驚いたな。堕天使は戦争を起こす気か?」

 

「ボスは”戦争になりそうな時だけ関わって、それ以外は関わるな”とだけ言っていたし、調査だけしておこうぜ」

 

一誠はヴァーリと話しながら一人の少女に事を考える。数日前に出会ったアーシアは匙が殺されそうになっている事に気付いて駆けつけたヴァーリがフリードを止める為に放った威圧に当てられて気絶していた。威圧前に聞こえてきた会話ではアーシアが匙を助けようとしていた様だ。

 

「……言っておくが彼女は堕天使側の人間だ。下手な感情移入はやめておけ」

 

「……分かってるよ」

 

一誠は自分が所属する組織がそれほどの影響力を持っているかを知っており、下手に自分が介入したら争いの種になる事も分かっている。だから動きたくても動く訳にはいかなかった。

 

 

 

 

そして次の日、使い魔を自分に変身させて街で調査を進めていた一誠は昼食でも食べようとハンバーガー屋に立ち寄り、其処で言葉が通じず困っていたアーシアに遭遇した。

 

 

「あうう~、助かりましたイッセーさん」

 

「言葉が通じないんだから仕方ねぇって。ほら、こうやって食べるんだぜ」

 

アーシアは今まで教会暮らしであった為にハンバーガーの食べ方が分からず、一誠は一緒に食べながら何気ない会話をする。その時のアーシアはとても楽しそうだ。

 

「……なあ、アーシア。俺が街を案内してやろうか?」

 

「はい! お願いします!」

 

あくまで調査の為、自分にそんな言い訳をしながら一誠は提案しアーシアはそれを喜んで受けた。二人はゲームセンターでヌイグルミを手に入れたり街を散策して楽しい時間を過ごす。楽しい時間は直ぐに過ぎ、時刻は夕方。二人は公園で池に映る夕焼けを眺めていた。

 

「イッセーさん、今日は有難うございました。こんなに楽しかった日は初めてです。……私、夢があるんです。友達を沢山作って、今日みたいに遊んだりして。おかげで今日は友達が出来たな気がしました」

 

「そんな寂しい事言うなよ、アーシア。俺はとっくに友達だと思ってたんだぜ?」

 

「……私、日本語も話せませんし、迷惑をおかけしますよ」

 

「それなら俺が勉強に付き合う!」

 

「……本当に、友達だと思って良いんですね?」

 

「ああ、当然だっ!」

 

一誠は立場を忘れ本心から頷く。その言葉にアーシアは涙を流して喜び、二人の背後から拍手の音が聞こえてきた。

 

 

「はいはい、美しい友情ね。でも、それは無理よ。さっ、帰るわよアーシア。……其処の人間を殺されたくはないでしょう?」

 

「レイ…ナーレ様……。わ、私は行きませんっ! だって貴女は私を……」

 

廃教会を拠点とする堕天使のリーダーであり匙を殺した張本人であるレイナーレの姿を見たアーシアは恐怖で固まりレイナーレは一歩一歩ゆっくり二人に近づき手を差し出す。アーシアは一瞬一誠の方を見て震えながらその手を取った。

 

「……さようなら、イッセーさん。私なんかと友達になってくださって有難うございました……」

 

最後にアーシアは一誠の方を見る。その瞳は助けを求めたいのを必死に堪えている瞳だった。

 

「アーシア! 待っていてくれっ! 絶対に助けるからっ!」

 

アーシアが消え去った方向を向いて一誠は叫ぶ。その背後から数名のはぐれエクソシストが近寄ってきた。

 

「さぁ~って! 聖女様を誑かすゴミを処分すると…ぶへぇっ!?」

 

「邪魔だ」

 

そして更に後ろから近づいてきた老人に数人纏めて殴り飛ばされ纏めて池に叩き込まれた。

 

「ボ、ボスっ!? なんで此処にっ!?」

 

一誠の前に居るのは白髪頭の西洋人の老爺。服装は映画のマフィアを思わせ、黒いステッキ持っていた。そして一誠の言葉の通り、この老人こそが一星龍だ。

 

「この辺で新しい店を出すから視察に行くと言っていただろう。……さて、私が言っていた以上の介入をやろうとしている様だが言い訳は有るか?」

 

見た目は痩せた老人であるにも関わらず一星龍からは途轍もない威圧感が放たれる。それだけで地面にヒビが入り池には波紋が広がる。一誠は息すらロクにできない状態に陥いった。

 

 

「……お願いしますっ! アーシアを助けに行かせてくださいっ!」

 

そして、そんな状態であるにも関わらず地面に額をこすりつけて懇願する。

 

「あの小娘とは出会ったばかりだろう? 争いの火種になると分かった上での行動か?」

 

「どんな責任でも取りますっ! 俺はアーシアに助けると誓ったんですっ! 男が一度決めた誓いは貫き通せ、俺は貴方からそう教わりましたっ! だから、お願いしますっ!!」

 

一誠が額を強く擦りつけた地面がひび割れ破片が額に付く。一星龍は一枚の書類を一誠の前に投げるとその場から立ち去った。

 

「……これは?」

 

「堕天使達に関する報告書だ。どうやら先輩達の調査じゃレイナーレとかいう堕天使達は上を騙して居座り続けているらしい」

 

「つまり、助けに行っても問題なしという事にゃん♪」

 

「……従姉妹と会う前に済ませたい。早く行くぞ」

 

一誠が顔を上げると其処にはヴァーリと黒歌、そしてサイラオーグの姿があった。

 

 

 

 

 

「ふふふ、もう直ぐよ。もうすぐ私は至高の堕天使に……」

 

レイナーレの目的。それはアーシアの持つ神器を奪い取り自分の物にするという事。神器を抜き取られた者は死んでしまうが彼女にとってはどうでも良い。レイナーレは自分の事しか考えていないのだ。

 

 

もっとも、仮に神器を手にして本部に帰ったとしても命令違反や戦争を起こしかけた事を理由に神器を没収されて処罰されるだけだろうが。

 

 

「さあ、そろそろ儀式の準備を……!?」

 

突如起きた振動にレイナーレは体勢を崩し床に倒れ込む。起き上がったレイナーレは自分の目を疑った。教会は半壊しアーシアは赤い全身鎧を着た人物に抱き抱えられていた。

 

「……大丈夫か、アーシア?」

 

「イッセーさん?」

 

「……ごめん。俺は君を騙していた。俺は君の過去を知ってたし、人外の世界で生きてきてんだ」

 

一誠の後ろではレイナーレの手下の堕天使やはぐれエクソシスト達がヴァーリ達によってやられており、残ったのはレイナーレだけだ。既に勝敗は決している。それは誰の目にも明らかだろう。

 

「……舐めるな。私は至高の堕天使になるのよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

だが、レイナーレはそれを認めない。自分の野望の為に一誠に襲いかかる。

 

「レイナーレ。テメェはやりすぎた。罪には罰だ。……だろ?」

 

一誠の手から龍の気と彼自身の気を練り合わせた一撃が放たれ、レイナーレは塵も残さずに消え去った。

 

 

 

 

 

「……やれやれ、派手にやりおって」

 

その光景を遠くから眺めていた一星龍は呆れた様に呟く。だが、その両頬は嬉しそうに緩んでいた。

 




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