ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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前世マフィアで今ドラゴン?

イタリアのとある繁華街の一角にその一家(ファミリー)の拠点があった。一家の名前は『ドラクル・ファミリー』。イタリア全土の裏社会に影響力を持つマフィアである。二代前までは弱小マフィアであったが、先代の力によって一気に勢力を拡大。その事から引退した今でも先代のボスの影響力は色濃く残っている。そしてその拠点を一人の老人が訪ねていた。白髪頭に口髭を生やした彼の眼光は鋭く、彼が廊下を通ると男達は立ち止まって一礼する。そして彼はそのままボスの部屋にノックもせずに入った。

 

「仕事中に酒か? 随分偉くなったな」

 

「こ、これは先代っ! 何か御用でしょうかっ!?」

 

酒を飲みながら書類仕事を行っていたファミリーのボスは老人の姿を見るなり立ち上がって一礼する。会話から分かる通り老人はファミリーの先代ボスであり、今のボスよりも遥かに強い影響力を持っていた。

 

「いや、孫へのプレゼントを買いに出かけたついでに立ち寄ったのだが……お前をボスにしたのは間違いだったようだな。聞いた話では随分と新顔に舐められているらしいじゃないか。私が引退してから五年になるが、あまりにも情けない話だ。直ぐに幹部に連絡をして次のボスを決める。まったく、お前の野心を見込んでボスの座を譲ったが、私の判断力も落ちたものだ」

 

「ま、待ってください! 今のボスは私です。いくら貴方でも其処までする権利は……」

 

「無いとでも? 私が一言発せば貴様の横に居る男達は直ぐに貴様の頭を撃ち抜くのだが?」

 

彼が目で合図を送ると護衛らしき男達は今のボスである男に銃口を向ける。それを見た男は黙り込むしかなかった。

 

 

(くそっ! 忌々しい奴めっ!!)

 

 

 

「あら、父さんお帰りなさい」

 

「ああ、今帰った。私の愛しいレイシアは何処だ?」

 

「あの子ならリビングでテレビを見ているわ。全く、アニメばかり見て……」

 

「まあまあ、良いじゃないか」

 

彼がリビングに向かうと十歳になる孫娘が熱心にテレビを見ていた。この時間は日本のアニメをやっており、何やら白い怪物と赤い服を着た男二人が戦っていた。

 

「あっ! お祖父ちゃん、お帰りなさい」

 

「ああ、ただいま。ほら、欲しがっていた絵本だよ」

 

「有難うっ!」

 

彼は孫娘から頬へのキスを受けるとソファーに腰掛ける。アニメはEDテーマが流れており、その映像に出てくるキャラの姿には見覚えがあった。

 

「おや、ドラゴンボールかね。読んだ事は無いが知っているよ」

 

「うん! これはドラゴンボールGTっていってね……」

 

孫娘がそこまで話した時、窓ガラスを突き破った入ってきた物が床を転がる。それが手榴弾だと気付いた彼は咄嗟に孫娘を庇い、背中に衝撃を受けた所で彼の意識は途絶えた。

 

 

 

 

「……此処は地獄か? やれやれ、殺風景な所だな」

 

彼が目を覚ますと見慣れぬ場所に立っており、周囲には草木一本もない。今までの自分の行いから天国には行けないと思っていた彼は地獄だと判断し、ふと自分の手を見て驚く。それは高齢にも関わらず鍛えていた小麦色の腕ではなく、それよりも太く、そして真っ白な異形の腕だった。

 

「死人は見た目が変わるのか? 悪人が死ねば悪霊や悪魔になる事があると聞いた事があるが其のたぐいかもしれんな」

 

彼は特に慌てる事もなく、このまま此処に居ても何だからと思って歩き出そうとしてふと思った。自分は飛べるのではないか、と。なんとなく体が覚えているかの様な力の入れ方をすると簡単に飛ぶ事ができ、まるで早送りのように景色が過ぎ去っていく。少しの間飛んでいた彼だが喉の渇きを感じ、ちょうど綺麗な川があったので飲みに降りる。そして川に今の姿が映った。龍と人を合わしたかの様な異形の顔に全身から生えた刺。胸には七つの珠が埋め込まれている。

 

「おや、この姿はアニメに出てきた奴と似ているな。名前は聞いていなかったが……いや、私にはこの顔の名が分かる。……一星龍(イーシェンロン)だ」

 

そして、自分の名前は思い出せなかった。

 

「まあ、此処が地獄や夢の中なら有り得るだろう。……さて、乾きも潤したし進むとするか」

 

長年マフィアのボスの座に君臨し長い時を生きていた彼はこの程度では動じず、再び空を飛んで周囲を見て回る。かなりの高度を高速で飛んでいるにも関わらず地上の様子がハッキリと見え、人間らしき姿を見つけた彼は地上に降りたった。

 

「……なんだ貴様は。ドラゴン……のようだが」

 

「なに、私はただのくたばった爺に過ぎんよ。スマンが此処が何処か知らんか?」

 

「私か? そうだな。ヤフウェとでも呼んで貰おう。貴様の真似をするなら全てを作った神に過ぎん、といった所か? もっとも、貴様の様な物を作った覚えはないがな。さて、次の場所に行かなくては……」

 

彼、一星龍が出会った男は忙しそうにしながら去っていく。

 

「地獄で神に出会うとはおかしな事も有るものだな。いや、ただの神を語る悪魔か?」

 

一星龍は再び飛び立ち周囲を見回す。何処にも人の姿がない事を疑問に思いつつ彼は飛び続け、腹が減ったら果物や獣を狩り、何故か出せると分かっていた雷で焼いて食べる。そんな暮らしを続け、やがて気の遠くなるような月日が流れた。途中、妙な場所に迷い込み、そこの主らしき龍に襲われ返り討ちにし、暫く経って同じ場所に迷い込むと主が巨大な赤い龍に変わっているなどがあった。

 

「いや、あれは私が追い出したせいか?」

 

「どうしたの? ボス~」

 

「なにかあったの? ボス~」

 

「いや、何でもない。気にするな、ドライグ、アルビオン」

 

一星龍の周囲を小さな龍二匹が未熟な翼を羽ばたかせて飛び回る。この二匹はサマエルという龍の天敵に親を殺されたのを気まぐれで拾ったのだ。ちなみにサマエルは一星龍にも襲いかかり力を吸い出したが、一星龍が一気に力を込めると爆散して肉片が周囲に散らばった。どうやら許容量を遥かにオーバーしたのが原因らしい。数日は少し体にダルさが残ったが今ではすっかり治っている。

 

「あ~! またドライグを先に呼んだ~!」

 

「へへ~ん! ボクの方が何時も先だね!」

 

「単に先に呼びやすいだけだ。つまらん事で喧嘩をするな。……さて、また鬱陶しい奴らがやって来たな」

 

一星龍の視線の先には彼を危険視した神の兵が向かっており、彼ら目掛け一星龍の手から無数のエネルギー弾が放たれる。

 

「秒殺魔光弾!!」

 

貫通力と破壊力に優れたエネルギー弾は神の兵を全て消し去り、余波で地上に巨大なクレーターが出来る。

 

「さて、食べ物を探しに行くぞ」

 

「わ~い」

 

「おにく~!」

 

一星龍は全く関係のないはずの二匹を見捨てる気が起きず今も世話を焼いている。やがて同じ様に彼についてくる者が一人、また一人と増え、長い年月の末に一勢力と化していた。

 

 

 

 

「あの馬鹿共が封印された?」

 

書類を片付けていた一星龍は部下からの報告を受けて溜息を吐く。昔から喧嘩ばかりのドライグとアルビオンは一星龍が作り上げた組織『ドラクルファミリー』の幹部にも関わらず喧嘩が絶えず、一度決着を付けさせる為に放り出した結果、悪魔、堕天使、天使の三勢力の戦争に乱入した結果封印されたというのだ。

 

「どうしますか、ボス? 神器の中に封印されたらしいですが……」

 

「その程度なら何時でも助け出せる。だが、少し仕置をする必要があるから放っておけ。気が向いたら助けに行く」

 

結局、気が向く事は長い間無く、ドライグとアルビオンは神器所有者を巻き込んで何度も戦いあった。そして人間の社会は発展し、一星龍が生きていた頃まで技術が追いつく。その頃になると”ドラクルファミリー”も拡大し、様々な訳ありが集まっていた。

 

 

「で、俺達に用ってなんだい、ボス?」

 

「おい、ヴァーリ! ボスに対してなんだよその態度は」

 

一星龍の前に立っているのは父に虐待されて逃げ出した所を保護した少年”ヴァーリ”と凶暴なはぐれ悪魔に両親を殺された所を助けた少年”兵藤一誠”。それぞれアルビオンとドライグを宿している。昔から二匹を封印した神器の所有者同士は殺し合いをしているが、この二人は仲が良かった。

 

 

 

「お前達、高校に通え」

 

「「はいっ!?」」

 

だから一星龍の言葉に同時に間抜けな声を出した。

 




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