ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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不死鳥の王と収集家の戦車 ⑨

「……おい、大丈夫か?」

 

朱乃達とケリィのレーティング・ゲーム終了後、誰よりも先にケリィの転移先にやって来たライザーは少し怒った様に訊ねる。BB弾を発射したエアガンの銃口は衝撃で破壊されており、ケリィの右腕はダラリと垂れ下がっていた。

 

「ちょっと大丈夫じゃないわね。フェニックスの涙五十個分の金をつぎ込んで実際の隕石と同等の弾速を出せるようにしたけど、使い捨てにするには高すぎるわ。力の消費も多いし、まだ使い物にならないわね」

 

「そんな事はどうでも良い! 早く肩を治せ!」

 

ケリィの肩は炎に包まれ、直ぐに普通の状態に戻った。未だ不機嫌そうなライザーに対し、ケリィは困ったようにため息を吐いた。

 

「何を怒っているのよ、ライザー? 貴方がワタシの他人の能力を自分の能力に変える力(本当の能力)はできるだけ隠せって言ったんじゃない。だから衝撃で肩の骨が砕けてもフェニックスの不死を使わなかったのよ?」

 

「お前、馬鹿か? ……今度からはバレても良いから直ぐに治せ。王としての命令だ」

 

ライザーがそう言った所でレイヴェルや他のライザー眷属達がやって来た。

 

「さて、それじゃあ帰ってご飯にしましょうか」

 

 

 

 

 

 

テーブルの上にはケリィの手料理が並べられている。ライザー達がそれを夢中になって食べる中、ケリィは台所に釘付けになっていた。

 

「あ~、もう! 今日戦ったのはワタシなのに、なんでワタシが料理当番なのよぉ」

 

「仕方ないだろ、お前以外料理できないんだから」

 

「でも、本当にケリィさんの料理って美味しいですよね。フェニックス家の食堂のメニューも考案しているって聞きましたが、何が人気なんですか?」

 

「唐揚げとハンバーグとカレー。焼きそばや炒飯や肉ジャガも人気よ。まさにおふくろの味」

 

「私、男なのにねぇ……」

 

そして数日後、いよいよリアスとライサーの最後の決戦(茶番)の日がやって来た。ゲームのルールはリアスに有利なもので制限時間内に倒されなければ勝ちというもの。更に前日にクジで決まったパートナーとして一誠と共にライザー一人と戦う事になっていた。

 

「ねぇ、ライザー。もしかしてとは思うけど、リアス・グレモリーに未練ある? 有るなら諸々の問題を何とかしてみせるけど?」

 

「いや? これっぽっちも。じゃあ、精々慢心でギリギリ負けてくる」

 

二人は悪い笑みを浮かべながら顔を見合わせるとゲラゲラ笑い出す。そのままケリィは観覧席へ、ライザーはフィールドへと向かっていった。

 

 

 

 

「おやおや、誰かと思えば俺の眷属に手も足も出なかった赤トカゲ君か。リアス、運がなかったな」

 

「……好きに言っておきなさい。今すぐ貴方を吹き飛ばしてあげるわライザー!!」

 

「さて、出来るならやってみるが良いさ」

 

『それでは開始して下さい』

 

アナウンスが響くと同時にライザーは炎の翼を広げて飛び上がる。それと同時に空を飛べないはずの一誠も飛び立つ。その体に赤い鎧を纏っていた。

 

「其れは禁手っ!? 馬鹿なっ!」

 

「ああ、右手を代償に手に入れた力だっ!」

 

一気に最大値まで倍加した一誠がライザーに殴りかかり、ライザーはその拳に手を沿え拳を受け流した。

 

「なっ!?」

 

「おいおい、何を驚いている? フェニックスだからただ攻撃を受けるとでも思っていたか? 攻撃しても受け流され、当たっても不死の力で倒せない。最強だろ、俺? ……十字架か?」

 

一誠の拳を受け流したライザーの腕に痛みが走る。それは聖なる物に触れた時の痛みだった。ライザーはリアスから放たれる滅びの魔力を避けながら内心笑う。

 

(ああ、これは都合いい。まさに予定通りだ)

 

観覧席で試合を見ているケリィ達は同じように内心で笑う。ここまでの全てに流れが予測取りで予定通りだった。

 

 

 

『相棒! 時間がない早く決めろっ!』

 

未熟な一誠では腕を代価にしても十秒間が限度。加えて二回目は無理。故に短期決戦を狙っていたのだが、ライザーに思わぬ格闘技術があり制限時間は迫るばかりだった。

 

「くそっ! 俺は絶対にお前が部長と結婚するなんて認めねぇっ! 俺は皆の意思を託されたんだ。負けてたまるかよっ!!」

 

「ははははは! いい覚悟だな、小僧! だがな、実力が伴わなければ意味がねぇぜっ!!」

 

ライザーは一誠の挑発に乗るように正面から殴り合う。一誠は力を譲渡した十字架を握った拳で殴りかかるが、ライザーは今度は手首に手を添えて受け流す、体制が崩れた所に蹴りを入れようとするが滅びの魔力が飛んできたのでバックステップで避けて炎を飛ばす。リアスを庇った一誠は炎をモロに受け、それと同時に禁手が解けてしまった。

 

「……もう諦めろ。見ていて痛ましいぞ」

 

「うる…せぇ。俺は…まだ負けて…ねぇ」

 

「もう止めてイッセー」

 

「リアス!」

 

リアスが立ち上がろうとした一誠を止めようとした時ライザーの怒号が響く。ライザーの怒りは頂点に達していた。

 

「……お前、此処まで家を巻き込んで、さんざん眷属に戦わせときながらリタイアするまで戦わない気なのか? 王なら! 仲間が全て敗れても最後まで戦うべきだ! それが自分の為に傷ついた仲間への礼儀であり義務なのだから! お前に王の資格はない!」

 

ライザーの体を包む炎は更に激しく燃え上がり、ジリジリとリアス達に歩み寄る。もはや意識さえ定かでない一誠は言葉を話せる状態ですらないのにライザーに立ち向かい殴り合う。そしてついに腹に一撃を食らって意識を手放した。

 

「……ナイスファイトだった。すまんな、茶番に付き合わせて」

 

その呟きは誰の耳にも届かず、唇を読んだケリィは溜息を吐く。

 

(馬鹿ねぇ。誰かに聞かれたらどうするのよ……)

 

「さあ! お前も王なら気概を見せろ、リアス!」

 

ライザーは威力の弱まった滅びの魔力を片手で弾き、リアスに近づく。

 

『制限時間が過ぎました。この試合、リアス・グレモリー様の勝利です』

 

そして当初の計画の通り、ライザーは最後の最後で圧倒しておきながら勝ちを逃し、リアスとの婚約は解消となった……。

 

 

 

 

 

 

「では、作戦成功を祝して乾杯!」

 

ケリィの声に合わせて他の眷属達もグラスを突き出す。ライザーは最後に余計な事を言った罰として宴に参加させて貰えず、代わりにフェニックス卿が参加していた。

 

「さて、皆よくやってくれた。今回の試合で此方が失ったのはライザーの評価が少し。だが、眷属への評価上昇とグレモリー家及びサーゼクス様への貸しを手に入れられたのは大きい。今日は存分に呑み喰いしてくれ。……それとケリィ。お前に渡す物がある」

 

ケリィは渡された封筒を開けて中身を取り出す。中に入っていたのは上級悪魔昇進試験の案内状だった……。

 




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