ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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不死鳥の王と収集家の戦車 ⑤

「……そうか。厄介そうな話だな」

 

 ケリィから方向を受けたライザーは頭痛を覚える。ケリィが根拠としてあげたのは、レイナーレは一誠を殺したと思っているはずだし、まだ殺すべき神器持ちが居るとしても回復役を呼び込む必要が分からない、という事。

 

 もし抹殺対象が強いのなら、悪魔や堕天使を回復できる貴重な神器持ちを派遣するよりも最初から強い堕天使を派遣している。戦争を起こすのが目的だとも考えられるが、総督のアザゼルは戦争反対派だし、一部の暴走にしてもレイナーレ達の動きはお粗末だ。故にケリィは上を騙してこの街に残って貴重な神器を手に入れるのが目的だと推察したのだ。

 

「もし本人を本部に呼んだら、神器を抜き取るにしても手に入れるのは別の優秀な者でしょうね。だからこっそりと手に入れる必要があるわ。あとは囮かしらね? 油断させておいて、本命がズドン。魔王の身内を殺せば流石に戦争は避けられないわ。……ねぇ、ライザー様。妹の所に兄が遊びに来るにはおかしくないわよね?」

 

「そうだな。そろそろレイヴェルの顔が見たい。……リアスには報告したのか?」

 

「ええ、堕天使の手下らしい怪しいシスターを探った、とは報告したわ。それだけで十分でしょ? あとは何かあった時になって電子メールで知った事にすれば良いだけだしね」

 

「くくく、違いない。お前が何を考えたなど、一々報告する物でもないしな」

 

 電話先でライザーで笑う後ろからは、ユーベルーナの、”これが本当の追い鰹!”という声が聞こえてきた。

 

「なぁ、ケリィ。その聖女様は器量良しか?」

 

「……ライザー。流石にこれ以上増やすのは駄目よ? まぁ、美少女の部類に入るでしょうね。普通のよりも性能が良いみたいだし、レイヴェル様の眷属にしたいくらいだわ」

 

「お前は能力が欲しいだけじゃないか? まぁ、王は不死で眷属は回復系神器の持ち主なら、だいぶ強力なチームになるだろうな。長期戦に強そうだ。……もっとも、聖女のくせに悪魔を癒す甘さはどうかと思うが……」

 

「……悪魔を癒した件についてはアタシも同感。エクソシストが命懸けで戦ってるのは何か分かってるのかしらねぇ? ……所でライザーさま。その最悪のパターンの場合、例のアレ(・・・・)、使って良いでしょ? アレを使わずに試したんだけど、コピーした不死の特性があっても死ぬ所だったわ 」

 

「……良いだろう。出来れば使わせたくないが、アレを使わないとレイヴェルと自分を守れない時は使え」

 

「ええ、そうするわ。……アタシも使いたくはないのよ。他人の努力を嘲笑うにも程があるもの」

 

「そうか。それでこそ俺の眷属だ。……所でユーベルーナの事なんだが……」

 

「あ、そろそろ切るわね。煮物は煮る時間が重要だもの」

 

 ケリィは電話の先から聴こえてくる”鰹の叩きっ!!”という叫び声を聞いた途端にライザーを無視して電話を切った。

 

 

 

「……彼女(ユーベルーナ)も大概ね」

 

 

 

 

 

 数日後、新人の仕事であるチラシ配りを終えた一誠は契約の仕事を始めるが、、魔力が足りずに魔法陣が使えず、自転車で契約相手の所まで向かう。ケリィもフェニックス家が縄張りにしているところでん契約を済ませ、時間が余ったのでコンビニに寄っていた。

 

「さぁて、今週の料理雑誌は……有ったわね。……コンビニは便利だけど、雑誌類以外はスーパーで買うより高いから困っちゃうわ。お金が有るからといってお金を使わない努力をしないのはどうかと思うし」

 

 丁度殺虫剤が切れていたので買おうと思ったケリィだが、高いので手を伸ばすのを躊躇う。その時、外を歩いている少年が目に入った。黒髪の目付きの悪い少年で、なぜか神父服を着ている。ケリィはその少年に見覚えがあった。

 

「……フリード?」

 

 その少年はケリィが自分だけ脱出して見捨てた仲間の一人によく似ていた……。

 

 

 

 

 

「……貴様、はぐれ悪魔祓いか」

 

「そうだよ~ん。俺っちはクソ神の手下じゃなく、その敵対者の堕天使の仲間だ。君を殺しに来たっちゃ」

 

 その少年が向かったのは潰れた会社の倉庫。彼の目の前に馬の胴体と人の上半身を持つケンタウロス型のはぐれ悪魔が立っている。少年はヘラヘラ笑いながら光の刀身を持った剣を取り出し、はぐれ悪魔は後ろ足で床を蹴って突進する。その速さは見た目通り、かなりの高速だ。

 

「なら、死ねっ!」

 

 少年は剣を構えたまま立ち尽くし、悪魔の鋭利な爪が襲いかかる。

 

 

 

 

「……――を――に変える力」

 

 次の瞬間、はぐれ悪魔は血まみれで倒れ、無傷の少年はその場から立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

「あれ? ケリィさんじゃないですか?」

 

 数日後、使い魔を自分に変身させて堕天使を探していたケリィは街でアーシアに出会った。

 

「あの、今日は学校ですよね?」

 

「アタシ、夜間学校に通ってるの。アーシアはお出掛けかしら? 教会の用で出かけてるのなら道案内するけど?」

 

「あ、いえ、今日は街を散策しようと思いまして。……こっそり抜け出して来ちゃいました」

 

「……悪い子ねぇ。まぁ、それならアタシとデートでもしない? 色々と案内するわよ」

 

 そのまま二人は一緒に遊ぶ事になり、ケリィは娯楽施設にアーシアを連れて行く。その二人を遠くから見はる人物がいた。

 

 

 

「……ちっ! 下等な転生悪魔ごときが僕のアーシアに近づいて。彼女を手に入れる為に僕がどれほどの労力をしたと思ってるだ。わざわざ教会の敷地内に入った上に傷跡まで残したんだぞ」

 

 彼の名前はディオドラ・アスタロト。アーシアが教会を追放される原因となった悪魔で、それはケリィの予測通り彼の罠だった。このまま堕天使に殺された所を転生させ、感動の再会を演出するつもりだったのだが、此処に来て予定が狂い始めたのだ。

 

「……アイツは厄介だ。こうなったら騙し討にでもして……」

 

ケリィの強さを公式戦の映像で知っている彼はどうやって排除しようか思案し出す。その肩に手が置かれ,肩の骨を砕かんばかりの力で握られた。 

 

 

「……ふん、やはり罠だったか。だが、そういう事はどうでも良い。俺の眷属をどうするって? なぁ、ディオドラ」

 

「ラ、ライザー……」

 

拙い所を見つかったと思ったディオドラは何とか誤魔化そうとするが言い訳が思いつかず、そんな事をしている彼の耳にライザーが囁いた。

 

「今の発言は録音した。……教会にまで行って聖女を手に入れようとするか。さて、大した醜聞だな。俺の眷属を騙し討ちにするとも言ったし、バレたらどうなるかな? ……此処は見逃してやるから家に帰れ。それとも今すぐ広められたいか? フェニック家は財政豊富でな、マスコミにも顔が利くんだ」

 

ライザーが懐から取り出したボイスレコーダーには先程のセリフが録音されていた。それを聞かされたデイォドラは歯噛みする

 

「ぐっ! お、覚えていろっ!」

 

ディオドラは捨て台詞を履いて去っていく。

 

「……さて、覚えておけと言われたし、この件は覚えておこう。とりあえず最高にタイミングで広めるか。帰ったら広めないとは言っていないもんな。……貴族社会で情報は武器になる。さ、どう使うか楽しみだ」

 

 ライザーは意地の悪い笑みを浮かべると二人の追跡(デバガメ)に戻った。

 

 

夕暮れの公園に来た二人は貸しボートがある池を見ながら話をしていた

 

「……ケリィさん。私、ずっとこういうのに憧れていたんです。友達と一緒に買い物をして、お喋りをして……」

 

「……聖女時代に友達が居なかったから? 教会ってのは腐ってるから、聖女様には友達なんて必要ない、とでも思ってたんでしょ」

 

「な、なんでその事をっ!?」

 

驚愕するアーシアに対し、フッと笑ったケリィは悪魔の翼を出した。

 

「そう、アタシは悪魔。そして、元は人間よ。そして教会が行った超人計画の犠牲者なの。隠しておこうと思ったけど、やっぱり駄目ね。友達には隠し事は出来ないわ」

 

「友…達…? 私が…ですか?」

 

「ええ、そうよ。……迷惑だったかしら?」

 

少し寂しそうにするケリィに対し、アーシアは顔を横にブンブンと降る。それを見たケリィは嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ、敵対していても友情は築けるわね」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

「あら、無理よ」

 

アーシアが満面の笑みを見せた時、冷たい声が響く。そこには一人の堕天使が立っていた。一誠を殺した堕天使、レイナーレである。

 

「探したわよ、アーシア。さぁ、帰りましょう」

 

レイナーレはアーシアに手を伸ばす。だが、その手はケリィによって掴まれた。

 

「ねぇ、聞かせてくれるかしら? この街に留まる理由は何?」

 

「汚らわしい悪魔が私に触れるなっ!」

 

レイナーレはケリィの腕を振り払おうとするが出来ず、携帯を見たケリィは口角を釣り上げる。

 

 

 

「……そう。やっぱり上を騙して滞在してたの。だったら此れはよくある小競り合いで済むわ」

 

「ぐふっ!?」

 

ケリィの拳はレイナーレの顔面に突き刺さり、そのまま池まで殴り飛ばす。呆然とするアーシアを尻目に携帯でリアスに連絡を入れた。

 

「……部長。例の堕天使だけど、上を騙して滞在してたみたい。本当はこの街の管轄を任された貴女に任せる所なんだけど、ライザーが襲われたの。不死の特性で大丈夫だったけど、舐められて終わる訳にはいかない。……始末は任せて貰えるかしら? 」

 

『……分かったわ。でも、代わりに全トッピング乗せを奢ってもらうわ。あと、ライザーに顔を出すなって伝えておいて』

 

「了解よ♪」

 

ケリィはそのままライザーに連絡を入れる。そしてその日、街にあった廃教会が全焼した……。

 

 

 

 

 

 

 

「……アーシアの様子はどうかしら?」

 

次の日の夜、アーシアをマンションに泊めたケリィは様子を見に行ったレイヴェルに尋ねた。

 

「よく眠っていますわ。……しかしケリィもとんでもない事をしますわね。正式じゃないとは言え、堕天使の部下を私の眷属に誘うなんて。しかも親切ぶって」

 

「あら、心外ね。私は”コレからのあなたが心配”って言ったり、”出来れば友達とは一緒に居たい”って言ったりしただけよ。後は、レイナーレがしようとしていた事をバラしただけ。悪魔になるかどうかの選択を下したのは彼女自身よ」

 

「……ふぅ。分かってて言っているのかしら?」

 

ニコニコ微笑むケリィに対し、レイヴェルは深い溜息を吐いた……。

 




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