「頑張ればモテモテの人生を送れるかもしれないわよ」
リアスから告げられた言葉に一誠は歓喜する。彼の今の地位は下級悪魔だが、努力と時間を重ねれば上級悪魔になって爵位を持ち、眷属を所有できるというのだ。
「エ、エッチな事をしてもっ!?」
「ええ、自分の眷属なら構わないんじゃない」
そして、その会話を聞いているケリィとレイヴェルは内心冷ややかだった。
「……ねぇ、ケリィ。リアス様がお兄様を嫌ってる理由って、女癖の悪さじゃなかったかしら?」
「……思いっきりハーレム容認してるわね。それに、眷属を持てるのと、女の子のモテるのは別の話。どうやって好みの子を集める気なのかしら?」
ケリィの主であるライザーは他の眷属をハーレムメンバーとしているが、眷属達からもきちんと好意を寄せられている。一誠は女の子を眷属にしてハーレムにする気だが、どうやって集めるかが頭から抜け落ちていた。
「ま、さっきの会話を聞いたんだから、結婚を嫌がる理由にライザーの癖の悪さを上げた時に反論できるわね」
二人が小声でそのような事を話しているのに気付かないリアスは一誠の中に眠る神器を調べる事にしたようだ。一誠を魔法陣の上に立たせ、一番強いと思う者の真似をさせる。
「ドラゴン波ッ!」
一誠がしたのは漫画のキャラの真似。彼が一般人である事を考えれば強い者なんてそう簡単に浮かぶものではないので仕方ないが、何とも言えない空気が流れる。そして彼の腕には赤い籠手が装着されていた。
(……あの子の転生には兵士の駒を八個使ったって言ってたわね。……ああ、そういう事)
ケリィは一誠の神器を見て一人納得するが、その場では何も言わなかった。
「部長、部員全員が部長の眷属なんですか?」
「ええ、そうよ。あの二人を除いてね」
「え、この学校にまだ悪魔がいるんっすか?」
一誠はケリィとレイヴェル、正確にはレイヴェルの胸を中心に眺める。ケリィは椅子から立ち上がるとレイヴェルを自分の体で隠すようにしながら一誠に微笑みかけた。
「言い忘れてたわね。此方はフェニックス家の令嬢であらせられるレイヴェル・フェニックス様。そしてアタシはリアス様の婚約者であらせられるライザー・フェニックス様の眷属よ」
「こ、婚約者っ!? 部長に婚約者がいるのかっ!?」
「……私は認めていないわ」
リアスは不快そうに顔を背け、ケリィは目を細める。
「あら、リアス様が否定しても変わらないわ。貴女が
静かに微笑むケリィだが、背筋がゾッとする様な威圧感を放っていた。
その晩、ケリィはライザーに連絡を入れていた。
「ライザー様。ちゃんとご飯は食べてる? 度を越して飲みすぎてない? 婚約者が居るんだから少しは落ち着かないと駄目よ?」
「……連絡するなり早々、オカンがお前は。ああ、大丈夫だ。最近はお前の影響か他の眷属も煩くなってな。それっとユーベルーナが新技を開発したぞ。……完全にネタだが強力だ。……それよりも本題に入れ」
「紅髪の姫の下に赤い龍が降臨したかもしれないわ。……まぁ、貴方と同類な上に戦闘に関しててんで素人だけどね。……例の変態の一人よ」
「……そうか。厄介だな。龍は戦いを呼ぶというし……」
「……ねぇ、ライザー様。例の婚約、今となってはやめた方が良いかもしれないわ。……リアス様、新しい眷属に対してハーレムを容認したのよ。……貴方との婚約は嫌がってたけどね。ミリキャス様が居らっしゃる以上、貴方は分家になるわ。その時、もし男の子が生まれたら……」
「……俺にその気がなくても周囲の貴族が持ち上げて、か……。その話じゃリアスとの関係の改善は難しいだろうし、下手すれば俺対グレモリー家って事になるかもな。それでは魔王の妹とするメリットがないし、いくら美女でも俺を好きになりそうにない相手ではな……。新人の事もあるし、破談して別の家の者と結婚した方が良いかもしれん。だが、一度決まった婚約をこちらから断る訳にもいかないだろう? 向こうの方が家柄が上だしな……」
「……ライザー様がプライドが少しの間傷つくのを我慢するのなら良い方法があるわ。あくまで此方は相手の顔を立てている様に見せ、それでもって責任を押し付けれる方法がね。……当主様にも相談してみて」
「はわっ!?」
数日後、学校帰りのケリィは道端で転でいる少女を見掛ける。その少女はシスター服を身に纏っていた。
(……この街には廃教会、しかも何処の勢力の管轄でもないのしか無かったはず。何らかの行事でやって来たか……最近やって来た堕天使の手下かしら? でも、神器持ちを狩りに来たのにこのタイミングで増援を呼ぶかしらね?)
シスターを不審に思ったケリィは助けるふりをして探りを入れる事にする。手を貸して起き上がらせたのは金髪碧眼の可愛らしい少女だった。
「有難うございます」
少女は汚れのない笑顔を向けてお礼を言い、ケリィはその笑顔にダメージを受ける。
(い、痛いっ! アタシの汚れ切った心にグサリと突き刺さるわっ!)
「あ、あの、どうかなされましたか? あ、申し遅れました。私はアーシア・アルジェントと申します。アーシアとお呼び下さい」
「……そう.貴女、アーシアっていうの。アタシはケリィ・ロックベルよ。ケリィでいいわ」
和やかに名を名乗るケリィだが、内心ではアーシアの事を警戒していた。
(……聞いた事があるわ。悪魔を癒して魔女として追放された聖女の名前ね。……追放されたのも関わらずシスター服。堕天使の仲間かしら? それとも、別の組織?)
「あのケリィさん、この街の教会が何処にあるかご存知でないですか? 地図を見てもよく分からなくって……」
「ええ、知ってるわ」
(……決まりね。この子は何者かの手引きでこの街に侵入。回復系の力を持つ神器って話だから長期戦を見越しているのかしらね。……あとは利用されてるのかどうかだけど……)
ケリィはアーシアの方をチラリと見る。見るからに純粋で人を騙したり戦ったりする様には見えないが、それが演技という可能性もある。その場合、心を読むでもしないと見破るには難しいレベルだ。
「ねぇ、アーシア。この街の教会って十年前くらいから廃教会だったと思うけど、本当にこの街で合ってるの?」
(相手の思考を電子メールに変える力)
「ええっ!? あ、でも確かにこの街だと地図に書いていますよ」
そして、ケリィにはその手段がある。彼の能力は神器や魔法とは別系統である為、それらへの対策では防げない。送られてきた電子メールにはアーシアの思考が書かれていた。
(”この街に自分を招いたのは堕天使のレイナーレ。自分の力を必要としている”、ねぇ。……決まりね)
途中、怪我をした男の子をアーシアが神器で癒すなどあったが、二人は教会が見える所までやって来た。これ以上教会に近づくのは拙いと判断したケリィは再び能力を発動して携帯に電子メールを送る。
「あら、ごめんなさい。バイト先から忙しいから来てくれってメールが来たの。もう見えるし、真っ直ぐ行けば着くから大丈夫でしょ?」
「あ、はいっ! 有難う御座いましたっ!」
アーシアはケリィに頭を下げると教会に向かっていき、ケリィはその場から立ち去る。
ケリィが使った相手の思考を電子メールに変える力は相手の考えを全部変えるのではなく、”次の攻撃は?”、等、ある程度選択できる。今回はケリィをどう思ったかをメールに変え、メールは感謝の気持ちで一杯だった。
「……いい子ねぇ。悪魔を助けて追放された、か……。同じ教会の被害者として思う所があるわね。しかも、あの子、自分が助けた悪魔に嵌められてるって知らないのね」
ケリィはアーシアが助けたという悪魔に心当たりがあった。魔王ベルゼブブの身内でアスタロト家の次期当主ディオドラ・アスタロト。アーシア追放と同時期に彼が人間界で怪我をしたという話は聞いていたし、彼の眷属や屋敷で囲っているのは元教会関係者や聖女と呼ばれていた者達だ。そして悪魔が聖女が居るような所まで行くのは不審すぎる。
(……全てが芝居ね。すぐに眷属にしない所を見ると何か企んでいるのかしら? 例えばピンチに陥った所を助けて惚れさせるとか? 助けて貰ったお礼って口実もあるし。……ああ、そういう事。
「……もしもし、部長?」
ケリィは不愉快そうな表情のままリアスに連絡を取った……。
少し察しが良すぎる気もしますがご勘弁を(笑) 情報源が優秀なんで情報が多いんです
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