月の中枢へと続く長い長い道を一誠は歩いていた。その背にありすを背負い、その気になれば短時間で行ける距離をゆっくりと進む。彼の目的はあくまで暇潰し。ならば一度しか見れないであろう光景をゆっくりと眺める事にしたのだ。
赤き暴君と死神の戦いは特に記すべき激闘もなく終わった。本来なら最弱から最強へと上り詰めるはずだった少女も、最強の更に上をゆく化物七体には敵わず、最終戦一日目で終わりを告げた。ただ、暴君の名誉の為に記すとしたら、彼女は自らの主を最後まで守り抜いて命を落とした、という事だろう。その姿に湖の騎士と人狼の侍は敬意を払い、死神の少年も何一つ声を掛けなかった。
「……見えてきた」
死神達の視界の先に観測機である聖杯らしき物体が現れ、その周囲には墓標を思わせる物体が散らばっている。その一つの上に白衣の男が居た。
「やぁ、よく来たね」
「え~と、あたし達が消えたら本体とゆうごうするんだっけ?」
「そうだよ。さて、ムーンセルとかの中はどうなってるのかな?」
「いや、話を……」
「あたし、帰ったらチョコケーキが食べたい!」
「さて、イレギュラーなマスターよ私の話を……」
「じゃあ、帰ったらグレンデルに作って貰おう。俺はチョコよりカスタードクリームの方が好きだな」
「あの~、すいません……」
「じゃあ、レッツゴー!」
一誠とありすは白衣の男を無視して階段を上り始める。後ろから啜り泣く声が聞こえてきた。
「……お兄ちゃん。かわいそうだよ、あのオジさん」
「こらこら、知らないオジさんに話しかけられても相手しちゃダメだよ? 特にこんな所でさも意味ありげに待ち構えている怪しい人にはさ。きっとマユリンの同類だよ」
「そっか! なら、無視だね!」
「……仕方ない。説得より先に戦って話を聞くしかない状態にしよう」
「……聞いた? ありすみたいな小さな子を痛めつけてお話したいんだって」
「へんたいだ、へんたいだぁ!」
「くっ! 来てくれ……
変態はついにキレたのか大声で叫び、一誠は身の危険を感じてありすを担いで飛び退く。先程まで二人が居た場所に着物姿の
「頼んだよ、キャスター」
「お任せ下さいご主人様」
其処に居たのは露出強の女性。その姿は正しく玉藻であった。一つ違う所はツインテールではなくポニーテールな所だけだろう。
「あっ! オバさまだっ! なんであの変態のオジさんと一緒に居るの? ねぇ、浮気?」
「誰がオバさまですかっ! それと私はまだ未婚ですっ! チクショー! この餓鬼、マジ殺すっ! あっ、アッチの英霊は結構イケ魂かも?」
「……いや、君がそういうキャラだというのはうすうす勘付いていたが、できたら私の前ではそのキャラを出さないで欲しいかな?」
「はっ!? ……何の事ですか、ご主人様」
キャスターは慌てて変態の前で取り繕う。だが、時すでに遅し。ありすはキャスターを指さしてケラケラ笑っていた。
「あはははは! オバさん、ザマァ!」
「きーっ! ああ、もう! 貴方も英霊ならどうにかして下さいっ!」
「はぁ? なんで俺が君の言う事を聞かなきゃいけないの?」
一誠は不機嫌そうに返事をすると鎌を構える。その構えには容赦の欠片もなかった。
「お兄ちゃん? あれ、オバさまだよ?」
「い~や、別だよ? ほら、メディアさんと同じ。此方の世界の玉藻だよ」
「……どうやら君の真名がバレている様だな。話はよく分からないが油断しないようにね」
「はっ!」
キャスターは武器である鏡を構え宝具を発動させようとする。だが勝負は一瞬で着き、キャスターは一誠によって上半身と下半身を切り分けられた。
「……でもさ、やっぱり心情的なものもあるし、玉藻が殺されるとしたら俺以外の手っていうのは有り得ないんだよね。その逆もしかり」
玉藻の頭に鎌を突き立ててトドメを刺した一誠は鎌についた血を拭うと変態の方を見た。変態はキャスターが圧倒された事に驚いて固まっている。その襟首をグレンデルが摘んで持ち上げた。
「んま、旦那に大将っぽいのを殺させた罰だ。……じっくり消化してやるよ」
「ま、待て……」
変態は其の儘飲み込まれ、グレンデルの中でゆっくり消化され出す。マユリの改造によって時間をかけてジワジワ消化されだした変態の悲鳴がグレンデルの喉の奥から聞こえてきた。
「……あっちゃ~。此れだったら来るんじゃなかったな」
「……すまないネ。つまらん物を造ってしまった」
「いやいや、行くって決めたのは僕だからさ……。さ、消えようか? ……この記憶は本体に行かないようにしてね」
「了解したヨ」
マユリが手元のボタンを押すと一誠達の姿が消え出す。体が消えいく中、一誠は空を見上げ呟いた。
「あ~あ、退屈な結末だったな」
さて、最後の最後で好き勝手し過ぎたしっぺ返しを喰らいました。気が向いたらお供変えてccc編するかも?
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