ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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霊感少年 Fate編 ⑨

「……正直言って無理ね。でも、何もせずに負ける気はないわ」

 

ラニの自爆によってダメージを受けた凛は辛うじて五回戦を突破する事が出来た。だが、代償として二つ残った令呪を一個を残して使い、残る一個の使用は失格を表す。そして次の対戦相手は優勝候補のレオを倒した謎のマスターありす。何故か二人居たがそのような事はどうでも良く、いま彼女が考えているのは、どう負けるかであった。

 

「おい、嬢ちゃん。諦めんのか?」

 

「仕方ないでしょ? 今の私じゃコードキャストもロクに使えないし魔力供給も全快時の六割。宝具なんて令呪を使わなきゃ発動できないわ。でも、ただ負けるのは嫌。せめて道連れか……最悪、岸波さんに提供できる情報でも取得して倒させるわ。私にだって意地があるもの。其のくらいはしなきゃ」

 

「はっ! どうせだったら何が何でも七回戦に出場する……いや、聖杯を手にしてみせるって言ってみたらどうだい? 俺を信じろよ。俺が絶対に嬢ちゃんに聖杯を捧げてやるぜ! ……にしてもよ、あの嬢ちゃんが勝つって信じてんだな」

 

深刻なダメージで弱気になっている事を察したランサーは必要以上に強気な態度を取る。だが、彼自身も自分のダメージが深刻なものである事に気付いていた。

 

 

 

「さて! 対策会議を始めます! 議題は”主が面白半分にした約束について”です。皆様もご存知の様に主は例の少女に次勝ち抜いたら正体に関する質問に答えるとお約束いたしましたが……やっぱりこういうのは決戦時にバラしてこそ面白いというもの。彼女が負けても別の相手に知られる可能性があります。さて、なにかご意見は御座いますか?」

 

最近、すっかり一誠に染まってきたランスロットは演出の為の議題を提案する。張本人である一誠はまさか彼女が勝つとは思っていなかったので困っていた。

 

「はい! あたし、会わなければいいと思う!」

 

「下らんネ。シラをきれば良いヨ」

 

「いや、ここは正直に話すべきではないで御座ろうか。約束は約束で御座るよ」

 

「にゃははは! とりあえずイッセーには私からお仕置きしとくにゃん」

 

「わたしはどうでも良いわ」

 

そして凛と戦う予定のグレンデルは台所でクッキーを焼いていた。

 

『明日俺が倒してから残った二人にばらす方向で良いんじゃね? 勝ち抜いても絶望が待ってる的な方向でよ』

 

全員一致でグレンデルの案が採択され、いよいよアリーナに入る時間がやって来た。

 

 

 

「……やっぱり待ち伏せしてるわね」

 

「どうする? 此方から仕掛けるか?」

 

凛とランサーの前にはありすとフードを着たグレンデルの姿があった。ありすは新しい玩具を見る目を二人に向け、グレンデルは濃厚な殺意を送っている。ランサーは兎も角、凛はその殺意に飲まれそうになっていた。

 

「ランサー! ムーンセルの介入があるまで逃げの一手! 守り優先で行くわよ!」

 

「了解っ!」

 

ランサーはクラス特有の速度でグレンデルに向かていく。そして牽制とばかりに槍を突き出すもグレンデルは避けようと見せず顔面に向かっていく。

 

「とったっ! なにっ!?」

 

ランサーの槍は確かにグレンデルの顔を捉えた。だが喉奥に差し込まれそうになった槍の先端はグレンデルの鋭利な牙で挟まれビクともしない。そしてグレンデルは被っていたフードを取って顔を顕にした。

 

「ドラゴンッ!?」

 

「ねぇ、グレンデル。ドラゴンが出てくるのっておかしいの? お兄ちゃんは言ってなかったよ?」

 

『まあ、旦那は詳しく知らねぇってだけだろ。っていうか俺様の正体バラすなよ』

 

「グレンデルですってっ!? でも、伝説でも残忍な巨人だったはずじゃない!」

 

「嬢ちゃん、そんな事気にしてる場合じゃねぇぞ。アレ見ろよ」

 

退避したランサーがグレンデルを指さすと空間を歪ませその中からトンファーを取り出すグレンデルの姿があった。

 

「なんで北欧やイギリスの怪物がトンファーを持ってんのよぉ~!?」

 

『んなもん、特注で作ったからに決まってるだろっ!』

 

ズレた返答をするグレンデルの攻撃を避けるランサーだが徐々に追い詰められる。そしてグレンデルが振り下ろした一撃が足に当たり動きを封じた。

 

『じゃあなっ!』

 

「……令呪を持って命じる! ランサー! 宝具を持って敵を貫きなさい!」

 

「よし来たぁっ!! 刺し穿つ(ゲイ・)

 

凛とランサーは捨て身の一撃を放とうとする。だが、運命は二人に非常だった。道連れの一撃はムーンセルの介入による壁に阻まれ、その壁はそのまま勝敗を分かつ壁となった。

 

「途中で介入があるの忘れてたぁぁぁぁっ!!」

 

「おいおい、こんな時まで”うっかり”かよ。アッチも同じだとしたら、あの弓兵も苦労したんだろうなぁ」

 

凛は脈々と受け継がれる欠点を発揮し、ランサーは苦笑いしながら消えていく。その姿を見たグレンデルはつぶやいた。

 

『俺の出番、これで終わり?』

 

納得できなくても終わりは終わり。ありすは最終戦である七回戦進出を決め学園に戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

「セイバー、大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ奏者よ」

 

同じくアリーナから戻った白野は対戦者のアーチャーらしきサーヴァントから受けた矢傷を押さえている。相手は視認できるギリギリの距離から狙撃を行い、動き回るセイバーに的確に当てていた。かろうじて矢の形やチラリと見えた姿から日本の英霊という事は分かったのだが……。

 

 

「流石に候補が多すぎる。ただでさえあやつのせいで余の真名はバレているというのに」

 

一誠がセイバーの真名を人前で呼んだ事によって相手には此方の真名がバレており、此方はまだ殆ど情報を得ていない。仕方なく、一旦夕食を取る為に購買に向かうと既に対戦相手の少女が座っており、白野の方など見向きもしない。それは学園内での戦闘が禁止されているとか白野を軽視しているなどという理由ではない。白野も対戦相手より目の前の光景に釘付けになっていた。

 

 

 

『おいおい、お菓子は一人一個までつったろ?』

 

「これは大きいけど一個は一個よ。ねぇ、あたし」

 

「そうよ。これは一個よ、わたし」

 

「さて、焼きそばにするか焼きうどんにするか」

 

「私は激辛麻婆丼にでもしようかしらにゃん?」

 

「秋刀魚の塩焼き弁当一つ頼むヨ」

 

「拙者は焼肉弁当……玉ねぎが余計で御座るな」

 

「はいはい、次の対戦相手候補が揃ったよ」

 

目の前に居たのは何度も絡んできた謎のサーヴァントと謎のマスターであるありす。そして六騎ものサーヴァントだった。

 

「馬鹿なっ! なぜ此処までサーヴァントが残っておるっ!?」

 

セイバーの言葉に白野も隣の対戦相手も頷き、現れたアーチャーも警戒している。そんな中、一誠はニコニコしながら四人に近付いていった。

 

「さて、約束の質問はそれで良いかな。俺のクラスは”ネクロマンサー”。宝具名は霊群(レギオン)って所かな? つまり、俺はサーヴァントを宝具として従えたサーヴァントなのさ。……精々楽しみにしているよ。君達の何方かが七騎ものサーヴァント相手にどう戦うのかをね。……あっ! 俺は丼もの全部ね」




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