「う~、酷い目にあったぞ」
「我、死にそう。でも、アレならグレートレッド倒せる」
蕎麦屋の帰り、ネロとオーフィスはそれぞれ柳と曹操に背負われていた。和やかな外食帰りの筈なのに、なぜ二人がこのような状態にあるのか。その原因は柳が注文した裏メニューにあった。
「大げさですね。あの程度の辛さで」
「いや、無限龍が倒されるほどだからねっ!?」
曹操はキャラ崩壊も気にせずツッコミを入れる。柳が注文したのは『激辛炎獄鍋焼蕎麦』。柳が美味しそうな食べるのを見たネロも食べたがり、柳の手で口に運ばれた瞬間に今の状態になった。オーフィスも興味を持ってこっそり食べた瞬間に今の有様だ。こんな料理を作る蕎麦屋に驚けば良いのか、その料理に耐え切る皿や鍋に驚けば良いのか、それとも美味しそうに食べれる柳に驚けば良いのか、全く謎である。
「兎に角、こんな状態のオーフィスを他の奴らに見られる訳にはいかない。英雄派の基地で落ち着くまで寝かせるよ」
「では、また明日」
柳達は曹操達と別れ、そのまま家へと帰って行く。家に帰ってもネロは調子が戻らずソファーに寝転んでいた。
「ネロ。お風呂空いたわよ」
一番風呂を堪能したエリザは湯気を出しながら浴室から出てきた、。そのまま冷蔵庫から牛乳を出すと一気に煽る。半分以上残っていた牛乳は彼女の胃の中に収まった。なお、この家では女性陣から先に入浴する事なっており、柳と殺せんせーは最後にお風呂掃除をする事となっていた。
「ニュルフフフ。その様子では一人では入れそうにないですねぇ」
「え~と、今日は我慢して明日の朝に入りますか?」
柳は気を使ってそう言うがネロは不満そうに頬を膨らませると両手を柳へと向けた。
「嫌だ、余は今から入りたい! 柳よ、入浴を手伝ってくれ!」
「ちょ、ちょっと! お、お風呂を手伝うって事はお互い裸で……・駄目よそんなのっ!」
エリザベートは顔を真っ赤にしながら反対する。彼女の脳内では浴室でのアハンでウフンな光景が繰り広げられていた。
「むぅ、なら、お主が手伝ってくれるか、エリザ?」
ネロはニヤニヤしながらエリザの方を向く。もちろん、貴族出身の彼女に他人の入浴を手伝うスキルなどあるはずもなく、柳の幼少時には殺せんせーが主に世話を焼いていた。
「さ、流石にお風呂は……」
恥ずかしがって断ろうとした柳だったが、その首元に赤い剣が突きつけられる。剣の持ち主であるネロは怖い笑みを浮かべていた。
「余がこうなったのは誰の責任だったかの?」
「……お手伝いします」
「うむ! それでこそ余の奏者♪」
「では、まずは上着から頼むぞっ!」
「……はいはい、大人しくして下さいね。では、バンザイしてください」
ネロが着ているのは赤いワンピース。足が丸見えのネロお気に入りの一着だ。柳は目をそらしながら脱がせようとするが、ネロによって無理やり前を向かされた。
「皇帝の服を脱がす時に顔を背けるものが居るかっ! 手抜かりがないように前を向いて行え!」
「りょ、了解しました!」
余りの迫力に柳は思わず敬礼をしてしまい、仕方なく顔を真っ赤にしながらワンピースを脱がす。すると小柄な体躯に似合わない豊満な体付き、トランジスターグラマーと呼ばれる物だ。最近お気に入りにしているピンクのブラを外すと胸がプルンっと揺れる。最後にパンツの紐を解くと生まれたままの姿となる。雪のように白い肌にほのかに赤みが差しており、ネロも少々恥ずかしい様だ。
「で、では入るぞ!」
「え、ええ。……あれ? それだけ元気なら一人で入れるのでは?」
「……ああ、まだ視界がふらつく。余は辛い……。誰かのせいでな」
「……分かりましたよ」
「ほれ、もう少し力を入れて洗わぬか!」
その後、柳はネロの背中を流し、
「さ、流石に前は」
「何を恥ずかしがる理由がある? 余の裸体は至高の芸術品。其方に邪な思いがなければ平気なはずだ!」
仁王立ちしたネロの前面をのぼせ上がりそうになりながら洗う。体を洗い終えて浴室から出てきた頃には柳はフラフラになり、鼻にティッシュを突っ込んでいた。
「……酷い目に会いました。いや、美味しい思いはしましたが……」
その夜、自室で先程の出来事を思い出した柳は顔を真っ赤にする。その時、部屋をノックする音が聞こえてきた。扉を開けると入ってきたのはエリザベート。何やら不安そうな顔をしている。
「ねぇ、柳。豆電球が切れちゃったの。暗いのは怖いのっ!」
エリザベートは既に元の世界で死んだ存在。その最後は光の差さない石牢での死亡。故に彼女は暗闇を極度に嫌い、寝る時は豆電球がなければ眠れないのだ。
「……困りましたね。今、豆電球は切れてましたし」
「そんなっ! 私、暗い所じゃ一人で眠れないのにっ!」
柳の言葉にエリザは絶望したような顔をする。しかし、何かを思いついたような顔をした。
「なら、今日は私の部屋に来てっ! 多分、手をつないでてくれたら眠れると思うから……駄目?」
エリザベートは不安そうな瞳をしながら柳を上目遣いに見る。その瞳に柳は逆らえず、エリザの部屋までついていった。
「所で今日だけ私の部屋と交換するというのは?」
「……私と手を繋ぐのは嫌なの? わ、私、貴方に嫌われてた!?」
「いえいえ、言ってみただけですよ」
エリザに部屋にあるベットは天蓋付きの高級品。柳が使っている普通のベットとは寝心地が段違いだ。エリザが寝転がると柳はベットの端に座り、そっと手を繋ぐ。リモコンで電気を消した時にエリザベートは身を竦めるも、柳の手をギュッと掴むと安心したように寝息を立て出す。
「こうして見ると可愛らしいんですがねぇ」
「……んん。柳、有難う……」
エリザベートの表情には時折見せる残酷さやう何時も見せる傲慢さの欠片もなく、年相応の少女の寝顔だった。握られた手の力は強く、もし部屋に戻った後で目を覚ましたら怖がるだろうと思った柳は今晩だけはずっと此の儘でいる事にした。
「……流石に座ったままはキツイですねぇ」
「なら、奏者も一緒に眠れば良いであろう!」
「いや、それは流石に起きた時が怖いって、ネロさんっ!?」
「うむ! 奏者がエリザと一夜を過ごすと殺せんせーから聞いてな! それならばと余も駆けつけたのだ! っという訳で……」
ネロは柳の足を払うとベットの中に押し込むそして柳の空いた手を握ると自分もベットに入った。
「たまには三人で寝るのも良かろう! 文句は言わせぬぞ、奏者!」
「……はいはい、美女二人と同じベットで眠れて私は幸せものですね」
「……うむ」
その夜、同じベットで寝た三人はそれぞれ良い夢を観ることが出来た……。
「いやいや、青春ですねぇ」
マッハ二十のスピードで豆電球を買って来ていた殺せんせーはドアの前でしみじみと呟いた……。
意見 感想 誤字指摘お待ちしています