ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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ラスボス番外編 もし呼んだのがラスボスでなかったら 歌姫と標的編 ①

「柳、起きる。ご飯作って」

 

小柄な少女が寝ている柳の上に跨って顔をペチペチと叩く。暫くそれを続けるも柳は起きず、少女が腕を振りかぶって拳を顔面に叩き込もうとした時、少女の姿が消えた。

 

 

 

「ニュルフフフフフ。いけませんねぇ、オーフィスさん。起こす時は優しく、ですよ?」

 

「むぅ。分かった」

 

何時の間にか少女……オーフィスは黄色いタコの様な生物に抱き抱えられていた。タコは触手をティッシュに伸ばすと紙縒りを作って柳の鼻に入れる。

 

「ハ、ハックション! ……何するんですか、殺せんせー」

 

柳は謎のタコ……殺せんせーに不機嫌そうな視線を向けながら起き上がる。少々体が凝り固まっていたのかコキコキと音を立てながら手足を動かし、洗面台で顔を洗うとキッチンに立った。

 

「さ、ご飯にしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

これは転生前の柳が特典にラスボスと付け加えなかった物語……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、口にソースがついてますよ」

 

「んっ」

 

柳はオーフィスの世話を焼きながらも食事を続ける。殺せんせーは流しで鍋やフランパンを洗いながら椅子に座って食事を取っている。彼の最高速度はマッハ20。故に分身紛いの事ができるのだ。

 

「……所であの二人はまだ寝ているんですか? 折角の朝ごはんが覚めちゃいますよ」

 

「仕方ありませんねぇ。昨日遅くまでゲームをしていた様ですよ」

 

柳と殺せんせーは二つの空席を呆れたように眺める。その席の主達は今だし就寝中なのだ。

 

 

 

 

なお、二人共家事が全く出来ないので調理中は起きてなくても問題がなかった。

 

「柳、お代わり」

 

子供用の椅子に座ったオーフィスは口元にご飯粒を付けながら可愛らしいキャラクター物のお茶碗を突き出し、柳はそれに大盛りのご飯を盛って渡した。

 

「あ、オーフィス。今日は顔を出さないと言っておいて下さい」

 

「分かった。……それも食べて良い?」

 

無表情で頷いたオーフィスが指差したのは起きてきていない二人のオカズ。柳は暫し考え、片方をそっと彼女の前に差し出した。

 

「まぁ、朝ごはんは一緒にって約束を破った罰です。今朝はフリカケで我慢して頂きましょう」

 

悪戯げにウインクしながら柳がもう一人のオカズに手を伸ばすも消失し、殺せんせーの手の中に移動していた。

 

「ニュルフフフ……。今朝の鹿肉とキノコの猟師風オムレツ特製ソースは絶品ですからねぇ」

 

「……何時もは絶品じゃないとでも?」

 

「いえいえ、そんな事はありませんよ? おや、もう帰った様ですね」

 

何時の間にかオーフィスの姿は消え、流しに彼女の使った皿が置かれている。二人が彼女が来た当初はしなかった片付けという行為に感心していると、階段をドタドタと駆け下りる音が聞こえてきた。

 

「この香りはオムレツだな! 流石だ奏者よ! 其方のオムレツは余の好物だからな!」

 

「あ、殺せんせーが食べました。もう残ってませんよ」

 

「ニュルフッ!?」

 

駆け下りてきたのは小柄な金髪の少女。オムレツがないと聞いた瞬間に世界の終りのような悲壮な顔をし、次の瞬間には鬼の形相で装飾がされた剣を抜く。

 

 

 

だが、既にマッハ20のスピードで逃げた後だった。

 

 

「って、居らぬ!? ……のぅ、奏者よ。余は其方が……ゴホンッ! 其方のオムレツが食べたい。作ってはくれぬか?」

 

柳を見る少女の顔はまるで捨てられた子犬。瞳を潤ませ上目遣いでジッと見てきていた。

 

「……分かりました。ただ、鹿肉は隣の駒王町まで行かないとありませんのでお昼で良いですか? とりあえず朝ごはんは適当に食べて下さい」

 

「あ~もう! 愛い奴め♥ どうだ、今から余の部屋で……」

 

「じゃあ、買い物に行ってきますね。……く・れ・ぐ・れ・も! 通販で無駄遣いしない事! 買いたい物が有る時はまず相談! ……分かりましたか?」

 

「……むぅ。余は詰まらぬ……。分かった分かった」

 

少女は不満そうだが頷き、冷蔵庫を漁り出す。柳が出かけて後に仕舞い忘れていた殺せんせー秘蔵のハムを見つけ、分厚く切るとナイフとフォークを使って優雅に食べだした。

 

「……どうも最近扱いが悪い気がするのぅ。うむ! また歌でも聞かせてやるとするか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉ! 超美人じゃん!」

 

「ねぇねぇ、カラオケでも行かない?」

 

「(あらあら、困りましたわ)」

 

その日、朱乃はナンパをされて困っていた。話しかけてきたのは金髪鼻ピアスのチャラい男達。部活の後輩同様に彼女の体を舐め回すように見ていた。

 

朱乃は同世代の男子に興味がない。いや、正確に言えば幼い頃の初恋の相手が忘れられないのだ。彼女が実は人間ではないっと言う事を知っても受け入れてくれた彼は父親によってその時の記憶を消されたが、朱乃は事細かに覚え、それが大切な宝物だった。

 

「さ、行こう行こう!」

 

男達は遂に朱乃の手を掴んで強引に連れて行こうとする。周囲の者達は見てみないふりをし、ニヤニヤいやらしい笑いを受かベた彼らに嫌悪感を感じた朱乃は男達を適当にあしらおうとした。

 

しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ痛たたたたたたたっ!」

 

「……女性に対してその様な態度はどうかと思いますよ?」

 

朱乃の手を掴んだ男は一人の少年に腕を捻り上げられ痛みから朱乃の手を掴んだ手を離す。もう一人の男が殴りかかったが、足を払われて無様に転ばされた。

 

「……まだやりますか?」

 

「くそっ! 覚えてやがれ!」

 

三流悪役の捨て台詞を吐いて男達は逃げ出し、少年は明野に笑いかけた。

 

「お怪我はありませんか? 困りますよね、ああいう人達って」

 

その笑顔を見た瞬間、朱乃の脳裏に初恋の相手の顔が蘇る。

 

「……やっ君? すみません、貴方は神田 柳君ではありませんか?」

 

「確かに私の名前はそうですが……お会いした事ありましたっけ?」

 

目の前の少年、柳こそ朱乃が十年以上忘れられない初恋の相手だった。

 

「私です! 昔よく遊んだ姫島 朱乃です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……部長。朱乃さん、妙に機嫌が良くないですか?」

 

それから少し後、駒王学園のプールにやって来たオカルト研究部のメンバーは上機嫌の副部長に戸惑っている。何時も笑顔を絶やさない朱乃ではあるが、今の彼女は浮かれて地に足がついていない、と言っても過言ではない。

 

 

 

 

「私も変だと思って聞いてみたんだけど……初恋の相手に再会したらしいのよ。しかも、シツコイナンパから助けて貰ったんですって。……イッセー?」

 

「ぐぎぎぎぎぎぎっ!」

 

リアスから朱乃が機嫌の良い理由を聞かされた一誠は嫉妬から歯噛みする。それを見たリアスは嫉妬しないの、と言いながら彼を抱きしめた。

 

 

「仕方ないでしょ? あの子にとって大切な思い出なのよ。昔聞いたんだけど、急に引っ越して行ったらしいわ。後で知った事なんだけど朱乃のお父さんが命乞いされて見逃したはぐれ悪魔にご両親と妹さんを殺されたらしくって……」

 

「あれ? ならなんで其奴は生きているんですか? それに引っ越して行ったって……」

 

「……確かに妙ね。後で詳しい話を聞いてみようかしら」

 

しかし、朱乃は柳から連絡先も住所も聞かされておらず、悪魔のネットワークを持ってしても居所が分からなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ今帰りました。うわっ!?」

 

柳が玄関のドアを開けた瞬間、鞭の様な物が叩きつけられる。慌てて避けると目の前に赤い髪をした少女が立っていた。ただ、普通の少女ではない。その頭には捻れた角、先ほど叩きつけたのは龍の尻尾で、体の其処らに龍の鱗がある。

 

「遅いじゃない! 私が起きた時はモーニングティーと……あ、朝のチ、チューをする約束でしょ!?」

 

少女は顔全体を真っ赤にし、湯気を出しながら叫ぶ。ただし、凶悪な槍を突き付けながらだが……。

 

「いえ、私は了承していませんよ?」

 

「わ、私がしろって言ってるんだからすれば良いじゃない! むきー!」

 

赤髪の少女は癇癪を起こしたかのように地団駄を踏み鳴らす。柳は溜息を吐くと彼女に近づき、

 

「じゃあ、ただ今のキスで」

 

っと彼女のほほに軽く口付けをする。その瞬間、少女は更に顔を赤らめ、

 

「きゅ~」

 

目を回してその場に倒れてしまった。

 

 

「……さ、昼ご飯の下拵えしなきゃ」

 

少女をリビングに寝かせた柳は台所に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、駒王学園では三大勢力の会談が行われ、案の定テロが行われる。時間を停めていたハーフヴァンパイアが助けられ裏切ったヴァーリが一誠と戦いだした瞬間、会談の会場となった部屋にニつの影が現れた。

 

 

 

 

 

 

「初めまして、無能な統率者の皆様。私達は厨二臭い組織名の『禍の団(カオスブリゲート)』の一員です。……あれ? 二人は?」

 

現れたのは柳と殺せんせー。何故か一緒に来ているはずの二人の姿が見えず、キョロキョロと柳が周りを見渡した時声が掛けられれた。

 

「な、なんで!? やっ君がどうして……」

 

「おや、朱乃さんも来ていましたか。まぁ、どうでも良いです。今はあの二人が……」

 

「柳君、どうやら彼処に居るようですよ」

 

殺せんせーが指さしたのは旧校舎の屋上。まさにバカと何とかは高い所が……っという奴である。そして、赤髪の少女が槍を振り回して床に叩きつけた瞬間、アンプで出来た城が現れた。

 

「な、何だ!?」

 

「……くっ! おい! あれを辞めさせろ!」

 

急に現れた物体にアザゼルは首を傾げ、テロの首謀者であるカテレアは顔を青褪める。それに対し、柳と殺せんせーは首を捻った。

 

 

「え? どうしてですか? せっかく絶世の歌姫二人のデュエットが聞けるのに」

 

「ほら、アレですよ。旧魔王派は美的感覚が……」

 

「おかしいのはお前達だ!」

 

 

カテレアが怒鳴った瞬間、少女達はマイクに口を近付け……。

 

 

 

「さぁ、行くわよ! エリザベート・バートリーと!」

 

「ネロ・クラウディウスが贈る新曲!」

 

 

 

 

                 「「暴君と竜の恋愛戦争!」」

 

 

 

 

後に彼らは語る。この時の事は思い出したくないと……。

 

 

 

 

なお、柳と殺せんせー、そして小猫だけは絶賛していた。




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