ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

29 / 120
悪魔の力を手に入れました…… ⑥ 

 夏休み前の生徒会室では薫達が激務に追われていた。机の上には書類の山また山。匙などは先程から虚ろな目でペンを走らせ、ソーナでさえ疲れが見える。薫も押し付けられた(任された)仕事を必死にこなしていた。そして開始から数時間後、ようやく最後の書類の記載が終わった。

 

「皆、お疲れ様です。芥辺先生もお疲れ様でした」

 

「しかし、この書類の多さはどうにかならないのでしょうかね。設備や部活関連の申請書が多い上に、例の変た……問題児三人組への文句が多く。……ちっ、被害者が過剰な暴力を振るっていなけりゃ即退学に出来てたのによ。暴力事件も覗きも隠蔽しなけりゃいけねぇとは」

 

「芥辺先生、性格が変わっています」

 

 ソーナ達生徒会役員に任された仕事は多岐に渡り、中には学園に通う異能力者やそれに関係する事件や能力を使った揉み消し作業に関する報告書など。そろそろサーゼクスを殴りたいという衝動を抑えながら薫は一息ついた。

 

「そういえばシトリーさん達は夏休みに冥界に行くんでしたね。私達教員は夏休みも仕事ですよ。……私も子供の頃は教師は夏休みとか休みが多くて良いな、とか馬鹿な事を思っていましたけどね……」

 

「そ、そうですか。では芥辺先生は夏休み中の予定は特にないのですか?」

 

「いや、休日が重なる日に友人達と泊まり掛けて海に行く予定です。ああ、それとアジュカに友人として呼ばれていますね」

 

「……先生はアジュカ様とはどの様にしで出会ったのですか? 正直、接点が無いように思うのですが」

 

 魔王であるアジュカ・ベルゼブブとグリモアに選ばれただけの人間である薫。とても友人になる様な関係ではないにも関わらず二人の間には親交があった。

 

「ええ、グリモアに興味を持った彼が私に近付いて来ましてね。その件で色々あって仲良くなりました。さて、片付けは私がしておきますので皆さんはお帰り下さい」

 

「いえ、私達も後片付けを……」

 

「駄目ですよ? そろそろ最終下校時間です。ここは教師に任せておきなさい。では、お元気で」

 

 薫は有無を言わさずにソーナ達を帰し一人で後片付けを始める。途中、オカッパ頭の小学生くらいの少女が現れたり、踊り場に普段はないはずの鏡が現れたり、誰も居ない音楽室からピアノの音が聞こえてくるも特に問題なく片付けは終わり薫は帰っていった。

 

 

 

 

「そ~れ!」

 

 束は砂浜で飛び跳ねるとボールをネットの向こう側に向かって放つ。何処かの同姓同名で見た目が同じな天災と違って頭脳オンリーな彼女のボールはフヨフヨと宙を舞い、亀の様な速度で薫の元へと向かう。

 

「せいやっ!!」

 

 そして異様な身体能力を持つ薫に見事スパイクで返される。そのままボールは砂を舞い上げながら跳ね上がり、見事のボディを惜しげもなく晒している束の布面積が足りていない水着の肩紐を掠めて見学していたウェイバーの顔面に直撃した。ウェイバーが倒れると同時にキチンと結んでいなかったのか束の水着の紐が解け、彼女は慌てて胸元を押さ付けた。

 

「きゃっ!? ……かー君のエッチ。上手く結べないから罰として結んでね」

 

「いやいや、千冬に……って居ないっ!? 何時の間にあんな所にっ!?」

 

 気絶したウェイバーは千冬によって離れた場所にあるパラソルの下に連れて行かれており、薫は束の連れて行かれるがまま岩陰に向かう。そしてそのまま紐を結び終わった時、束が振り返り薫の顔を覗き込んできた。

 

「ねぇ、かー君疲れてる? クマが出来てるよ。お仕事忙しいの?」

 

「まあ、私の勤め先は色々(・・)有りますから。でも、私は頑丈ですから大丈……」

 

 ”大丈夫です”、そう言うとした薫は束が抱き着いて来た事によって言葉を止める。少し潮の香りが混じった髪の香りが鼻をくすぐり、薄布越しに変形する胸の感触が伝わって来る。

 

「ねぇ、覚えてるかな? 私達が大人になったら結婚しようっていう約束」

 

「ええ、覚えていますよ。その場面を千冬とウェイバー(二人)に見つかってしまいましたよね」

 

「あははー! ウー君もちーちゃんも酷いよね。私の一世一代の告白だったのにさ♪ ……私、あの約束は今も有効だと思ってるよ。かー君はどう?」

 

「……ええ、私も有効だと思っています。……ですが、もう少し待っていてください。私は今の四人の関係が好きで、束には話せないゴタゴタに巻き込まれそうなんです。ですから、私の気持ちを伝えるのは……」

 

「うん、待ってる。でも、私が綺麗な内にお願いね♪ ……じゃないと女しか使えない最強兵器を作って世界を変えちゃうかも✩」

 

「……善処します。束が言うと冗談に聞こえないですからね……」

 

 既に互いの気持ちに気付きあっていた二人は気持ちを最確認しあうと岩陰を後にする。浜辺では酔っ払った千冬にドラゴンスープレックスを掛けられているウェイバーの姿があった。

 

 

「……昼間は酷い目にあった」

 

「いや、本当にスマン」

 

 その日の夜、早々に酔いつぶれた束をホテルのベットに寝かせた三人はホテル近くのバーに来ていた。ウェイバーはまだ体が痛むのかあちこちを摩り、千冬は素直に謝りながら酒を煽る。既にテーブルの上には摘みの皿や空のコップで溢れていた。

 

「なあ、気付いているか?」

 

「……ああ、勿論さ」

 

 千冬はメニューに載っているカクテルを全制覇し、最後の一口を飲もうとコップを傾けながら視線を後ろにやる。ウェイバーも顔を動かさずに視線だけ変え、濃厚な殺気を放って来ている男達に意識を向けた。

 

「では、この辺で帰りましょう」

 

 薫も彼らに気付かないふりをしながら会計を済ませ店を後にする。男達はその後ろからついて来ていた。そして人気のない場所まで来た時、目の前にも男達が現れ悪魔の翼を広げる。其の後ろには怒りに満ちた表情のカテレアが立っていた。

 

「お久しぶりね、ブックマスター」

 

「ああ、ウンコ垂れのカテレアさん。脱獄したのですか?」

 

 薫はグリモアを呼び出して前後に注意を払う。こうなっては誤魔化せず、後で”忘却”を使っても記憶がないのは酒のせいだと思うだろうと考えての行動だ。そしてカテレアは薫を敵として見てているが、やはり何処か侮っている。そしてカテレアとその部下は同時に蛇を飲み込んで力を増大させた。

 

「グリモアは使わせないわっ!」

 

 カテレアと部下達は同時に襲い掛かり薫が即座に対処しようとした時、何処かから放たれた龍のオーラによって跡形もなく消し去られた。

 

「い、一体何がっ!?」

 

「おい、薫。お前何か知って……」

 

「”忘却”」

 

 即座に二人の記憶を食い切った薫は二人を抱えてホテルへと戻った。なぜ今の攻撃が自分達に向く事に警戒しなかったのかは彼自身にも分からない。ただ、何故か安心してよいと感じたのだ。

 

 

 

そして一人ホテルの部屋に残っていた束は窓から外を見ながら呟く。その表情から感情が感じられないにも関わらず、、彼女を見た人は怒っていると感じられるだろう。

 

「……何しに来たの、オーフィス?」

 

「姉、久しい」

 

 前面が大きく空いたドレス姿の少女は無表情で束に話しかけた。

 

 

 




意見 感想 誤字指摘お待ちしています

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。