ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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迷宮都市の三姉弟  (ダンまち) ②

『ゴォアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 何でこんな事にと、サポーターとしてダンジョンに潜っていたリリルカことリリは物陰で固まっていた。三人組の明らかにダンジョン初心者といった絶好の鴨に同行したのが運の尽き。何とLv.3だった上に行け行けドンドンと奥へ奥へとモンスターを蹴散らしながら猛進し、只今第十七階層嘆きの巨壁前。階層主のゴライアスが陣取っていた。

 

「おっし! んじゃ行くとするかっ!」

 

 リーダーにして三姉弟の一番上であるリジィは好戦的な笑みを浮かべ手甲を装備した拳をぶつけ合う。ナックルガードの突起部が金属音を奏でる中、ダンジョン内にも関わらず緊張感が見られなかった長男リゼロが杖を構えれば足元に魔法円が現れた。

 

「炎よ、傷を癒し活力の光と化せ『ホワイトホワイトフレア』」

 

 超単文詠唱から発動したのは白く輝く炎の魔法。それがリジィとリゼルの身体を包み込むと同時にゴライアスが本能から来る人への絶対的な敵意によって片足を振り上げ、踏み潰さんと迫って来る。魔法を発動するなりリゼロはリリルカ同様に後方に下がり、リゼルは前方に、リジィはゴライアスの頭めがけて一気に跳んだ。

 

「ちょ、ちょっと正面からって……」

 

「んっ、大丈夫……ふぁ」

 

 場所が場所だけに見捨てて退散も出来ず、彼女には二人が巨人を撃破する事を祈るしかない。隣でリゼロが脳天気に欠伸をする中、柄に手を掛けたリゼルがゴライアスの軸足の真横をすれ違うと同時に抜刀、着地と同時に納刀。鍔鳴りに続いてゴライアスの足から血が吹き出した。

 

「テメッ! 両断しとけ、ボケがっ! 出来んだろ、オメーならよっ!」

 

「いやいや、無茶言うなよ、姉ちゃん」

 

 軸足を深く切り裂かれ体勢を崩したゴライアスの肩に飛び乗ったリジィは罵声と同時に拳を振り上げ、巨人の横面に叩き込む。重厚な打撃音が響くと同時に体格体長体重共に圧倒的に上の筈のゴライアスが殴り飛ばされ壁に激突、頭から地面に叩き付けられる。その眉間に向かって落ちていくリジィが詠唱を開始するも、ゴライアスは怒り狂いながら両手で掴み掛かった。

 

「ほいっと。……ごめん。もう斬り慣れた」

 

「……無理。させないから」

 

 ゴライアスの右手の指は手の甲に飛び乗ったリゼルが斬り飛ばし、左手は突如出現した黒い三つの玉に引っ張られ地面に衝突、再び上げようとするも上がらない。

 

「我が目指すは武の極地 偉大なる武人の御技の再現『サンシシムラマツリ』!!」

 

 リジィの両腕に魔力が集まり、ゴライアスの顔に着地した瞬間、巨人の顔に恐怖が浮かぶ。八重歯を見せて笑う彼女はモンスターでさえも化け物だと感じる凶悪さだった。

 

 

 

 

「『五輪』!! 堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 剛打強打重撃、拳が雨霰と叩き込まれ続き一撃ごとに地面がひび割れゴライアスの悲鳴が響きわたる。返り血で全身を赤く染め上げながらリジィの猛攻は止まず、最後の一撃で巨人の頭蓋骨が砕けた。ゴキゴキと首を鳴らし巨人の頭から飛び降りた彼女は十八階層へ続く道を親指で示し歩き出す。

 

「臭ぇから水浴びてくる。悪いけど魔石を取り出しといてくれ。んじゃな」

 

 返事も聞かずに手をヒラヒラ振りながら向かっていく彼女の背を眺めた弟達は慣れているのか肩を竦めるだけであった。

 

 

 

 

 

 

「しかしダンジョンのモンスターは外とは段違いだな。……にしても姉ちゃん、階層主にさえビビられてたよな」

 

「……仕方ない。あの人、モンスター以上に凶暴だから」

 

 ゴライアスの皮膚も肉も強靭でリリルカでは魔石を取り出せないので二人が取り出しているのだが、その様子を眺めながらすこしあせっていた。

 

(……流石にちょっと拙い人達ですね)

 

 先ずランクが違い過ぎるので荷物の持ち逃げは難しい。もう一つ厄介なのは名字が同じだったので冗談で身内かと聞いてみたら本当に勇者(ブレイバー)の親戚だったという事。公私混同するかは別として都市でも有数のファミリアの団長に目を付けられるのは勘弁だ。

 

 

 

「……実はダンジョンの奥から出てきたモンスターとか」

 

「あははははっ! 確かにあり得る」

 

 魔石を取り出し灰になったゴライアスの死骸からドロップアイテムを取り出した二人が鬼の居ぬ間にと散々悪口を言う中、さっさと水を浴びて戻って来ていたリジィとリリルカの目があった。

 

 

 

 

 

「んじゃ、四等分な。ほれ、持ってけ」

 

 ゴライアスの魔石にドロップアイテム、その他のモンスターから手に入れた金額は多額だった。サポーターとしての相場を貰おうと思いつつも何時もの様に渋られると思ったのだが、リジィは一切の躊躇無く四分の一を投げ渡して来た。

 

「お、お待ち下さいっ!?」

 

「少ないってか? おい、リゼロ。お前の分から半分寄越せ」

 

「違います、多すぎるんですよ」

 

「なら問題ねぇだろ。ダンジョンで色々教えて貰ったから授業料だよ、授業料。ほれ、もう行って良いぞ」

 

 面倒臭そうに手でリリルカを追い払うとリジィはヴァリスの詰まった袋を手にして歩き出した。

 

「んじゃま、ホームで待ってる主神様の所に帰りますか。リゼル、今日はお前が飯当番な」

 

「はいはい。マスタードダックを作るよ。デザートは茸ブリュレな」

 

「……茸がどうブリュレなんだよ。デザートは私が作るから……」

 

 姉弟で一番マトモなリゼルだが、何故か料理だけはマトモでなかった……。

 

 

 

 

 

 

「……あっ、どうも」

 

「えっと剣姫さんだよね。こんにちは。他の皆さんもどうも」

 

 ホームに戻り食材を買いに出たリゼル。目的の品を買い求めた後にじゃが丸君の屋台に並んでいる先日会ったばかりのアイズ達と出会う。他にティオネ・ティオナ姉妹、レフィーヤの姿もあり、ショッピングの帰りだというのが見て取れた。

 

「えっと、フィンの甥っ子の……」

 

「俺はリゼルだよ。ああ、そう言えば叔父さんはオラリオではどんな様子? 手紙は偶に送って来てたけど近くに居る人達に様子を聞きたいな。お礼に奢るから……」

 

「小豆クリーム味」

 

「あっ、うん。俺、その味食べた事ないし同じのにしようかなぁ?」

 

 即座に味の指定をするアイズに多少押され気味のリゼル。尚、それなりに好みの味だった様だ。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ。ティオネさんは叔父さんが好きなんだ」

 

 ある程度フィンの話を聞いたリゼルだが、現在は攻守が交代して質問に答える側になっていた。主に質問しているのはティオネである。

 

「ええ! それで身内しか知らない情報とかないかしら? 好みとか性癖とかっ!」

 

「うーん。父さんなら知っているかも……」

 

「あっ! 気になってたけど、どうしてロキ・ファミリアに入ろうとしなかったの? フィン、手紙で誘った事があるって言ってたよ」

 

「姉ちゃんが、下から這い上がって見下してた奴ら踏んづけて上り続けるのが最高じゃねぇか。お前達は黙って私について来い。最高の景色を見せてやる、って言ってきてね」

 

 叔父からの誘いを断った理由を苦笑しながら述べるリゼルを眺めながらアイズはフィンの言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

『僕が同族の希望の柱の後継者にするなら僕の子供が望ましいけど、第二候補はリゼルかな? 昔、里帰りの時に幼い彼に稽古を付けた時に感じたよ。……あの子の剣の才能は僕が知る誰よりも上だってね』

 

 だから強さを求めるアイズは我慢できずに口を開いた。

 

 

 

「お願いがある。(剣の稽古に)付き合って欲しい」

 

 ただし、言葉が足りなかったようだ。当然、ビックリした様子のティオネ達姉妹とショックを受けた様子のレフィーヤ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いよ。木刀で? それとも真剣での手合わせ? ロキ・ファミリアのホームでやるのかい?」

 

 でも、リゼルには通じた模様である。


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