銀河英雄ガンダム   作:ラインP

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第九話 時の流れに身をまかせ

帝国軍装甲擲弾兵がアークエンジェルへの攻撃を開始して、そろそろ6分が経過しようとしていた。

 

「ラインハルト様、おせち料理が出来ました」

 

キルヒアイスが幾人もの料理人を従えて、テーブルに料理を広げる。

そう、今日は帝国の暦では正月に当たる日だった。

 

「ふむ、そうか、今日は帝国では1月1日なのだったな。地球とは時差が数ヶ月ずれているから忘れていた」

 

「自由惑星同盟でも数ヶ月ずれていますから年3回はおせち料理が食べられる。それが軍人の役得ですね」

 

「クリスマスプレゼントも年3回だ。なんとも夢が広がる話だな。それにしても地球への進行を開始してからもう6年も経つのだな」

 

ラインハルトは窓から煌めく太陽を見つめ、遠く離れた故郷を思いアンニュイな気分になる。

そろそろアンネローゼにも皇帝との子供を作ってもらわなければな。

そしてその子供の摂政になり、時期を見てその子供は風邪をこじらせて私へと皇帝位を禅譲する。

これならば波風は経つまい。

あとは二代貴族はイゼルローン要塞攻略の任務を与えて、自由軍にトールハンマで蒸発してもらえば。

あとはめぼしい貴族など居ないからな。

 

だが、それも保険の一つ。

その方法では真の意味で私を絶対皇帝として全員が敬う存在にはなれない。

 

ラインハルトは懐から一冊の本を取り出してペラペラとめくる。

実家の書庫で見つけたこの古文書。

『冬木市聖杯戦争について』と書かれた、かのルドルフ大帝による直筆の古文書。

それによれば数万年前、かのルドルフ大帝は地球の冬木市で行われた過去の聖杯戦争に参加したそうだ。

古代の英雄をサーヴァントとして召喚して他の魔術師とそれらに召喚されたサーヴァントと戦った詳細。

そして最後まで勝ち残り、聖杯を手にすることにより銀河帝国を作り上げる力を得たことが書かれている。

巻末にはその際にサーヴァント召喚に使われた蛇の抜け殻がセロテープで貼り付けられていた。

これを見つけたとき、私は狂喜乱舞して召喚を行った。

はじめは半信半疑な気持ちもあったが、実際にルドルフ大帝が呼び出したという黄金の太古の王を召喚でき、地球の冬木へと向かうことに決めたのだ。

 

 

「本当ならもうとっくに冬木へとたどり着いているはずだったのだがな」

 

「えぇ、地球の連中がここまでしぶといとは思いませんでした」

 

 

この6年という日々、何も無為に過ごしていたわけではなかった。

 

襲撃1年目、ビッテンドルフ艦隊がアークエンジェルにやられたという手痛い被害はあったものの、プラントのコロニーを全部破壊することが出来た。

 

だが襲撃3年目、プラントのコロニーを破壊後に再集結する予定だったのをミッタマイヤー艦隊が独断専行で月へと向かった。

その途上でアークエンジェルの策謀により謎の兵器により全滅させられた。

 

その後些細な小競り合いで消耗を抑え時間を稼ぎつつ、オーディンから100万人の装甲擲弾兵をなんとか工面して、今回のアークエンジェル襲撃をしようとした矢先に、アークエンジェル側はジェネシス要塞を完成させたのだ。

 

 

ラインハルトとキルヒアイスは料理を食べながら窓の外にポツンと見える小さな要塞を見やる。

 

全長100万キロほどの要塞。

首都星オーディンの1万分の1ぐらいのサイズだろうか。

地球と比べれば大きいが、そんなもの銀河の規模に比べれば塵と同じだ。

 

「5年前、ヤン・ウェンリーが乗ったスパルタニアンが木星をワイヤーで牽引して地球のそばまで持ってきていたので何をしているのかと疑問でしたが、木星の中身をくり抜いて要塞化するとは思いもよりませんでしたね」

 

「うむ、しかも戦艦とくっつけるとはさすが鬼才というべきか。我がライバルに相応しい知略の持ち主だ」

 

「えぇおかげで装甲擲弾兵も制圧に難儀しています。本来ならあの程度の要塞、地球破壊爆弾を使えば一撃で消滅できるのですが、地球の衛星軌道にあるおかげで、それをすると地球にも影響が出ます。それによって聖杯戦争の開始が行えない可能性も考えれば、制圧して自爆させるしか手はありませんので」

 

「この前、冬木市の聖杯戦争の監督官に連絡をとってみたところ、サーヴァントは5体召喚されているらしい。今まで60年単位で行われているそうだから1体当たり8年半として、残り17年。それまでに冬木市を制圧できねば聖杯戦争は不戦敗になってしまう」

 

「それに早く地球での寄り道を済ませて偵察任務に戻らないと、首都星の周辺で自由惑星同盟の艦隊が来るのを待っている陛下もしびれを切らすかもしれませんしね」

 

ラインハルトは食後の紅茶を飲みながらしばし考える。

 

「5体か、私の召喚した王以外に4体サーヴァントがすでに現界している。もしかしたらあの要塞にもサーヴァントがいる可能性もあるのか」

 

「もしそうならばシェーンコップやオフレッサーには荷が重いかもしれませんね」

 

「それな。もし奴らが駄目だった場合には王にお願いして宝具の開帳をしていただかねば。今から考えても胃が痛い。医者を呼べキルヒアイス」

 

「かしこまりました、ラインハルト様」

 

キルヒアイスは青い顔をした料理人たちを引き連れて急いで部屋から出ていった。

ラインハルトもまた、王にどのようにお願いしたものかと顔を青くしてアークエンジェルwithジェネシスを静かに見つめていた。

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間52分。

6年の歳月を経て行われたアークエンジェル占領作戦、未だ決着は遠い。




5年前はイゼルローン要塞は自由惑星同盟ではなかったと。
いやいや、時間というのは常に進んでいるのです。
宇宙規模の戦いは時間がかかるので、なんとすでに6年が経過していたのですよ。

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