銀河英雄ガンダム   作:ラインP

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このSSもなんとか初ライブまでこぎ着けました。
露伴ファンのみんなに支えられている・・・。
でもこのペースだとSIDEROSが出てくるまで何話かかるのだろうか。


露伴と酔っ払いと初ライブ!

 ミャンマーの地下5000キロにザフト残党軍の隠し基地が存在する。

 

 地上にあったザフト基地は地球連合との戦争終盤にブルーコスモス部隊による数ヶ月に及ぶ執拗なまでの核攻撃によって廃墟と化してしまった。だがザフト軍は核攻撃を逃れるために地下へ、更に地下へと基地を広げていき、現在まで生き延びていたのだ。現在の地下基地は地盤貫通攻撃型の核弾頭でも被害を逃れることが可能だ。ここには未だ革命に燃える精強なるザフト残党軍10億人が隠れ住み、朝に夕にと激しい訓練に明け暮れている。

 

 

「ザァフトォォォォーーー!」

 

 響き渡るような掛け声をあげた少年兵が連合兵を模した藁人形へと銃剣突撃をする。目を血走らせて狂ったように叫びながら何度も執拗に銃剣を突き刺す。その様は正に狂気。それは彼だけでは無く、訓練所の広場を見渡せば至る所に同じ情景が広がっている。倒れた藁人形に馬乗りになり狂ったように髪を振り乱しながら何度も何度も手に持ったナイフを振り下ろす少女。中には藁人形の首を引きちぎり、高く掲げて雄叫びを上げている者までいる。見たところまだ10歳にもなっていない少年少女達が何故こうも憎悪に燃えるのか。それは彼らが血のバレンタインをはじめとする連合軍による虐殺からの生き残りであるからだ。核攻撃に晒されて、目の前で両親が消し炭になって消滅したのを目にすることになった少年。苦悶の表情を浮かべた両親の生首の前で連合兵達に三日三晩輪姦された少女。中には面白半分で両親の死体に何度もナイフを刺すことを強要された者もいる。彼らにとって連合軍とは悪鬼羅刹であり、存在することすら許せない悪なのだ。彼らはいつの日か来る革命に備えて日夜その刃を研いでいるのだ。

 

 それをザフト軍エリート高級将校である証の赤服を着たイザーク・ジュール上級特務大佐が視察していた。

「なかなか有望そうな兵達ではないか。彼らを見ていると私も若い頃を思い出して心が洗われるようだ。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、泥水をすすり汚濁の中を這ってまで敵兵の喉笛に食らいついたあの地獄のような戦場を思い出すよ。私も彼らのようにただただ革命の為に命を擲って戦ったものだ。あの日、共に戦った戦友達の多くは志半ばで倒れていったが、彼らの革命魂は今も若人達に受け継がれて紡がれているのだな。すべては約束された栄光のため。革命は永遠なり。革命万歳!」

 それを聞いたザフト兵は一斉に革命万歳と何度も何度も声を上げる。その声は周囲にどんどんと波及していく。少年兵も、畑にて鍬で耕していた老人も、炊飯所で鍋をかき混ぜていた中年の女性もみんな狂気を宿した目で腕を天へと突き上げて革命万歳と、真なる革命をと声を上げ続ける。

 

 ザフト軍ビルマ地下基地は革命の精神によって一つになっていた。イザークはこの光景に涙を堪えきれず男泣きをしながらも負けじと革命の声を上げ続ける。ああ、なんと素晴らしいのだ。クルーゼ隊長、見ていますか。貴方の革命精神は今もここで燃えています。あの日、場末の酒場で貴方と真なる革命、真なる平和について語った日々。腐りきった連合の資本主義を打倒して、真なる平等なる共産世界を迎える日は遠くないと私は今確信していますよ。この光景を見ているならヴァルハラに先に逝ったこと、勿体ないと悔やんでいるでしょう。

 

 

 

 イザーク・ジュールは過酷だった自身の人生を振り返る。

 

 ザフトのコロニーにから少し離れたスラム街、違法移民の両親の子として彼は生を受けた。地方星系の農奴だった両親は星系貨物船のコンテナに潜り込み密航、ザフトに移民してきた。当時、連合との開戦を見越して大々的に移民を受け入れてきたザフトだったが、移民に与えられた職は前線の捨て石になる兵士であった。彼の両親もそのためにろくに訓練もされず型落ちのライフルだけを持たされて最前線送りになった。ここで戦果でも上げられればまだ彼らの境遇は変わっていたのだろう。だが現実の戦争というのはそんなに甘い物では無かった。まだ当時のザフトはモビルスーツを開発できていなかったため、戦力は歩兵だけ。しかも当時のザフトは連合の棄民政策で出来た国だったため、碌な兵器技術など無かった。歩兵の武装は火縄銃やマスケット銃などの単発銃ばかり。しかも宇宙コロニーに存在する国のため鉱物も取れないため、密貿易で少量手に入る鉄は貴重で銃身だけなどに少し使われる程度。殆どはプラスチックと木で出来たおもちゃのような銃であった。戦車や飛行機なども無く、民生の車に廃棄コロニーの外壁などを貼り付けて荷台やサンルーフなどに大砲を設置した簡易装甲車が頼りの綱であった。

 

 そのため、イザークの両親もその例に漏れず、軍服すら与えられず薄汚れたカーキ色の移民服のまま、唯一支給されたライフルだけを頼りに戦場へと赴くことになった。結果、父は地雷で両脚を吹き飛ばされ、母は焼夷弾に全身を焼かれ、連合兵の姿を見ることすら叶わず、三日と持たずに再起不能として後方送りとされた。

 

 そんな両親に待っていたのはザフト移民権の剥奪とコロニーからの強制退去命令。使えない人間など優秀たるザフトには不要とされたのだ。彼らはザフトのコロニーから放り出され、あてどなく彷徨ったあげく、コロニーから程近くに違法移民達で自然形成されたスラム街にたどり着いた。廃棄コロニーから取ってきたトタン板や廃材など、または布で雨避けだけ施された粗末な住居。そんな中でイザークは産まれることになった。真面な医療も受けられず、野良ネズミなどを捕って飢えを凌ぐ劣悪な環境でイザークは育ったため、当然真面な教育など受けることすらできなかった。そもそも生きているだけで奇跡である。スラム街で産まれた子供が成人するまで生き延びられる可能性は僅か一割であった。

 

 彼の少年時代。両脚が無くなり日がな一日酒浸りになり母や自分に暴力を振るう父。売春で僅かな日銭を稼ぎ、性病によって日々やつれていく母。そんな中、同じ境遇のストリートチルドレンと共に過ごした日々暴力と悪徳にまみれた青春。ザフト軍の備蓄倉庫に潜り込んで食料などを盗んだり、金持ちの変態に身体を売ったことすらあった。もちろん見つかれば無事には済まず、憲兵に袋だたきにされて生死の境を彷徨った経験は数え切れない。尻の穴などとっくにガバガバで軍へ入隊後直ぐに人工肛門化している。そんな中、正規市民である金持ち達の悪行を街で見ることも多かった。人目も憚らず幼女を買い付けに来るブタなどまだ良心的な方だ。金すら払わずに無理矢理車に押し込めてレイプなどは金持ちの子供達の特権で娯楽の一つであった。他には違法移民達の排除という名目で銃を乱射して街の人間を無差別に殺していくこともあった。そんな酷い光景を見続けていた少年時代。金を持っていれば人を殺しても罪には問われず、逆に金のない貧乏人は真面に生きていく事すら否定される。こんな世の中は間違っている。彼の革命魂はそんな環境で少しずつ育まれていった。

 

 イザークはスラム街育ち故に真面な教育など受けることなど出来なかった。そしてスラム街に真面な求職などありはしない。男なら日雇い肉体労働(それも賃金すら払われずに殺されることすらある)やスラム街のギャング団や海賊団などのアウトローに。女に至っては強制的に売春婦だ。誠実的な金持ちに買って貰えることを夢見て少しでも見た目を整えようと涙ぐましい努力をすることしかできない。

 

 ただ唯一正規市民への道が開かれているのが軍人だった。両親と同じ道だ。イザークは同じストリートチルドレンと連れだってザフト軍の門を叩いた。入隊後の扱いはそれは酷い物だった。イザークは他の仲間と同様、スラム育ち故に言葉など喋れないし当然読み書きも出来ない。猿同然だ。何故ならスラムでは野生動物同様で言葉など生活に必要ないのだから。意思疎通など表情と拳と鳴き声だけで十分取れる。そんな猿に言葉を教えるのに必要なのは優秀な教師では無く棍棒による暴力だ。何をすれば殴られて、何をすれば褒められるのかを痛みと共に身体に教え込まれる日々。覚えられなければ死ぬだけだ。その選別にも似た教育で一緒に入隊した仲間は全員死に、生き残ったのはイザークだけであった。イザークはまだ両親が言葉が喋れる(ただし片言)だったのでそれを思い出しながらなんとか発声することが出来た。他の仲間はウッキーとかウホウホと鳴き声を上げるので精一杯だった。言葉を使用しないまま何世代も過ごしていたスラム住人の大半は声帯が退化しているため言葉を発する事が物理的に不可能な場合が多いのだ。それでも読み書きや命令を聞く知能が有ればまだ銃を持って突撃できるので肉壁として採用されることもあるが、残念なことにイザークの仲間は脳味噌も退化して縮小しており、言葉という概念を理解することが出来ずに殺処分されてしまった。

 

 初期教育が完了して二等兵して入隊したイザークは辺境星系の最前線に送られた。木星星系の惑星エウロパに降り立ったイザークはその中でも一番の激戦区であるカラニッシュクレーターの基地であった。ここでは石炭が豊富に取れる炭鉱があり、ザフトのエネルギー資源を支えている重要拠点であった。

 

 炭鉱内ではスラム街から連れられてきた違法移民達が発掘作業に従事していた。フンドシだけを身につけたほぼ裸でツルハシを担いでヨロヨロと炭鉱に入っていく移民達は炭鉱夫と言われてイメージするような筋骨隆々な姿とは遠く離れた矮躯で、食事すら殆ど与えられていない事が分かる骨と皮だけの姿。眼下は落ちくぼみ、頬もやつれて何時死んでもおかしくないような死相が浮かんでいた。ザフトにとって移民などは死んでもどんどん無限に沸いてくるゴキブリのような物。死んだらまた代わりを連れてくればいいので、餌や休みなど与えることなど不要なのである。そんな悲惨な環境でも移民達はそれが当たり前の事なので何も疑問に思うこと無く死ぬまで炭鉱を掘るのだ。

 

 見回っている警備兵が先ほどから倒れたまま呻いている炭鉱夫に近づき、頭部に拳銃を突きつけて発泡する。それだけで炭鉱夫はもう動かなくなり、それを見ていた周りの炭鉱夫達がその遺骸を担いでねぐらへと運んでいく。死んだ人間というのは彼らにとって貴重な食料なのだ。ザフト市民が配属して初めてこの光景を見ると揃って嘔吐してしまうが、イザークにとってはスラム街でもよくある光景だ。自分も弟や妹、近所の住人の遺骸を何度も食べている。特に妹は肉質が柔らかくてとても美味だったと思い出し、口の中によだれが貯まっていくのを自覚する。妹を食べてから美食を知ったイザークは今でもたまにそれを思い出して無防備に出歩いているスラム街の少女を頂いていた。それほどまでにスラム街というのは地獄のような世界なのだ。

 

 これらすべての悪徳は金持ち共による拝金主義によってもたらされている。イザークは軍でクルーゼ隊長に会い、共産主義の素晴らしさを教えられるまでそれが当たり前の事だと世界を変えるなど考えることなど無かった。今思えばなんたる怠慢。悪しき金銭などに溺れて、それを持たぬ者は人間とは考えない思想。そんなものがまかり通るこの世界は間違っている。真なる平等を齎すために世界を正さねばならない。それが革命である。規律を正し自己批判を通して真なる革命戦士として闘争への精神を養い、共産世界を実現せんが為にすべてを捧げるべきなのだとクルーゼ隊長に教わったのだ。

 

 そのような理由でイザークはクルーゼ隊長を肉親以上に慕っていた。彼の子供時代に無意識下で形成された劣等感はクルーゼ隊長に与えられた共産思想にのめり込む下地となり、強固な革命戦士として覚醒することになる。クルーゼ隊長の夢見る共産世界を実現すべく徹底した自己批判と自己統制により厳しい訓練に明け暮れ、スラム出身としては異例の赤服隊に入れるまで成長したのだ。その後、クルーゼ隊に配属になり、アスランを初めとするクルーゼ隊の仲間達と出会うのだが、彼らは上級階級のお坊ちゃま揃い。資本主義の豚共であった。ザフト議長である親の力でアイドルを許嫁にしたというのに、それを自分の力だと思い込み疑うことすらせずに自慢するアスラン。親に甘やかされて何不自由なく育ってきたというのにそのありがたみも理解せずに親の反対を振り切り危険な戦場に出てきた夢見がちなニコル。女をとっかえひっかえして遊び回る快楽主義なプレイボーイのディアッカ。そんな俗物とイザークの相性はまさに水と油。甘い考えの彼らに対し、イザークはことある毎に怒声をあげる事になった。だが共産主義は資本主義世界では弾圧対象であった。もし自分だけでなくクルーゼ隊長まで革命戦士だという事が知られれば共産世界への芽は潰えてしまう。表面だけでもなんとか彼らと友好を保とうと苦労したものだ。その後、連合との戦争を繰り広げる中、少しずつ同士を集め、秘密裏にこのビルマ基地へと革命戦士を集結させていったのだ。

 

 ここビルマに移っても資本主義による弾圧は続いた。戦争を食い物にしていた軍産複合体であるロゴスは共産革命戦士がこのビルマに集結していることを知ると、自身の手駒であるブルーコスモスを操って執拗なまでに核攻撃を加えてきた。この攻撃により犠牲になった同士達の嘆きが今でもイザークの胸の中に響いている。徹底的な総括により精強を誇った革命戦士がたった一発の核爆弾で容易く吹き飛ぶ様は筆舌に尽くし難い光景だった。だが、そんな苦しみもこれまでのこと。追い詰められ地下へと逃れたイザーク達革命戦士は、地下深くで遙か太古の遺跡を発見したのだ。そしてその遺跡の祭壇に祭られていたのが旧日本軍が作り出した『ビルマの竪琴』である。壁画に掘られた古代文字を解読し、その兵器の力を知ったイザークは、これこそが神々が共産世界を実現すべくザフトに齎した福音だと感じ、深々と頭を垂れたのだった。

 

「それで、例の開発者の捕縛はどうなっている?」

 

 ザフト軍はビルマの竪琴を発掘後、碌なメンテナンスが出来なかった。技術体系が全く違う物で、遺跡に書かれている伝承などを元に推測に推測を重ねてなんとか起動出来た物の、その直後暴走するかのように発射シークエンスが開始されたのだ。大慌てでなんとか標準を衛星軌道にいる宇宙人の艦隊に向ける事を間に合わせるので手一杯であった。その後、百万隻の宇宙人の艦隊が跡形も無く吹き飛ぶ様をザフト軍人達は呆然と見上げることになった。中にはようやく宇宙人共に一矢報いた喜びにさめざめと涙を流す者すらいた。だが、発射後、ビルマの竪琴は動作不良で停止してしまった。説明書によると毎秒一万発を発射できるとあるが、メンテナンス不足の為に砲身が逝かれたしまったようだ。そこでイザークは開発元である日本の四菱重工に連絡を取ると、当時の開発スタッフは戦後脱走した一名を除いて機密保護のために処刑されているとの回答だった。ただ、脱走した一名は現在もビルマに潜伏しているとの情報を得ることが出来た。その者こそが、ビルマの竪琴の製造開発の全面指揮を執っていた水島上等兵だった。彼はビルマの竪琴の情報をすべて独占して居るため、帰国すると権利を剥奪されかねないと考え、ビルマにて出家して僧侶になったのだ。僧侶だと俗世を離れているため、ミャンマー政府が引き渡すことはないのだ。だがザフトは国際問題など懸案することはない。すぐさま水島上等兵確保のために兵士を派遣した。

 

「申し訳ありません。あと一歩の所まで追い詰めたのですが・・・」

 

「仕方あるまい。奴は日本軍の将校。つまりサムライ。剣術の達人だ」

 

 日本のサムライと言えば今でも恐怖の代名詞。日本刀一本で数百の兵を斬り殺す悪鬼羅刹である。ザフトも戦時中は何度も煮え湯を飲まされたものだ。特に将校に配られた軍刀はモビルスーツの装甲すら容易く切り裂く斬鉄剣だ。かつて乗っていたガンダムが日本軍将校の居合い切りで真っ二つにされたことはイザークにとっても苦い経験である。その時に付けられた顔の傷は彼自身の戒めとして未だに痕を消しては居ない。

 

「砲身は精錬方法が不明の玉鋼という金属で出来ているため修復は不可能でしたが、モビルスーツに組み込むことで発射することが可能になりました。・・・・・・残念ながら強度不足のため本来の毎秒一万発は再現できませんでしたが」

 

  イザークがビルマの竪琴についての報告を聞いていると突如激しい地響きと共に非常事態を告げる緊急アラームが基地に鳴り響く。イザークは倒れそうになるのを堪えつつ、何事だと誰何する。血だらけになりがら伝令兵が駆けつける。伝令兵の傷口からはかすかに放射能の匂いがする。核攻撃を受けたのではとイザークは訝しんだ。伝令兵は息も絶え絶えで今にも息絶えそうであるが、それでも最後の力を振り絞り、首都近くの山に駐屯していた物見部隊が首都からの急な核攻撃を食らい、山ごと蒸発したとのことだ。この兵士もその部隊に居て、ヘルメットがなければ即死だったそうだ。だが傷だらけの身体で治療もろくに受けておらず、大量の放射線で被曝したために最早虫の息。掠れる声でこちらに重要な情報を告げてきた。なんと水島上等兵が自由軍のヤン・ウェンリー将軍と手を組んでいたという驚愕の事実を。そのヤンは水島上等兵を監視していた部隊に気付いていて攻撃してきたのだ。何という知将。昨日艦隊を吹き飛ばしたばかりだというのに直ぐにこちらの情報を掴んでいるとは。だが読めてきたぞ。おそらく水島上等兵がビルマの竪琴を土産に自由軍の庇護下に入ろうという気なのだろう。自由軍は悪しき拝金主義の国。女子供を売り飛ばしている水島上等兵にとっては金がすべての自由惑星同盟は正に天国。ビルマの竪琴の情報を売りさばいて我が世の春を謳歌しようとしているのだ。さながら我らは自由軍の前に積まれた供物の羊なのだ。我らが暴走した結果、実戦証明されたビルマの竪琴の価値はうなぎ登り。帝国軍と交戦中の彼らにとっては喉から手が出るほどのお宝に違いない。知将ヤン・ウェンリー将軍が直々にビルマまで来たことからその重要性が理解できる。このまま我らが自由軍の動向に気付かずにいたらたちまち自由軍の攻撃で屍を晒すことになっていただろう。だが、ここからは勝手にはさせん。そう息巻いていた頃に更に驚愕の事態が発生する。

 

「大変です! システムに侵入者です! ハッキングを受けています!」

 

 次から次へと舞い込む凶報にイザークは頭を抱えることになった。

 

 

 

 首都から追っ手を逃れて路地裏を走り抜けること3時間、ヤン達はマンダレーに辿り着いていた。マンダレーはミャンマーの中では第二の規模を誇る都市である。ヤンは繁華街にあるネットカフェへと入る。受付にいた少年が何やら分からない言語で止めてくるので頭をサプレッサーで音を消したレーザー水爆マグナムで消し飛ばす。

 

「全く、銀河共通語もまともにしゃべれないなんて教育水準が低すぎるね。発展途上国はこれだから困る」

 

 肩をすくめておどけるヤン。とりあえず頭部の消えた遺体は見つからないように受付カウンターの下に押し込んでおく。その際、カウンター奥のスタッフルームも確認したが店番は彼一人のようだ。これでザフト軍に通報される恐れは無くなった。ヤンは店で一番スペックの良いパソコンを見繕って電源を入れる。ガリガリとハードディスクの削れる音がして、ジャジャーンとウインドウズが立ち上がる音が鳴り響く。これを聞くとインテリになった気がしてヤンはテンションが上がる。こんな発展途上の国なのでまともなパソコンがおいているのか懐疑的だったがどうやら奇遇だったようだ。最新のOSが軽快な動作で動いている。CPUもインテルの最新モデル。メモリもなんと32メガも積んでいた。軍の事務パソコンより高性能では無いか!帰ったら経理部を締め上げて情報機器の一新を図らねばなるまい。ヤンは心のメモ帳に記載した。ヤンは早速ネスケを起動してヤフーニュースをチェック。どうやら先ほどまでのザフト軍との戦いはガス爆発で処理されていた。典型的な隠蔽工作だ。ヤンはニュースの投降に注目した。隠蔽記事ということはこれを投稿したのはザフト軍ということ。つまり、この記事を調べればザフト軍のアイピーが判明する。ヤンは慎重に記事のページを右クリック、震える指を堪えながらソースを表示する。どうやらブービートラップは無かったようだ。ヤンは記事のソースを解析する。難解なHTML暗号を読み解き、アイピーの記載を発見。

 

「192の168の・・・・・・確かにザフトのアイピーだな。これでザフトのネットワークにアクセスできる」

 

 ヤンはExcelを起動して先ほどのアイピーを打ち込む。ピーガガガーピーと激しい音が鳴り響きダイヤルアップが立ち上がる。水島上等兵はこの音に気付いてこちらを訝しげに見やる他の客を何でも無いから戻れと追い払う。ヤンはこれでも軍大学の出だ。ハッキングについても仕込まれている。

 

「よし、先ずはエックスルックアップ関数でビジュアルベーッシクを起動。ファイヤーウォールをダミーデータで欺瞞し回避。くそっ!C言語か。やっかいだな。だがこの程度なら・・・よし、コマンドプロンプトでなんとかなった」

 

 ヤンは目にも留まらぬ早さでキーボードを打ち続ける。モニターには複数の黒い窓が開いては凄い早さでハッキングコードが流れては閉じて、また違う窓が開くのを繰り返している。

 

「流石は軍のコンピュータだ。なかなかの防壁を組んでいるね。でもVB言語では処理が遅いよ。何しろ僕が使っているのは最速のアセンブリ言語だからね。処理能力が段違いだ。おっと、ここで攻勢防壁か。甘い甘い。そんなのキルスイッチで一発さ。ダミーで欺瞞情報を流してる間に、ほらあっさり解除さ。さて、これでメインサーバーのルート権限を奪取完了。アドミニストレーターでログインして、各種防壁を解除。これでザフト軍の今晩のメニューから軍の最重要機密まで全部丸裸さ」

 

ものの数分でヤンはザフトの全システムを掌握してしまった。これがザフトと自由軍の技術レベルの違いである。

 

「ザフト基地の監視カメラの映像を出すよ」

 

ネットカフェのモニターにザフト軍基地の様々な場所のカメラ映像がリアルタイムで映し出される。想像通り、ザフトの基地は大混乱だ。

 

「よし、ネカフェを選んで正解だな。普通の家だとプロバイダ経由だからアイピーが分かると誰がアクセスしているか分かってしまうが、ネカフェだと匿名だから向こうはどこからアクセスしているか知ることは出来ないからね。向こうが混乱しているうちに必要な情報はすべてもらっちゃおう」

 

 ヤンはザフト軍基地の住所と入り口、内部の地図をプリンターで印刷する。他にもビルマの竪琴に関する研究資料やモビルスーツの設計データなども見つかったので、ネカフェ内の売店からフロッピーディスクを拝借してパソコンのAドライブに挿入。流れるような熟練の手つきで保存していく。それをみて水島上等兵は先ほどから感嘆の息をついている。

 

「まったく、時代の進化という者は凄いな。俺が戦っていた頃は通信なんて伝令兵か伝書鳩、あとは精々狼煙か手旗信号ぐらいだったもんだ。コンピュータなんてかけらも存在しない概念だったからね。戦場では爆撃の中を命がけで電話線を引いて前線から司令部に電話を繋げてたのに、今ではこんな箱で世界とやりとりが出来るのだからな。戦争のやり方が全く違ってしまったな」

 

 第二次世界大戦を生き抜いた古参の水島上等兵は初めて見た電子戦という新時代の戦い方に驚愕の思いだ。ソロバンと紙と物差しで研究開発していたあの時代に、これがあればどれだけの人間が救えただろう。ビルマの竪琴ももっと完璧な兵器として仕上げることが出来たのではないか。歴史にifは存在しないが、そう思ってやまない水島上等兵であった。

 

 

 たった二人の反抗戦は未だ序盤。

 キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間16分。

 だが戦況は少しずつヤン側へと傾いていくのだった。

 


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