銀河英雄ガンダム 作:ラインP
今回は自由軍サイド、つまりヤン・ウェンリーの話です。
「艦隊が壊滅だって? 本当かい?」
日本で激しい攻防が開始された翌年、ヤン元帥にとある凶報が届けられた。
それは日本攻略戦の予備兵力として本国から呼び寄せ、衛星軌道上で軌道爆撃の準備をしていた第十七艦隊が壊滅したという報せだった。
「たしか、第十七艦隊は最新鋭の戦艦が配備されていたはずだよね。それが碌な反撃も出来ずにかい?」
第十七艦隊はシドニー司令が地球連合軍との長引く戦争に終止符を打つために計画したミリオン艦隊計画で編成された最新艦隊の一つである。その計画で作られた艦隊に配備されている戦艦は攻防共に非常に高い性能を誇り、特に装甲は最高級の新型炭疽菌クリスタル装甲を採用している。これは通常の炭疽菌クリスタルとは違い、発掘が非常に難しい最高級品である。そのため、ローゼンリッター軍の中でも選りすぐりのエリートの斧にのみ使用されていた。自由軍の呪力戦艦の主砲トールハンマーの直撃を10発は耐えられる設計になっている。
そのような頑丈な戦艦をミリオン、つまり100万隻揃えた艦隊を100万作るのがミリオン艦隊計画である。そのミリオン艦隊計画17番目の艦隊が第十七艦隊である。つまり強いのだ。
それがたった一撃で壊滅したと聞き、ヤンは自分の耳を疑った。
「残念ながら本当です。昨夜、日本からはるか東の空が赤く染まったのが観測され、その直後に艦隊が消滅しました」
「日本からはるか東・・・つまりミャンマーか!」
日本の対岸、アジアにはミャンマーがある。そしてそこから衛星軌道にある第十七艦隊が攻撃されたのである。
「そんなことをするのはザフトだ!おのれ、ザフトの残党どもめ!我ら同胞の仇、目にもの見せてくれる!」
ヤンは怒りの形相で軍刀を抜き放ち指令席から飛び出すと立ちふさがる者を次々と斬り捨ててワルキューレに飛び乗る。そして止める間もなく遥か東の空へと一目散に飛び立った。
「ウサギ美味しい鹿野山。小鮒釣り師鹿野川」
子供たちの楽し気な歌声が聞こえるここはミャンマーの田舎町にある寺院。そこでは一人の僧が子供たちを集めて歌を歌っていた。その僧は貧しい家の子供に教育を施して生計を立てていた。
「アンナ、なかなかいい声だ。これなら裕福な家の旦那様に目をかけてもらえるぞ」
その僧の元に寺の小僧が足早にやってきて、何やら耳打ちをすると僧の顔が険しい物になる。
「そうですか。昨夜のアレはやはり・・・。これは私がなんとかせねばなりませんね」
僧は背中に背負った軍刀を抜き放った。その軍刀は古びているが、それでも刃は今まで何千という人の生き血を吸ってきたのが分かるほど禍々しい妖気を帯びていた。
「まさか私が再びこれを抜く日が来るとは。そのツケ、払って貰いますよ」
僧は抜き身の軍刀を手に、一人、寺を出て行くのだった。
ミャンマーの首都にあるネピドー空港に着陸したヤンは、現地の住民相手に情報収集を行っていた。ヤンは知能派軍人なので、帝国軍と違い何も考えずに突撃などしないのだ。
「敵を知り己を知れば百戦危うからずってね。そう言うわけでザフトの秘密基地の場所を教えるんだな」
ヤンは首都に点在するたばこ屋のおばちゃんにお金を掴ませて基地の場所等を聞いて回っていた。たばこ屋は現代の社交場。どんな悪党だろうがタバコを吸うときは口が軽くなるのだ。おかげで数時間の内にザフトの計画は丸裸になった。だが、そんなヤンを黙って見ているほどザフトはお人好しでは無かった。路地裏に入ったヤンはバールのような物でしたたかに頭部を殴られてしまう。激しく血飛沫が舞う中、ヤンは犯人の姿を確認する。それは己の頭から迸る血流よりも赤い軍服。そう、犯人はザフト兵だったのだ。少しでも気を抜くと途絶えてしまいそうな己の意識をなんとかつなぎ止め、ヤンはズボンのポケットからブラスターを引き抜く。ヤンは自分が銃のセンスがないことを知っていたため、今回持参した銃は特別製だ。たとえ当たらなくても余波だけでも敵を吹き飛ばせるようにレーザー水爆マグナムブラスターを装備してきたのだ。それを犯人に突きつけブラスターのトリガーを引く。残念ながらエイミングが苦手なヤンだけあって、銃口は犯人とは全く違う方向に向いていたが、吐き出されたレーザー水爆がヤンの構えた銃口から扇状にすべてを焼き払う。ザフト兵も油断してたため、モビルスーツを出す暇も無く瞬時に蒸発してしまう。後に残ったのはずいぶんと見通しが良くなった街並みと、遙か彼方に見えていた山が円形の跡を残して消え去ってしまった光景だ。だが、これを見たザフト兵はより危険を再認識し、一斉に襲いかかってきた。
「この宇宙人が!仲間の仇!再充填までの1分でお前を殺すなど容易いことだ!」
ヤンは再充填中のレーザー水爆マグナム以外の武装はしていないため窮地に追いやられてしまった。このままでは銀河英雄伝説は完結してしまう。ヤンは作者に悪態を付きながらこの状況を打破すべく知恵を回すが妙案はやはり全速力で走るだけだろう。えっちらおっちらとヤンは路地裏を走り回るが、土地勘は向こうの方が上、10分もすれば袋小路に追い詰められてしまった。ヤンはこうなっては最後、後は自分の身体だけが頼りだと、ブラスターを投げ捨て、ファイティングポーズを取る。シャドーボクシングをしつつ屈伸を何度もすると、相手も勝負を受け入れて武装を投げ捨てファイティングポーズをとる。ザフト兵は3人、多勢に無勢だが、格闘戦は士官学校でみっちりたたき込まれている。真面目な生徒だったとは言えないが、ここは仏陀の神様が眠るビルマだ。奇跡だって起こりうると前向きに考えるヤンであった。ところがそこに機関銃による機銃掃射が行われ、ザフト兵は無惨な肉塊に早変わりしてしまう。
「水島上等兵、助けてくれてありがとう」
「初めてお会いする、ヤン元帥。あと上等兵はやめてください。今では出家して僧侶の身です。水島尊師とお呼びください」
なんとヤンを助けたのは旧日本軍の兵士であった水島上等兵であった。彼は第二次世界大戦後に原隊復帰を断り、出家してビルマで僧侶として現地の人々を導く仕事をしていたのだ。水島は構えていた軍刀を鞘に収めてヤンへと自己紹介をする。
「ヤン元帥もやはりアレを調査に来たのですか?」
「ああ、旧日本軍が残した超大型戦略兵器。アレが先日、衛星軌道に居たうちの艦隊を吹き飛ばしたのは知っているでしょう?」
「ええ、私が厳重に封印していたのに、ザフトの残党軍が掘り起こしてしまったようなのです。おかげで、ほら。大戦中に犠牲になった兵の怨霊が騒いできていますよ」
ヤンと水島が振り向いた先で、地面からボコボコと怨霊が湧き出てくる。彼らは第二次世界大戦中に犠牲になった兵の成れの果て、怨霊兵である。彼らは何度も悲劇を繰り返そうとする生者達を憎み、地獄から舞い戻ってきたのだ。
ひたり、ひたりと、怨霊兵はこちらへと近づいてくる。
ヤンは怨霊兵へとレーザー水爆マグナムを向けて発射しようとする。だが、水島がヤンの肩を掴み止める。
「止めなさい。霊にはそのようなものは効きませんよ」
水島上等兵は怨霊兵を睨みつけながら、両手を眼前で組み合わせる。
「オン アビラウンケン ソワカ」
そして真言を紡ぎながら指を奇妙に絡み合わせて印を組んでいく。そしてカッと目を見開き、「サー・ター・アンダ・ギーーーー!」祝詞と共に軍刀を一閃する。哀れ怨霊兵の首が宙を舞った。
「ゾンビは首を切らないと倒せません。銃では頭を何発も撃つことになって時間の無駄です。それにその銃、一発撃つと再充填に1分かかるので、ゾンビ一体倒すのに時間がかかりすぎますよ」
ヤンは危ないところだったと冷や汗ものだ。水島上等兵には後ほど勲章を渡さねばと忘れずにメモするほど感謝していた。
だが自体はまだ解決していない。これもそれも全部ザフト残党軍が元凶である。水島によるとザフト残党軍が今回用意したのはなんと旧日本軍の戦略級殲滅兵器である『ビルマの竪琴』である。
それは遙か太古、100億年前の遺跡から見つかった兵器で、旧日本軍が現地住民数億人を生け贄に捧げることで作り出した怨霊兵器である。一度起動すれば100万隻の艦隊ですら一撃で消滅させる威力を持っている。ただし、封印解除後にろくなメンテナンスをせずに使用したため、再充填に時間がかかっていると連絡が来たのだ。そして水島上等兵はビルマの竪琴の開発者としてザフト残党軍からメンテナンスを依頼されたが、断ってしまった為に、僧侶として出家して身を隠すことになったのだ。
「僧侶として暮らしている間、私は酷い苦痛の中にいました。私が犠牲にしてしまったビルマの住人。彼らと同列扱いされる日々。遙か日本が恋しくて何度枕を濡らして眠ったか。それもこれも憎きザフトのせいだ」
義憤に燃える水島の目には涙がこぼれんばかりに貯められていた。
こんなにも純粋な青年が何故こうも酷い目に遭わねばならぬのか。
キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間17分。
ヤンは改めてザフトこそ悪の権化だと再認識した。