銀河英雄ガンダム   作:ラインP

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第二十四話 ちゃんと選挙に行こう!

月の影に秘密裏に艦隊が集結していた。

真っ赤に塗装された全長三千五百メートルに及ぶ巨大な船体に無数の砲塔。

更には上下左右それぞれ四レーンずつ、合計十八レーンも備えられたMSカタパルト。

艦橋には赤い軍服に身を包んだ兵士達が蠢いている。

その数、実に五千億隻。

ザフトが連合との最終決戦の為に月の裏側に隠していた赤服エリート兵による秘密艦隊だ。

連合の月面艦隊の妨害に遭ったため、最終決戦に間に合わず、ザフト再起の時を期して地球から見えない位置に駐留していた彼らだが、銀河帝国軍の悪辣なる所業に反撃の狼煙を上げるべく、今こそ出撃をするのだ。

 

 

「勇ましきザフトのエリート達よ!聞け!今日こそ我らの青き清浄なる星を取り戻す時だ!母なる大地を汚す蛆虫どもを蹴散らして我らの優秀さを世界に轟かせるのだ!」

 

秘密艦隊隊長のイザーク・ジュールは旗艦の艦橋に立ち、兵士達を鼓舞する。

その絢爛さに兵達の死期は上がり、次々と地球に向かって発艦していく。

 

「一番槍をあげた者には報酬を賜るぞ。そして敵将の首をあげた者には望むがままの褒美が得られることを約束しよう!」

 

『目標!地球の日本!全砲門解放せよ!ファイエル!!!』

 

戦艦から放たれた無数のメガ粒子砲が日本全土を飲み込んでいく。もはや虫の子一匹もの生かしておくかという執念が感じられるほどの周到な砲撃で、もはや日本に着弾していない場所などひとかけらもありはしなかった。

 

 

この光景を見たザフト兵は後に語る。

私はこれでもザフトでは古参の兵でして。

開戦初期の一週間戦争はもちろん、ルウムでの艦隊決戦にもザクに乗って戦ってたよ。

あのときの砲撃戦は今でも夢に見るぐらい恐ろしいものだった。

だが今回のこれはそれを遙かに上回る圧倒的な破壊だったんだ。

何しろ当時の数倍の艦隊が出撃して、しかも弾よ尽きよとばかりの大盤振る舞いだ。

あのときばかりは私はザフトの兵で良かったと思いましたよ。

流石にこれなら日本に展開した帝国軍は壊滅した。

そう思っていた時期も私にはありました。

 

 

すべてを灰燼と化したと確信を持ったザフト艦隊は無造作に日本上空へと降下を開始した。

だが、次の瞬間、艦隊を濃密な対空砲火が襲いかかった。

 

「なんだと!!日本はもう消滅したはずだ!一体どこからの攻撃だ!」

 

イザーク隊長は驚きのあまり隊長席から転がり落ちて叫ぶ。

 

なんと日本には猛烈な風が吹いて、砲撃は全部海へと反らされていた。

 

「こ、これは・・・神風か・・・」

 

日本は猛烈な山岳地帯だ。高い山から低い地へと常に強い風が吹いているのだ。しかも上空から砲撃を受けると、砲弾の熱でとてつもないダウンバーストが発生する。そしてその風によって砲撃はすべて反らされてしまうのだ。これが大陸から攻め込んだ蒙古軍すら打ち破った神風なのだ。

 

「こうなったらMS戦だ!全MS出撃せよ!」

 

秘密艦隊の大型戦艦は一隻当たり三個大隊のMSを搭載可能だ。それらが一斉に降下中の戦艦から出撃する。

それは夜空に大量の流星群が現れたような光景であったと後の歴史書には記載されている。

 

しかし帝国軍も負けてはいない。ブラジルから海を渡ってやってきた帝国軍は水陸両用の武装を持っているのだ。

陸地だけではなく、広大な太平洋からも迎撃攻撃が殺到する。

 

特筆すべきは帝国軍の核ライフルだ。

通常の歩兵用ライフルと同サイズだが、なんと銃弾がすべて超小型の核弾頭を搭載している。指の先ほどのサイズの核弾頭だが、広島型原爆と同等の破壊力があるのだ。なので、歩兵銃でありながら、MSを撃破可能な威力を有していた。

射程こそ五百メートルも離れれば狙うのは難しいが、歩兵は遮蔽物に身を隠しながらMSに接近できるので、距離を詰めるのも容易い。がれきの間を縫うようにMSに近づき、足下から胴体へと核ライフルを斉射すると、たちまちキノコ雲を伴う強烈無比な爆発がMSを襲う。そしてMSはたった数発で粉微塵となってしまう。

 

「へへ、一発一ドルのライフル弾で一機1万ドルもするMSを撃破されるんだ。ザフトの経済力がどれだけ高くてもあっという間に破産だぜ」

 

帝国兵は顔をニヤけさせながら、戦果を誇らしげに語る。

 

だがその核爆発の中、無傷で疾走する小隊がいた。

 

「だ!だめだ!核ライフルが効かねぇ!しかも爆発を受ける度にエネルギーを吸収していやがる!」

 

それは三機の突撃用MS、ドムだ!

 

ドムは他のMSと違い、核動力を搭載しているのだ。

つまり、核攻撃はドムへと核エネルギーを供給させてしまうのだ。

 

しかも、そのドムは全身を黒く塗装していた。

 

「あの、黒いドムは!黒い三連星だ!」

 

そう、彼らこそ、ザフトのエリート中のエリート。なのに頑なに赤い服を着ようとせず、改造した黒軍服に身をまとった偉丈夫三人組、黒い三連星だ。

 

そして狼狽える帝国軍に黒い三連星の必殺技が襲いかかる。

 

「ガイア!オルテガ!マッシュ!ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」

 

「おうよ!ガイア様の力!ここで見せてやる!」

 

「オルテガもいるぜ!」

 

「やれやれ、二人とも血の気が多過ぎですよ。冷静なのはこのマッシュ様だけですね」

 

「「「「ジェットストリームアターーーーック!!!」」」」

 

三機のドムが一列に並び、縦横無尽に戦場を駆け抜ける攻撃だ。

その威力たるやとてつもなく、あっという間に敵軍団を二分してしまう。

 

核攻撃の帝国軍、核動力MSを主軸に立て直すザフト軍。

一進一退の攻防が続く中、日本の自衛隊も出撃を始めようとしていた。

 

 

国会議事堂。

特別臨時会議。

 

「日本は今や戦場です!今ここで自衛隊を出さねばいつ出すというのか!」

 

自演党の海田総理は熱弁を奮う。

だが、よく考えて欲しい。日本はアメリカと安全保障条約を結んでいる。そして日本は憲法で戦争をなくすと明言しているではないか。自衛隊は違憲なのだ。だが海田総理はこれを期に無理にでも自衛隊を戦場へと立たせ、名実ともに日本軍へと変えて、自分の私兵として日本を制圧する気なのだ。なぜなら海田総理は自由惑星同盟の傀儡なのだから。

それに気づいた野党は当然猛反対してアメリカ軍を出撃させるべきだと主張した。

 

だが海田総理が指を鳴らすと、扉から自衛隊がなだれ込んできて、野党を全員射殺してしまったのだ。

 

「くくくっこれで邪魔な野党は消えた。これからは俺が自由惑星同盟の派遣代官として日本を征服するのだ」

 

海田総理はなんと、すべて計画的な犯罪だったのだ。これが自演党の党名の真の意味である。

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間20分。

こうして日本は自由惑星同盟の植民地となった。


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