銀河英雄ガンダム 作:ラインP
瞳と瞳が合う瞬間好きだと気づいた。
ムウラフラガ少佐はセンチネルの6倍率スコープで、こちらを狙う狙撃手と瞳が合った瞬間、全身が焼けるように熱くなるのを感じた。
これが恋か。
向こうも燃えさかる心を抑えきれないとばかりに身を捩る姿が見える。
リングの安全地帯まであと僅か、そんなときにばったりとあったスナイパー同士。
銃口を向け合うことにより素直な心に気づくとはなんたる皮肉。赤く染め上がる視界。
未だに身体の熱は静まることを知らない。
だが、お互い、この地獄のようなApexで戦い合う定め。
恋などと言う邪念に心乱されるわけには行かない。
もっと冷静になれ、ムウラフラガ。
ボディーシールドは未だ無傷。シールドバッテリーも6本ある。
ラウンド3が始まる音がする。
だが貴様の最終ラウンドはここだ。
俺のセンチネルが恋心と共に貴様を撃ち抜く。
そんな想いとは裏腹に、俺と奴は互いを見つめ合ったまま時が止まるのを感じていた。
熱い…なんて熱さ…恋とはこんなにも身体を苛むのか。
結局お互い見つめ合ったまま、俺も、奴も、赤い世界に身を横たえる事になった。
インカムからは野良で知り合った仲間の罵る声が流れてくる中、デスボックスへと姿を変えていった。
「糞がっ!何が俺は連合の鷹だ!ただの馬鹿野郎じゃねーか!そりゃ恋じゃなくて単なるリングダメージだっての!だからいつまでも芋ってないで動けって言ったのに!ファッキンスナイパーが!」
悪態を付きながらロイエンタールはフラットラインを抱えて名古屋の郊外を走り抜ける。
名古屋城のシャチホコの上に陣取った馬鹿なスナイパーは迫り来るリングに飲まれて死んだ。
もう一人の野良仲間はドロップシップ降下時から激戦区にソロ降下して開始10秒で箱になりやがった。しかも延々とシグナル鳴らして糞うざかったし、Fワード盛りだくさんな罵倒もしてきたので、速攻ミュートとブロック入りだ。
ランクマは遊びじゃねーんだよ!ガキはオフゲーでもやってろ!マジで野良Apexは地獄だぜ。
ラウンド3にもなると安全地帯が狭まり、敵とのエンカウント率が高まる。ちょっとでも不用意に物陰から飛び出せばあっという間に蜂の巣だ。郊外の廃屋の合間を見つからないように駆け抜け、次のリング内までなんとかたどり着いたときは緊張と疲労で汗だくになっていた。でもここから先は遮蔽物が少ない。次のラウンドでどうリングが収束するか、それによっては難易度が跳ね上がるだろう。
残りの部隊数はまだ12部隊。しかも残り人数は12部隊で34だ。つまり俺の部隊以外は3人フルで残ってやがる。俺のロールはサポートで、ソロで戦えるようなアビリティは持ち合わせていない。だが、本来サポートは仲間がやられても、レプリケーターが有ればバナーをクラフト出来て蘇生させることが出来る。
だが、今まで常に後手後手で逃げ回っていたせいでクラフトポイントは全く貯まっておらず、クラフト素材がある場所はリングの反対側。それに加えて危険を冒してまで、さっきのアホ二人を蘇生させるメリットが全く見えない。
今シーズンはキル数より最終生存順位が高い方がポイント配布の量が大きくなるように調整されている。なのでここはやはり隠密が一番だろう。
仲間のキャラアイコンの横に有るボイスマークには最初に死んだ馬鹿が未だに罵ってきているであろう点滅がひたすらしている。だがミュートした俺には関係ない。
とここで、俺のフレンドからメールが届く。
「くそがああああああああああああああ!!!!」
そのメールを見るや、俺は雄叫びを上げた。
どうやら馬鹿がリアルタイムで配信をして俺のことを『味方を見捨てて隠れているどうしようもない地雷』だと吹聴しているらしい。
しかも顔と声が良いらしく、女性信者が熱心に賛同していて、しかも俺のツブヤイターアカウントを特定して絶賛炎上中らしい。
どうしてこうも踏んだり蹴ったりなんだ…。
もう何もかもが嫌になって、俺はPS4の電源をそっと押した。
「ロイエンタール閣下、出撃のお時間です」
ちょうど良く侍従が声をかけてきた。
この恨みはリアルな名古屋を灰燼にすることによって晴らすしかあるまい。
キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間22分。
ロイエンタールは熱く燃える怒りを胸に出撃するのだった。