銀河英雄ガンダム   作:ラインP

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第二十二話 勝利の栄光を君に

深夜二時。千葉県九十九里浜。闇夜が広がる海原に音もなく無数の黒い影が浮かび上がる。

それらは全身を黒い甲冑に身を包んだ異形の戦士達。帝国軍が誇る黒色槍騎兵だ。

遙かブラジルにある帝国軍本部から懲罰艦隊本隊に先駆けて海を渡ってきたのだ。

彼らは闇に住まう住人。音を立てずに誰にも気づかれず、敵陣へと一番槍を遂げる益荒男である。その形相は正に歴戦の鬼。毛むくじゃらで厳つく、見るもおぞましい傷だらけの顔を誇らしく隠すこともない。年端もいかない少女が見れば悲鳴を上げて失神するであろう。そんな奇怪な兵隊達が数万と群れをなし、だが物音一つ立てずに徘徊しているのだ。その手にもつはこれまた機械な兵器達。人類の悪意を凝縮したかのような破壊的魔力を感じさせる大きな銃。それを男達は大事そうに抱えている。それらこそ彼らの愛すべき伴侶である。彼らはその銃と共に生き、そして銃と共に死すのだ。銃が喜びの銃声を轟かせるときは彼らも凶相を喜びに歪めて笑い声をあげ、そして銃がガラクタとなり地に落ちるとき、彼らの命もまた地獄の底へと墜ちていく。その絆の深さたるや、まさに深淵の如く。故に彼らの愛は薄っぺらな神の教えよりも遙かに尊いのだ。

彼らは今日もその愛を腕に抱きしめ、死を振りまくためにこの地へとやってきた。

 

彼らは無言で闇を駆け、手近な家々に忍び込む。そして眠りに落ちた無垢の民を永久のヒュプノスへと誘っていく。百万都市と言われた銚子の町は瞬く間に死の都へと姿を変えていく。だがその事実に誰も気づかない。誰も気づけない。彼らの姿を誰も見ることも出来ずに黄泉路へと旅立っていくのだ。遙か銀河の先からやってきた這い寄る混沌からは仏陀ですら逃れられないだろう。それが弱肉強食の恐ろしさだ。この千葉の地では黒色槍騎兵こそが食物連鎖の頂点に君臨する怪物であるのだ。そして彼らの王、猛将フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトは皇帝より賜ったペットの王虎、ケーヒニス・ティーゲルに跨がり、その侵略に愉悦を感じていた。巨躯の彼の手には哀れにも捕まった幼子が胴体を捕まれている。ビッテンフェルトはその幼子の頭を大きな口に入れると首から上を囓り取り、一口で頭まるごと食してしまった。バリッ…ボリッ…。沈黙が墜ちる死の都にビッテンフェルトの咀嚼する音だけが響いている。ここが現世に現れた真なる地獄ではないか。仮にこの光景を見ている者がいたならば、まさしくそのように思っただろう。死者が見ることができたのならばだが。

 

だが、そんな無敵かと思われた彼らも、日の光を見ることなく潰えることになった。

 

突如と起こった震度10の大地震が彼らを襲ったのだ。

 

こうして千葉の住民と共に、帝国軍の先鋭である黒色槍騎兵と猛将フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトは歴史の闇へと消えていくのだった。

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間24分。

海田総理の鬼謀により、千葉を巡る戦いは一夜のうちに終わりを遂げた。

 


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