銀河英雄ガンダム   作:ラインP

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第二十話 帝国の悪意

 

 

物資集積所。

それはこのゲームでの弾薬や各種薬品などが詰め込まれたコンテナが集まっている場所である。

そこを制圧できたものはこの戦いで大いに優位に立てるが、それ故に、そこは激しい攻撃に晒される可能性が非常に高い。

 

20人ほどのグループで構成された集団が占拠しているこの場所もその一つであり、現在狙撃手の攻撃に一人、また一人と倒されているところだ。

 

 

「くそ!相手はどこだ!よく探せ!」

「身を隠す場所なんてないはずなのに一体どこに隠れてやがる!」

 

 

男たちがいる物資集積所があるのは地平線まで遮蔽物がない草原地帯。

生えている草も踝あたりまでしかなく、伏せていてもすぐに分かるはずだ。

なのに一向に狙撃手の姿が見つからず男たちは右往左往している。

そんな彼らを嘲笑うようにまた銃声が聞こえた後、一人の眉間が撃ち抜かれる。

相手が見えているならこちらからも見える位置にいるはず。常識的に考えればその通りなのだろう。

だがそれは相手が同じ体格という前提の上でのことだ。

高台も何もない場所の彼らは4キロ先を見通すのが限度。

だが実は狙撃手は遥か彼方にいたのだ。

 

 

 

仁王立ちしたザ・魔雲天は無表情に構えていた狙撃銃のボルトを引き、次弾を装填する。

 

「これで3人目だ、やつら、こっちの姿が見えずに慌てふためいてやがるぜ。まぁ見えるはずなんてないんだがな」

 

それもそのはず、ここはキルゾーンとなっているやつらから遠く離れている。

一般的に水平線が見える距離は4キロほどである。つまり相手と同じ高さからの狙撃では4キロ先までしか見えないのである。

だがザ・魔雲天の身長は285m、平均的な成人の約170倍である。

つまり4キロの170倍、680キロ先まで視認して狙撃可能なのだ。

その限界ぎりぎりの680キロ地点からザ・魔雲天は延々と狙撃していた。

 

 

相手からはこちらを見えず、こちらからは狙い放題。

ザ・魔雲天はその体格を活かした狙撃技術でこの銀河でもムウ・ラ・フラガに次ぐ凄腕スナイパーとして活躍していた。

もちろんMS操縦技術もすさまじく、M1アストレイで敵戦艦の艦橋だけを正確に撃ち抜くというスゴ技でヤキンドーエの戦いで大活躍していた。

ただし、彼の乗れるサイズのM1アストレイは特注品で製造コストが高いため、1機しか製造されなかったが。

それでもキラヤマトたちのサポートとしてエターナルに乗り込み一緒に戦い抜いた猛者ではある。

 

 

ザ・魔雲天は黙々とそのまま狙撃を続け、10人ほどを撃ち抜いた頃には、残り少ない敵は恐慌状態に陥り、せっかくの物資をそのままに逃走に移った。

だが、そのまま逃がしてやるほど彼らは甘くない。

 

「シェーンコップ、ユリアン。敵の掃討を任せた。俺は漁夫が来ないか周りを警戒する」

 

「まかせろ!薔薇騎士の力を見せてやる」

「アララララーーーーッイ!!!」

 

シェーンコップは勇ましく走りぬけ、それに続いてユリアンも雄たけびを上げながら突っ込む。

彼等の健脚は長い軍人生活で鍛え上げられており、元々娯楽として参加していた一般人の彼らの足では到底逃げることも叶わず、すぐに追いつかれることになる。

 

容赦なく弾薬を逃げる奴らにプレゼントしてやり、逃げ出して数分後には全員地に伏せることになった。

二人は生き残りがいないか用心しながらも彼らの弾薬ポーチや武装を奪っていく。

 

「うへぇ、シェーンコップの旦那。まだ10歳にもなってないガキまでいやがるよ、マジでイカれてやがるなこのゲーム」

「どうせ家族サービスとかで来た観客だろう。こうなったのも親の責任だ」

 

ユリアンは動かなくなった小さい遺体を足で転がして上向かせ、それが年端もない少女だったことに嫌悪感を示し唾を吐き捨てる。

それでも弾薬ポーチや所持品を取ることには躊躇わない。

軍人として鍛えられている鋼の精神である。

そんな時、ターンと乾いた銃声が響く。

 

「アブねぇ!もう少しで頭吹っ飛ぶところだった!」

 

ユリアンは少女の服の下にチョコバーが隠されていることに気づき、屈みこんで少女の服の下をまさぐったタイミングだったため、奇跡的に銃撃を避けることができた。

すぐさまユリアンは銃声の元へと走りこみ、蹴りをお見舞いする。

蹴り飛ばされたのは先ほどまで遺体だと思っていたひとつ、こちらもまだ10歳にもなっていない少女だった。

先ほどの少女と瓜二つなのでどうやら双子らしい。

 

「お姉ちゃんの…お姉ちゃんの仇…」

 

その少女は左足が銃撃で吹き飛び、逃げることも叶わず伏していたのだろう。

幸い、ユリアンは状態からして死んでいると思っていたので、そのまま死体の振りをしていれば生き延びることもできただろう。

だが双子の姉が足蹴にされているのを見てカッとなって銃で撃ってしまったのだ。

 

 

「かわいそうに、これもこのゲームの犠牲者というわけか」

「旦那、このままにしてたら無駄に苦しめちゃうだろうし、一思いに楽にさせてやったほうがいいんじゃないですか」

「そうだな、もし日本の軍人に見つかったら性の奴隷として拉致されてしまうだろう。彼女の尊厳を守るためだ。仕方ない、悪く思うなよ」

 

 

シェーンコップは苦しまないようにとテルミットグレネードで彼女に死を賜ることにした。

激しい炎に包まれた彼女の断末魔に、この世の無常を感じ、ホロリと涙を流してしまう彼らを軍人として軟弱だと誰が責められようか。

 

 

「おのれ、銀河帝国の貴族どもめ!このような悪辣なことがいつまでもまかり通ると思うな!いつか俺が世界を革命する!」

 

若き心を義憤に燃やすユリアンをシェーンコップは頼もし気に見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間30分。

ユリアン・ミンツは嘗てないほどの激しい戦闘で倒すべき敵を改めて認識するのだった。

 


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