銀河英雄ガンダム   作:ラインP

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ただいまニッポン!
GWは皆さん楽しめましたか?

お伝えしてなかったですが、高校入学して文芸部へと入部しました。
今回のお話を作るにあたって、本小説を文芸部顧問の先生に見てもらいました。

指摘として、情景描写が少ない、著者の思想を主張するべき、読者への啓蒙を促す話にすべきと指導されました。

そういうわけで、今回の話は一旦かきあげた後顧問の先生に添削してもらいました。
政治や思想などよく分からなかったけど、顧問の先生が学生ならばこうあるべきと熱く語ってくれたお蔭でいろいろリアリティのある話になったと思います。

また、戦争なのだからもっと戦争の悲惨さを訴えるべきだと言われ、先生が集めた戦争体験談などを盛り込んだ結果、ちょっとグロい展開も出てきます、ごめんなさい。

なのでそういうのが苦手な方は回れ右おねがいします。




第十五話 カガリの戦い

コロニー入り口の長いトンネルを抜けると港町だった。

深々と降る雪の中、艦隊は一隻、一隻と、コロニー内に作られた人口の海へと着水する。

その度に波が立ち、無数の波紋となり、流氷浮かぶ冬の海を彩っていく。

水兵達は馴れた手つきで錨を投げ込み、それがまた新しい波紋を作り出し、艦橋からそれを見ているクルー達の目を楽しませる。

港では地元の宇宙漁師達が着崩したノーマルスーツの襟元に巻いた手拭いを両の手で擦りながら巻きつけ、外からのお客さんを物珍しげに見ながら焚き火で暖をとっている。

「こんな軍人さんがたくさん来らっしゃるとわ、プラントとの戦以来かぁ」

戦前生まれらしい初老の漁師が若い頃の出来事を思い出し、何事もなく出て行ってくれればと小さく呟く。

「あぁ爺さんの親御さん、あの戦争で…」

「うんだ、わしの両親はあの戦争で両方ともな。親父の方はまだ乳飲み子だったのに、奴らコーディネイター達に何度も槍を体に突き刺されての。妊婦だった婆さんはそんな親父の命乞いをしたのに、冷たくなっていく親父の横で兵達に三日三晩乱暴されて、最後は裸のまま腹を裂かれて、中にいたわしの母親を取り出し笑いながら井戸に放り込んだんさ。まさに鬼畜の所業じゃ」

「酷いことをするのぉ。コーディネイターは試験管からさ産まれるもんだから、人の情というもんが分からないんべさ。だから惨いことも平気さ顔で出来るんさ」

そう話してるうちに、船から兵達が次々と上陸しては小隊ごとに散開して次々と港を制圧していく。

噂話をしていた漁師達も兵達がタタタンッと銃を左から右へと動かすことで口を開くことのないモノへと変えられていった。

その後、アークエンジェル艦隊が港町を制圧完了するのにはさほど時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

第一銀河が消滅した後、アークエンジェル艦隊は第一銀河跡を通り過ぎ、第二銀河方面に100光年ほど進んだ先にあるコロニー群に来ていた。

 

そこはアメノミハシラを中心としたコロニー群、つまりオーブ連合首長国である。

アークエンジェル艦隊は補給のため、そのコロニー群の中の一つ、再建されたヘリオポリスへと入港していた。

 

「懐かしいわ、あの頃のままね。ここでザフトに襲われてストライクガンダムに乗って戦ったのは忘れられない記憶だわ」

 

マリューラミアス提督は港の工場を見渡して感慨深く深呼吸している。

周囲の安全が確保されている為、少数の護衛兵と共に制圧した施設を視察していた。

港がある海からは少し強めの潮風が吹き、磯の香りが濃厚で、戦争で疲れた心を癒してくれる。

海には5万を超えるアークエンジェル艦隊が浮いている景色が風情を損ない、少し残念ではあるが。

 

「ラミアス艦長!お久しぶりでーーーす!」

 

海を隔てた先にある山の尾根から声が響き、ラミアス提督が仰ぎ見れば、そこには逆光を背負いガイナ立ちで立っている女性がいた。

まばゆい光を手で遮りながら、訝しげに見るや、その女性は「とうっ」と掛け声一つ、崖から飛び立つ。

アッと悲鳴をあげる間も無く、その女性はヒラリヒラリと木の葉のように舞い、海から捲き上る強風に煽られるや、上着をひろげ、ムササビの如く滑空する。

あにはからんや彼女はそのまま五里もある海をなんとなんと馴れたように飛んでくるではないか。

此れにはラミアスも目を剥いて仰天する。

しかししかしよく考えれば、ここはコロニーの中。

つまり無重力、故に理論的には可能であるが、はたして其れを為すとは飛んだじゃじゃ馬娘である。

はて、そんなじゃじゃ馬に一人覚えがあるではないか。

ラミアス艦長がその人物を記憶から掘り起こそうとするやいなや、アレレと戸惑う声とともにあらまぁその女性は体勢を崩し、海を漂う流氷へと頭から叩きつけられ、椿のような真っ赤な華を海面へと咲かせる。

これはいけない、早く誰か助けねば。

その光景を見ていた水兵達は戸惑いつつも浮き輪だの荒縄だのを手に取り慌たゞしく海へと飛び込もうとする。

だがその直前、水没した場所から巨大なビームが連続して飛び出してくる。

海面の分厚い流氷を幾条ものビームが切り裂いた後、海面がせり上がり、大型のビームランチャーを高く掲げたピンク色のモビルスーツ、ストライクフリーダムルージュが現れる。

それが現れるのに合わせて、港の埠頭にいるオーケストラの楽団が「ワルキューレの騎行」を演奏しだす。

一歩、二歩、とその機体は厳かにビームを撃ちながら港へと上陸してくる。

そしてマリューラミアス提督の正面へとやってきたその機体のコックピットが開かれる。

コックピットから丸まった赤い絨毯が落とされ、マリューラミアス提督の元まで転がり、いわゆるレッドカーペットの道が出来上がる。

 

「オーブ連合首長国永世女王!カガリ・ユラ・アスハ女王のおなーーーーーーりーーーーー!!!」

 

いつの間にか機体の足元に立っていた年老いた大臣が声を張り上げると、レッドカーペットの脇にずらりと並んだ儀仗兵が捧げ銃をし、管弦楽団による勇ましいオーブ国歌が演奏される。

マリューラミアス提督と水兵たちは自然と最敬礼を取り、彼女が現れるのを待つ。

国歌の演奏が終わり、漸くコックピットから人影が現れる。

その姿は全身に宝石を散りばめた豪奢なドレスとアクセサリに身を包み、10万カラットを誇る超特大の人工ダイヤモンドを先端につけた王杖を手に持った女王、カガリ・ユラ・アスハだった。

その王杖はカガリ・ユラ・アスハの古き祖先が住んでいたジパング国のエンペラーに代々伝わっていたムラクモソードを、当時ジパング総理だった初代アスハがジパング国から独立する際に記念として持ち出し、ジパングより優れていることを示すために鋳直して作らせた特注の王杖である。

初代アスハ首長はオーブ独立戦争時に先陣に立ち、その王杖を振るいオーブ諸島先住民の頭を次から次へと叩き潰し、英雄となったのだ。

先端の20キロのダイヤは見栄えだけではなく、ハンマーして用いられ、先住民の血が絶えてオーブ諸島を真に解放するまでに何万という先住民の血を啜ってきたため、妖しいまでの輝きを放つようになっていた。

そのような歴史的背景から、それを代々受け継ぐアスハ家の正統性が保たれている国宝だ。

初めて生で見たラミアス提督はその輝きに一体いくらで売れるだろうかとつい皮算用するほど感動していた。

 

「ラミアス艦長、息災でなりよりだ。最後に会ったのは2000年ほど前だったかな」

 

女王として悠久とも言える長い時間を君臨し続けたカガリの声は自然と襟を正させるほど威厳にあふれていた。

 

「私の主観ではまだ1年も経ってないのですが、ウラシマ効果で2000年以上の年齢差が出てしまいましたね。もうおねしょはしなくなりましたか、カガリ女王」

 

「もうこの体は全身サイボーグでね、生身の部分なんて残ってないのだよ。もちろん記憶データはリアルタイムで分散バックアップは取られているし、培養されている生身の体もあるんだが、2000年も生きていると肉の欲求というのも枯れ果ててね、利便性を考えるとやはり機械の体のほうが全然面倒が少なくていい」

 

ラミアスの冗句に答えるようにカガリも顔を開き、機械仕掛けの内部を見せながら切り返す。

 

カガリ・ユラ・アスハは2000年前、ジェネシス要塞崩壊後、アークエンジェル艦隊がワープしたことを聞き、将来的にオーブへと寄港する可能性を考え、クローン技術と記憶転写技術を駆使し、老化するごとに何度も若い肉体へと記憶を入れ替え、記憶を永続化することによる不死化を実現させ、現代まで生き延びていた。

更に2000年という時間の流れは科学の飛躍的発展を遂げさせ、全身を機械化することを可能とするまでに至っていた。

とはいっても、その維持費は膨大なものであり、一般市民どころか富豪であろうとも難しいものであった。

全身サイボーグ化ならば高額ではあるがなんとか購入できるだろうが、リアルタイムの記憶のバックアップはデータ量が膨大になるため、富豪でも定期的なバックアップに留まっている。

カガリ・ユラ・アスハは数億テラバイトもの記憶データを複数同時に保存するため、コロニーと同等の大きさを誇る巨大ハードディスクをオーブコロニー群の中にいくつも建造して維持しているのだ。

1日の維持費はまさに膨大で、1億人の1年分の生活費が1日で飛んでいくほどである。

これを維持するため、オーブでの消費税は300%である。

 

閑話休題

 

そのような理由で現在まで生き延びているカガリだが、彼女の表情には翳りがあった。

 

「ラミアス艦長。この2000年、私は自分の全てをかけてより良い国家を作るために奔走してきたつもりだ。私心を捨て、民の安寧を望み、全ての民が手を取り合い笑顔で暮らせる社会を作る為に」

 

そう言ってカガリは港を見渡す。

港に停泊している様々な漁船。

ラインハルト軍に察知される恐れがるためこの度の寄港は極秘であった。

そのため、目撃者として処分された先程の漁師たちの船であった。

現在、その船の中を兵たちが火炎放射器で掃討している。

火炎放射器から業火が船内を蹂躙する度に身の毛もよだつような老若男女の断末魔が聞こえてくる。

時に、中から炎に包まれた小さい人のようなものがまろびでてくる。

その人の形をしたものは体を焼く炎を消そうと海面へと身を投げ出し、そしてぷかりとその身を浮かす。

見るとまだ10にも満たない少女ではないか。

全身が焼けただれ、すでに事切れている少女を悼ましげに見つめるカガリ。

 

「あれは蟹工船ですよ」

 

「蟹工船?」

 

聞き覚えのない単語に疑問を浮かべるラミアス提督。

 

「宇宙タラバガニが富裕層に高値で取引されていてね。それを取って船の中で缶詰に加工するために、大資本の企業が寒村などから二束三文で人買いをして船に閉じ込め働かせているんですよ。碌な食事も与えられず、ノーマルスーツすら着させないので放射線で宇宙病にかかり、死んだら宇宙へと投げ捨てられて、また新しい貧民を買ってくる。その繰り返し。お蔭で寒村では常に若者が不足して幾ら国が支援しようが貧しさから抜け出せず、大資本の一部の勝ち組だけが肥え太るだけ。今では貧富の差が覆しようが無いほど」

 

カガリの言葉にラミアス提督は怒りの声を上げる。

 

「そんな!貴方は女王でしょ!制度の改正や法律などで取り締まれなかったの!」

 

「やったさ!何度もやろうとしたさ!でも私にはそれを押し通す力がなかったんだ!」

 

カガリは悔しさの余り声を張り上げる。

 

「大資本の企業を支配しているのは国の中枢の氏族家たちだ。私がそんな彼らの損になる救済政策をどれだけ提案しようが、全て他の氏族家に潰されてしまった。アスハ家がなんとか運用した資産で救済しようとしても焼け石に水。中には同じアスハ家内でも私を疎んじる者たちまで出てくる有様だ。そしていつからか私は軍事力も削ぎ取られ、本当のお飾りに仕立て上げられてしまった。せめて、せめてアスランが居てくれれば…」

 

「まさにインテリ共が考えそうな事ね」

 

憎々しげに呟くラミアス提督。

 

「資本主義の豚共が、私達軍人がどれだけ命を削って私心を廃し戦っても銃後が腐ってしまっては勝利の栄光なんて虚しいだけだわ。やはり連合議会ごと消しておくべきだったのね」

 

「ああ、2000年前に軍部主導で国造りをするべきだった。資本主義へと舵取りした結果がこの腐敗の原因。若き日に夢見た共産国家を力づくでも作るべきだったんだ。すべての利益は全ての国民に平等に分配されるべき。それをあの資本主義の豚どもが美辞麗句で塗布した論説で発展だのなんだのといった弁舌を許したために、知識のない大衆が煽動され、私まで騙されてしまった。若さというだけでは済まされない痛恨の失敗だ」

 

「だけど今私達がここにいる」

 

ラミアス提督は強い眼差しで訴える。

 

「ああ、ラミアス艦長たちが来てくれるのを一日千秋の思いで待っていた。奴らはフェザーンとも手を組み甘い蜜を長い期間吸っていたからこそ、今更私が牙を剥くなど全く考えてない。危機感なんてものは遥かイゼルローンの向こう側まで長期旅行中だ」

 

カガリはラミアス提督、そしてアークエンジェル艦隊の兵士たち全てを見渡し、力強く声を張り上げる。

 

「親愛なるラミアス艦長、そしてアークエンジェル艦隊の将兵たち。帝国軍との戦いの最中である諸君らの負担は重々承知している。だがそれでもあえて私は希求する。今こそ諸君らの力を持って、資本主義企業の殲滅を、共産国家樹立の為の助力を要請する。新体制確立後は全力を持って諸君らの帝国打倒の支援を女王カガリの名のもとに誓おう」

 

『イエス・ユア・ハイネス!!!!』

 

こうしてアークエンジェル艦隊の資本主義打倒の戦いが始まった。

 

 

 

オーブコロニー群、346番コロニー。

そのコロニーは大資本を誇る大企業346プロダクションが所有するコロニーである。

346プロダクションは蟹工船で稼いだ資本を元に、見目麗しい女性たちを買いあさり、アイドルとして活動させる芸能企業である。

様々なタイプのアイドルで一般大衆から満遍なく富を搾り取り、また、富裕層からは特殊な接待をさせることによって政治的配慮を引き出すことにより、ここ数百年で急成長した巨大企業である。

346型コロニーは346企業だけで運営されている。

それは買ってきた、または攫ってきたアイドルたちが逃亡しないように、また罪悪感で心を病んだ社員が内部告発することを防ぐためでもあった。

346コロニーには150億人が生活していたが、そのような理由で、その全てが346社員とアイドルだけであった。

 

 

アークエンジェル艦隊所属の765分隊、双子戦艦アミマミと平面空母キサラギの3隻が346コロニーへと接近し、攻撃を開始した。

それはもはや戦いとは呼べないまでの一方的な蹂躙だった。

 

「打倒悪徳企業!囚われた少女たちを助け出すんだ!」

 

765分艦隊の指揮官プロデューサー大佐の掛け声とともに、戦艦から何百もの核ミサイルが釣瓶撃ちされ、346コロニーは抵抗虚しく数瞬後には原型を留めない有様となる。

その後、空母から発艦したモビルスーツ隊が残骸となった346コロニーへと侵入。

囚われていたアイドルたちの救出に成功する。

 

「所属アイドル5万人のうち助けられた少女たちは隔離区画へと監禁されていた100人ほどか。他の少女たちは恐らく資本主義者たちに殺されたんだろう。くっ、もう少し私達が来るのが早ければ…」

 

 

アークエンジェル艦隊の戦いは他のコロニーでも続いた。

数百の商業コロニー、工業コロニーを次々と制圧。

アスハ家以外の氏族は全て根切りされていった。

 

 

 

 

 

 

『神聖オーブ共和国、初代永世女王カガリ・ユラ・アスハ様のおなーーーーーーりーーーーー!!!』』

 

共和国建国後、新しく作られた女王専用コロニーにて謁見が行われていた。

 

アークエンジェル艦隊の活躍の元、オーブ連合首長国は解体され、新たに神聖オーブ共和国が建国されたのだ。

そして建国の儀が行われた後、様々な制度を制定した後、漸くカガリ・ユラ・アスハ女王とラミアス提督の謁見が行われることになった。

 

「ラミアス艦長、いや、ラミアス・フォン・マリュー侯爵。私をよくぞ助けてくれた」

 

マリューラミアス提督は資本主義打倒の功績を持って、侯爵の地位を与えられ、ラミアス・フォン・マリュー侯爵となった。

 

「カガリさん、いえ、カガリ女王。これで全ての民が平等に暮らせる理想の国ができあがったのね。私達がここオーブへと寄港してから、本当に長い戦いだったわ。でもそれでも、時間をかけた価値のある戦いでもあった。これで銃後の不安を抱かずに打倒帝国へと向かえる。例え何万年かかろうとアークエンジェル艦隊は帝国を打倒し、全銀河に神聖オーブ共和国の名を知らしめてくるわ」

 

ラミアス侯爵は誇り高いドヤ顔で敬礼した。

 

それを受けてカガリもまた威厳を持った顔でラミアス侯爵を送り出す。

 

「我が最高の友、ラミアス侯爵。例え何億年かかろうと、私は卿の帰還を待っているぞ」

 

二人が再び相まみえる保証などどこにもない。

これが本当の別れになるかもしれぬ、なのに二人は決して涙を見せようとはしない。

 

ただ全てを背負い戦う二人の戦士の顔がそこにはあった。

 

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間40分。

神聖オーブ共和国から新たに新造されて提供された艦隊100万隻と量産型デスティニーガンダム1億機、そしてそのパイロットとしてクローン培養された量産型クローンパイロット『シン・アスカ』1億人を連れて、アークエンジェル艦隊は第二銀河へと旅立つのだった。


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