銀河英雄ガンダム 作:ラインP
久々の執筆は楽しいですね。
勉強などしないで小説家として生計を立てるのも良いかもしれません。
ラインハルト艦隊旗艦
ラインハルトの昼食は未だ続いてた。
彼は優雅にデザートのよく冷えたアイスバインをスプーンで一匙掬って優雅に口へと運ぶ。
その姿はまさに雲上人の如く、気高く気品に溢れている。
アイスバインを口へと含み、その冷たさを目をつぶり少し顔を上げ、感慨深く味合うその姿は、彼の波打つような豪奢な長い金髪が良く映え、天へと吠えたける獅子を幻視させる。
それを見ているブリッジクルーたちは索敵や操舵などの業務をしばし忘れ、呆然と見惚れてしまっている。
獅子帝、貴族令嬢たちにもそう呼ばれ、黄色い悲鳴を上げられているが、その美しさは異性だけではなく、同性の兵士たちにも有効なようだ。
ラインハルトは、「美しいというのも罪なのだな」と内心苦笑を浮かべるが、これが兵にとって癒やしとなるのならしばし道化を演じるのもやぶさかでないと思い、指揮官椅子から寝台へと身を移し、より魅惑的に見えるように横になりながらアイスを食すことにした。
確かに涅槃の釈迦の如く、神々しいラインハルトが口の端から溶けたアイスバインをこぼして垂れるのお舌で舐め取る姿は、兵たちの股間をしたたかに強打することになった。
ブリッジにいたクルーは一人残らず前かがみになり、そそくさとトイレに駆け込み、そこからくぐもった声が響くのだった。
「ふっ可愛い奴らめ。それはそうとやはりアイスバインはチョコレート味に限るな。トルコ風もいいが、爽シリーズのアイスバインはシャリシャリしてて非常に美味だ。これはロッチの株をもう少し買ってやってもいいな。あそこは銀河連邦時代より前から連綿と受け継いだ爽アイスだけが大帝ルドルフ陛下に製造を認められたが、その理由がこの爽アイスバインだというのは高貴なる血を引く我らが貴族では常識なのだ。シャリシャリ」
爽アイスは至高。これは銀河帝国時代にも変わらぬ真理なのだ。
今日は本当に良い一日だ。なんか良くわからないがいつの間にかジャネシス要塞も吹き飛んでいるし、何より飯がうまい。
それだけでラインハルトはご機嫌なのさ。
アークエンジェルへの追撃?そんな無粋な事は食後の運動ですればいい。
そんなご機嫌な彼に来訪者が現れた。
食事中のラインハルトに声をかけられるとしたら、そう、彼しかいない。
「ラインハルト様!!!ご機嫌麗しくて不肖このキルヒアイス!嬉しく存じます!とりあえず只今地球より帰還しました!」
赤毛の副官。宇宙艦隊副司令のキルヒアイス・フォン・ジークフリードだ。
そう。フォンがついたのだ。
宇宙艦隊副司令になったので、ラインハルトから伯爵を名乗ることを許されたキルヒアイス。いや、今ではジークフリード伯爵だ。
太陽系を殲滅後にそこを領地として与えられることになっている。
なので、ここ1年ほど領地予定の地球を視察に行っていた。
「ふむ、キルヒアイスよ。予定では帰還は半年後ではなかったか?可愛い嫁さんを見つけてくると言ってはしゃいでいたではないか。何か問題でもあったのか?」
「ええ。ラインハルト様。実は冬木市でとある方々に出会いまして。おいお前ら、入室を許可しますよ。土下座しながら入ってきなさい」
「おおっなかなか板についてるな」
伯爵として威厳のある声を出して命ずるキルヒアイスにラインハルトもちょっと胸キュンだ。
キルヒアイスの声を聞いて恭しくドアが開く。
果たしてそこにいたのは、ジェネシス要塞が吹っ飛んださいに内部で戦っていたため戦死したと思われていた、ワンダー・フォン・シェーンコップとオフレッサーの二人であった。
「直言を許可します。この高貴なる私と次期皇帝ラインハルト様に状況を説明するがよかろう」
土下座で頭を地面に擦りながら部屋へと入ってきたシェーンコップはおどおどと帰還できた理由を説明する。
「あれはそう、我がライバル、エンディミオンの鷹がのるアカツキ改と戦っていたときです。
なんとか自慢の戦斧でアカツキ改の頭部を叩き割ったところで、自爆開始の放送が流れたんです。
頭部を叩き割ったので、当然それを装着している鷹が死んだと誤認した私はそばにいたオフレッサーと共に勇気ある転進を敢行することにしました。
ですが、さすがに大きい要塞。
揚陸艦まで到底辿り着けるはずもありませんでした。
アチラコチラでブラックホールが発生して、それをなんとか部下を押し込んで蓋をすることで生き延びていましたが、流石に限度があり、これはもうダメかもわからんね、とオフレッサーと相談していたときにたまたま入った部屋の掛け軸の裏に通路があることに気づきました。
ブラックホールも直ぐ側まで迫っていたので、これはやばいと、そこに飛び込んでみたら、そこが要人用の隠し脱出通路だったのです。
そして必死にその通路を駆け抜けた先が、冬木市の円蔵山の洞窟だったわけです」
「その洞窟こそが、私がラインハルト様から秘密裏に調査依頼されていた大聖杯が設置されている洞窟だったのですよ」
いい仕事をしたとふんぞり返って鼻を高くするキルヒアイス。
「ええ、伯爵様のおっしゃる通り、大聖杯を調査中だった伯爵様に助けられて戻ることができました」
「ふむ、要人用の脱出通路か。そんなのが一つの訳がないだろう。きっとエンデュミオンの鷹もそれを使って脱出した可能性があるわけか」
「ええ、ここ最近冬木市で金髪の青年を見たって噂がありましたから、きっと脱出したエンデュミオンの鷹のことかと思われます」
「くそう!俺が!俺があのときにシェーンコップにトドメをさすように言っていれば!そうすればミュラー提督は死なずにすんだはずなのに!」
オフレッサーが轟々と滝のような涙を流しながら戦場に散ったミュラー提督へと、すまんすまんと何度も言う。
その光景に流石にラインハルトもしんみりとした気持ちが湧いてくる。
「オフレッサー。お主の気持ち、とくとわかった。開発中の新型MS”ワルキュリア”をお主に渡す。ミュラーの敵、それで取るが良い」
「ラインハルト様!?ワルキュリアは戦局を打開する決戦兵器ですよ!あの忌々しいストライクフリーダムガンダムを倒すために5年の歳月をかけて開発してきた機体です!ワルキューレの500倍の出力、300倍の速度。ストライクフリーダムガンダムと比べても80%以上のポテンシャルを秘めた秘密兵器です!あれ1機で戦艦が1000隻作れるのです!それをこんなゴリラに渡すのは反対です!」
「ふふ、キルヒアイスよ。ゴリラは森の賢者と呼ばれるぐらい優秀なのだぞ。それにMSは格闘兵器。ならば装甲擲弾兵が乗るのが一番だ。戦艦乗りが乗っても扱いきれんよ」
「おおっラインハルト様。そこまで遠謀深慮の考えがあった上での決断ですか。さすが獅子帝とまで呼ばれるお方。感服いたします」
「ははは!そうだろう!いやいやお前も私の副官ならば少しは頭を使ってくれないとこまるぞ」
愉快げに声を上げて笑うラインハルト。
キルヒアイスとシェーンコップ、オフレッサーたちも和やかな雰囲気で紅茶を飲みながら歓談する。
だがそんなユーモア溢れる空気に突如の乱入者が!
「見つけたぞワンダー!」
そこに立つのは同盟軍の装甲擲弾兵だった。
「何者だ!」
シェーンコップは椅子を蹴り上げて闖入者へと相対する。
「ふふふっ俺のことを忘れたかワンダー・フォン・シェーンコップ。いや、ヘルマン・フォン・リューネブルクよ!」
「なんだと!!!その名を知っているとはお前もしや!」
そこで装甲擲弾兵は兜を脱ぎ捨てる。
「俺こそが自由同盟軍ローゼンリッター隊長!ワルター・フォン・シェーンコップだ!」
「「「なっなんだってーーーー!」」」
その名を聞いてラインハルトとキルヒアイス、オフレッサーの3人は驚愕の声を上げる。
「ど、どういうことだ?リューネブルクとは!シェーンコップ、説明せよ」
「くくく、バレてしまってはしょうが無い。そうよ、俺こそがヘルマン・フォン・リューネブルクよ!」
ワンダー・フォン・シェーンコップは顔の皮をおもむろに脱ぎ捨てた。
そこにはリューネブルクの本当の顔が隠されていたのだ。
「俺は自由同盟軍と帝国軍のダブルスパイだったのさ。いや、だったと言ったほうが良いか。今では俺はアークエンジェルのシズコ様の密命を受けたエージェント。いつか銀河帝国と自由同盟軍の戦争が地球に飛び火する可能性を察知したシズコ様がサモン・サーヴァントの魔術でこの俺を召喚し、契約したのさ。そして俺はワンダー・フォン・シェーンコップを名乗り、金髪の小僧の元で働きつつシズコ様に情報を送っていのだ」
「なんと!ではエンデュミオンの鷹のトドメを刺さなかったのは!」
オフレッサーが驚愕の声でシェーンコップに真意を問う。
「ふはははは!その足りない頭でよく考えてみるのだ。いくら私が天才だからといって、MSと生身の俺が対等に戦えるわけがなかろう。あの勝負も茶番だったのだよ!」
「「「なっなんだってーー!!」」」
再び驚きの声を上げる3人。
そして驚きで固まっている3人の脇をくぐり抜けるように駆け抜けたリューネブルクはブリッジの窓を体当たりで割り破り、旗艦から外へと逃げ去ってしまった。
すかさずシェーンコップがブラスターライフルを連射するが、巧みにAMBACで宇宙を泳ぎ逃げるリューネブルクに当てること叶わず、取り逃がしてしまった。
「ふむ、逃げられたのは痛いな。だが行き先はわかってる。アークエンジェルだ。ヤツの始末は私が直接つけたい。それまで私は客食として居座らせてもらおう」
シェーンコップはふてぶてしく指揮官席へと座り、残っていたアイスバインを口へとかきこみ、ああ懐かしいなこの味、とにこやかに笑みを浮かべる。
そんな彼を見て心強く感じたラインハルト。
「ああ、あの名に聞くシェーンコップならば、否もない。このラインハルトの手足となって戦うが良いぞ」
もちろん当然のように彼を受け入れる度量を見せるのだった。
平静を取り戻したかのように見えるラインハルト。
だが、彼は内心怒りに燃えていた。
ここまでこの私を愚弄したシズコ。絶対に許すまじ。
キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間44分。
今は遠くへと去っていったアークエンジェルへと再び闘志を燃やすのだった。