銀河英雄ガンダム   作:ラインP

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第十話 月からの来訪者

「やつら・・・食ってやがるのか」

 

装甲擲弾兵は死んだ兵士の体に群がり、その腹部をかぶりつき腸を咀嚼し、そして手足をもいでくちゃくちゃと食べている。

その様はまさに餓鬼のようで、美味しい美味しいこんな新鮮な肉を食べるのは久しぶりだ、そう嗤い、我先にと夢中になって死肉を貪っている。

 

その光景を見ながら、アークエンジェル第425艦内警備大隊3781中隊隊長のボンボラン中尉は15年前、士官学校時代に教官から聞いた話を思い出す。

 

「教練で聞いたとこがある、銀河帝国では貴族や平民のほかに、『農奴』というものも貴族士官の配下として徴兵されていると。農奴は貴族の私有物で人間ではないため、動物として扱われると」

 

死肉を貪る彼らはその農奴たちだった。

 

「農奴は人ではないため、人が行う行為を一切禁止されている。道具を使うこと、服を着ること、そして料理も人の行うことの為に禁止されていると。その上に栽培された農作物や飼育された家畜を食べることも禁じられているため、普段は地べたに生えた雑草を食べ、ネズミや虫を調理もしないまま生で食べていると」

 

「だから、普段は食べられない肉を食べるために陸戦隊に喜んで参加するということですか」

 

「ああ、奴らにとって戦闘というのは食べ物を得るための狩りということなのだろうな。見ろ、やつらの目を。あれは敵を見る目ではない、狩りの獲物を見る目だ」

 

装甲擲弾兵たちはより新鮮な肉を得ようと、目を爛々と輝かせ、口からはよだれを垂らしながらこちらへと襲いかかる隙を伺っている。

 

その目に見つめられた兵士がひぃっと喉奥から悲鳴じみた声にならない声を発し、数歩後ずさる。

まるでジャングルで野生の肉食獣にあったかのような原初の恐怖を呼び覚まされる。

彼ら農奴はたとえ軍に入ろうと農奴という階級から逃れられない。

軍のシステムの問題で人間の言葉を喋ることと、戦闘服を着ることは軍属の間は許可されるが、それ以外は他の農奴と同じ。

普段は軍で飼育されている軍馬と同じ食事を取らされ、厩舎で寝起きをさせられる。

軍艦に乗ってはネズミすら取れないので動物性たんぱく質が不足していく。

そしていざ戦場に立つとようやく食べられる肉を求めてまるでゾンビのごとく命を顧みないほどの苛烈な戦闘を率先して行うのだ。

農奴の中にはもともとは自由惑星同盟から連れてこられた捕虜もいる。

高度な教育を受けた捕虜も、裸にされ動物と扱われ、一言でも言葉を喋ると全身の骨という骨が砕かれるまで懲罰を受ける。

そんな生活を1年も続けるころには恐怖と苦痛で脳が委縮し、知能は動物とほぼ変わらなくなる。

帝国ではそうやって何も考えずに本能で戦う兵士を農奴という形で得ているのだ。

戦争というのは人の人権を踏みにじることを容易く容認してしまう。

 

「クソッタレ!本当に戦場は地獄だぜ」

 

ボンボラン中尉は軍用スマホを取り出しラミアス提督へと連絡を取る。

 

「こちらアークエンジェル西地区ネオサンフランシスコ市777地区3番通路、敵の装甲擲弾兵が多すぎて抑えきれねぇ。航空支援はまだなのか!」

 

「こちらマリュー・ラミアス提督です。中尉、すまない。現在同様に押されている戦区が多すぎて航空支援を回すの現状では無理だわ」

 

マリューラミアス提督の淡々とした通告にボンボラン中尉は激怒する。

 

「おい!20分前にも押されてるからって航空支援の予約入れたよな!そんときは直ぐにでも回すから持ちこたえろって言われて、必死で死守してんだよ!」

 

「でも中尉、その地区は無人で物資もなく、その通路の先は袋小路だから特に戦略価値がないのよ。だからどうしても後回しになるの。あと1時間後ぐらいにはなんとか回せると思うの、だからなんとか死守して欲しいのよ。この戦いは貴官の奮闘次第よ。そこを抜けられると後はないと覚悟してちょうだい」

 

「チッ!わかったよ、あと1時間だな。ちなみに聞きてえんだがよ、帝国軍とは陸戦協定などは結んでないだろうな」

 

その言葉にマリューラミアス提督はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ええ、今まで帝国軍なんて異星人がいることなどは想定していなかったし、戦争後何度か接触を試みたが通信技術が違いすぎて連絡が取れなかったわ。だからこの6年一切条約などは結んでいないわ。安心してすべての手段を模索して頂戴」

 

「あぁそいつはいいね、クソッタレな人権団体様が怒りで空を飛ぶぐらいの素敵な不良在庫兵器をたんまりお見舞いしてやるよ」

 

ボルボラン中尉はそしてスマホを地面に叩きつけ踏み壊して大声を張り上げる。

 

「野郎ども!提督の許可が出た!ありったけの非人道兵器をあの異星人共に食わせてやろうぜ!」

 

それを聞いた部下たちは満面の笑みを浮かべ、陸戦協定により使用不可と注意書きが貼られたコンテナから様々な装備を取り出す。

 

「まずは生物兵器から行くぜ!こいつは超微細なウイルスで酸素中に散布することで急激に繁殖してダクトを通して10分で要塞一つを死体の山に変えれるぜ」

 

防護マスクを付けた隊員が複数のボンベを取り出し、開封厳禁と書かれたシールを破り蓋を開ける。

ボンベから空気が猛烈に吹き出し、隊員はそれを未だに死体を漁っている装甲擲弾兵へと転がす。

 

ボンベの近くにいる装甲擲弾兵は顔色を変えて喉元を掻きむしるように倒れていく。

そのそばには大型のダクトが存在するため、すぐに各地区へと繁殖し飛散して各地の装甲擲弾兵がこのウイルスに感染して倒れていく。

ウイルスは無色無臭のため、人知れずどんどん拡散していき、オフレッサー将軍が気づいて防護マスク着用を支持するまでに装甲擲弾兵だけで10万人の死者が発生した。

また、接舷している揚陸艇にもウイルスが流れ込んでいるため、今後揚陸艇が帰還した先でもウイルスによる攻撃はしばらく続くだろう。

 

マリューラミアス提督は現地士官の独断でのその暴走を艦内カメラで見て、ブリッジのクルーにワクチンを飲むように指示した。

 

「いくらなんでもいいって言っても限度というものがあるわ。これだから脳筋は駄目ね」

 

その後、核手榴弾や毒ガス、火炎放射器と陸戦協定違反のため有り余っていた不良在庫を一掃するがごとく駆使して敵軍を駆逐していく情景が各地で散見するようになる。

 

そんな悲惨な戦場をマリューラミアス提督の横で見ていたラクスはというと。

 

「やはり想いだけでは駄目なのですね」

 

と散りゆく兵士たちを涙を流しながら見守り、追悼の為のレクイエムを歌っていた。

 

「提督!月からの援軍が到着しました!」

 

ブリッジクルーの明るい嬌声が艦橋に響いた。

 

艦橋から外を見るとデストロイガンダムが100個師団、アークエンジェルの前に整列していた。

他にも量産型フリーダムガンダムが30個師団、戦艦も100隻ほど随伴している。

 

この6年の間に月基地で秘密裏に建造していた虎の子の部隊だ。

アークエンジェル襲撃の報を受け、スクランブルで発進してきた。

 

「すごい…これだけの戦力、ヤキン・ドゥーエの戦いの時以来ですよ」

 

ブリッジクルーが呆けたようにポツリと漏らす。

 

「えぇ、アークエンジェルと地球連合、そしてプラントの意地をかけて揃えたエリート部隊よ。これで奴らへの反撃を開始できるわ、現在の装甲擲弾兵の侵攻範囲は!確認して!」

 

その命令を受けた観測兵がすぐさま艦内マップを出す。

 

「現状、敵装甲擲弾兵はすべてジェネシスの中に押し留めています!いけますよ提督!」

 

マリューラミアス提督はその報告を聞き、満面の笑みを浮かべる。

 

「オペレーション・ジェノサイド、フェイズ3に移行!アークエンジェルをジェネシスから切り離すわよ!出航!!!」

 

「ジェネシス、メインブリッジパージ!5、4、3、2、1…パージ完了!メインエンジン点火!メインジェネレーターのガスタービン全力全開で回ってます!出力全開!速度、マッハ10000を突破!ジェネシスからの切り離し完了!」

 

 

遠く離れていくジェネシスを見ながらマリューラミアス提督は勝ったわと小さく呟き、そして次の命令を下すべく声を張り上げる。

 

 

「装甲擲弾兵はまだジェネシス内ね。ジェネシスの動力炉を暴走開始させなさい!」

 

「提督!ムウラ・フラガ首相がまだジェネシス内です!」

 

それを聞いたマリューラミアス提督は不敵な顔で答える。

 

「彼を誰だと思ってるの?不可能を可能にする男なのよ。彼だってこの作戦は知ってるわよ。アカツキ改の性能なら十分に離脱可能よ。それにいざとなったらセーフティシャッターもあるしね」

 

「ジェネシス、動力炉臨界点突破。ジェネシス内でブラックホール発生を確認!周囲1万キロを飲み込みつつ崩壊していきます!」

 

ジェネシスはブラックホール化し、周囲に展開していた揚陸艇、そしてそれを救助しようとしていた帝国軍艦隊を飲み込みつつ崩壊していく。

 

そして10分後、その中域には最初から何もなかったかのような不自然なほど澄んだ空間が広がっているだけだった。

 

アークエンジェルはそのまま月からの援軍を率いて、銀河帝国軍の中枢艦隊に向かって出陣する。

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間50分。

アークエンジェル襲撃からようやく10分が経とうとしていたころ、戦局は地球圏から銀河へと移り変わろうとしていた。


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