転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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感想で指摘を受けましたのでこの場で書いておきます。
梟騎→キョウキと読みます。意味は分厚い本で調べてみましょう。

それとアンケートご協力いただきありがとうございました。
集計取るまでもなく①ですね。よってIFストーリーBF編を来年一月あたりをめどに書いていきます。




第五十八話 秒読み!

 

 

 

数ヶ月ぶりの宇宙は、相も変わらず静かであった。

連邦が宇宙でその勢力が減じて数ヶ月。或いは連邦の反攻ではなくジオン内部の政治的問題によりその静寂は破られつつあったが、少なくとも冬彦が地上より帰還を果たしたこの時においては未だ静かなままである。

 

「帰ってきたか」

 

 大気圏突破を無事果たしたウルラⅡのブリッジで、身を沈めていたシートから浮かび上がり冬彦はそう呟いた。

 兵士達も宇宙に帰ってきたことで気が楽になっているだろう。アジア故の湿気と暑気。打ち付ける雨とやかましい風。そして何より逃げようのない重力。それら全てから開放されて、一寸たりとも気を抜くなと言うのは無茶の話だ。きっとウルラⅡ、後ろに続いたルートラの乗員も同じだろう。

 けれど、冬彦は違う。視線の先は暗い宇宙。ああ帰ってきた、というのではなく、帰ってきてしまった、というのが正直な所。

 汗の臭いと羽虫の飛び回る音。泥にまみれての戦場よりも、無音のまま無音のままに死が迫るこの宇宙の方が冬彦には恐ろしい。

 生きるも、死ぬも、この場所で。ただの漠然とした予感にすぎないが。

 

「中佐、進路は予定通りでいいのかな?」

 

冬彦が一人戦慄していることに気づくはずもなく、斜め後方、一段高い所の艦長席にいるアヤメが問う。冬彦の咄嗟の返しは、肩をすくめるというものだ。

 

「――ああ、予定通りだ。そこで戦隊を合流させる手筈になっている。久しぶりに艦隊が組めるぞ。提督と呼ぼうか?」

「冗談じゃない。私は元々参謀志望だよ? ナンバーツーが適任さ」

 

 そう言いながらも、アヤメも満更ではないらしい。口の端がくっとつり上がっていた。

 ウルラⅠ、アクイラ、パッセル、アルデア……そして月軌道で大きな被害を被ったミールウス。地上に降りなかった乗員もそのままに、戦隊を構成していた艦が勢揃いするのだ。

冬彦がMSで出撃する機会が多い為に、戦隊のナンバーツーとして、艦隊を運用するトップとして動くことの多いアヤメには、やっとあるべき所に収まった感があるのだろう。

 そもそも地上では満足に艦を移動させることすら普段はできなかったのだ。それに比べれば、如何に困難な状況であろうとも、新鋭巡洋艦二隻、重巡一隻、軽巡四隻という艦隊を手足の如く動かせるこれからの状況は天国のような物だろう。

 

 さて、その新鋭艦であるウルラとルートラ、二隻の現在地は、地球の衛星軌道上である。ここからウルラ……一つ前の旗艦であり、区別の為に名称の後ろにⅠが付けられたティベ級重巡ウルラの率いる艦隊と合流するべく移動しなくてはいけないのだが、そのルートは少し歪な物だ。

 最終的な目的地はサイド3のジオン本国である。これを目指すにはサイド3の軌道にもよるが、一つにはL1方面に進路を向け月を経由していくルートがある。しかし、月にはグラナダが存在し、これは避けるようにドズルから指令が下っている。

 となるとL1ではなくL5、宇宙攻撃軍の本拠地であるソロモンを経由するルートになるのだが、今回はこちらも用いることはない。これもドズルの指示によるものである。

ではどうするのかというと、途中まではL5方面まで向かい、諸々の補給物資を積んだ戦隊の構成艦と合流し、それらの物資によって補給を済ませた後L1とL5の間をサイド3まで突っ切る、という物だ。ちなみに道中の補給はこの合流時の補給が最初で最後の予定であり、今回もまた例の如く強行軍である。

 

なお、強行軍というのは負担が大きいはずなのだが、ここしばらくずっと強行軍ばかりで戦隊員も慣れてきている。

 

「流石に、今回の事は予想外だった」

「正直、私は今でも反対なんだけどね」

 

 床を蹴り、アヤメの隣に移動した冬彦が周りには聞こえない程度に声を抑えて言う。

 周りに聞かれてはまずい話だ。だが、聞かれたとしても誰もが口にしようとはしないだろうと辺りを付けて、いっそ聞かれてもいいやと開き直ってしまえる程度に、まずい話。

 彼らが知る、恐怖と焦燥の根源の話。

 

「お偉い方々の思惑もあるんだろう? 冬彦、なんとかならないのか」

「生憎と、ドズル閣下の腹はもう決まってしまっているらしい。一度決めた以上は、やる前からやっぱり止める、ってことは無いだろう。今までだってそうだったし、俺が言ってどうにかなるならラコック大佐辺りが止めてくれてるさ。

それに、中佐の肩書きってのはそれほど便利な物じゃない。政治の事はわからんし、手も回せない。裏のことは尚更だ」

「回避はまず不可能か……怖いねぇ」

「良く言うよ」

「本音だよ。一進一退の戦況での内乱なんて冗談じゃない」

 

ドズルが寄越した話。詳細は語られなかったが、それは結果としてジオンの分裂を招くと冬彦は思った。事の概要は、士気の高揚を謀るためにこのタイミングでドズルとマレーネ・カーンとの正式な結婚式を本国で行い、彼女の父であるマハラジャ・カーン、また彼と繋がりを持つダイクン派や中立派との仲を縮めて権勢を拡大。それを以てギレンに何かしらの譲歩をはかるというものらしい。

 

思い起こせばグラナダから月軌道での一件でもしばらくの間随分ときな臭いことになったが、これはキシリアとドズルの間の鍔迫り合いであり、言うなれば暗闘。互いに探られると痛い腹もあって全面的な対立にまでは発展しなかった。

 その後は互いに牽制し合いながら、なあなあの気配で次第に沈静化していったのだが、降って湧いた今回の話は最初の一撃がそのまま内乱の狼煙になりかねない。

 今までも失敗すればただでは済まないという話ではあったのだが、今度のは失敗が決定的になった時点で亡命するか死んだことにして身を隠すかの選択を強いられるレベルだ。

ただせめてもの救いは、まだ内乱というのは“事”が上手く運ばなかった際に起こりうる可能性の話しかないということだ。その可能性が十中八九であるとしても、可能性は可能性。無きに等しくとも、希望はある。

 冬彦も、通信が切れてしばらくは呆然としていたし、それから少しの間真剣にそのことについて検討もした。それでも勿論こうして宇宙に上がって来たのは、僅かなその可能性を信じたから。

 

「せめて暗闘で収まってくれ、なんて風に祈る日が来るとは思わなかった」

「まったくだ」

 

 奇しくも。アヤメの言葉は冬彦の内心とまったく同じ物であった。

 

「……動かんといかんかねぇ」

 

 幾らかの諦念と共に吐きだした言葉は、暗い語調に反して決意に満ちた物。

 冬彦なりに、いざとなったら思う存分かき回してやろうという思いからの物だ。

 言葉には意志が宿る。冬彦が臭わせたそれに、アヤメは静かに食いついた。

 

「手は、回せないんじゃなかったの?」

「今は、な。できることもないし、静観するしかない。けど、事が始まって、悪い方に動いて、それでも何もやりませんってわけにはいかないだろう?」

「その段階で打てる手があったとして、その頃は僕らは死ぬほど忙しいはずだよ。

もちろん比喩抜きでね」

「それでも、だ。まあ、人に頼むだけだからできなくは無いさ。足下見られて、また無茶をふっかけられるかも知れんが、切れるカードは切っていかないと」

「わざわざ面倒を重ねて背負い込むとは呆れるね。どうする?」

 

 周りが如何に聞かぬ振りをして、副艦長が勘弁してくれて目で語りかけても、二人は気にしない。気にせずに、黒い話を練り込んでいく。

二人だけでなく、皆が、“なるべく多く”が最後に生き残っているために。

 

「事が起き、尚かつ開戦が不可避になった場合。開発局のササイ大尉の伝手でタキグチ名誉参謀顧問に渡りをつける。巻き込めるだけ、なるべく多くを巻き込んでやろう。

そうすれば新しい手も見えてくるだろうさ」

「はっは、行き当たりばったりも良いところじゃあないか。この中佐殿は」

 

 言い返すことはできない冬彦であった。

 

 

 

  ◆

 

 

 

 ところ変わって、ソロモン。数多ある艦船用のドックの一つ。

このドックでは、丁度係留されている艦に荷の積み込み作業が行われていた。糧食、推進剤、弾薬。およそ戦争で必要とされる殆ど全てがコンテナに収められ、艦の腹の内に詰め込まれていく。誰かがどこかしらでせわしなく動き続けており、止まることのないその流れは間に人を入れながらも規格化された製造ラインの様にも見えた。

 その一角。MSを積み込んでいた艦首付近で、ちょっとしたトラブルが発生していた。

 積み込まれるはずのMS。一般にドムと呼ばれるその機体に問題があった。

 ツィマッドから宇宙攻撃軍に納入された新型機体の第一陣はおよそ六十機。その内六機がヒダカ独立戦隊に回されることになり、ソロモンでリヒャルト・ヴィーゼ監修の下小規模の改修を施した後、積み込み作業が行っていたのだがどうにも機体数が一機多い。明らかに見てくれからして他の機体と違う上、書類にも載っていない。

 これはおかしいと言うことで一旦作業を中止し、もしかすると別の部隊の所に行くはずの物が間違って来たのではないかと責任者に事の次第を確認していたのだが……

 

「問題無い?」

『そうだ』

 

 現場の責任者である大尉は、直接の上官である中佐ではなく、留守居役として基地を預かるラコックから謎の機体を積み込むことが間違いでは無いと聞かされていた。

 

『その機体は実験機だ。試験を行う為にパイロット込みで戦隊に送る。間違いは無い』

「は、しかしこの機体は……」

『機密性の高さから公式には伏せている。速やかに積み込みを完了させたまえ』

「……了解しました」

 

 大尉が通信に用いていた内線の受話器を壁の端末に戻したのを見計らい、待機していた部下達が彼の元へと集まり始める。

 

「大尉ー。結局こいつどうするんですー?」

「間違いでは無いそうだ。積み込みを再開しろ」

「へーい」

 

 大尉自身も釈然とはしなかったが、命令は命令である。彼は部下に作業を再開するように言い、自身も書類の決裁と現場の監視に戻るのだった。

 

 しばらく後で、大尉は自身が釈然としなかった理由に気づく。

 そう、ラコックはパイロットも送ると言ったのだ。

 機体色が、冬彦のパーソナルカラーである茶と白であったのに。

 

 

 

 





ちなみに、王様だらけの聖杯戦争だった場合、セイバー、アーチャー、ライダーは残留。追加キャラは赤バラ、ゆぐゆぐ、ハクオロ、眼鏡女子高生の四人の予定でした。

多分四番目はこの書き方ではわかる人いないはず。

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