転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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今回ちょっとメタいのですがご勘弁ください。

あと前作の時もそうだったけど、ロリを出した後の感想の数はなんなのか。
紳士ばっかりか。


第四十三話 とりあえず取っ払うところから

 ザンジバル級機動巡洋艦内のラウンジにて、野営していたときよりも少しばかり豪華になったランチを、二人の男が突っついていた。

 

二人は共にMSパイロットで、それぞれピートとゴドウィンと言う。

 

当時、と言っても半年ほど前、まだ大尉であった冬彦を筆頭に、士官学校を出たばかりの新任少尉だったフランシェスカ・シュトロエン。クレイマン・カウス。ベン・コンクラート。そしてこの二人。この六人が、最初の部隊だ。

 

 月での戦闘でもって二人減ってしまったが、冬彦の隊の最初期の面子である。

 そんな二人が何をしているのかと言えば、休息と食事を取っているのである。

 

 現在、ザンジバル二隻はやや進路を東へずらしつつ北へ向かって移動している。

 

 ここ二ヶ月ほど沈黙していた戦隊だが、冬彦が指針を示したことでついにその活動を本格的にしつつあったのだ。

 

 とは言っても、ここは宇宙ではない。宇宙での戦闘に慣れ油断した馬鹿を重力という名の怪物が手ぐすねを引いて待つ地上という名の千変万化の難所である。ザクⅡFで、移動する艦隊に先行して偵察を、とはいかない。

 

 まして、足が自慢のザンジバル。ザクでは、機動力の問題や降下装備やらの問題で移動中は偵察や哨戒が行えない。出来ることをあげるにしても、上部ハッチから顔を出し、航空機の襲来に備えるくらいか。

 

 つまるところ、移動中はMSパイロットは割かし暇なのである。

 

「中佐殿、最近何かいやに元気だな」

「開発局の奴らとまた何かやってるらしいが、空元気じゃないのかね。偉くなってから白髪がぽつぽつ増えてたし」

「まあ、ちっと無理してるようには見えるわな。俺らと年はそう変わらんのに」

 

 二人が話題にするのは、彼らの上司である冬彦の事だ。

 

「中佐だもんなー。雲の上の人になっちまったなー」

「俺らも出世したけどな」

「つってもたかだか少尉と准尉だけどな」

「偉い人らが何考えてんのかはさっぱりだ」

「違ぇねえや。良い装備回してもらえるのはありがたいが、後が怖いよ」

 

 もっしもっしと料理を口に詰め込みながら、二人はそれぞれに思うとりとめもないことを口にする。

 やがて先に料理を平らげ、水で口の中に残った物を流し込んだピートが、まだ食事を続けていたゴドウィンに言う。

 

「そういや、中佐が言ったとおりになったな」

「何が」

「ほら、お前もいただろ。アイランド・イフィッシュが落ちた後帰投して、艦の食堂でさ」

「ああ……戦争が長引くかもしれないとか言ってた、あれか」

「おお、それだ。どれだけ続くんだろうなぁ」

「まだ長引くって決まった訳じゃあないだろう。北米じゃ優勢だって聞くし」

「欧州は一進一退らしいじゃないか。制宙権はこっちにあるってのに、連中地上じゃ随分しぶといぞ」

「まあ、そりゃあそうだが……」

 

 ここでゴドウィンもトレーの上の物が全てなくなった。

 休息時間はまだあるが、待機部屋への移動を考えれば今から出るべきだろう。

 と、ふとゴドウィンが片付ける為にトレーを持ち上げたまま、辺りをきょろきょろし始めた。

 

「どうした」

「いや、中佐突然出てきたりするからさ。今日も案外近くにいるんじゃないかと思って」

「流石にない。今はこっちじゃなくて、あっちだ」

 

 ピートの言うこっちとはザンジバルの工作艦でないほうの事で、艦名は「ウルラ」の次の旗艦ということで「ウルラⅡ」である。もう一方の工作艦の方だが、こちらは普通より胴が長いということで「ルートラ」という名前になっている。

 

「執務室こっちにあるんじゃなかったのか?」

「知らん。シュトロエン中尉の機体を弄るとかどうとか」

「またかい」

 

 

 

  ◆

 

 

 

「へぇっくし!」

「おや、どうしました?」

「……いや、誰かが噂をしているような気がする。気のせいかもしれんが」

「有名人ですからなあ中佐殿は」

 

 やめい、とエイミーに一言突っ込んで、冬彦はインカムに向かって話しかける。

 

「あー、どうだ、フランシェスカ中尉」

《良好です》

 

 聞こえる声は、弾んでいるように冬彦には思えた。

 与えられたは良い物の、本人は乗らないというガデムのグフ。ザクより優れたところもある新型機。放っておくにはもったいない。

だが乗る者がいないので、新型機なのに予備機という妙な扱いになる予定だった。

 

しかし、ここで待ったをかけたのが今グフのコクピットの中にいるフランシェスカだ。

 元々ゲラート少佐にちょろっと情報を見せて貰った時から興味を示しており、どうせ予備機にするのなら乗せて貰えないかと冬彦に頼みに来たのだ。

 元々、フランシェスカは格闘戦においては適正があり、周りもそれは知るところ。頼みを聞いても、身内びいきとは言われない。

そこで、ガデムの了承を取った上で乗機の配置換えを行い、グフをフランシェスカの乗機としたのだ。

 

無論、予備機にしておくならそのままでも良かったのだが、主力の一人が乗るとなれば問題があるのをわかっていてそのまま、というわけにいかない。弄るべきところは弄らないといけない。ザクのバックパックの時はヴィーゼ教授などがメインにいたが、久々に冬彦もやる気である。

 

嫌だろうが気が乗らなかろうが、やるとなったらやらねばならんのだ。手抜きのしっぺ返しがどんな形で来るかわからず、しかも賭けるのが他人の命とあっては、手を抜く方がどうかしている。ましてや、親しい人間だというのに。

 

「左手あげろー」

《はい》

「次、肘――」

 

 まずは、とにかくフィンガーバルカンである。

 

こればっかりは、もうどうしようもない。即納性が高い、一度に五発撃てるなどの利点もあるが、冷静になるととんでもない欠陥に気づく。

 整備性が悪いとか、装填数が少ないとかの問題もあるが、最大の問題は威力である。

 そう威力である。

大事な事だ。

 その大事な威力が、決定的に足りないのだ。

 

冬彦がザクⅠを改修するに辺り、一番最初に立ち上げたお題目の一つに、ザクマシンガンの改修があった。砲身を延長して、それに応じて補強しただけの簡易な物だが、確実に効果はあった。

 

 そもそもこれをなぜやろうとしたのかと言えば、元を辿ればミノフスキー粒子問題やガンダムの装甲問題などには一段劣る物の、意見が割れやすいザクマシンガンの威力がおかしいのではないか?という現実世界の考証があるからで、ややこしい話なので詳しい事は省くが、ようはザクマシンガンの威力が弱すぎないか?という問題である。

 一般的なザクマシンガンは百二十ミリ、初期型は百五ミリである。これがまるでガンダムに歯が立たなかったりジムスナイパー(Ⅰ?)の装甲を正面から抜いたりしてジムの装甲問題なども絡んでごちゃごちゃするのだが、とりあえず何ミリかだけ覚えていただければ問題無い。

さて、ここで格闘戦に主体を置き、グフの五連装フィンガーバルカンが何ミリか。答えは七十五ミリである。それが五つ。フィンガーバルカンという位であるから、砲身もザクマシンガンに比べると非常に短い。反動のことを考えると、強装弾ということも考えられない。つまりフィンガーバルカンとザクマシンガンを比較した場合、前者が優れると思われることは精々取り回しくらいなのだ。

よって、来るべきMS同士の格闘戦に向けてつくられておきながら、フィンガーバルカンでMSそのものを破壊することは極めて難しいと考えられる。至近距離であれば可能性が絶対に無いとはいわないが、そんな距離ならそれこそ格闘戦を行うべきだ。

 

 つまり、誰が何と言おうと役に立たないのである。グフの存在そのものと同じかそれ以上に、他の物で代替が効き、存在の必要性が薄いのだ。

 反論もあるかもしれないが、グフカスタムにおいて撤去されたことを考えれば、やはり余り役に立たなかったと思われる。

 後に何を思ったのかガルスJというMSが出てくるのだが……ここでは敢えて語らない。

 

 とにかく、冬彦は自分の部隊にそんな物の存在を許すつもりはない。よって撤去である。代わりにザクの腕を取り付けたが、それだけでも手持ち武器が装備でき、グレネード類を投げられるということで充分過ぎるように思えてしまうのだから恐ろしい。

 

 次に、両肩のショルダーアーマーのスパイク。これも撤去。

フランシェスカ以外にも開発局の中から何人か残すべきという意見もあったが、この戦隊において一番偉いのは冬彦である。よって正義は冬彦にあり、つまりは誰が何を言おうが冬彦こそが正義である。ようは頑として譲らずそのまま押し通した。

 そもそもショルダーアーマーのスパイクもまた本当に必要なのか疑われているシロモノの一つなのだ。某中佐がザクⅡF2を“掬い上げる”という絶技をかましたが……一般パイロットにはおそらくは出来ないだろう。よって撤去。

 他は特に今は弄る必要は無い。コックピットハッチが冬彦にすると気に入らないのだが、これには加工が必要なのでまた今度、である。

後は目立つ青を戦隊の緑に塗り替えて、これにて終了である。

 

 今は実際にフランシェスカが搭乗し、異常が出ないか稼働試験を行っているが、問題はなさそうだ。

 

「何か気になるところはあるか」

《いえ、完璧です。これならきっと今まで以上に戦えます》

「期待してるが、まずは慣らしだぞ。慢心して特技兵に不意を突かれてもつまらん」

《わかっています。中佐》

「ならいい」

 

 手に持つ書類に並ぶ検査項目のチェック欄を上から順に潰していく。

 基幹部分に手を入れていないのでグフカスタムにはおよばないが、それでもかなり汎用性は上がっている。

 後は実戦だがこればっかりはやってみないとわからない。サポートも必要になるだろう。

 

「ん、よしと」

 

片手でパタンとファイルを閉じ、間にペンを挟みこむ。そのせいで少しファイルの形が歪むが、気にするほどではない。

 頭の中で地上での運用を考えながら、冬彦はフランシェスカがグフのコクピットから降りてくるのを待っていた。

 その間に、ふっとため息が漏れたのを、エイミーは見逃さなかった。

 

「どうしました」

「いや……」

 

 冬彦なりに、葛藤がある。

 手の届く範囲で好き勝手できるようになって、前にも増して思うようになったこと。

 これで良いのか、という思いが、いつも付きまとう。

 

たとえば、もっと優先して参考にするべき物を忘れていないかとか。

 たとえば、もっと他に弄るべき所かあるのではないかとか。

 

 ああすればよかったのにと。

 こうすればよかったのにと。

 

 いつかそう思うことになりやしないかと、不安になるのだ。

 

「これでいいのかと思ってなぁ」

 

 MS―07、グフ。

ザクよりも、いささか角張りごつい印象のシルエット。

自分が乗る機体ではない。

 しかしフランシェスカが命を賭ける機体だ。

 

「ああ、なるほど。そういうのわかりますよ」

「たまに思いますからね。我々も」

「へえ」

 

 エイミーも、同じようにグフを見上げている。

 大雑把なことしかわからない冬彦でも知っているようなことだ。

 ザクの実戦データが上がって来ている以上、きっとフィンガーバルカンの問題にきづいた技術者もいたはずなのだ。しかし、こうして手を加えるまで、制式装備としてとりつけられている。

 取り付けるべきだと主張した技術者は、何を思ってこれを造ろうと思ったのか。

 

「結構そういうことはありますよ。正しいと思っていたことが、違うと言われる。妥協して、形にして、しかし納得はできていない。後になって、確かにそれが正しいのだとはっと気づいたり。怖くなりますよね」

 

 冬彦は、続きを待つ。エイミー・フラットが開発に関することと、ちょっとしたジョーク以外で饒舌になるのは、少し珍しい。

 

 だが、彼女がそれ以上続きを語ることはなく、いつものように、草案のかかれたファイルを前にした時のような目で冬彦を見た。

 

「中佐殿」

「何だ」

「いよいよ思考まで技術士官らしくなってきましたね」

「やかましい!」

 

 

 

 




これだけ書きましたが、私は必ずしもグフが嫌いってわけじゃありません。

個人的な意見ですが、ジオンの開発部が開発されるであろう連邦のMSの装甲の予想が甘かったのが原因じゃあないかと思います。慢心があったのではないでしょうかね。テムさえいなければ……

ただ、もし仮にフィンガーバルカンが強かったとしても、私はフィンガーバルカン好きにはなれません。素直にMG持てという話です。

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