転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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いつから一日一話しか更新しないと錯覚していた……?

ストックなどしやぬ! 一話一話完成し次第投稿してやるともさ!



第四十話 親衛隊到来

 ジオン公国親衛隊と言えば、公国軍の中でも相当なエリートである。

 サイド3の総帥府に属する部隊で、わかりやすく言ってしまえばギレンの閥。

 本国に居る為、実戦は他の二軍と比べて少ないが、一方で優秀な者が集められ、更には装備も質の善い物が集められ、その更新も早い。

 よって、規模は他の二軍に劣りこそすれ、その戦闘能力においては決して劣らない。そういう軍なのだ。

 中央の軍であり、本国の駐留部隊であるというのが基本である為、戦場に出向くことは通常であればまず無い。だが、時にはギレンの命により少数が他所に出向することもあるのだが、その場合は一部に特権が与えられる。

親衛隊において階級の前に特務がつく場合、現地においては更に二階級上乗せした階級の扱いになるのだ。

 例えば、目の前のミレイア・セブンフォードと名乗る特務中尉の場合であれば、少佐相当として扱われるのだ。

 

「受け入れ感謝する。お会いできて光栄だ。ヒダカ中佐殿」

「……いいえ、こちらこそ。名高い親衛隊の方とこうして対面できるとは、望外の喜びであります」

 

 赤い彗星や深紅の稲妻とも違う、すこし褪せた赤い軍服に、同色の制帽。冬彦の知る知識に相違なければ、親衛隊で間違い無いだろう。

 おそらくは、アヤメと同じような指揮官タイプであろうが、飄々としているアヤメに対して、こちらは割かしかっちりとした印象をうける。

 奇しくも、性別もまた同じく女性。軍服を押し上げる胸はフランシェスカにも匹敵するだろう。軍服よりもなお鮮やかな赤い髪は後ろでまとめられており、笑みを浮かべながらも灰色の瞳はこちらを観察するようで、獲物を見定めているようでもある。

 不敵。一言で表すならこれであろう。

 

 色々と、一度目にしたならば中々忘れられそうに無い相手である。見た目などは、選考基準ではないはずなのだが。

 

「まずは謝罪させて欲しい。できればすぐに通信に答えるべきところを、こちらにも都合があったために答えることができなかった。申し訳ない」

「その件については、もうお気になさらぬようお願いします。誤解も解けたのですから」

 

 軽く腰を折るミレイアに対し、冬彦ができるのはそれを受け、余り深く追求しないことだけだ。

 階級では冬彦が上だが、親衛隊とことを構えるというのは間接的にギレンと事を構えるということであり、対応としては間違っては居ない。

 四輪駆動の装甲車で野営地に赴いた彼女らに、何か理不尽な要求をされたわけでもないのだし。少なくとも、今はまだ。

 

「そう言ってもらえると助かる。本当のことを言えば、このようなところに降りる予定では無かったのが、計算が狂っていたようでね。随分と流されてしまった」

「本来は、別の場所に降りるはずであった、と?」

「その通り。我々の本来の目的地は、ラサ基地だ」

 

 なんとまあ、と呆れてしまったのも無理はないだろう。何せ、緯度、経度ともに二十度以上離れている。連邦の妨害にあったというのならともかく、そうでないのなら軌道計算を行った人間を首にするべきだろう。

 

「では、すぐにお発ちになられるか」

 

 表向きは、残念極まりないような表情を作っておくのを冬彦は忘れない。その辺りも処世術である。無論本心は、このままとっとと他所へ行け、というのが本音だ。

 何せ、ラサ基地。責任者はギニアス・サハリン技術少将であり、技術者として優秀ではあるが、“黒い”、もとい“怖い”人物。

その下にいるノリス大佐にはMS乗りとして一度会ってみたくもあるのだが、ヘタに藪をつつきたくないというのもまた本心である。

 どうせ今の時期に行ったところで、アプサラス計画は殆ど進んではいないだろうし、行って見るほどの物は無い。同道を願い出る必要も無いだろう。

 

「そのことなのだが、中佐殿。お願いがある」

 

 机越しに、ミレイアがずいと身を乗り出し、切り出した。

 胸が机に押しつけられて、形を変えている。眼福。

 

「幾らか、戦力をお貸し願えないだろうか。ラサ基地までは距離がある。なんとしてもたどり着かないといけないのだが、手持ちの戦力では、少々不安が残る」

「それは……」

 

 嫌な予感は、これか! と今更ながらに、冬彦は納得する。どうせ親衛隊が来た時点で良い予感はしなかった。しかしこういう形で、というのは予想外である。

 ともあれ、沈黙を続けるわけにはいかない。

 

「ザク二機と、新型一機。我々の勢力圏内において、それで不足と仰るか」

「途中、反ジオンの民兵やゲリラが出没すると聞くエリアも通る。万が一があっては困る」

「……親衛隊が、民兵やゲリラに不覚を取ると?」

 

 この冬彦の言葉に、ミレイアのみならず、同席していた他の者も目を剥く。

 親衛隊を揶揄するような、中々に怖いセリフだ。冬彦も、本国にいたなら絶対に言わなかっただろう。あるいは、ソロモンであっても。

 

 しかし戦力を寄越せと言われれば、その時点で冬彦の腹は決まる。受け持った以上は、どうあろうと冬彦の部下であり、その責任は冬彦が負わねばならないし、負うべきだ。

 つい先日も、直属のMS隊からクレイマンとベンの二人が退職したばかり。殉職で無かったのがせめてもの救いである。

 そんな中で、他所の部隊にほいほい部下を渡すわけにはいかないのだ。

 それが、例え親衛隊であろうと、だ。

 

 不遜ともとれるセリフは、この件に関しては譲らない、という意思の表明であり、例え表向き諂おうとも、親衛隊といえど一線は引かせてもらうという立ち位置を示す冬彦なりのジャブでもある。

 

「聞けば、中佐殿の隊にはザクが十機あると聞く。半分も、とは言わない。一機か二機でも良い。それでも駄目だろうか」

「それでも、です。生憎と、出せるような戦力はない」

 

 譲歩し、言いつのるミレイアに対して、掩護は冬彦の隣から飛んできた。アヤメである。この場には、戦隊のナンバーツーとして臨席している。

 冬彦のはっきりとした拒絶の意志を読み取ったのか、親衛隊が野営地に来てから今まで一度も口を開くことが無かったのが、頑とした態度で舞台へと上がってきた。

 

「貴様には聞いていない。特務中尉殿が中佐殿に聞いておられるのだ」

 

 味方が増えれば、敵も増える。ミレイアの側にも同席者がおり、グフのパイロットだと言う中尉である。

 茶髪にパーマを当てた男で、背は冬彦よりもなお高い。一見すると軽薄そうだが、纏う空気は随分と静かだ。

 しかし、そんな相手であろうとも、アヤメは引き下がることはない。

 むしろ本領発揮とばかりに、眼鏡の奥の瞳が怪しく光る。こういう時のアヤメは、彼女を知る者をして敵で無くてて良かったと常々思わせる。無論、冬彦もだ。

 

 ミレイアのように身を乗り出してくるのではなく、逆に椅子の背もたれに身体を預けるようにして身を引き、件の中尉に視線を送る。

 

「貴様と言ったか、中尉。貴様パイロットのくせに机一つ挟んだ相手の襟の階級章すら見えぬほど目が悪いのか? 私も中佐も眼鏡を掛けているが貴様の中尉の階級章はよく見えるぞ。それとも悪いのは頭か? 親衛隊だからと、中尉が大尉より偉いとでも? 貴様の階級の頭になぜ特務がついていないのか察するのは容易いな、中尉。黙っていろ」

「なっ……!」

 

(ああ、言いよった……!)

 

 親衛隊が相手でもその弁舌は矛先を鈍らせることはないのかと、違う意味で冬彦は背筋が寒くなる。

 喉がひりついたのも、暑さのせいばかりではないだろう。

 

 彼女が吐いたのは毒だ。後々になって人を殺すようなおぞましい毒ではない。

 しかし今この時に、肌に叩きつけるような痛みを与える酸の如き熾烈な毒だ。それもとびきりの。そういった直接的な刺激のある言葉に慣れていないようなら、特に良く効く事だろう。

案の定、目の前の男は目をいからせ、それまでの静かな空気はどこへやら。射殺さんばかりの目でアヤメを見ている。対するアヤメはどこ吹く風で、やるなら受けて立つと言わんばかり。

 頼もしくもあるし、痛快でもあるが、後始末をするのが自身となると気疲れしてしまう。

 

「大尉。それ以上は親衛隊にたいする侮辱と取る。止めて貰いたい」

「これは失礼」

 

 居住まいを直してそう言うが、悪びれた風はカケラも無い。さも当然と言わんばかりだ。

 この態度は親衛隊を相手にしては間違ってはいるが、軍人としては間違ってはいない。

 

 言い換えれば、親衛隊としての側面を崩せれば、間違いでは無くなる。

 

「中佐殿、どうにかならないだろうか」

「申し訳ないが、我々にも任務がある。無闇に兵を分散させられない」

「……被害が出た場合に、もし援軍を得られていれば、と報告することになってしまうのだが」

 

 今度はミレイアが毒を吐く。人を誘惑するような、うっとりするような甘ったるい笑顔だ。残念ながら、似たようなのが隣にいるため効果は無いに等しいが。

 それにしても緩急とも言うが、いやに直球な脅しに出たものだ。

だが、これも空振りに終わる。

 それどころか、真正面から打ち返されることになる。

 

「自分の無能を人が助力しなかったせいにしないでいただきたい。そもそも今の戦力に問題があるなら、前もってもっと連れてくればよろしい。他所頼みの現地調達など、もっての他でしょうに」

 

 また、アヤメだ。今日は絶好調である。

 

「……特務中尉。結論を言おう。悪いが、貴官の隊に部下は割けない。自前の兵で対処してくれ」

「……そうか。無理を言って申し訳なかった。中佐殿。では、これで失礼する」

 

 話は終わった、と言わんばかりに、ミレイアは食い下がる席を立ってテントを後にする。着いてきていた中尉は、去り際にこちらを睨みつけてはいたが、何も言わなかった。

 

「ふん。口ほどにもないね」

 

 アヤメはどこか満足げだ。一方冬彦は悩みのタネが増えてしまったと、また今後について頭をひねらなければならないことに嘆かずにはいられなかった。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「特務中尉殿! ああも言われおめおめ引き下がるのですか!」

「やむを得ないだろう。はっきりとNoと言われた以上は」

 

 リクライニングの効かない、そもそも存在しない無骨な四輪駆動の装甲車。

 その後部座席にて、中尉、もとい男の方がミレイアに詰め寄っていた。

 話の内容はもちろん、つい先ほどまでいた戦隊の対応についてだ。

 

「しかし、あれでは親衛隊の名折れです!」

「くどいな。中尉」

 

 ミレイアの目が、男を見る。妙齢の美女の流し目であるから、どきりとしてもいいはずだ。しかし男の心胆は氷付く。

 男を見る目は、細く、鋭く、灰色の目はさながら刃のようで。

 

「今回は、強制できるような命令が無い以上は打つ手がない。武器はこちらの心証だけ。Noと言われたなら、大人しく引き下がる以外には無い」

 

 男が黙って、こくりと一つ頷くと、気を良くしたわけではないのだろうが、更に言葉を続けた。

 

「今は、さわり程度で良い。どういう手合いかはわかった。なるほど、ドズル閣下の所の士官らしく強情で扱いづらい。理屈よりも、道理を見るタイプだろう」

「いかが、なさるので」

「どうもしない。総帥からの命令には、どうしろとも無い。見に来たのもついでだ」

「は……」

 

 男は、反問する。

 では、目の前の赤い軍服を纏う女は、そのためだけに“わざと遠くに降りた”というのか……?

 

「まあ、総帥が直々にお会いになった数少ない人間の一人にしては平々凡々としていたが……良いだろう。早い内に、ラサ基地へ行こう」

 

 

 

 ジオンの闇は、未だ深い。

 

 

 

 




スチームパンクシリーズで一発ネタが浮かんだ。
投稿は多分しない。
眠い……

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