転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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短くってすいません。


第二十八話 続々・ルナツー攻略作戦

 

「『マダガスカル』轟沈! 『レディ・ローラ』着底!」

「第六小戦隊全滅! ジオンのMS隊を抑えられません!」

 

 階級の高い低いに関係なく、慌ただしく人が駆け回る司令部。

 要塞の俯瞰図は赤く塗りつぶされた部分の面積が広がり、×印が所々につき始めていた。

 赤で塗りつぶされた、というのはそのエリアの戦闘能力を喪失したということであって、×印というのは艦船が撃沈、ないし大破したことを示す。

 もとからあった戦力差が、さらに広がりつつあるのが現状だ。

 ワッケインがいくら厳しい視線をモニターに投げかけたところで、それが改善する訳もない。

 

「大佐、このままでは……」

「わかっている」

 

 打つ手がもう無い、と言いかけたのを、ワッケインは呑み込んだ。間違っても、戦闘の途中で最高司令官が言って良い言葉ではないからだ。

ルナツー。監視の目が完全で無かったとはいえども、こうも一方的にやられる物なのか。

 戦端が開かれてから、まだ一時間も経っていない。

 その間に、マゼランを旗艦としたサラミスによる小戦隊が二つ壊滅。要塞防御砲台の数%が沈黙。たかが数%に見えるかもしれないが、最大直径180㎞あるルナツーでの数%だ。

 それも被害が一定の方向に限られてくるとなると、防御網にぽっかり穴が空いてしまったことになる。

 一方で、向こうはまだ大した被害も出ていないようにも思える。

戦力で負け、初動で出遅れ、巻き返す手段も無い。八方手詰まりである。

 

「モビルスーツ、か」

 

 ルナツーを離れる際にティアンムが発した命令は、極力直接戦闘を避け、軍事的価値を出来る限り低く見せておくという物だった。

 つまり、いつでも攻略できると思わせて、生き残りを図ろうという物だったのだ。

 それが、どうだ。

 こちらの意図をあざ笑うかのように、ジオンは大軍でもって早期攻略に打って出てきたではないか。

 

「メインゲートに取り付かれましたぁ!」

 

 オペレーターが悲鳴の如き叫びに、司令部の視線が一つのモニターに集中する。

 ルナツー所属の艦船が出入りするメインゲート。画面の端々に爆発による炎がちらつき、瓦礫と人があらぬ方向へと流れていく。

 その流れに逆らうように、ジオンのノーマルスーツを着けた兵士が続々とルナツー内部へと進入していく。

 

「駄目です! メインゲート、押さえられます!」

「サブゲートA、B、共にザクが!!」

「落ち着け!」

 

 司令部に静かに絶望がその存在感を増していく中で、ワッケインだけは、その限りは無かった。

 一喝し、動きを止めていた者達に活をいれ、手早く私事を飛ばして再び大局を見据える。

 

「陸戦隊の各隊に通信を送れ! バリケードを構築して戦線を構築しろ! いざとなれば、ブロックごと破棄しても良い!」

「ティップ中尉がドックの放棄を求めていますが……」

「許可しろ」

「閣下」

 

 ワッケインに、声がかかった。

 今まで席を外していた士官の一人が、そっと耳打ちをする。それに、ワッケインはにやりと笑った。

 

「よろしい。タイミングは任せると伝えてくれ」

「はっ……しかし、大佐は」

「私はここで良い」

「……はっ」

 

 只でさえ騒がしい司令部にあってなお声を潜めて話す内容は、当然余人には聞かれてはこまること。

 

「さて、これで最低限の備えは済んだか」

 

 モニターでは、グワジン級が攻撃を開始していた。

 陥落は免れず、時間の問題。

 それでも、ワッケインは。

 

「後はどれだけ陸戦隊が粘ってくれるか……さて」

 

 

 

  ◆

 

 

 

 冬彦が重力の小さい地表をかけずり回り、コンスコンがじりじりと戦線をルナツー側に押し込んでいた頃。

 戦場の片隅で、ちょっとした動きがあった。

 遠巻きにミサイルをばらまいていた独立戦隊。旗艦ウルラのブリッジにて。

 

 ブリッジクルーが気まずい物を感じる中で、二人の女性士官が相対する。

 片や戦隊次席、MS隊の副長であるフランシェスカ。

 もう一方は艦長席にて足を組んで艦隊の指揮を取るアヤメ。

 

「出撃、ですか?」

「その通り。頼むよ中尉」

 

 さも当たり前のように、アヤメは言う。だが彼女も、フランシェスカがMSで戦闘に出ることに抵抗を持ち始めていることを知っている。

 知っていて、戦場に出ることを要求しているのだ。

 冬彦のと違い、小ぶりな丸眼鏡は視線を隠すこともなくフランシェスカをじっと見ている。

 

「どうも弾薬が少し足りないようなんだ。ちょっと持って行ってあげてよ」

「……了解しました」

「もう一押しで落ちると思うけど、孤立すると不味いから。よろしく」

 

 笑みを絶やすことなく、ひらひらと手を振って、アヤメはフランシェスカを送り出す。

 言いたいこともあるのだろうが、特に何も言うことはなく、一度敬礼してブリッジを後にした。

 ブリッジの空気は、自然と、アヤメを非難するようなものになる。

 彼らとしても、今回初めて戦闘を共にするアヤメよりも、フランシェスカの方が付き合いは長いのだ。

 

 そんな彼らの願いが通じたのか、唐突に宙域全体に、低い男の声で通信が流れた。

 それを傍受したオペレーターが、声を上げる。

 

「艦長! 敵司令部が降伏しました」

「そう」

「はい」

「…………」

「え、あの、艦長」

「どうかした」

「中尉に出撃中止を伝えなくて良いのですか?」

「え、何で?」

 

 心底驚いた、という風に、アヤメは目をぱちくりとさせる。

 

「戦闘が終了した以上、無理に中尉を出す必要もないと思うのですが……」

「何を言うかと思えば……補給は必要だよ。降伏してすぐは多少跳ねっ返りがいたりするし、まだ油断はできない」

「しかし……」

 

 アヤメは、さらに言いつのろうとした士官を切って捨てる。

 

「言いたいことはわかるよ。中尉が、戦闘に忌避感を持ってると言うんだろう?」

「わかっているなら……!」

「だからだよ。いつまでも戦えるかどうかもわからない人間にいられると、土壇場で戦略がひっくり返りかねない。そうなったら何が起きると思う? ザクが落とされる? 艦が沈む? 多少無茶でも戦場に出てもらわないと」

 

わかるか? と、小柄な体躯からは考えられないような凄みを出して相手を黙らせた。

 

「僕は、誰かの巻き添えで死ぬのはごめんなんだ」

 

 

 

 




今日のトピック

スパ〇ボでわかってると思うけれども、終わったかな?って思った瞬間からが本番。

個人的には陸奥長門はMCあ〇しずの方が好きなのでコラボしないか期待してたり。

UCのep7、マリーダさんの運命は……うん、駄目だったら異伝でもやろうか。

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