転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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 戦闘ってほどでもないけど難しいよぅ……。



第二十六話 ルナツー攻略作戦

 

第二次降下作戦に続き、第三次降下作戦も終了した三月も末。

 

 地球を挟み月の対極にあるルナツーに、ジオンの艦隊が近づきつつあった。

かつてはユノーと呼ばれていたこの小惑星も、遙々アステロイドベルトから運び込まれて数十年が経ち、時代に応じて繰り返されてきた拡張によって、元の資源採掘基地から軍事要塞として足るだけの規模と能力を獲得している。

 言わずと知れた、連邦軍最後の宇宙拠点。

攻め落とせたなら、ジオンにとっては大きなプラスになる。連邦をいよいよ宇宙からたたき出すことになるし、警戒対象が一つ減る分戦力をより地球での各戦線へ傾注できる。

更に、ソロモン、グラナダ、ア・バオア・クーに次ぐ四つ目の宇宙での一大拠点を得ることにもなる。

 

これまではもはや力の無い連邦宇宙軍の拠点をわざわざ叩きに行くよりも、地球の攻略を急ぐべきという論調が多かったし、今もまたそれが多勢ではあるのだが、劣勢を覆し作戦を本国に正式に決定させたのはひとえにドズルの努力による物だ。

ギレンやデギンの説得に始まり、ルナツーのジオンの警戒が及びづらいという位置的な問題や、獲得できた場合の有用性、後々拠点として使えるということはもとより、資源の獲得ルートとして地球から打ち上げるよりも遙かに輸送の手間が楽であることなどを説き、ついには宇宙攻撃軍独力で行うという条件の下での了承を取り付けた。

ラコックや冬彦他幕僚が総出でまとめたファイル片手にルナツー攻略の必要性を理路整然と延々述べるその様子は、ギレンをして後に「あれは本当にドズルか?」と言わしめたほどだ。確認をとらされたセシリア・アイリーンも困惑したに違いない。

 

 この他関係者各位の努力と奮闘を経て正式に決定された旧ユノー、もとい現ルナツー攻略作戦。動員されるのは、コンスコンの指揮する宇宙攻撃軍主力、シャアの率いる特務隊、冬彦の独立戦隊、さらに普段あればこういった大きな作戦には中々声がかからないランバ・ラル隊までもがその戦列に加わっている。

 彼らはドズルからシャアに下げ渡されたファルメルに同乗しており、メインゲートの制圧後に内部へ突入する陸戦隊としての任務だ。

要塞の制圧と言う大仕事ということもあって、制圧部隊はランバ・ラル隊だけではないが、一番槍は彼らになる。

 与えられた役割をそれぞれ確認すると、

 コンスコン率いる攻撃軍主力は敵艦隊の排除。

 シャアの特務隊はランバラル隊と共に今なお稼働しているメインゲートの確保。

 そして冬彦の独立戦隊は、陽動がてら要塞に張り付いて防御砲台をしらみつぶしにしていく手はずだ。

 順序としては、冬彦隊による奇襲からの陽動、コンスコンの主力による正面戦闘、シャアによるゲートの確保という予定で、要塞制圧はその後になる。

 以前に急に呼び戻されたりしなければ、いきなりシャアをゲートに突っ込ませた後、防御砲台を主力と共に片付ける、という戦法が取れたのだが、肝心のメインゲートの位置がわからない為に、冬彦が囮役を買わざるを得なくなった。

 

ミノフスキー粒子でルナツーの目は潰せるが、それでも対空砲火の中で捜し物、というのは中々に厳しい任務である。

だが、任務は任務であるし、言い出しっぺは他ならぬ自分であるから、冬彦は作戦概要を聞いた時も逡巡せずに頷いた。

まだ連邦ではモビルスーツの配備など影も形も見えていない今だからこそ、幾らか心持ちは楽なもので、ザクのコクピットに乗り込んでなお、幾らかの心の余裕を持ってその時を待っていた。

 

《――ミノフスキー粒子の散布が完了した。もう間もなく始まるよ》

 

見上げた先のモニターには、アヤメの姿が映っている。足を組んで座る姿はどうに入った物で、赴任してからの初任務だというのにもうブリッジの面々をこき使っているらしい。

 

「ああ……」

《おいおい、何時までも寝ぼけていないでくれよ。幾らこのウルラの足回りがいいからって、火線を集中されると厳しいんだから》

「わかってる」

 

 既にザクは全機発進し、艦隊の周りで待機している。冬彦は、その先頭にいる。

 

《それじゃあもう一度だけ確認しとこう。まず艦隊がばらまける物を撒くだけ撒く。次に君らMS隊が突っ込む。僕ら艦隊は観測ポッドの存在を悟られないよう動きつつ戦闘を継続して本隊を待つ。良いね?》

「間違いない。その通りだ」

《そうか。それじゃあ健闘を祈るよ戦隊長。本隊の到着はミサイル着弾から三十分前後としてるけど、それほど当てにしないようにね。言われなくてもわかってるだろうけど》

「まったくだ」

 

 S型の真新しいコクピット。数ヶ月の内に二度目の乗り換えであるから、贅沢な事だ。

 見回してみて、スイッチや電子制御系の項目が幾つか増えたが、基本的な配置はそう換わってはいない。

 その中で、新しく追加された物がある。フットペダル脇に追加された、新しいペダル。元からあった二本の外側に一つずつ追加されたそれは、背部の追加ユニットを操作するための物だ。

 先日お披露目されたユニット。左右のスラスターアームを後方へと向ける。

 

「それじゃあ、そろそろ行こうか」

《グッドラック》

 

 サムズアップを最後に、通信が切れる。

 最終チェック。

 出力異常ナシ。諸々も計器類に問題無し。

 乗機である茶に白のザクを先頭に、左右に五機ずつザクが並び、命令を待つ。

 

「――各員、続け!」

 

 あるいは、言葉よりも先に。冬彦のザクは加速していた。

 進路はやや下寄りに、艦隊のミサイルと航路が被さらぬようずらして、ルナツーの地表を目指す。

 その間にも、一足先にとミサイルがザクの頭をかすめるようにして飛んで行く。

 ミノフスキー粒子の散布に加えてミサイルまで撃ち込めば、ルナツーの連邦も艦隊を出してくるだろう。これは威力偵察などでは無いと、ようやく本格的にその危機に気づくだろう。

 それまでに、どれだけ対空砲を潰して戦力の空白と呼べる死角を作り出せるかが勝負だ。

 数の暴力には、余程の物が無いと勝てない。だからこそ目を潰し、手を潰し、死角から死角を飛び回る必要がある。

そしてその為の死角は、今からこの手で創り出すのだ。

 

 加速していくにつれ増していくGに耐えながら、遠くに見えるモニター越しのルナツーを睨みつけた。

 

 いつくるか、それともこないのか。対空砲火は、まだ一発も届かない。

 

 ミサイルが効果を発揮したのか?

 それとも、引きつけられているのか?

 

 減速を開始する為のアラームが鳴っても、まだこない。ルナツーの地表が判別できるようになっても、まだ。

 

 いよいよ、地表に取り付くか、という時になって、初めて一条の光が掠めていった。真正面にルナツーを見据えていた冬彦の、斜め上方に位置していた砲台からの、メガ粒子砲だった。

 

「危ないなぁ!」

 

 叫びながら、左右のペダルを蹴り飛ばす。合わせて、操縦桿を大きく引く。

 急旋回で身体と機体が悲鳴を上げるが、バックパックの効果もあって旋回速度自体は上がっている。対艦狙撃砲の砲口をメガ粒子砲が飛んできた方へと向け、発射する。

 一発目は外したが、二発目、三発目は命中した。砲台が吹き飛ぶのを確認するよりも、目を向けるのは周囲の様子。ミサイルで大分被害が出ているようだが、あくまで狭い範囲でのこと。そういつまでも居られない。

 

「各員、被害は!」

《こちらベン! “背負い物”の右腕が掠ったのでパージしました! 中央ユニットと左腕は動きます》

 

 被害を受けた部下からの返事に、その運の悪さに舌打ちしそうになって、思っていたより酷くないと考え直す。取り付くまでは死傷ゼロで来たと思えば、悪くは無い。

 多少移動速度が落ちるが、一機全損よりは幾らもマシか。ベテランを失わずに済んだことも考えれば何だかんだここまでは僥倖と言っても良い事の運びだと思えないでもない。

 

「クレイマン、サポートしろ。ピートもそっちに付け。遅れて良いが囲まれるなよ! ゴドウィンは私の所へ廻れ。セルジュ、ケリーの小隊はそのままで良い」

《はっ!》

 

 返事を聞きながら、サブモニターに指でラインを引き、それを各機に向けて一斉に送信した。

 進むべき道筋を、この瞬間に決めている。後は出方を窺いつつ、誰もが言うように柔軟に、だ。

 

「このラインにそって天頂方向を目指して移動する。私が前に出る。セルジュ、ケリー、両脇を固めろ。セイバーフィッシュが来る前になるべく広いエリアをクリアするぞ!」

 

 一発、砲を発射する。狙った先は、丁度隔壁を開きつつあった格納庫だ。大きさからして、艦船ではなくセイバーフィッシュなどの小型機用だろう。

 隔壁に角度を付けて建設されていたために、岩盤によって守られミサイルからも無事だったらしい。

 もっとも、たった今隔壁の隙間から飛び込んだ砲弾によって、爆煙と火炎を噴き出す無事とは到底言えない状況になったのだが。

この分だと、他にもまだ“こういった”施設があるはずだ。

 

「さあ、暴れてやろうか!」

 

 冬彦の駆るザクⅡSの、二つのメインカメラが光る。

 

次の獲物を見つけるために。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「閣下、始まったようです」

「うむ」

 

 同刻、ソロモンからルナツーを目指す航路で、コンスコンは斥候として先行したムサイから中継で送られた映像でもって、ルナツーの中程で小さな光が瞬くのを眺めていた。

 地球方面を経由してルナツーを今も攻撃している「ウルラ」からも、情報は来ている。

 

「艦隊を全て前に出せ。ザクも発進準備だ」

「よろしいので?」

「このグワザンを預かった以上、儂も無様は許されん。元より、許されている訳では無いがな」

 

 コンスコンの本来の乗艦は、チベ級重巡洋艦である。

ソロモンでも「ウルラ」のデータを基にぼちぼちとティベ型が建造されてはいるが未だ完成しておらず、それもあって今もチベに乗り続けていた。

そんなコンスコンは、今回はジオンでも数隻しか存在しないグワジン級戦艦を旗艦として、艦隊の指揮に臨んでいた。

 ドズルはドズルで、新しくザンジバル級機動巡洋艦の一隻を自分用に改造してはいるのだが……それであっても、ザビ家の乗用艦として用いているグワジンを配下へ回すというのは珍しい。

 数隻が要人の長距離移動用にローテーションしているが、それ以外は基本的にグワジン級というのはザビ家それぞれの専用艦であるのだ。

 グワリブなどはキシリアの専用艦であるし、ギレンの親衛隊のエギーユ・デラーズなどもあくまで親衛隊の長として艦を運営するのであって、その動きはギレンと共にある。

 これには新参の冬彦ばかりを優遇する訳ではない、というのを示す役割もあるが、単になるべく良いものを順当に配備して万全を期すというドズルの意気込みから来るものでもある。

 チベのままであっても艦隊指揮に問題は無かった。それでも、グワジンを回したのだ。

 コンスコンもいつも以上に気合いが入る。グワジンを常時任されるというのは、ある意味で少将という階級以上に意味のある事なのだ。

 

「どうも連中、動きが鈍い。思いの外、奴らも手が足りんのかもしれん。この分なら一度に押しつぶした方が良いだろう。シャアにも先行するように伝えろ」

「では、そのように」

「うむ……」

 

 コンスコンの主力艦隊がルナツーに到着するまで、あと少し――

 

 

 





 今日のトピック。

 ◆グワジンのどの船に誰が乗ってるかあんまりよくわからん。

 ◆実はハーメルンではスチームパンクで検索すると一件もヒットしない。

 ◆無限航路の新作を今もずっと待ってる。出ないかな。

 ◆以上。

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