転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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 私は帰ってきたー!

 その日のうちに帰ってこれるとは……後書きにて説明もします。

 しかしそのまえに、ただただありがとうございます。なんとかなりました。


第二十一話 大地に向かい

眼下に広がるのは、誰かが“水の星”と評した、地球。

 

人が造った偽りの大地、コロニーを落としてなお水と雲を纏い、何ら変わることなく今もそこにある惑星。

 

そんな地球へ向けて、赤く灼熱した礫が落ちていく。

 

一つではない。十よりも、百よりも多く。

 

第一次地球降下作戦。多くの将兵、そしてモビルスーツを乗せたHLVが、地表めがけて落ちていく。

 

人の魂を縛り付ける重力の井戸。後の人間はそう言った。

 

モニター越しにぼんやりと地球を見ていると、埒もない考えが浮かぶ。

 

〈ニュータイプ〉とは、何か。

 

シンプルにして、宇宙世紀の多くの指導者を後々まで悩ませた、至高にして最悪の難題。

 

 ある者は、宇宙へ上がった人類の新たな可能性だと言った。

 

 ある者は、あくまで単なる適応の結果であり、人という種の誤差の範疇だと言った。

 

 ある者は、人とは異なる新たな種、恐れるべき突然変異だと言った。

 

 いずれも言葉にするのは簡単で、余りに無責任で、しかしどれもがそれを裏付ける事実と矛盾を常に抱えていた。

 

 人類の新たな可能性とするには、余りに星に縛られて。

 

 適応の結果というには、余りに人からかけ離れ。

 

 新たな種であると言うには、余りに人と似通って。

 

 どこまで行っても、人は人でしか無かった。

 

 それは、いずれ歴史が証明する。

 

 どんなに大層なお題目を用意しようが。どれほど可能性が分岐しようが。誰かが変わらず馬鹿をやるのは変わらない。

 

 旧世紀からの伝統を、規模を大きくして続けているのだ。いつまでも、星の彼方にたどり着いても。

 

 しかし、ニュータイプとは結局なんなのか。

 

 見えぬはずのビームを除け、空想じみた殺気を真空の宇宙で感じとる者達。

 

 人を超えながら、人と変わらず、人より弱い。

 

 彼らを一つのカテゴライズにするには、余りに多用であり、広範でありすぎる。

 

 で、あるならば……

 

《――少佐?》

 

 突然に、聞こえた人の声。

 

 半ば微睡みを帯びていた思考は、断ち切られた。

 

 

 

《少佐、どうかなさいましたか。……少佐?》

 

 意識が現実に引き戻され、自分がどこに居るのかを知覚する。

 ザクⅠよりも多少広くなったコクピット内。

 通信の相手はフランシェスカ中尉だ。側には、ゴドウィン機の反応もある。

 ここは宇宙であり、地球の静止軌道上。今は地球降下の為にHLV(大量離昇機)を遙々グラナダから運び、順次切り離し、及び降下中の友軍の、護衛任務の最中。

 自機の周りを囲む独立戦隊のモビルスーツも、ザクⅠが大半を占めていたのが今は全てがザクⅡに置き換わった。それは自機もしかり。

 

 艦隊の周囲に、敵はいない。連邦はまだジオンの大艦隊に打って出るほどの戦力を再編できていない。

 精々が航路に機雷を撒く程度……その程度だ。

 

「あっ……あ、すまん。少し気が他を向いていた」

《はぁ……何か急な事態が起きたわけではないのですね》

「ああ」

 

 独立戦隊は全十二機が既に発進済み。ウルラ以下戦隊各艦も含め、艦隊外縁に布陣している。

 中央にはHLVを運搬してきた突撃機動軍。その護衛をするために周囲を宇宙攻撃軍が囲み、その特に外側に戦隊がいる。

 塗装が間に合わなかった為に、ムサイ級各艦は通常色の緑で、ウルラも引き渡し時と同じ赤色だ。ただし、艦体側面に冬彦機のパーソナルマークにちなんだデフォルメされた梟が、目立たぬよう艦体色と同系統の暗色で描かれている。

 ……そのうち塗り替えるときに消えるんじゃないか?というツッコミは野暮である。

 

 現状、問題は起きていない。思索にふけり、睡魔が訪れるほどに宙域は平穏だ。

 あるいは嵐の前の静けさともとれるが、宇宙攻撃軍と突撃機動軍の合同艦隊にケンカを売れるだけの戦力があるとは考えづらい。質量兵器を軌道に乗せて送って来られると怖いが、それについても手はうってある。

 

 少し離れた所にいる、クレイマン機が装備している、対艦狙撃砲にも似たシルエットの、それ。

 元からあった軍の定点観測用ポッド、OP-02c。それに持ち手を付けた物である。ザクⅡ用の新型バックパックもできていないのに、多くの部材が新造となる新型の観測ポッドが間にあうはずもない。

 そこで、急遽現行の物に持ち手を付けてザクに持たせ、機動力を兼ね備えた観測機を仕立て上げたわけなのだが、幸いなことに今の所怖れていた質量弾攻撃は無い。

 上から新しい指令も来ていない。定期的に「ウルラ」や「アクイラ」から観測データや降下作戦の進展状況が送られてくるので暇という訳ではないのだが、はっきり言って手持ちぶさたではあった。

 

「……中尉、少しいいかな」

《は、何でしょうか》

「君は、“ニュータイプ”という物を知っているか?」

《ニュータイプ、ですか?》

「そう……ニュータイプ。HLVの降下を見ていて、随分と昔に雑誌か何かで見たのを思い出した」

《いえ、知りませんが……いえ、どこかで……?》

「昔、建国の父ジオン・ズム・ダイクンが提唱していた……らしい」

《それは……!》

 

 声に、緊張が混じる。些細な井戸端会議のような物とはいえ、将校がダイクンの名を出すというのは、中々にスリリングなことだ。

 

「いや、俺ももうそんなにちゃんと覚えては居ないんだがね。ようは、宇宙に進出した人類は、宇宙に適応して進化するんじゃあないかって話なんだよ。SFにあるようなテレパシーのような、ある種の感応的なこともできるんじゃないかってね」

《……本当に、SFの中の話ですね。それで、その適応した先というのが……》

「そう、ニュータイプ。まぁ、俺も今の今まで忘れていたんだから、そう大したものではないんだろうけどね」

《はぁ……?》

 

 今もまだ、HLVの降下は続いている。ムサイと同じ濃緑の塗装が、大気圏へと進入する過程で真っ赤になって、流星のように落ちていく。

 

《少佐は、どうして急にそんな話を?》

「さて、どうしてと聞くか」

《……不味いことですか》

「いや、深い意味は無くてな。もし、ダイクンが提唱したとおりなら、こうして再び地上へ降りようとしている我々は、どうなるのかな」

《……SFですね、本当に。私には現実にそんな存在がいるとは思えません》

「そうだな。荒唐無稽なSFだ。人が人と言葉を交わさずにわかり合うなんて、まずあり得ない。だが……」

《?》

「いつまでニュータイプなんてのがSFの中にいるかはわからないぞ。旧世紀、歩くロボットというのはサブカルチャーの中の存在でしかなかった。ましてや、人が乗れる物など旧世紀の人間からすれば、信じられないだろうな」

《あー……それは少しわかるような気も》

「なら、あながちニュータイプというのもSFの中だけの産物ではないかもしれないだろう?」

《……そうですね》

 

 コクピット内に、アラーム音が響いた。何かの警報ではない。あらかじめセットしておいたタイマーが、時間になったのを知らせただけだ。

 

《時間ですか》

「ああ、そうだ」

 

 通信越しに、フランシェスカにも聞こえたらしい。

時間というのは、独立戦隊にたいしての護衛の任務がとかれる時間のことをいう。元々グラナダで別れるはずだった戦隊だが、途中までの航路が同じということもあり、一時的に本隊と共に降下予定ポイントまで同道していた。

ここからは、本来の目的に従って別行動となる。

 サブモニターをタッチし、それまでフランシェスカ機のみとの秘匿モードだった通信を戦隊の各機へと通じるようにモードを変更する。

 

「各機、これより本来の任務に移る。フランシェスカとクレイマンは私に続け。しばらくは艦隊に先行し、哨戒する。他の機体は一度各母艦に帰投しろ」

 

 命令が飛び、この外縁だけが慌ただしくなる。各艦がゆっくりと回頭し、「ウルラ」が先頭に出るように陣形を整えるため、動き始める。

 

「戦隊各員へ。戦隊は今から本隊を離れ、別任務を開始する」

 

 作戦開始の予定時間になったために、本隊へと通信が送られる。

 

「機雷の有無を確認したのち、全機帰投後スイングバイを実施。L3を経由し、目標は、連邦宇宙軍拠点、ルナツー。敵の機雷敷設部隊を待ち伏せし……叩く。まさかとは思うが、MS乗りが機雷に引っかかるなよ?」

《もちろんです》

「よろしい。それでは出発する」

 

 

 

 宇宙攻撃軍、ヒダカ独立戦隊としての初任務だ。

 

 

 

 




 珍しくネタ抜きで真面目な話ししようとしたらコンピュータートラブルですよ。
 しかし皆様の助言でなんとかなりました。ただ原因は不明のままです。どうも前回本体のアップデートの時に何か起きてたような感じですが、詳しくはわかりません。
 いやしかし本当にありがとうございました。

 さてニュータイプってなんでしょうね。ダイクンの言ったのが正しいのか。主人公やそのライバルが叫んできたのが正しいのか。あるいは御大のいうことが正しいのか。

 私にもわかりゃしませんよ。わかりゃしませんけど、個人的にはカミーユとバイオセンサーとかあの辺の存在がニュータイプ論を混乱させたんだと思ってます。

 

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