転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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 感想でオリキャラのイメージがつかみづらいとうのがありました。
 艦隊の編成とかと合わせて、設定だしましょうかね。
 改修点とかもまとめて。でもそういうのは鬼門なんですよねぇ……


第十七話 掘削

 

 

 目の前のモニターに映るのは、立ち塞がる困難そのもの。そり立つ緑の岩壁は、モビルスーツで押してみても、ほんの僅かも動きはしない。

 

 道は後ろにしかなく、逃げ道は無い。それに後ろもつかえている。前へ進むしかないのだ。

 

 斬り開く力はある。だが、同時に少しばかりのやるせなさも。

 

 操縦桿を動かして、“それ”を前へと向ける。対艦狙撃砲にも匹敵するような重装備。

 両手で保持せねばならない巨体、そこから伸びる砲身は無骨に角張っており、パイプ状の銃身を四角い支柱が上下から支えている。対艦狙撃砲に匹敵するというよりも、上まわる、と言った方が正しいかも知れないような巨砲である。

当然、それだけの装備を単機では運用することは難しく、ジェネレーターを他から引っ張ってきてまで出力確保が要求された程の髙火力も併せ持っている。

 

冬彦機他、ザクⅡ各機へ配備された坑道掘削用の“新兵器”。

 

その名も、“ジェネレーター直結高出力大口径レーザートーチ”。

 

 ちょっとしたメガ粒子固定砲台並の出力を誇る、工廠設置の為の強い味方である。

 

 背後から冬彦と対象を照らす大型の投光器。剝き出しになったそれらの周りでは、多くの人員が足を止め、じっと冬彦機と、鈍く光るトーチの先を見つめている。

 

 更に言えば、冬彦機の左右にも、同じ装備をしたザクⅡが同じように砲口を前へ向けて、片膝を付いた体勢で静止している。

 

《……少佐。準備はよろしいですか?》

 

 通信機越しに聞こえるのは、エイミー伍長の声である。ジェネレーターは予備機としてパプアに積んできた乗り換え前のザクⅠからであり、エネルギーパイプでもって冬彦機が構えるトーチ後部に直に接続されている。

 

「こちらは問題無い。それより、位置はここで本当にあっているんだな?」

《はい、各種測定値から計算した上では間違い在りません。出力の推移はこちらでモニターして制御しますので、思いっきり開けて貰っても問題在りませんが、場所だけは間違えないようお願いします。

レティクルが表示されるように補正プログラムを組み込んで起きましたので、そちらも確認を。“RTOSS”と銘打っておきましたので、すぐにわかるはずです》

「了解……」

 

 言われた通りのファイルを探し、サブモニターをタッチする。メインモニターに展開されたのは三重円に十字というシンプルなレティクルに、その後描くべき理想の軌跡を示したライン。照射可能時間も、計算してくれるらしい。

 少しばかりずれていた照準をレティクルに従って合わせ直し、親指をボタンの上にそっと重ねた。

 

《――冷却装置、正常。緊急放熱装置、異常ナシ。エネルギーラインオールグリーン。出力上昇想定内。リミッター稼働中。臨界まで百二十秒》

「……あと二分あるのか」

 

 一旦、操縦桿から手を離した。緊張をほぐすために、握ったり開いたりを何度か繰り返したり、首を揉んだりして少しばかりの休息を取る。

 

 今は、誰も彼もが動き続けている。MS隊で言えば、隊を二分し、それぞれ三交代制で動いており、記憶が確かなら“事”を始めて三日目に入ってすぐくらいか。

 当たり前だが、満足な休息も無しに三日も続けて任務を続けるなど無茶も良いところだ。しかし、それでも急がねばならない事情があるのだ。

 

 サイド3を離れ、ソロモンへ向かう途中で聞いた、“捕虜であったはずのレビル”による演説。これにより、締結寸前だった連邦との講和が無くなり、戦争の長期化が避けられなくなった。

 で、あるならば、だ。今はジオンが押しているから良い物の、逆に連邦が押し返し始めた場合、真っ先に狙われるのは月の裏側にあるグラナダか、ここソロモンのどちらかだ。

 地上で勝てればそれにこしたことは無いのだろうが、余り期待してばかりもいられないのが実情だ。

 

《臨界まで、六十秒》

 

 資源衛星を利用した、巨大な宇宙要塞であるソロモン。宇宙攻撃軍の本拠地であり、ジオン公国全体で見ても有数の拠点である。しかし、何であろうと負けるときは驚く程簡単に負けるのだ。

 ソーラ・システム。ジオンのコロニーレーザーと比肩する、連邦側の決戦兵器。史実においてはたった二回の照射で、どれほどの被害をジオンが被ったことか。

 

 しかし、今ならまだ、手が打てる。数ヶ月の準備期間があれば、多少なりとも対抗策を用意しておくことができる。

 要塞が要塞であるために捨てきれない弱点もあるが、それもある程度は緩和できる。歴史に学べばいいのだ。どんなに兵士の数が増えようが兵器の質が、戦術戦法が刷新され戦争の形そのものまでもが変わったとして。

条件を設定し行動を制限し一つ一つを突き詰めていけば、要塞の攻略戦で攻め手が取れる手段などほんの僅かしか残らない。

 

ならば、それを一つ一つ潰していけばいいだけのこと。

 

 ただしソーラ・システムは桁違いなので完全に別枠であり、また何か案を絞り出す必要があるのだが。

 

《臨界まで、あと十秒。カウントダウン開始》

 

 意識を戻し、再び操縦桿へと手をかける。位置は問題無いため、動かしはしない。ただ、親指をボタンの上に重ねるのは、忘れない。

 

《5、4……》

 

 緊張はない。疲労のピークということもあって、表には出さないが若干ハイになりつつあり、そのせいでもある。

 

《3、2、1……出力臨界! 今です》

 

「っ!」

 

 エイミー伍長の声と共に、親指でボタンをぐっと押し込んだ。

 同時に、モニターが白く染まる。新装備の砲口から打ち出された光が、至近距離から対象に突き刺さり、白熱し、赤く溶かしながら突き進む。

 

《出力良好。廃熱に問題もありません。そのままの体勢を維持して下さい》

 

 白く染まっていたモニターがある程度回復し、視界が戻ってくる。目に付くのは、焼け焦げた表面と、未だ放出され続ける高出力エネルギーの束である。

 

《もう、少し、もう少し。あと……今です。スイッチを切って!》

 

 指を離すのと同時に、放出が止まる。それと共に、周囲が静寂に包まれた。

 

「上手く、いったか?」

《はい。向こう側で貫通を確認したようです。これで、最後の通路が繋がりました。お疲れ様です。後は我々がプチモビでなんとかしましょう。》

「やっと休める……丸三日かかったか」

《いえ、三日で済んで良かったと思うべきでしょうね》

「そうかい……」

 

 やれやれといったふうに、ヘルメットのバイザーを上げ備え付けの水のパックに口をつける。

 

 レーザートーチでの掘削作業は工廠移転のための、第一歩にすぎない。

まずは開発局の人員のためのブロック化されたコンテナ居住区を積むところ始めるのだが、その為にはまず空間を作ること。そのためには通路を掘ること。更に先を見越して通路を何カ所かと繋ぐ必要があった為に、戦隊のザクを全機かり出してまで突貫工事を行ったのだ。

 ソロモンまでの艦隊警護に続きザクⅡの“慣らし”も兼ねているが、それでも始めてからわずか三日ではまだまだ進んではいない。やっと通路予定の場所に穴が三つが貫通し、これから発破をかけてMSが通れるようにする作業も待っている。

やるべきことは幾らでもあり、掘削は資源の切り出しも兼ねるため余り無茶もできない。当然、居住ブロックを置くのもまだ先になる。もうしばらくはパプア級の中で生活する必要があるだろう。

 ソロモンにも居住区はある。しかし、開発局という機密が優先される部署であるという点や、まだソロモンも開発途中であり急に多くの人員を受け入れるのが難しい、というのもある。

 しばらくは前からあったソロモンの宇宙港の一区画を間借りして、できる範囲で改修から何からを済ませる必要があるだろう。戦隊と第六開発局の本拠地が出来るには、まだまだ時間がかかるらしい。

 

 だが、何にしても、とりあえずすることが一つ。

 

「……戦隊各員に、通達。これより各員に順次二日の休息と臨時休暇を許可する」

 

冬彦の言葉に、通信機の向こうからうめき声にも似た歓声が聞こえた。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「休めん! どういうこったい!」

 

 新旗艦“ウルラ”内部に用意された自室で、冬彦は怪気炎を上げていた。

 

 実に、不思議なことが起きたのだ。

 

戦隊の人員になるべく不満が出ないように休暇を取れるように、そうでない者にも休暇を待つ間も休息がとれるように時間を割り振っていたのだが、その結果どういうわけか冬彦が休暇を取る時間が無くなってしまったのだ。

 休息は数時間取れる物の、そんなものシャワーを浴びて寝れば終わりだ。

 

 おかしい。しかし自分で組んだ時間配分には一部の隙も無い。

 

「ぬあー……ぬぅおー……」

 

 無念さから机に突っ伏し、脱力する。部下に見られたら威厳もへったくれもない姿だが、それにしたって無理もない。冬彦だって三日間、ザクに乗って働いていたのだ。

 

 しかし、だからといって休みは増えない。仕事も減らない。時間だけが減っていく。

 まだするべきことはあるし、考えておかないといけないこともある。早速上がって来たムサイのペイロード増加についての案を検討したり、ザクⅡへのプロペラントタンクの増設方法の選考もある。

 

だから技術士官じゃないと何度言わせれば……もう何度目かもわからないいつもと同じ愚痴を言おうとしたとき、不意に来客を告げるチャイムが鳴った。慌てて身体を起こして襟を直す。

 

 机の上の端末を操作すると、聞こえて来たのは正式に副官として配属したフランシェスカ中尉の声だ。

 

《少佐、ササイ大尉がお越しです。何でも話したいことがあるとか》

「入ってくれ」

「……失礼します」

 

 フランシェスカ中尉に続くように、ササイ大尉が室内へと入ってくる。ササイはガデムのように恰幅の良い体格をした男だが、髭や顎は剃ってあり、日系人らしい黒髪もきちんと整えられている。

 金髪碧眼。髪の長さを肩で切り揃え、軍人らしい均整の取れながらもグラマラスな身体付きをしたフランシェスカ中尉とは、対照的とも言えるだろう。

手には、ちょっとした荷物も抱えている。

 

「いや、申し訳ありません、少佐。しかし是非とも今の内に話しておきたいことがありまして。少々お時間を取っていただいてもよろしいですかな」

「ええ、かまいませんよ、大尉。モビルスーツ関連のことですか?」

「そんなところです」

 

 冬彦の部屋は、指揮官の部屋ということで広くないなりに艦長室並に良い部屋があてがわれている。応接用の席をササイに勧め、自身は飲み物を取りに行く。

 

「あ、ヒダカ少佐。少し待っていただけますか」

「はい?」

「実は、ソロモンに来る前にある方から良い茶葉をいただきまして。せっかくなので部屋でいれて持ってきたのですよ。よろしければ、いかがでしょうか。」

「はあ……」

 

 中尉も、と言われ三人が席につく。

 荷物の中にあったポットからカップに、茶が注がれ、湯気とともにふっと茶の香りが無機質な室内に広がり、冬彦、フランシェスカ共に相好を崩した。

 ポットに入っていたため紅茶だと思い込んでいたのだが、冬彦にも覚えのあるこの香りは、懐かしい緑茶の物だ。

 

「……おいしい」

 

 先に口にしたフランシェスカは好みだったのかにこやかにしているが、冬彦は逆に一瞬にして真顔になっていた。

 確かに、とても美味しいのだ。味、香り、いずれもが普段口にしているようなチューブ入りの物とはまるで違う。おそらくは余程の茶葉を使ったのだろう。

 

 一介の大尉が、この宇宙ではそうそう手に入れられないような、相当高級な茶葉を。

 

「大尉。茶葉を頂いた、と言いましたね」

「ええ。そうですよ」

「誰からか、お聞きしても?」

 

 ササイ大尉が、口の端に笑みを浮かべたのを見て、冬彦は確信した。

 

 また、厄介事だ。

 

 

 

「タキグチ老から頂きました。少佐の所に厄介になると話しましたら、餞別に、と」

 

 

 

 明るい室内に、すっと何かが入り込んだ気がした。

 

 

 

 




 誤字を指摘していただいたのに、どこかわからなかった……もうしわけないのですが、見つけられた方は面倒だとは思いますが何話かもお願いします。あとは何とか自分で探しますので。

ご意見ご感想誤字脱字の指摘そのほか諸々何かありましたらよろしくお願いします。

ちなみに、最後名前がちらっと出た人はオリキャラでは無いのです。

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