Scarlet Busters!   作:Sepia

87 / 124
遊戯王の新作映画に、AIBO役として風間さんが出演するそうです!!
一時はどうなるかと思いますが、遊戯はやっぱ風間さんボイスじゃないとしっくりきません!!
やったZE!!
原作終了後の話だから、王様はメインでは出ないのかもしれませんが、きっと回想で出るでしょう。デュエルで……笑顔を……。

またGちゃんがヒロインするのかもしれませんね(すっとぼけ)





Mission87 赤茶髪の少年

 午前中は一般科目のテスト。そして午後からは体力テストと身体検査。

 時間割によれば、すべてのテストが終わった後にちょっとした一般教科の科目の補修テストがで行われているらしい。民間からの依頼(クエスト)を受けていたなどが原因で武偵高校の生徒たちが授業に出られないというケースが多々あるため、単位制で進級や卒業の可否を決めている武偵高校のちょっとした救済措置の一つであるとのことだ。

 

 いくら救済措置とは言ってももらえる単位は0.1単位。しかも一教科しか受けられないという制約付きなのでどの科目を選ぶかはしっかりと考えなければいけないのだが、三枝葉留佳は迷うことなく生物のテストに参加した。彼女自身先日提出であった生物のレポートを出していないということもあり、牧瀬の宣言とかは関係なしにどのみち生物の授業を取るつもりだった。彼女にとってはたとえ0.1単位といえでもバカにはできない。ここで確保できるのならしておきたいものなのだ。とはいえ、

 

「ほらほら皆さん。騒がないでちゃんと着席してください。ほら、TPOをわきまえて」

 

 ポンポン、と手を叩いながら周囲を囲んでおる教師の姿を見ながら、牧瀬君が言ったことは本当に正しいのかと葉留佳は疑問に思っていた。彼が言うには、小夜鳴先生はどこかの組織からの回し者だという。

 

(小夜鳴先生の他にも怪しい人ならたくさんいると思うけどなぁ……)

 

 牧瀬君が言うには、どうも教務科(マスターズ)に敵が潜り込んでいることはどうやら間違いないらしい。

 今後のプランを話し合ったときにその理由は教えてくれた。

 

「敵って誰にとっての敵?」

「具体的に言うなれば、来ヶ谷のことのイギリス清教や俺の委員会だな。アドシアード開催直前にあった花火大会で謎の魔術師が現れたことは知っているだろう?」

「うん」

「そいつが探していたであろう錬金術師のアジトがついこの前発見されたんだ。問題となっているのは、その場所への入り口が教務科(マスターズ)だったことでな、そんな場所に入り口を作るなんてことは教務科(マスターズ)の中に協力者がいないとそんなことはまずできないはずなんだ」

「……その協力者が教務科(マスターズ)の人間ということは確定なの?例えば寮会のメンバーだとかさ」

「寮会のメンバーは確かに教務科(マスターズ)に入り込める。けど、そんなことをやろうとしたらどうしても時間切れになる。教務科(マスターズ)に入り込めるだけで、時間いっぱいのタイムオーバーだろうさ。それに、寮会には俺の協力者がいる。協力者が寮会のメンバーならとっくに分かっているさ。本当なら俺と来ヶ谷で探すつもりだったんだが、あいつは生憎と別の要件が入ったみたいでな。俺の委員会もこっちに人手を回すだけの余裕はないし、俺とお前でやる」

「牧瀬君って、協力しあうほど姉御仲良かったっケ?」

「イギリス清教の副団長が俺の委員会の関係者なんだ。その関係で仕事上の付き合いはある。だから有事には協力し合うことになる。プライベートでは何もないぞ」

「確かに。アメリカでもさっさと帰ろうとしてたもんね……」

 

 牧瀬君だけでなく、姉御も教務科に敵がいるって判断しているのなら、それは事実なのだろうと葉留佳は思う。

 姉御の勘はよく当たり、そうそう外れることもない。むしろ、今まで外れたところを見たことがない。

 だから教務科(マスターズ)を探るということについての納得はできたのだか、

 

「でも、なんで小夜鳴先生が怪しいの?姉御が何か怪しいって要素見つけたの?」

「いいや、小夜鳴に目を付けたのは俺だ。いいかよく考えてみろ。女子にモテ、イケメンで、礼儀正しく誰にでも敬語でしゃべって心優しく女子にモテる。そんな奴が現実にいると思うか?いやッ!!断じてそんなリア充はいないッ!!いてたまるものかッ!!あいつは化けの皮をかぶっていると、狂気のマッドサイエンティストであるこの俺の直観は告げているのだッ!!」

「え、そ、そんな理由?他には、他には理由はないの!?」

「ない。以上が俺が小夜鳴が怪しいと思う理由のすべてだ。分かったら奴を監視していてくれ。念のためにお前にはこの発信器を渡しておく。いざという時はこれの信号を追って俺が自ら助けに行くから安心してくれ」

「科学者に助けに来てもらってもなぁ……」

 

 牧瀬君が告げた根拠としている理由がひどすぎるため、どうにも葉留佳には小夜鳴先生が悪者だと決めつけることができないでいた。

 小夜鳴先生は非常勤講師ということもあって、こういった特別講義にしか顔を出さないらしい。

 確かに普段の授業の受け持ちがない分、自由な時間があるという点は怪しい要素となりうる。だが現時点ではそんなものはただの決めつけの域を出ない。犯人はコイツと断言している牧瀬紅葉には私怨が少しだけ入っていそうだし。

 

『遺伝。親の特徴が子に伝えられる遺伝。その法則について学ぼう』

 

 考えてばかりいても仕方ないので、映画館のように広い情報科(インフォルマ)の大視聴覚室の真ん中ぐらいの席に座って、受け取ったテスト用紙であるプリントを見ることにした。プリントによれば、これから『遺伝学』についてのDVDを上映するらしい。それをちゃんと見て、問題文の空欄に当てはまる内容を書き取りせよとのこと。

 

『あるパーティで、女優のマリリン・モンローがアインシュタイン博士にこう言った。「私の美貌とあなたの頭脳を兼ね揃えた子供ができたら、素晴らしいと思いません?」プロポーズともとれるマリリンの言葉に、アインシュタイン博士はこう切り返した―――――――「やめておきましょう。私の顔とあなたの知能を持つ子供が生まれるかもしれませんよ?」……このジョークは我々に、「遺伝」と「変異」を学ぶ上でのヒントを与えてくれる』

 

 ナレーションが始まったので小夜鳴先生のことはひとまず置いておいて真面目にプリントに取り掛かることにした。葉留佳にとっても0.1単位は貴重な単位であることには変わらないのだ。単位がかかっているせいか、それともいつになく最後まで真面目に聞いていたせいか分からないが、講義が終わった後も遺伝によって受け継がれたものについて考えてしまうこととなった。

 

(遺伝かぁ。もし私達が超能力なんて受け継ぐ一族なんかに生まれなかったらどうなっていたのだろうなぁ)

 

 生まれの不幸を嘆いても仕方のないことではあるが、もしもの未来に思いを寄せずにはいられない。

 もしも超能力なんてなかったら、一族が公安委員会だんて設立するはずがない。

 もしも超能力なんてなかったら、佳奈多だって武偵にはならなかった。そんな必要はない。

 そして、佳奈多が狂ってしまってイ・ウーのメンバーになって私の前からいなくなることだってなかった。

 葉留佳が手にした超能力は、確かに自分でも便利な能力だとは思う。

 けれど本来こんなものはいらなかった。本来武偵として生きていくつもりなんてなかったのだ。

 はぁ、と誰が悪いでもないことを理解しながらも、葉留佳は深いため息をついてしまう。

 

「三枝さん」

 

 気分治しに大好きなオレンジジュースでも飲もうかと思い、自動販売機にやってきた葉留佳に声をかけてきたのは彼女と同じく超能力調査研究科(SSR)の学科の生徒であった。

 

「白雪姫じゃん。このはるちんに何か用ですカ?」

 

 星伽白雪。その東京武偵高校の生徒会長もやっている模範的な優等生だ。けど、もともと超能力調査研究科(SSR)の風潮として、閉鎖的ということもありあるせいか同じ学科に所属していながらも葉留佳と白雪の間に接点はあまりない。最も、葉留佳自身白雪を警戒して避けていたというものある。

 

『ん?超能力調査研究科(SSR)に入りたい?なんでまたそんなことになったんだ?』

『いや、ちょっとおねぇ……その、知り合いがそこに復学してきまして、様子を見に行くにはどうしても同じ学科の方が都合がいいと思うのデ』

『いいぞ。私が推薦状を書けばいいだけの話だ。どのみち君は超能力者(ステルス)というものを知らなさすぎる。いくらイギリス清教の人間だ言っても、その手の専門ではない私が教えるのも限界があるし、いっそ自由履修じゃなくて専門履修に変更したらどうだ?』

『そんなことできるんですか?』

『できるできる。権力でねじ込んでやる。どのみちあそこの資料を使うために私の身内を誰か入れる必要があると思っていたからな。葉留佳君が行ってくれるなら、私も一つ手間が省けたというものだ』

 

 もともとの専攻学科が超能力調査研究科ではない葉留佳が今超能力調査研究科にいるのは、イギリス清教のメンバーである来ヶ谷唯湖が閉鎖的な超能力調査研究科の資料の観覧権限が欲しくて身内に推薦状を書いたということになっている。そのせいもあり、葉留佳は自分が超能力者(ステルス)ということを隠している。自由履修でとっている理樹とあわせて実技は仲良く(?)落ちこぼれているのだ。

 

『けど、いいか葉留佳君。その超能力は人前では絶対に使うな。見せびらかすようなことをすると、危険なことに巻き込まれかねない。ただでさえ汎用性が高すぎる能力だ。利用しようとする輩が次から次へとわいてくることだって否定できない。三枝一族が滅んだということになっているのなら、わざわざ生き残りがいると宣言するような真似をすることはない』

『でも、どうしても使わなきゃいけない時が来たら?』

『人生を棒に振ってもいいと思ったときは好きにしたらいい。それは葉留佳君の人生だ。私が口出せるようなことじゃない。けど、気を付けろよ。三枝一族に生き残りがいるってバレたら色んな奴が近づいてくるだろう。復讐を手助けする代わりに仕事をしてほしいとか、容易に裏社会に引き込まれたくなかったらな』

『姉御は、やらないんデスカ?』

『私か?私はこの三年の高校生活は自分勝手に好き勝手やらせてもらうんだ。別に組織最優先とか考えてないからそんなことしないさ。ああ、あと星伽神社の白雪姫には気を付けろよ。超能力を使わなくても下手なことしたら一発でバレる。自分が超能力者(ステルス)だってこと、少しでも気取られるんじゃないぞ』

 

 姉御に警告されるまでもなく、滅んでしまった三枝一族であることをわざわざ周囲に伝えるつもりはなかった。同情されるのだって嫌だったし、あれやこれや聞かれるのも言われるのも嫌だった。だからこそ引いていた一戦だったはずなのに、白雪が意を決した表情でそれをそれを飛び越えてくる。

 

「三枝さん、あなた……あの三枝一族だったんだね」

「あの、と言われても、何のことだか分からないですネ」

「人目を気にしているのなら大丈夫だよ。人払いの結界を張ったから。これでしばらくは誰も近づいてこないはずだよ」

 

 言われて葉留佳は周囲を見渡した。

 いくら屋外にあるとはいえ、この場所自動販売機の前であるのに近づいてくる人間の影も姿も存在しない。

 星伽神社は制約が強すぎるせいで不自由があると聞いていた葉留佳には、今白雪がこうして強硬策に出たことを意外に感じていた。

 

「キンちゃんから聞いたの。あなたが、そして二木さんが三枝一族出身だってこと。そして、一族を滅ぼしたイ・ウーの魔女の正体を」

「それで?生き残りである私に何か用?言っておくけど、壊滅した四葉公安委員会のことならほとんど知らないヨ。むしろ私が聞きたいぐらいだ」

 

 葉留佳は最初は穏やかに、いつもいつも通りの笑顔を浮かべていたはずなのに、いつしか葉留佳の表情はこわばっていく。対して白雪は普段のしっかりとした優等生としての姿はなく、葉留佳に気を遣うように一つ一つ言葉を選んで問いかける。

 

「そんなことじゃないの。三枝さん、場合によってはあなたに謝らないといけないことがあるの」

「……?」

「三枝一族が滅ぼされた数日前に、星伽神社にやってきた少年がいる。タイミングから考えて、きっとあなたと同じ三枝一族の人だったんだと思う。いや、そうとしか考えられないの」

「―――――――名前は?」

「分からない。事情があってアポを取るわけにはいかなったって言ってたみたいだし、そもそもそんなこと聞きもしなかったみたい。その人の特徴として分かっていることは、赤茶髪の髪をしている同年代の男の子だったということだけ」

「赤茶髪?」

 

 白雪の質問に対して葉留佳は何も答えなかった。白雪が恐れているように葉留佳の機嫌を損なったわっけではなかったが、関係ないと切り捨てることはできないことだった。

 

(星伽神社?そういえば、親族たちが四葉の屋敷に訪ねてきたあの日、ツカサ君が青森行きの新幹線のチケットを取っていたってあいつらは言ってような……どうだったっけ?あの日はお姉ちゃんがおかしくなってしたし、それどころじゃなかったからよく覚えてないや)

 

 けど生憎、葉留佳には白雪の言う赤茶髪の髪をした人物に心当たりがない。

 白雪の推測は見当違いのものだろう。そんな奴は一族にはいない。

 残念だが、白雪に教えてやれることは何もない。

 

「……もしその子が三枝一族の関係者だったなら、私達星伽神社に助けを求めてやってきたというのなら、私たちはあなたたちを見捨てたことになる。三枝一族だって壊滅状態にならなったのかもしれない。だから、一言だけでも謝罪がしたくて……ごめんなさい」

「白雪姫はずいぶんと優しいんだね。知らん顔をしていればわざわざ不愉快な思いだってしなくて済むのにこんなことを言ってきてさ。でも、生憎と私はその赤茶髪の人間に心当たりはないや。だから白雪姫が気に病むことは何もないよ。きっと私達とは何の関係もない人だろうし、もし関係者だとしたら余計にそんな言葉は聞きたくなかったかな」

「どうして?やっぱり許すつもりなんて毛頭ないから?」

「いや、私はそもそも白雪姫のことを恨んでなんかいない。そもそも今言われたことなんて、初耳だったからあ、そうですかという感じで特に思うこともない。何を言っているのかまるで理解できない。だけど、思いもしていない同情は聞いていていいものじゃないから、もう二度と言わないでね」

「私は別に、三枝さんに同情しているわけじゃ……」

 

 葉留佳は気が付いているだろうか?

 何とも思っていないと、いつもと変わらない笑顔を浮かべているつもりの彼女の笑った顔が、どこか壊れたものに変わっていることに気が付いているのだろうか。

 親族たちが死んだことを残念に思われている言葉を聞いているはずなのに、心が不愉快になっていく状態に気が付いているのだろうか。

 

「白雪姫。お願いだから惜しむようなことを言わないで。あいつらにそんな優しい言葉をかける必要なんてないんだから。あいつらがそんな気遣いの言葉を受け取ることができるような連中にしないで。むしろ、笑ってやればいい。ああ、よかったと、安心して微笑んでいればいい」

「安心?いったい何に安心できる要素があるというの?」

「だってそうでしょう?うちの一族が滅んだのは、どこかの魔女に目をつけられた結果じゃない。言ってしまえば単なる内輪もめに過ぎないんだから。私のかなたは理由もないのに星伽神社を滅ぼすことはないだろう。だから、白雪姫は笑えばいいんだ。ああこれで、星伽神社が三枝一族を滅ぼすだけの力を持った魔女に狙われることなんてないんだなって安心して微笑めばいいんだ」

 

 この言葉が決定的であった。

 白雪は自分自身の中にあった違和感の正体を知る。

 もともと三枝一族が滅んだことに勝手に罪悪感を感じているのは白雪であり、それは筋違いのものであるとは彼女自身分かっていた。けど、肝心の葉留佳には一族が滅んだことに対しての反応が薄い。薄すぎたのだ。

 

「三枝さん……あなたもしかして、自分の親族たちが殺されたことに対して何も感じていないの?」

「あいつらが死んだからってどんな反応をすればいいの?泣けばいいの?それとも怒ればいいの?ねえ白雪姫。あなたは親族連中が死んで、周りがどんな反応だったか知っているの?」

 

 三枝一族が壊滅したと初めて白雪が聞いた時は信じられなかった。そしてすぐに恐怖へと変わった。

 あの戦闘能力に特化した三枝一族ですら敵わなかった魔女を相手に狙われたらどうなるのだろうという恐ろしさで眠れない日が多々あった。

 

「いい気味だ、だってさ。一族心中ってことでつたえられた近隣住人の反応はそんなものだったよ。私もあいつらに関してはどうでもいいんだ。かなたさえ変わらずいてくれたのなら、これ以上ないハッピーエンドだったんだ。嫌な奴がみんな消えて、大好きな人がずっと一緒にいてくれるんだ。ほら、素敵な話でしょ?」

「三枝さん……」

「あと、さっきから気になってたんだけどさ。白雪姫だって四葉公安委員会が壊滅したことについても何も思ってないんでしょ?星伽神社の前にやってきたっていう見ず知らずの人を見捨てたんだっていうよくわからない罪悪感があるだけで、別にその人のことだって何も考えてない。こんなところまで優等生しなくてもいいんじゃない?」

「私は別に、優等生として行動しようとしているわけじゃ……」

「じゃあなんでこの子の特徴で分かるのが髪の色だけなの?さっきから聞いていたら、人から聞いただけの話で当事者ではないようにも聞こえる。ねえ、ひょっとしてその子の顔も見たことないんじゃない?」

「それは……星伽の掟で、私は会いに行くわけにはいかなったから」

 

 第三者からみたらおかしな話だと思うだろう。

 超能力を受け継ぐ一族では、一般人からでは考えられない掟やルールが多い。

 白雪の幼馴染であるキンジですら理解できなかったことがある。

 休日に友達や後輩とショッピングに出かけることもダメ。

 近くでイベントをやっているからって、ちょっとだけ行って遊んでみるのもダメ。

 あれもダメ、これもダメ。理由はすべて掟だから。

 超能力者(ステルス)は特別な存在なのだからと、独自のルールの中で生きてかなければならない。

 白雪と同じく超能力を受け継ぐ一族に生まれ落ちた者として、葉留佳は白雪に何か文句を言ってやろうとは思えなかったし、そんなことができる資格はないと彼女自身思っている。

 

 だけど、一つだけ。

 同じ境遇を持つものとして、機会があれば聞いてみたいと思っていたことが葉留佳にはあった。

 

「ねえ、私からも一つ聞いていい?姉御から星伽巫女の話を聞いてからずっと白雪姫に聞いてみたいと思っていたことがあったんだ」

「何?」

「白雪姫はさ、超能力なんてものを受け継ぐ一族に生まれ落ちて、幸せだった?」

 

 たとえ万人に理解されなくても、幸せというものはあると葉留佳は思っている。

 それがたとえ閉じた幸福なのだとしても、どこにも救いのない物語なのだとしてもだ。

 例えばマッチ売りの少女は悲しい最期を迎えたが、彼女自身は幸せにその人生を閉じたという人もいる。

 第三者から見たら悲劇の人生を歩んでいようが、当事者がどう感じるかはまた別問題だ。

 下らない掟に縛られていたとしても、世間から見たら可哀想な人でも本人がそう感じているかは分からない。

 

「私にはキンちゃんがいてくれた。今までも、そしてこれからもそれは変わらないと言ってくれた。だから、私はずっと幸せだったよ。そしてこれからも変わらない」

「そう。それはよかった」

「三枝さんは?」

「私?私はね、今と違って昔は超能力なんて持っていなかったから、一族の中でいないものとして扱われてきた。私は生まれてくる来たことが罪なんだって言われて否定され続けてきた。でも、それでも私も幸せだった(・・・・・)よ」

 

 葉留佳の言葉を受け止める前に白雪にはある変化が起こった。白雪は急にあたりを見渡し始めたのだ。

 何かあったのかと葉留佳は聞く前に、彼女の携帯に電話がかかってくる。

 

「―――――もしもし?」

『お前無事か!?ケガとかしてないだろうな!?』

「え、ちょっと牧瀬君、いったいどうしたの?」

『どうしたもこうしたもあるか!!急に発信器の反応は途絶えるわ、なんか人払いに加えて通信遮断系統の結界まで張られているわでお前の身に何かあったんじゃないかって相当焦ったんだぞ!!』

「じゃあ牧瀬君、今何かした?」

『結界ぶっ壊した。だから今こうして電話が通じている』

「そう。心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。ちょっと白雪姫と話をしていただけだから。すぐにそっちに向かうよ」

『じゃあ早く戻ってきてくれ。すぐに作戦を始めるからな』

「分かった。ちょっと待っててネ」

 

 用事もあるし、もう話をすることもない。

 

「ウソ……あの結界が、破られた?一体どうやって……」

「じゃあ白雪姫、私はこれで行くね。仲間が私を待っているみたいなんだ」

 

 茫然としている白雪にじゃあねとだけ言って、葉留佳は白雪背を向けて歩き出した。

 結局は白雪の勘違いと罪悪感からくる見当違いな謝罪だったけど、なんだかんだで有意義な時間を過ごせたとは思う。自分の気持ちを確認できたのだ。決して悪いことではなかっただろう。

 

(……そうだ。わたしは決して不幸なんかじゃなかったんだ)

 

 超能力者(ステルス)でないとしてまともに扱われてはこなかったけど、私には確かに家族がいた。

 そう思える人間がずっと一緒にいてくれたんだ。

 

(かなたお姉ちゃん。どうして私を置いて行ってしまったの?一緒に行こうって言ってくれればどこにでもついて行ったのに。なんだってやったのに。私も一緒にイ・ウーのメンバーにだってなったのに)

 

 家族と思える大切な人がいつもそばにいてくれる。

 私はそれだけでよかったんだ。

 あんなくだらない一族の中でさえ、私は確かに幸せだったんだ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。