砂礫の魔女。自身をそう名乗ったおかっぱの美人はあろうことか博物館の正面から乗り込もうとしていた。絶句するあたしに何かあったのかとカナとか呼ばれた人が顔を覗き込んできた。
「どうかしたの?」
「止めなくていいんですか?どんな力もってる人かは知りませんが、いくらなんでも無謀だと思うんですが」
「何も心配いらないわ。パトラはすごく強いんだから」
自然体でパトラさんについて行こうとするカナさんに背中を押され、あたしたちも博物館の内部に入っていくことになる。どうしても安心なんかこれっぽっちもできず、いざという時のために携帯していた魔術の道具として用いる折り紙を握りしめていた。
ちょっと荒っぽいがヤバくなったらこれで呪いをかけて眠ってもらおう。
心構えだけはしておくものの手に握りしめた折り紙に実用性ははっきりいってない。技術として人を呪う方法は知っている。風水という概念には幸運をもたらす好ましい配置があると同時に、不幸を招く忌み嫌う配置というものが存在するのだ。治療と呪いはその実紙一重。やろうと思えばできるはずだけど、あたしは人を治療することは慣れていても今まで人を呪うことを目的として魔術を使ったことが一度もない。それに、この魔術は性質上一度につき一人にしかかけることができないという欠点がある。
それは魔術に対する耐性のない人間ならばどんなに強靭な肉体を持った人間であったとしても呪い倒せるが、逆にいえばどんな弱い人間でも一度に一人しか倒せないことを意味している。
結論。
この状況において、魔術なんか使わずに銃使った方が確実に強そうだ。
銃は引き金一つ引くだけで人の命なんて容易に奪うことができる武器だ。この状況においてのあたしの陰陽術の優位性はというと、警戒されずに済むということぐらいだ。現状あたしができたことといえば、周囲に気を配ることではなく、自分より幼い少女を怖がれせまいと抱きしめることぐらいのものだった。折り紙は武器ではなく、お守りみたいなものと化していた。
『もう警察が来たのか!?』
『警察だろうがなんだろうが関係ない!「空色の輝石」さえあれば、一生暮らせるだけの報酬はもらえるんだッ!!構わん撃てッ!!』
実際にテロリストと鉢合わせしたときは思わず背中にいた女の子を抱く力が強くなっていく。
あたしはこの場においては完全なるお荷物であったが、年上の美人二人はそうではないようだ。
―――――バンッ!ババンッ!!
銃声が鳴り響いても予測した痛みが一切来ず、何が起きたのかとつむってしまった眼を開けると、楯となるような砂の壁が形成されていた。
「この妾に刃向ったのぢゃ。それ相応の報いをくれてやる」
あたしたちの方に銃弾が迫ってきたら砂の壁で防ぎ、狙いを定めては砂の弾丸を飛ばす。
それだけのことで銃を持つ危険なテロリストたちを次々と沈黙させていった。
「ね、パトラは強いでしょ?」
カナさんはあたしたちを少しでも安心させようと優しくそう言ってくれたが、どんな言葉をかけられたとしてもこの時のあたしはまともに反応することができなかったと思う。魔術を使っていた戦闘というものを見るのはこの時が初めてだったのだ。魔女と名乗ったパトラさんの強さにただただ茫然としているたけだった。
●
「あや、おかえり。楽しかったかい?」
「え、えーと……」
「怪我人か?なら急がないとな。あや、準備を手伝ってくれ」
結局博物館にいたテロリストたちは、結局パトラさん一人で鎮圧していた。ホント砂、強かったぁ。ある時は身を守る盾となり、またある時はボールとなり強打する兵器となる。銃をもった相手が相手がだろうが、パトラさんを前にして誰一人傷つけるができなかった。
「申し訳ありません。僕が無様にやられなければこんな手間をかけることもなかったのですが」
「気にしなくていいですよ。困っている人を見捨てては武偵の名がすたりますからね」
ただ、テロリストたちに恐怖と絶望を植え付けたパトラさんであってもすでにケガをしている人たちについてはどうしようもない。ケガの治療のために、拓也さんがいるであろう診療所にあたちたちは戻ってきた。本来怪我人はこの診療所よりも大きな都内の病院に搬送されるべきであるが、ちょっとした事情によりそれができないとカナさんは言った。
「カナよ。ローマ正教のやつなんて見捨てようぞ。妾は確かに国民たちは守ろうと思ったが、こんな奴は別だ。助けたくもなかったわ」
「そんなこと言わないの。私も確かめておきたいことがいろいろあるしね」
ローマ正教に所属する錬金術師ヘルメス。診療所に連れてきた男性はそう名乗った。
今回発掘された一品の鑑定にローマ正教から派遣されてきた人物だった。
ヘルメスさんはテロリストたちに殴られたのか顔が真っ赤に腫れ上がっているものの、手に抱えたトランクをしっかりと抱きかかえて手放さないようにしていた。
「どうしてあの博物館にテロリストなんかが現れたのか。確かに美術品は裏のオークションなんかではマニアが高値をつけるでしょうけど、それだけならもっとスムーズに事を運ぼうとするはずよ。その辺のこともローマ正教さんに聞いておきたいしね。いざとなったら私たちの手で匿うことだって考えないといけないわ」
「ローマ正教の奴なんぞそこらでのたれ死のうが通り魔に刺されようが妾には関係ないのぢゃがのう」
「ここは診療所だ。どんな事情があるのかは知らないけど、治療と診察はすぐにさせてもらうよ。話はそれからにしてくれないか」
「分かりました。私も武偵としてお話があるますので一緒によろしいですか?」
「別にいいさ。あや、この人は俺に何か話があるみたいだから手伝いはやっぱりいいや。小毬が待ってるから行ってあげてくれるかい?俺はこのまま話を聞いておくから」
「うん!!あ、パトラさんは?」
「帰る。付き合ってられん。カナ、妾は先にホテルに戻っているからな。さっさと戻って来い」
拓也さんは自分自身を免許持っているだけと言っていたが、れっきとした武偵の一人であることは確かだ。同じく武偵であるカナさんと武偵同士何か話があるのだと思い、あたしは拓也さんに言われるまま、奥で待っている小毬ちゃんのところに行った。この時素直にいうことを聞いておかないであたしも話を聞いておけばよかったと、のちに後悔することになる。
「え、パトラさん14歳だったんですか?あたしはもっと年上だと思っていましたよ」
「ちなみにカナも同い年だぞ。そのくせ大人顔負けの成果を上げているのだから、妾としても鼻が高い」
後日、パトラさんが14歳ということを教えてくれた。あたしや小毬ちゃんとは三つも離れていないことになるが、とてもそうな思えなかった。これもパトラさんが教えてくれたことだが、あたしたちが拠点としているこの診療所はカナさんが作った診療所らしい。ある武偵が富豪の依頼を受けた時の莫大な報奨金により建てられたもの。そのことは聞いていたが、どうやらその武偵というのはカナさんだと聞いた時は驚いた。世の中、どんなつながりがあるか分からないものだ。それでも高校を卒業し、薬剤師の資格も取り社会人として働いている拓也さんにはカナさんもパトラさんも年下の可愛い子供に見えたのだろうか。子ども扱いして見くびっているいるわけではないものの、拓也さんが見つめる視線には小さな子供に向けるような温かさがある。この間なんかブツブツと文句を言ったままのパトラさんにキャンディー食べる?と聞いていた。パトラさん、喜んでたけど。あたしも後でもらおう。
(パトラさんもなんだかんだ言っていつもこの診療所にるけど、拓也さんたちが何をしているか知知ってるのかなぁ……)
あの博物館での一件以来、カナさんとパトラさんもしばらくはこの診療所にいるということだった。
ローマ正教なんか知らん。付き合ってられるか。
カナさんの前でふてくされて早く帰ったのは初日だけであり、なかなかホテルに戻ってこなかったカナさんをわざわざ迎えにきたのかいつのまにかパトラさんも滞在し続けている。
なにやらカナさんは拓也さんから医学のことを教えてもらっているようで、あたしとしては拓也さんとの時間が減って少し嫉妬だってしたくらいだ。父さんは所用で一か月ぐらい離れると離れると言ったけど今となっては拓也さんとあたしだけで充分診療所は回せるし、どのみちいても多忙で構ってくれないはずだ。拓也さんにも父さんにも相手してもらえなかったけど、その分小毬ちゃんと遊んだりパトラさんが魔術を教えてくれたりしたからいいとしておこうか。
「見るがいい!これが砂の城ぢゃ!!」
「おねえちゃんスゴーイ!」
「ふふん、そうぢゃろそうぢゃろ。妾はこれをいずれ実物として作るのぢゃからな、お主らも将来の世界の
「おねえちゃん、今後はあれ作ってよ、あれ!スフィンクス!!」
「任せておけ。おっきいやつを作ってやる」
パトラさんはカナさんが全然構ってくれなかったせいか何だかいじけたように診療所に診察に来たはずの子供たちと砂で遊んでいる。いつの間にか年上のお姉さんの地位を子供たちの間で確立していた。拓也さんにいろいろと教わっているカナさんを見て拓也さんの一番弟子の地位が危ないとか思ってしまい、いじけているパトラさんに若干共感してしまうあたしもあたしでどうなんだろう。小毬ちゃんが作ってくれたクッキーを口にしながらあたしと同じく蚊帳の外になっている同類に声をかけた。
「パトラさんは聞いてます?拓也さんたちは何をしているんでしょうね」
「知らん。何も教えてくれないカナのことなんて知ったことか」
「とか言っても、パトラさんって基本カナさんのこと大好きですよね。用事があったのか知りませんけど、この前の一週間のカナさんが診療所に来なかった時はパトラさんだって来なかったじゃないですか」
「あ、あの時はずっと眠ったままのキンイ……カナを守ってやるという使命があったのぢゃ!」
「眠ったまま……?カナさんは持病でもあるの?」
「持病……確かに病気かもしれぬな。あいつ、次から次へと新しい女を見つけてきやがってッ!ローマ武偵高校に進学してローマ正教の依頼も受け始めるなんてことは妾は認めん、絶対に認めんぞ!将来ローマ正教とは敵となるとこが分かりきっているのぢゃからな!あんな神罰至上主義者どもにカナを取られてたまるものか!聖職者のくせにいかがわしいおっぱいもいるみたいだしなッ!!!」
ローマ正教。
キリスト系で最も信徒を抱えている最大宗教らしい。
伝統と格式がものを言ってくる魔術の世界において強大な発言力を持っている。
あたしや拓也さんの扱う陰陽術なんて日本で本格的に使われ始めたのは平安時代だ。
長い歴史で見ればすでに滅んだ技術だとはいえ目新しい分類にも当てはまってしまう。
『キリスト系の魔術が一体なんぢゃというのぢゃ。妾の超能力は紀元前からのものぢゃぞ』
とは、パトラさんの弁。
「ローマ正教といえば、発見された石の鑑定に来ているのヘルメスさんもローマ正教の一員でしたね。何か分かったりしたのでしょうかね」
「教えてあげましょうか」
「……ヘルメスさん?匿われているはずなのにこんなところで出歩いて大丈夫なんですか?」
「ええ、カナさんがローマ正教と無事に連絡が取れたようでして。迎えが来てくださるとのことです」
聞こえてきた声に振り向くと、そこには今はなしていたローマ正教の錬金術師であるヘルメスさんがいた。
「拓也さんもカナさんも、パトラさんにさえ教えなかったことをあたしが聞いてもいいんですか?」
「ええ、もちろん。これは世紀末の発見としてどの道世界の誰もが知ることになる。すでに『観測の魔女』にも感づかれているでしょうし、頃合いです。ちょうど実験の許可ももらいましたしね」
「実験?」
いまいち会話がかみ合っていない気がした。どういう意味かと聞こうとした矢先、ヘルメスさんの携帯電話が突如なってしまったため聞きそびれてしまう。これは後で知ったのだか、ヘルメスさんの携帯電話の着信音はかごめかごめという日本の民謡のものだった。
そして、ある組織がシンボルとして使っているものであった。
――――――――かーごめ、かごめ。かーごのなーかの、とーりーは。
「さがれあやッ!!」
「え?」
何かを察したようなパトラさんの声を聞く暇もなく、あたしの身体にズサッ!という肉を切り裂く嫌な音がした。ナイフを腹にさされ、あたしの血がポタポタと地面へと落ちていく。
「まさか陰陽術師に生き残りがいるとは驚きました。大人だろうが子供だろうが、陰陽術師には生きていてもらっては困るんですよ」
「あ……あ……あがああアアアアアアァァアアアアあああァあァァアアアッ!!!」
そのまま倒れてしまうあたしを支えたのは砂だった。
あたしを支えている砂とはまた別に、砂の弾丸がヘルメスさんのほうへと発射された。
「あや、あや!しっかりしろッ!今妾が傷を治してやるッ!気をしっかり持てッ!!」
パトラさんに抱きかかえられるが、もうあたしは誰に抱きしめられているのかすら分からないほどに衰弱していた。銃弾を浴びた人の応急処置だってやったことがあるあたしは怪我人は見ているだけで痛々しいと思ったこともあったこともあるが、実際のものは想像以上だった。何も考えられず、何も見えず。ただ、体中から悲鳴ばかりが響いてくる。
「おいお主らッ!! ここは妾が何とかする。おぬしらは早く診療所に戻ってカナを連れてくるのぢゃ!!」
パトラさんは突然の出来事にパニックに陥っている子供たちに使命感を与えることで逃がそうとした。
けど、ヘルメスは自分がしたことはなんてことはないと言わんばかりに落ち着いた人間のものだった。
「ああ、カナさんなら来れないでしょうね」
「なぜぢゃッ!!」
「かごめかごめの着信音をあなたも聞いたでしょう?あれは実験開始の合図ですよ。向こうも向こうで大変でしょうからね」
なに?と訝しむパトラは背後から大きな爆発音を聞いた。
あたしも首だけを転がして、漠然とした意識で振り返る。
そこには――――――――爆破されて原型をとどめないレベルで崩壊した小さな診療所の姿があった。
「なんて……ことを! 妾とカナが二人で作った診療所を……妾の愛する国民たちを……ッ!?ついに血迷ったかローマ正教ッ!!もとから妾がアンタらが大嫌いぢゃったがいよいよ見損なったぞッ!!」
頭がぼんやりとする。あたしは夢でも見ているのだろうか。夢でナないノダトしたラ、アレハナンだ?
「ローマ正教? ああ、『砂礫の魔女』とのあろうものが察しが悪い。そんな大それたことをローマ正教みたいなマニュアル貴族どのが許可するわけがないでしょう」
「なんだと……?」
シンリョウジョガ、モエテイル?
アタシガ、クラシタイ、エガ。
「あなたには分からないでしょうね。これは世紀の発見、いや、世界の転換期なのですよ。パトラさん、あなたたち
「『緋色の研究』?『機関』?お前は一体なにを言っているのぢゃッ!?」
チョウ、ノウリョ ク? セカイ ノ、テンカンキ?
セカイテキナ ダイハ ッケン?
ソンナ モノノタメ二
「……あや? おいあや!? いったいどうした!? その……その緋色の染まった両目は一体なんぢゃ!? それに、お前を包みだしたその空色の衣は一体なんぢゃというのぢゃ!!おい、ヘルメスッ!!お前一体あやに何をした!?」
「ほう、
アタシタチノ ユメヲ コワシタノカ
ミンナ コロシタ ノカ
「僕たちの名は『
アア、モウ、ナニモカモ。コワレテシマエ。
●
『…や。あや。お前はなにも心配することはない』
温かい声が聞こえた気がする。この声を聴くだけで心が自然と落ち着いて温かくなる。
大好きな人の声だとすぐに分かるのに、一体誰の声なのかすぐには思い出すことができないでいる。
あたしは一体何をしていたのだろう?
たしかあたしはヘルメスさんにナイフで刺されたはずだ。
ひょっとしたらパトラさんが魔術であたしを助けてくれたのかな。
パトラさんには魔術を教えてもらったけど、あたしだって星占いや治療の魔術を教えたりしたのだ。
だとしたらパトラさんはあたしの命の恩人だ。後でお礼を言っておかないといけない。
パトラさん、どこにいるのかな。
そんなことを考えながら起き上ったあたしが見たのは、
「……え?」
廃墟と化した診療所だった。
周囲の地面はすべて砂と化し、砂漠の中のさびれた一角にいるかのような光景が広がっていた。
「拓也……さん? 小毬ちゃん?」
起き上がって崩れ落ちた診療所へと近づいていくが、ただでさえふらふらの身体だ。
砂に足を取られてこけてしまう。そして、あたしは見てしまう。
血だらけで倒れている幼い子供たちの姿。
『見るがいい!これが砂の城ぢゃ!!』
つい先ほどまでパトラさんと一緒に砂で遊んでいた子供たちが、血だらけになって倒れている。
戦場での怪我人を見てきたせいか、すぐに分かった。
「嫌だ……嫌だよ」
温かかった診療所の面影なんてもはやどこにもない。あたしが今いるのは地獄なのだろうか。あたしが一体何をしたっていうのだろうか。
「ひどいもんだな」
触れようとして近づいて、そしてつまづいて倒れたあたしの前に現れたのは二人の人間であった。
白衣を着ている男が一人、その横に立っている女が一人。
年齢は20代後半くらいだろうか。哀愁を漂わせてさえいなければ間違いなく若々しく見えただろう。
苦労を知っていると、人生に苦難を味わってきた人間のみが漂わせる空気を持つ大人の男性であった。
「誰?」
「『機関』の創始者」
『機関』というものが何を指しているのかは分からなかったけど、その一言にすべてが集約されている気がした。何も答える気が起きないあたはいつの間にか女の人に抱きしめられる。母親を知らないあたしにとって、まるで本当の母が抱きしめてくれるようにも感じた。遅れてごめんね、皆を助けてあげられなくてごめんね。涙声で言われた言葉すら、あたしは何も感じない。
「生存者、一名見つけましたッ!!」
「澤田、すぐに安全な場所まで運べ。しばらくは『
「了解しました。すぐに手配します」
『機関』とかいう組織の仲間たちなのだろうか、髪の左側が黒色で右側が白髪という特徴的なヘアカラーをしたの大人の男性が一人の女の子を抱えてやってきた。抱きかかえられた女の子を見て、あたしは一言言葉が漏れる。
「……小毬ちゃん」
「顔見知りだったの?。大丈夫だから。彼女は私達がしっかりと診るから」
「……拓也さんは?パトラさんは?カナさんは?」
大好きだった人たちのことを聞くが、誰も答えてはくれない。
あたしは優しく抱きしめてくれている女性を胸ぐらをつかみ、叫ぶように問いかける。
「いったい誰がこんなことをしたというの!? ヘルメスがいたとかいうローマ正教!?それともあいつがすべて悪いのかッ!!」
「……それを知って、どうするというの?」
「すべてぶっ壊してあげるッ!!あたしの大事なものすべてを壊したやつも、そいつと一緒に笑っているやつもッ!!」
「お前に一人になにができる」
「あたしは陰陽術師だ。人を呪い殺すことだってやろうと思えばできるんだッ!!」
なんならそれを今から見せてあげる。この人たちが何か知っているというのなら、力づくでも聞き出してやる。そこには医師としての姿も、優しい魔法使いの面影もなかった。今のあたしは、誰が見ても復讐の魔女と化していたのだろう。
「――――――――――プハッ!!!???」
そして、魔術を使おうとしたあたしに訪れたのは口元に広がる不快感。体中が魔術を使うなとでも伝えているかのように、気持ちの悪いものが全身へと伝わり、血を吐くことになった。咳が全く止まらず、しばらくは呼吸を整えることすらできない。
「やめなさい。
「じゃあ……じゃあ!どうしろっていうの!?このまま何もかも忘れて生きていけとでも?冗談じゃないわ」
「どのみちお前ひとりの力で『
だけど、と白衣の男性は前置きして、
「俺たちと一緒に来れば、チャンスくらいはあるかもな」
あたしに一つの可能性をしめしてきた。
「ちょ、ちょっと!! こんな子供にまで戦わせようというの!?」
「どのみち陰陽術師は連中の標的対象になっている。
「……やる」
「もうちょっとよく考えなさい。安全のために書籍上は死亡扱いにして名前と変えて生きていくことになるのでしょうけど、なにもあなたが戦う必要なんてないのよ。この現状を見たらどんな危険な連中か分かるでしょう!?」
陰陽術はもうロクに使えないと見るしかない。チューナーというものがどういったものなのか知らないけど、現時点で過信できるようなものではない。それでも、それでもだ。それでもこのまま黙って引き下がるなんて、真っ平だ。
「あなたたちと一緒に行けば、チャンスがつかめるというの?」
「当然だ。俺たちを誰だと思っている。今お前を抱きかかえているのは我が助手にして、『観測の魔女』クリスティーナッ!」
「ティーナって言うなッ!!」
「そして俺は狂気のマッドサイエンティストにして、『
わが名は。そうやってもったいぶってから、
「我が名は鳳凰院凶真だッ!!」
白衣をバサッと広げて宣言した。
「お前は今から俺たちの同士だ。さっき助手も言ったが、陰陽術師であるお前の公式記録は安全のため死亡扱いにさせてもらう。これからは新しい名前を名乗ってもらうことになるが、何か案はあるか?」
あたしの名前。もう麻倉彩として生きていくことはないのだろう。
これからのあたしの名前は何がいいだろう。そうだ、あれにしよう。
拓也さんが書いた絵本の主人公の名前。その名は、
●
「あたしの名は、沙耶。『流星の魔法使い』
地下迷宮。再開した仇敵を前に、沙耶ははっきりと自分の名を宣言した。
「知ってるかヘルメス? 巨大な建物も蟻の一穴から崩れると言う。アンタには『
パトラさん、とパトラに敬語を使うキャラって何気にいないような気がします。
この時点でのパトラは(あやにとって)とってもきれいなパトラさんです。
これパトラ編でパトラVS沙耶とかしたら面白そうだなと思いました。
今回は沙耶の視線での物語のためになにが起きたのか全容はまだ解明されていませんが、いつかやりますので気長に待っていてください。
そして最後。
『機関』メンバーズについて大体推測できたかと思いますが、みなさんこれを予測できましたか?