Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission72 強襲科のSランク

 科学者と錬金術師は本質的には同じ人間だとされている。

 科学と魔術。分野こそ違えども彼らの原動力となるのは主に知識欲であるようだ。

 ただ世界の心理を追求したい。

 彼らは本質的にはそれだけの目的のために並大抵の努力では理解もできない学問に志すような連中だ。

 

 なら、言わゆるマッドサイエンティストとか呼ばれている人間とはそんな具体性のない目的のために人として持たなければならない倫理感を捨て去った人間のことをさすのかもしれない。

 

 かつてはローマ正教の一員であり、組織を裏切った錬金術師ヘルメス。

 辞めた、のでなく裏切った。

 いつバチカンからの刺客が送り込まれてくるかも分からない生活を送り、とうとうアジトにしていた地下迷宮に侵入者がやってきたというのに今のヘルメスの様子を見ている限り焦りというものは感じられない。彼は慌てて逃げださなければならないだなんてことは一切考えていないのだ。 むしろ、

 

「全く、いい実験材料(モルモット)がやってきたというものですよ」

 

 侵入者のことを実験材料(モルモット)と称し、まるで盤上の駒を見ているかのような視点をさえ持ち合わせていた。彼にとっては他人などどれも等しく実験材料に過ぎないのだろうか。彼には自分に危機が迫ってきているという認識など持っていないようである。

 

(パトラの奴はさっさと引き上げろとか言っていたが、一体何を恐れているのだか。実験の成果は発表してこそなのに)

 

 先日、と言っても二日前くらいのことだ。 

 突然地下迷宮にパトラの式神が現れた。

 ヘルメスはパトラとは一応の協力関係こそ築いてはいるが、決して仲がいいわけでもない。むしろ仲は悪く、パトラからは嫌われている。互いの利害の一致による協力関係でしかなく、どちらかがもう利用価値がないと判断したらあっさりと切り捨てるだろう。そんな奴からの連絡ゆえに、いったい何の用かと思ったものだ。

 

『ヘルメス。この地下迷宮はさっさと破棄して場所を移せ。気づかれてるぞ』

『別に必要ないでしょう。いざということになっても侵入者が僕にたどり着く前にどうとでも逃げ出せる。そもそもどうして気づかれていると思ったのですか?』

『アメリカに佳奈多が現れなかった。母親想いの理子が形見のデリンジャーと取り戻すために最初に声をかけるのはどう考えても佳奈多のはずぢゃ。なのに佳奈多は来なかった。その理由として考えられることは、(わらわ)を無視してでもあいつにはやるべきことがあったということぢゃろ。それはほぼ間違いなくここしか考えられない。一応の忠告はしといてやる。わかったらさっさと逃げろ。あの魔女に殺されるぞ』

『そんなにヤバいのですか?個人的な意見を言わせてもらえば、今ではSSSの所の未完成の「天使」や「聖人」の方が戦闘能力だけなら高そうな気がしますけどね。第一、あの魔女の超能力は弱体化しているため極東エリア最強の魔女だなんて呼ばれていたのはもはや昔の話なのでしょう?彼女に以前ほどの力がないのなら、砂の化身たちでどうにかなる』

『いいから黙っていうことを聞けッ!!』

『パトラ。あなたが何を考えているのかは知りません。けど、こちらから一つだけ言っておくことがあります』

『なんぢゃ?』

『極東エリア最強の魔女だかなんだか知りませんが――――――――こちらは超能力者(ステルス)なんて、最初っから眼中にないのですよ』

 

 真理を追究することを生業としている錬金術師としては正直な発言なのだろう。でも、人間としてはどこか壊れている発言だ。目の前に危機を無視してアルキメデスという数学者は、戦争そっちのけで自身の研究に明け暮れていたため兵士に殺されることになったという。超能力者(ステルス)なんて眼中にない。それは超能力者(ステルス)を前にしていうことではないだろう。

 

超能力者(ステルス)であるこの(わらわ)を侮辱するか。研究したくてもできないように呪ってやってもいいんだぞ』

『あんたは僕を呪わない。いや、呪えない』

『……根拠は?』

『僕らの間に友情や仲間意識なんか存在しない。いや、殺せるものならすぐにでも殺してやりたいって思っているんじゃないですか?事実、エジプトで「あや」とかいう名の幼き陰陽術師で実験を行ったとき、アンタは逆上してすぐに僕を殺そうとした』

『よく分かっているようぢゃな。そうぢゃ、(わらわ)はお前のことが気に気わない。カナの頼みではければわざわざ生かしてなどやるものか。妾の手でとっくの昔にミイラにして博物館にでも展示させていた。はっきり言うがお前なんて佳奈多に無残に殺されてしまえば思っている』

『そうかいそうかい。でも、僕は引くつもりはないですよ』

『一言言っておく。――――――地獄に落ちろ』

 

 パトラが何か言っていたが、彼女は何も分かっていない。一体、超能力者(ステルス)がなんだというのだ。

 超能力を生まれ持っているだけで世界の覇王(ファラオ)気取りとは何とも短絡的だ。三枝一族にしたってジャンヌ・ダルクの一族にしたって、超能力を有しているから特別な人間だなんて思想を持つのはあまりにも滑稽ですらある。

 

(五年前に一斉に超能力に目覚め、『観測の魔女』によって集められた『機関』のところの超能力者(チューナー)、それにシャーロック・ホームズが足がかりをつくった『緋色の能力者』。超能力者(ステルス)の時代は終わり、これからの時代の主役が誰なのかははっきりしているのに)

 

 いい機会だ。

 研究の成果をみせてやるとしよう。

 だから、

 

「つまらない罠なんかで全滅しないでくださいよ。観客がいないとデモンストレーションは成り立ちませんのでね」

 

             ●

 

 ミノタウロス。知名度はそれなりにある怪物であるが、もとはギリシャ神話に登場する怪物であることまでは失れていない。元々はクレタ島のミノス王と妻パーシパエーの息子であり、その名前は「ミノスの牛」を意味しているらしい。王が約束した雄牛をポセイドンに捧げなかったため、パーシパエーは牛に欲情する呪いをかけられ、その結果ダイダロスが作り上げた雌牛の模型に入ったパーシパエーと雄牛との間に牛頭人身の怪物が誕生した。それがミノタウロスだ。

 

 ミノタウロスは成長するにつれ乱暴になり、手におえなくなったミノス王は工匠ダイダロスに迷宮(ラビリンス)を建造させ、そこに彼を閉じ込めた。ミノス王は食料としてアテネから9年毎に7人の少年、7人の少女を送らせることとしたという。が、最後には食料に紛れ迷宮に進入した英雄テセウスにより倒されたという。

 

「話として聞いたことはあったけど、まさか実物で見ることがあるとは思わなかったわね」

 

 そんな伝説の怪物を目の前にしても、強襲科(アサルト)が誇る我らがSランク武偵は怖気づいたりしない。

 今更こんなことでは驚かない。バケモノが現れたとビビっているキンジとは経験値が違うのだ。

 

「こらバカキンジッ!!怖気づくんじゃないわよッ!!」

「で、でもあんなに大きな斧を持っているんだぞ!あんなのくらったら防弾制服なんかじゃ防ぎようがない!胴体真っ二つだッ!!」

 

 等身大の斧に、三メートルは超えるであろう巨大な身体。

 子供の頃は自分よりも背丈の大きい大人たちのことがとても怖く見えるもの。

 心と共に背丈も成長した結果自分よりはるかに大きな人間を見上げる経験なんてしなくなっていたキンジは、身長差があるというだけでこうも恐怖を感じるものなのかということを思い出した。

 

 それにあの斧。

 あの巨体で振りかざされた斧の一撃を受けてしまったら、たとえ防弾制服を着ていたとしても防ぎようがないだろう。よしんば切断されなかったとしても打撃により撲殺される。

 

「あんなの当たらなきゃいいだけじゃない」

「当たらなきゃってお前……」

「キンジ。人間を殺すのにはあんな見るからに物騒な斧なんか必要ないわ。当たり所が悪ければ突入用の防弾ジャケットを着込んだ武偵だって鉛玉一発で死んでしまう。そうでしょ?それに自分より大きな相手っていうけど、そんのいつものことじゃない。格別変わったことではないでしょう?」

「え?」

 

 ここにキンジとアリアの意見の食い違いが生じてしまった。アリアの身長ははっきり言って小学生と間違われるレベルで小さいのだ。逆にアリアは自分より小さな相手と戦ったことがないまである。理子だって小柄だが、それでもアリアより小さいなんてことはない。

 

「ねえ、その哀れみの視線は何?」

「いや、何でもない。悪い、どうやら俺はまだ腑抜けていたようだったな」

 

 最近の遠山キンジの日常として、アリアに発砲されるということが悲しいことに半分日常と化してきている。だからなのか、銃というものを見せつけられても本気で命の危機を感じることができなくなってきているのだ。ヤバい、死ぬ、殺される。そう思うことはあったとしても、よくあることとして感覚がくるってきてしまっていたのだ。でも忘れてはいけない。人間というものは静寂な生き物だ。生物として他に類を見ないほどの知能を持っていようが、人間の肉体というものは鉛玉一つ当たるだけで容易に死んでしまう。

 

「見た目にビビってられるか。俺たちは今までだって危機を乗り越えてきたんだ」

 

 人類の生み出した近代兵器、拳銃。

 引き金を引くだけで人間を殺すことだってできる兵器。

 そのスピードは音速にも及ぶ。

 兄さんが前に言っていた。拳銃こそ人類が生み出した最強の兵器。

 なら―――――――あんな、振りかざすことぐらいしか攻撃手段のない得物になんて怯えてたまるものか。

 

「よし、行くぞアリアッ!!」

「ええ、やるわよキンジッ! 今回は前衛(フロント)はあたしッ後衛(バック)はアンタッ!!アンタがまだこういう奴との戦闘経験がないみたいだから、今回はあたしの動きをよく見ておきなさい!!」

 

 大きな斧を持つミノタウロスの移動速度は遅そうにも感じるが、その速さは決して遅いわけではなかった。むしろ巨体の割には速いとも言えるだろう。理由は単純であり、三メートルもの大きさがあるミノタウロスは、そもそも人間とは一歩で移動できる距離が違うのだ。ドシン、ドシンと音を立てて距離を詰めてくるミノタウロスに対し、まずはアリアが先行する。

 

―――――バンッ! ババンッ!!

 

 アリアが使用している武器はコルト・ガバメント。

 ガバメントによる二発の銃撃はミノタウロスに当たるがカツンッ!という金属音を立てるだけだった。

 ミノタウロスは赤を基本色とし、黄色のラインによる装飾が施された鎧を頭部と胸部に付けている。

 

(あの鎧は銃弾でどうこうできるような耐久度ではないみたいね)

 

 一刀両断してやろうとこちらへと向かってくる速度には全くの変化はない。

 あの鎧の部分に当てても意味はない。

 そのことを事実として認識したアリアが、今度は剥き出しの腹部である胸割れ腹筋に狙いを変えた。

 幸いにも相手は砂で作られた人形であって人間ではないのだ。

 ゆえに一切の遠慮は無用。

 

「キンジッ!!」

 

 キンジは自身のベレッタを1回の射撃で弾丸を3連射する3点バーストモードに切り替え、ミノタウロスの顔面をめがけて発砲した。頭部には鎧があるとはいえ、正面に立っているキンジからはまだ顔の素肌を狙える位置にいる。この場所なら正面にいるアリアに当たることもない。斧の刃を横にして盾とすることによりキンジの銃弾は防がれてしまったが、別にそれでもかまわない。今のキンジの役割はあくまでもアリアのサポート。斧で自身の顔面をガードしているのなら、アリアがその隙に剥き出しの腹部を狙うことができる。

 

「そらそらーーーーーーーッ!!!」

 

 アリアの二丁拳銃(ガバメント)が火を噴いた。

 接近しながらも一発一発をむき出しの腹部に丁寧にぶち込んでいく。

 

(こんなでかい奴と戦うのは初めての経験だけど、昔聞いた通りねッ!!やれるわ!!)

 

 アリアがまだ東京武偵高校に転向してくる前のことだ。

 彼女が留学していたローマ武偵高校にて、ある講演会が開かれた。

 なんでもローマ正教の聖女が直々にゴーレムの解説をしてくれるというものだった。

 魔術という技術が実在することは知っていても、その実態は全くの素人であったアリアは参考になればと思ってその講演会に参加した。

 

『いいですか?ゴーレムはシキガミ、ブードゥ、ヒトガタというような地域によった様々な呼び名がつかけられていますが、ようは藁や砂、紙切れや石といったものを原料としてできた操り人形のことを言います。超能力には数多くの属性と相性というものがありますが、それらを抜きにするとこれらの操り人形は大まかに二種類にわけることができます。それは、その人形が自身の意識を持っているかということです』

 

 意識を持っているかいないか。

 戦うことになった際、注意すべきポイントはそこだとローマ正教からの講師は言った。

 

『原材料が何であれ、意識を持たない人形は術者がすべて操らなければなりません。ゆえに、その人形はどこか一部が壊れようが全壊するまで動き続けるでしょう。対し、意識を持つ人形は「儀式」によって原材料に意識を植え付けられた哀れな存在です。どこか一部でも壊れてしまえばそれだけで機能を停止します。だから、人形を見つけたら問答無用で首を切り落として差し上げてください。冥府から呼び出された哀れなる魂を返すことができるのですから、彼らは我らに感謝の意をしめしてくれるはずです。ありがとう、ありがとうと!!』

 

 途中から講師のいう内容がどこかの魔女に対する恨みつらみへと変わっていったが、とりあえず理解できたことがある。自意識を持つ人形は首をはねれば倒せるのだということだ。ミノタウロスが全身ではなく頭部を中心とした上半身にしか鎧がないのは、そこが弱点でもあるからだろう。

 

(なら、このバケモノだって倒せないわけはない!!いくら砂を材料にして作られたといっても弱点は人間のものと変わらない!!)

 

 アリアはミノタウロスにあと一歩でぶつかるということろまで近づいてなお、そのまま直進した。

 

「―――――――――そォラッ!!」

 

 狙いは、足。

 ガバメントの銃弾が尽きたと同時に、アリアはすでに武器を切り替えていた。

 普段は背中に隠している小太刀二刀。

 アリアは突撃の勢いを消さぬままミノタウロスの股の間にすべり込み、その瞬間に二刀小太刀でミノタウロスの足に斬撃を与えた。三メートルはあるであろう怪物であるミノタウロスとアリアはでは体格に大きな差がある。小柄で素早いアリアだからこそできたでもある。

 

 この切り替えの早さ、その場その場の状況に合わせた柔軟な戦闘スタイル。

 これこそが強襲科(アサルト)Sランク武偵、『双銃双剣(カドラ)のアリア』。

 

 ミノタウロスの右足の腱を切り、片膝をつかせることに成功したアリアであるが、彼女はこのまま手を休めてあげるほど甘くはない。片膝をついたのならミノタウロスの膝を足場にして跳ぶことだってできる。だからアリアは跳んだ。アリアの狙いは最初から一つ。ミノタウロスの首筋だ。

 

 (自分の意識を持つタイプの式神は結局のところ機械ではなく生物!!なら、不死身ということはない!!)

 

 どれだけ鍛えられようが、どうしようもない弱点はある。そして、今回の相手は砂で作られたバケモノ。

 いつものように、一切の遠慮をする必要がない。もともとミノタウロスは牛の怪物だから当然頭部には角が二つ付いていて、アリアはそこを掴むことで背中に張り付くことに成功した。

 

「キンジ!!」

 

 アリアが使う小太刀は白雪の持つイロカネアヤメよりは小回りが利くものの、触れるほど気かづいている状態で使えるようなものではい。一点を狙うのならば、今の場合はナイフほどの大きさでなければならない。アリアは武器としてナイフを普段から使用していないが、ナイフならキンジが持っている。

 

 アリアの呼び声に応じ、たたまれた状態でキンジがアリアに向かって自身のバタフライナイフを投げつける。ミノタウロスに振り落とされそうになりつつもキンジの緋色のバタフライナイフを受け取ったアリアは一瞬でナイフを展開し、ミノタウロスの首筋を一閃した。

 

 ミノタウロスは悲鳴を挙げ、そのまま砂になり崩れ落ちていく。

 

「え、あ、あ!? ちょっと!!」

 

 空中から投げ出されて地面に落ちていくアリアであったが、慌てて駆け寄ってきたキンジによって受け止められた。いわゆるお姫様抱っこという形になってしまったが、心配そうにのぞき込んでくるキンジを見ているアリアは恥ずかしいという感情よりも怪物を自分たち二人の手で倒したのだという歓喜の感情の方が優っていた。

 

「大丈夫か?」

「ええ、もちろん。あたしたちの勝利よ」

 

 ニッコリと微笑むアリアを見てキンジは一安心したと同時、別々の所で戦っている仲間たちのことを思う。特に考えるのは同じ部屋で時間を共にしたルームメイトのことだった。こちらに目的の魔術師とやらがいなかった以上、理樹と沙耶の二人が魔術師の前にたどり着いているだろう。

 

(……こっちは大丈夫だったぞ、直枝。お前たちはどうなった?)

 

 考え事をしているあまりいつまでもアリアを下ろさなかったため、恥ずかしがったアリアに蹴り飛ばされたのはご愛嬌。 

 

 

       ●

 

 直枝理樹と朱鷺戸沙耶。

 アリアとキンジとは別の道を進んだ二人がたどり着いた先は礼拝堂のような造りとなっていた。奥にある教壇に神父さんが立っていれば間違いなく様になっていただろうが、あいにくと教団の前に立っているのは神父さんではなく錬金術師。

 

 

「ようこそ、僕の迷宮へ」

 

 あろうことか、錬金術師ヘルメス本人が彼ら二人の前に立ちふさがっていた。

 錬金術師の本領はあくまでも研究者。本来ならば現場で戦うような人間ではないはずなのに。

 どういうつもりなのかと考えている理樹から沙耶は一歩前に前に出て、

 

「ヘルメス、久しぶりね」

 

 大胆にも堂々と姿を現した錬金術師に対してそう口にした。

 

「どこかで会いましたか?」

「……忘れたのか。お前が、お前たちが実験と称して奪った命を、あの出来事を!!」

「なんのことだかわかりませんね」

「なら覚えておくといい。人間人生がどう転ぶか分かったものじゃない。お前は覚えてもいない恨みのために、このあたしに殺されることになるッ」

「と、朱鷺戸さん?」

 

 『機関』のエージェント、朱鷺戸沙耶。彼女は今までいつだって冷静に物事を見ていた。

 夜の冷たい東京湾に叩き落された時だって、イ・ウー研磨派(ダイオ)のスパイを名乗るの仮面の人物に遭遇した時だって常に全体を見て、今何をすべきか正確に把握していた。

 なのに。ヘルメスを目の前にした沙耶は、殺意を隠そうとしているのだろうが隠しきれてはいない。

 

「悪いけど理樹君、止めないでね」

「何を……するの?」

 

 錬金術師を前にして、今の彼女が見ているのは『機関』のエージェントとしての任務なんかではなかった。

 彼女が思い出しているのは遠い昔の過去の記憶。

 そして、もう帰ってはこない大好きだった人との記憶。

 

「さあ、復讐の時間よ」

 


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