・姉 御『二木女史と連絡が取りたい?なんでまた?』
・パワー『二木さんはアドシアードでは来ヶ谷さんの護衛をやっていたし、連絡先知ってるんじゃないかと思って』
・姉 御『そういうことじゃない。なんでまた二木女史の連絡先が知りたいんだ??』
・パワー『イ・ウー
・姉 御『……わかった。理樹君からいきなりというもの戸惑うだろうし、二木女史には私から連絡を入れておくよ。でも、とりあえず寮会の方に顔を出してそちらからの
・パワー『ありがとう。けど、時差とか大丈夫?』
・姉 御『日本とサマータイム真っ最中のボストンの時差は約13時間。大体半日ずれていることになるけど、こちらには今徹夜で論文書いてる奴も一緒だから大丈夫さ。一応、連絡が取れたらこちらから連絡する』
●
直枝理樹と朱鷺戸沙耶にとって当面の問題は命を狙ってくる錬金術師へルメスだった。
でもそれはちょっと前までの話。
それ以上の最優先事項ができてしまった。
『はっじめまして理樹くーん!この場の理子りんの正体は、本物じゃないよ!偽物だよ!!わたし、イ・ウー
自身をイ・ウー
あの人物を無害と認識していいのか。
それだけははっきりとさせておかなければならない。
直枝理樹を誘拐こそはしたものの、特に危害というものは加えてこなかった。
それに、沙耶との戦いにおいてもあっさりと引き下がった。あのまま戦いを続けていたとしたら、はっきり言って勝てる気がしなかったというのが沙耶をして言わざるを得ない率直な感想である。
理樹?論外だろう。仮面をつけているため悪くなっているはずの視界の中銃弾をナイフで軽く一刀両断して、沙耶の攻撃をいとも簡単に受け流すような化け物に理樹がどうして敵うというのだ。
(あいつ、あたしが本調子ではないことを見抜いていたわね。発動条件からして厳しく使い勝手の悪い『エクスタシーモード』を使ってようやく勝算が見えてくるって、あいつどんだけ強いのよ)
それにわずかな沙耶のわずかな変化すらも見抜いていた。
万全の状態だったとしても、一対一の真っ向勝負であいつに勝利するのは難しいだろう。
(あれだけ強い人間のくせにて心当たりがないということは、少なくても
あれだけの戦闘能力を誇り、普段は東京武偵高校に在籍しているということにも関わらず沙耶にはあの狐の仮面の正体に心当たりはない。あれだけ高すぎる戦闘能力を持っている目立ちそうなものだ。それでもなお心当たりがないとなると、普段は戦闘以外のことをやっているはずだ。
支援中心となる
「どうだった?」
「ダメ。二木さんとはすぐには連絡を取れないみたい」
「そう」
狐の仮面の人物は二木佳奈多がジャンヌ・ダルクとの司法取引がどうこう言っていた。
今後のことも含めてまずは二木さんと接触するために連絡先を知っているであろう女子寮長に会いに行っていたのだが、二木さんとはすぐには連絡が付かないようである。女子寮長が言うにはこういうことはよくあることらしい。風紀委員長という立場ゆえか、二木さんには仲介とかなしで直接
「これからどうしようか?二木さんに会おうにも来ヶ谷さんからの連絡待ちになるし、僕らから出来るなんて
「どのみちもう一度忍び込むことはしなければならないでしょうね。でも、その前に確認して起きたことがあるわ」
「何?」
「さっき現れたのはイ・ウー
この東京武偵高校には生徒たちだけでも多様な立場の人間が存在している。
目の前の朱鷺戸沙耶だって『機関』から送り込まれたエージェントであるし、峰理子だってイ・ウーという組織の人間だった。イ・ウーのスパイだと大胆にも宣言した人物だって残っている。似たような立場の人間がまだいたとしても疑問はないだろう。
「だから、ちょっとここいらで実験と行きましょう」
「実験?いったい何をするつもりなの?」
「スパイの排除」
朱鷺戸沙耶はそう言って、不敵に理樹に微笑んだ。
嫌な予感しかしてこない。
「いい?あなたの行動はすべて監視されていると仮定するわ。もし相手が理樹くんを狙っているなら、まずが行動パターンを把握しようとするはずよ。その上で、監視要員が何人必要かを割り出すの。そいつはあの狐の仮面をつけていた奴の仲間かもしれないし、全く別の組織の人間かもしれない」
「監視要員なんているものなの?ここは武偵高だよ?」
「理樹君はアドシアードの事件の当事者と言ってもいいんだから分かるんじゃない?『
「大げさな行動って?」
「そうね……一人の敵を見張るのに30人くらい投入することもあるわ」
「そんなに……」
「相手が車なら、車やバイクも数台必要だし、作戦指揮を行う簡単な指令室も用意される。常に複数のカメラとビデオでモニタリングすることもあるわ。電話はすべて盗聴され、郵便物も分からないように開封される。留守中を見計らって、自分の部屋は必ず捜索される。本気になった組織から逃げ出せるものはほとんどいない。事実、イ・ウーについて知ってしまった者はレンタルビデオの会員登録まで消されてしまうといわれているわ」
「じゃあどうすればいいの?」
「もし仮に監視している奴がいるとしても、まだ包囲網は完成されてはいないはず。だから偶然をかりて行動するの」
「偶然?」
沙耶は自分のポケットから単語帳のようなものを取り出した。それを受け取った理樹は中身を見てみる。当然のごとくそこに書かれていたのは英単語なんかではない。一枚一枚に異なった行動が書かれていた。
「このカードには様々な指示が書かれているわ。相手は理樹くんの行動パターンを把握して、弱みや隙、協力者をさがそうとしてくる。だからこのカードをシャッフルしてランダムに行動するの。一度に三枚めくって書かれた内容を連続して行う。それじゃがんばってね、理樹くん。ま、ゲームだと思って気楽に考えることね」
「やるのはいいんだけどさ、これ意味あるの?」
「この作戦自体無駄に終わるならそれはそれでも一向に構わないわ。どこにいるかも分からないような人物からの連絡をいつまでも待っているわけにもいかないから、この作戦の終わりをタイムリミットとしておくわ。それに」
「それに?」
「あの狐の仮面についてのちょっとした仮説ができた。ちょっとでもその裏付けでもできれば御の字よ」
朱鷺戸さんは考えた仮説というものは何なのかは教えてはもらえなかったけど、考えても仕方がない。
理樹からはこれ以上これと言って意見や今後の作戦があるわけでもないので素直に沙耶の作戦に行動することにした。朱鷺戸さんから渡されたカードをめくってみる。そこにはわざわざ手書きで文章が書かれていた。やや小さな可愛らしい字だった。
三枚適当に選んで表に向ける。
真の
ドローカードすら
さて、直枝理樹の
『裏庭で踊る』
『誰かと手を繋いで歩く』
『冗談を言って驚かせる』
また難易度の高そうな行動を引いてしまったなと思った。特に二枚目。
一体誰と手をつなげばいいというんだ。困った時の真人も今はいない。
恭介、帰っていないかな?無理だろうけど。
でもやらない沙耶に文句を言われそうだったし、理樹としてはやるしかないのだ。
「はりゃッ!ほりゃッ!!うまうッ!!!」
まずは裏庭で移動し、彼は思いつく限りのステップを踏んだ。
幸いにもこの裏庭にはあまり人が寄らない場所だ。
踊っているというよりは変な電波でも受信してしまったかのような動きをしているので、誰にも見られなくてよかったとつくづく思う。もし見られでもしたら、
「…………」
「…………」
見られでもしたら―――――――――はい、思いっきり視線が合いました。
恥ずかしくて思わず硬直してしまった理樹であるが、向こうはさして気にしていないのか笑われることはなかった。いっそ思いっきり笑ってほしい。無言の圧力が痛かった。そのままだと気まずいままであると思ったのか声がかかる。
「先ほどからいったい何をなさっているのですか?」
「西園さん。いつからいたの?」
「直枝さんがこの裏庭へとやってきたときにはすでに私はここにいましたよ。ですから、正確には直枝さんがやってきたということになります」
理樹の目の前には裏庭の木によりかかり、日傘を広げて静かに本を読んでいる少女がいた。
儚げともいえるほどの物静かな雰囲気をかもしだし、いつも日傘を持ち歩いている少女。
理樹と同じ二年Fクラスに所属するクラスメイトであるが、彼女は主に
探偵学部の一つであり、犯罪現場や証拠品の科学的検査を習得する学科でる
『
彼女が一人で仕事をしているのは、得意分野が他とは一線をなすからだ。
暗号解析。
それも、魔術関連の暗号を解読するのが得意なのだ。
前に理樹は彼女が来ヶ谷さんと魔術関連の依頼の話をしているのを偶然目撃したことがある。
「それで、直枝さんはいったい何をしていたのですか?」
「ほ、ほらね。強い敵が現れたらこう言ったことも必要なんじゃないかと思ってね」
「新技ですか。それにしてはかっこわるかったですね」
西園美魚はうろたえつつも言い訳をしている理樹に対して容赦なく自身の率直な意見を言った。
素直な感想ほど心に刺さるものはなく、理樹のメンタルに遠慮なく傷を入れていく。
「なにより、美しくありません」
「グハッ!」
「……もしかして先ほどの技は酔拳かなにかだったのでしょうか。でしたら失礼を言いました。お酒を飲むことにより普段の態度から一変に、受けから攻めに。これはこれでいけるかもしれません」
「あの、西園……さん?」
何か考え込んでしまった美魚はもう理樹の声など届いてはいない。
しばらくしたら結論を出したようである。
「直枝さん。先ほどの酔拳の新技をもう一度よく見せていただけないでしょうか」
「あ、あの。あれは実は……」
「お願いします」
どうしよう。
あれは新技でもなんでもなかったということを言い出しづらくなってしまった。
というか、もう言えない。
美魚の瞳はいつになくキラキラとしているし、理樹にはもうダメとは言えなくなった。
「はーりゃつほーりゃッウマぅッ!!!」
理樹は人に真剣に見られながら自作ダンスを披露するという羞恥プレイを味わうことになってしまった。
●
「うっ……ううっ。恥ずかしかった。超恥ずかしかったようぅ……」
羞恥プレイによるメンタルダメージは想像以上に大きかったようだ。今すぐ寮の自室に帰ってベットの毛布にくるまりたい。そんな精神状態の中でも直枝理樹は次のカードの行動を行おうとしていた。次の指令の内容は『誰かと手をつないで歩く』こと。自分一人ではこの指令は果たせないため、誰かいないものかと今度は中庭を理樹はうろついていた。
ここで最も重要となってくるのは『誰と』手をつないで歩くのかである。
例えば変にアリアに頼もうものなら風穴!とかいわれてボコられる未来が見えてくる。
こういう時のための困った時の筋肉さんも今いない。
どうしたものかと困り果てていると知り合いを見つけた。
「レキさん」
「理樹さん。お久しぶりです」
レキ。
アドシアードの日本代表に選ばれるほどの実力を持つ
ロボット・レキとか呼ばれるほどの淡々としている人物であるが、一部ではその様子もミステリアスだとして熱狂的な人気がある(特に男子)。
東京武偵高校のファンクラブの中では最大勢力とまでされるRRRは彼女のファンクラブだ。
探偵科の直枝理樹と狙撃科であるレキ。
二人はクラスメイトでもある友人関係にあるのだが、ただそれだけで理樹はレキとこれと言った接点はなかった。
接点があったのは理樹ではなくて恭介である。
レキさんは恭介の知り合いの妹らしく、恭介はレキのことを妹のように可愛がっていた。
理樹や鈴ががレキと話すようになったのはその縁である。
ちなみに、恭介がレキのことを妹のようにかわいがっていても実の妹の鈴はまったく嫉妬なんかしなかった。
(ん? 待てよ。レキさんとならいけるかもしれない)
一応友達ではあるし、何よりレキさんなら事情をとやかく聞いてきたりはしないだろう。
理樹は勇気を出してレキにお願いしたが出てきた声は上ずっている。
「レ、レキさん」
「どうしましたか」
「す、す、少しだけでいいから、僕と手をつないで歩いてほしい」
「別にいいですよ?」
やったー!!
思わず理樹はそう叫びそうになってしまった。
レキの手を引いて歩いてみる。
(そういえば、昔はよく恭介に手を引いてもらっていたな……)
女の子と手をつなぐという思春期の男なら誰もが憧れる行為に成功した理樹であるが、この状況で思いつくことが恭介(男)と遊んだ昔の思い出であるのが直枝理樹である。
(ああ、冷たくてひんやりしている……)
レキの手の感触を味わって幸せな気分でいたために、次にレキかた発せられた言葉を理解するのが一瞬だが遅れてしまう。
「理樹さん、気を付けてください。狙われていますよ」
「へ?」
レキの言葉を理解するだけの時間もなくそれはやってきた。理樹の頭に銃弾が直撃したのだ。
どういうわけか
(……て、き。朱鷺戸さんの言うように本当にいたんだ……。マズイ、レキさんだけでも守らないと)
レキを巻き込むわけにはいかない。
そう思うにも身体は動かなくなっていき、理樹の意識は完全にシャットアウトした。
???「理樹がやられたようだな」
???「だが奴はリトルバスターズの中でも最弱……」
???「狙撃をあっさりとくらうなど、主人公の名の面汚しよ」
美魚ちん初登場&レキ再登場!!のはずなのにどうしてこうなった?
誘拐されたら沙耶に助けられたと思ったらすぐに狙撃されてやられた主人公でした。