Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission6 コーナー『直枝理樹は見た!!』

      

 

 ヒステリアモードという爆弾を抱える少年、遠山キンジは窮地に立たされていた。

 銃を向けられているといった直接的な命の危険こそないものの、どうしたものかと考えを巡らせる。キンジが気づいた時にはAクラスのクラスメイトどもに囲まれていたのだ。どうしてそんな状況になったのかといえば、

 

『キンジめ……あの女たらしが!』

『女の子に興味ないんじゃなかったの!?』

『俺達を差し置いて……裏切り者!』

 

 遠山キンジ本人の意見としては、全くもって心当たりのないことが原因であった。

 自分が悪いなんて全く思ってもいないので、わざわざ警戒するようなことも起きていない。そう考えていたことこそが、彼が逃げ遅れた原因であるだろう。まぁ、そんなことを考えてももはや過去のことだ。ヒステリアモードでもなんでもないキンジには打開策は一つも思い浮かばないでいる。

 

「おいキンジ! アリアとの出会いはどんなのだったんだ?告白はもうしたのか?」

「おい待て武藤。話がとんでないか?」

「まあまあ止めなよ武藤君。遠山君も恋愛話を聞かれたくはないと思うよ。僕らはそっと影から二人の様子を……」

「不知火、お前はもうしゃべるな」

 

 武藤と不知火という悪友二人に牽制するも、二人が自分を助けてくれるような気配なんて微塵もない。変に勘ぐっている人間には何を言っても無駄だとは分かっていながらも、打開する方法なんて一切の接点がないことを分かってもらうくらいしかないのだ・

 

「だいたい、俺とあいつは何もない。勝手に面白がるな」

 

 ゆえにキンジは自分の考えを率直に口にするが、

 

『おい、あいつ、何もないだとよ』

『うわ…………最低』

『キンジの隣をわざわざ指名したってのに何もないわけがない!!』

 

 そんなこと、当然聞き入れてもらえない。

 なぜか、キンジ死ね!という形で二年Aクラスの意識が総意としてまとまりつつある中、Aクラスきってのおバカキャラである峰理子が発言した。

 

「まぁまぁ、キーくんはこういいたいんだよ。――――――『アリアは俺のものだ。これ以上探るつもりなら・・・どうなるか、分かってるな』ってねッ!!!」

 

 キャー、とクラスの女性陣の声を聞きながら、キンジは即返答した。

 しなければ大変なことになる。

 

「お前……でたらめをっ!」

「ん?なにかななにかな、この理子りんが嘘を言っているというのかな?かな?じゃー真実を第三者に聞いてみよー!」

 

 理子がそういうと、第三者の証言者が登場した。

 

「さーて言ってみよう!!ゲストは二年Fクラスのこの方でーーーーす!!!」

 

 

 

            ●

 

 

 

 コーナー『直枝理樹は見た!!』 (司会は探偵科(インケスタ)二年、峰理子でお送りします)

 

           

            ●

 

 理樹はあくまで二年Fクラスの人間。立場からしたらAクラスとしては部外者に当たるため、二年Aクラスの中に理樹のことを知らないやつがいたら困るからと、理子は紹介を始めた。

 

「彼は私と同じ探偵科(インケスタ)の直枝理樹くんで―す! 皆拍手〜〜〜〜〜」

『パチパチパチパチ』

「あ、どーもです!理子さんに呼ばれてやってきた、筋肉探偵のうちの片割れの直枝理樹といいます。どうぞよろしくー!」

「いやー、理樹くん。今日はどんな筋肉ですかな?」

「そうですねー。本日の筋肉占いは、女の敵しばくべしと出ていますねー!では、みなさんご一緒に、筋肉筋肉ー!」

『『『筋肉!、筋肉っ!!筋肉ッ!!!』』』

 

 Aクラスの中で謎の筋肉コールがわきあがる中、Fクラス所属の直枝理樹は理子に聞いた。

 

「ところでさ、理子さん今日はどうしたの?僕なんて呼ばれたのかまだ何も知らないんだけど」

「お前知らないのにこんなところで変に盛り上げようとしていたのか!?」

「いやだってほらよく見てよ遠山くん。今日はいい筋肉なんだよ?」

「知るかッ!!」

「今日は理樹くんに、キーくんとアリアの出会いを語ってもらおうと思います!」

「僕もよく知らないんだけど、僕が見た正真正銘のありのままの事実だけでもいいの?」

「もっちろんだよ理樹くんッ!!」

 

 直枝理樹は筋肉でも探偵科(インケスタ)だ。状況判断能力は何気に高い。ようは、アリアさんと遠山君の関係を探ろうとして、Aクラスが一致団結したというのが妥当なところだと判断した。うちの二年Fクラスでも前に似たようなことをしていたから分かる。ちら、と遠山君を見ると、助けてくれ、という視線が飛んできた。

 

(……よし)

 

 理樹は方針を決める。きっと誤解があると思ってるのだろう。

 誤解を解くのは真実を知っているものの務めである。

 

「そうだね……」

 

 そのためにはまずは何から話すべきだろうか?

 教卓の前に立ち、先生になったみたいな気分で理樹は教室を見渡した。 

 そこにはAクラス一堂が自分の席にきっちり着席している姿があった。

 

(……うん。比較的まともだなぁ)

 

 彼が所属する二年Fクラスではこんな冷静に人の話を聞こうなんてやつはいない。

 即座に飛び掛かる連中なのが二年Fクラスだ。

 この間なんてクラス一丸となってどうでもいいことの会議してたくらいだ。

 自分のクラスと比較して、どれだけまともなクラスであるのかを自覚した理樹は、面白い話をするために誇張することもなくありのままのことを答えることこそ義務であると思った。

 

「さて、何から話そう?リクエストかなんかある?」

「じゃ、キーくんとアリアの運命的出会いからお願い!」

「OK、分かったよ理子さん」

 

 それじゃ、理子さんからの要望に応えておこう。よく覚えてるあの日の朝は―――、

 

「まず、その日の朝は、いつものように星伽さんが遠山君に手料理を持ってきたんだ」

 

 まだアリアに関する話など一切似ていないのに、一斉にキンジに対するブーイングがクラス中から沸き起こる。

 

『なんだとっ!?』

『くたばれキンジ!』

『星伽さん可哀相……すでに遠山君の毒牙に』

『てめえ星伽さんになんてうらやましいことを!』

 

 30人近い人間が一斉に言葉を発しているはずなのに、どういうわけか武藤君の叫びだけなんだか切実に思われた。

 

「誤解だ!」

 

 当然遠山キンジは反論するものの、なのがどう誤解なのか具体的な説明はない。

 何しろ理樹が言ったのはありのままの事実のみ。

 星伽さんが遠山くんのことをどう思っているかとか、そんなことは一切口にしていない。

 ただ、星伽白雪が朝早くに料理を持ってやってきた。

 その事実だけが提示されたのだ。

 

「そして、僕ら二人は寝過ごしたりいろいろしてバスに乗り遅れ、チャリジャックに巻き込まれてしまったんだ」

「それで?」

 

 武偵高では殺人未遂くらいは『そうか』で流されてしまうのが現実だ。

 けど、チャリジャックとは言え事件は事件。

 みんな興味深く聞いてくれる。

 

 

「二人してチャリを必死に漕いでたら、彼女が現れたんだ――――そう、アリアさんが」

『『『ゴクリッ』』』

「アリアさんの活躍のおかげで問題はチャリに仕掛けられた爆弾のみとなったんだ。僕は筋肉で何とかしたんだけど、遠山くんは筋肉ではどうにもならなかったみたいでね」

『『『フムフム』』』

 

 ツッコミは当然入らない。

 

「遠山くんはアリアさんに助けてもらったんだ。とは言え先に危機を脱した僕が遠山くんが心配で様子を見に行くと――――」

 

 話が最も大事な部分に入る。教室はより静かに理樹の言葉を待っていた。

 ただ一人、暴れる哀れな男を除いては。

 

「顔を真っ赤にしたアリアさんが、遠山くんのことを『強猥男っ!』とか叫んでいる姿だった」

『『キャーッ!!』』

 

 女性陣の騒ぐ声が響く。

 

「誤解だ! 俺とあいつはなにもないっ!」

「え? アリアさんにそう言われたということは事実でしょ?」

「……事実っ……だがっ!」

「お―――っ!キーくんやる――っ!で、どこまでしたの?」

「なにがだ」

「エッチいこと!」

「するかぁ!」

 

 もはや誰ひとりとしてキンジを信じるものはいないようである。

 

(……そうだ。それだけじゃないんだ)

 

 その程度ならまだマトモだ。挙げ句の果てには、

 

「みんな、落ち着いて。決定打がある」

『『『…………(ゴクリ)』』』

 

 静まり帰る一堂。物分かりがいいクラスでうらやましい。

 もちろん遠山キンジのことなどもはやだれも気にかけてない。

 

「アリアさんは僕らの部屋を愛の巣にすべく僕と真人は野宿を強いられるとに……」

「ちょっと待て直枝!俺も一緒に追い出されたよな!?な!?」

 

 後の祭りである。

 クラスはキンジを無視し、盛り上がっていく。

 まず、理樹は真人と一緒に今日はどこに泊まろうか、部屋に戻れるかな、と考え、

 武藤は喜びの嬉し涙を流し、

 不知火は友人の恋愛に口を挟むのは無粋と、ただキンジの肩に手を置き、

 理子はルンルンと踊ってる。

 

 その光景をみて、キンジは

 

(くそ、狂ってやがる!!)

 

 武偵高がいかに狂った場所か再実感していたが、すべての動きが急に止まった。

 クラスに新たな人物が入ってきたからだ。

 その人物は噂の人物、神崎・H・アリアであった。

 

 

            ●

 

 

 予想よりもずっと面白い話が聞けたものだと、峰理子はうれしがっていた。

 

(ねぇ、理樹くん、理樹くん!)

(どうかしたの?)

(結局のところどうなの?キーくん脈ありそう?)

(やっぱり女の子はこういう話が好きなの?)

(うん!)

(じゃあ、試して見ようか。正直ツンデレの遠山くんの意見は当てにならないし)

(うん!じゃ、よろしく!)

(へ?僕が?)

(大丈夫大丈夫。ヤバくなったら私がかばってあげる)

 

 それなら安心だな、と理樹は覚悟を込めて聞いてみた。

 

 

 

              ●

 

 

「ねぇ、アリアさん。ひょっとして、HENTAIの遠山くんにオパーイを揉まれるなんて非道なことされなかった?」

 

 

              ●

 

 

 

 同時刻。

 中庭でサンドイッチを食べていた二年Fクラスの少女は3階から落ちてくるバカの姿を確認した。

 

              

              

              ●

 

 

「り……理樹くん!」

「直枝!?」

 

 アリアにより直枝がやられた。三階の窓から突き落とされた理樹のことを気にかけている奴なんて、一緒に悪だくみをしていた理子ぐらいのものであった。他の連中はというと、顔を真っ赤にしてキンジを強猥男と罵る姿はクラス中に一つの事実を確認していた。

 

『『『事実だな』』』

 

 つまり、キンジの社会的な死を意味する。

 けど誰も言葉を口には出来なかった。なぜなら、

 

「あたしは、武偵!! 恋愛なんて、時間の無駄!! ましてやこんなやつ!!!」

 

 無言でキンジを蹴りつづけたアリアに人類は恐怖してしまったのだ。

 そして同時にこう思う。

 

(((ああ、下手にアリアを弄ったら殺される)))

 

 

 

 

              ●

 

 

 

「理樹くん! 大丈夫だった?」

「心配ないよ」

 

 午後の授業の時間となり、専門科目である探偵科(インケスタ)の時間がやってきた。

 その時に理子は、同じ学科であるし、理樹に先ほどは大丈夫だったのかととりあえず様子を見に来たのだ。

 

「昔から恭介たちと遊んでいたら落下とか日常茶飯事だったしね」

「でも、ごめんね。理子が変なことをお願いしたばっかりに」

「こうして理子さんが心配してくれた。それで充分だよ。ありがとね」

 

 アリアにたたき落とされたときはどうなるかと思ったが、そこは筋肉でなんとかなった。その事実に理樹は、真人に感謝しておくことにした。ありがとう真人。

 

「なんだよ理樹。オレの顔を見て」

「真人のおかげで助かったと思ってさ」

「そうか? なんかよくわからねえが――――ありがとよ」

 

 どういたしまして、と理樹はとりあえずいっておく。と、

 

「ねぇ、理樹くん、一つ聞いていい?」

「何? 遠山くんのことなら正直―――」

「そうじゃなくてさ、どうやって理樹くんはチャリジャックを退けたの?」

 

 困っな、と理樹は思った。見ると、興味深々という表情で理子に覗き込まれていた。

 

(どうしよう?)

 

 実は僕は超能力者でして、というのはたやすいが、

 

(……恭介に止められてるんだよな)

 

 理樹の能力は他人には秘密にしろ、と恭介から言われている。しかも、明かしていいのはリトルバスターズのメンバーや、非常時で人を助けるときだけにしろ、と厳しく言われている。基本的に恭介の言い付けは守りたいが、

 

(さて、この笑顔をどうやって乗り切ろう?)

 

 可愛い女の子の満面の笑みを裏切りたくはないし、理子さんになら言っても(多分)大丈夫だと思っている。でも、何よりも恭介を優先させたい。

 

『おい、理樹、俺が知恵を貸してやろう』

 

 僕の中の悪魔が登場した。おお、悪魔。相談に乗ってくれるのか。

 

『ここはやはり恭介の言う事に従っておくべきだろう。恭介がいった事に今まで間違いはあったか?』

(たしかに、僕は恭介のことを信じてるよ。疑ってなんかいないさ)

 

 悪魔の囁きに対するは、もちろん天使の施しであった。

 

『何言ってるのさ悪魔!!理子りんのような可愛い女の子の質問を誤魔化すのかい!?』

 

 僕の中の天使が登場した。すると、

 

(―――――――――ん? 君は誰だい?)

 

 理樹の心の中に悪魔、天使につぐ第三の相談者が現れた。

 ここは僕に任せてくれ。そんな自信に満ち溢れたような力強い声が聞こえた気がした。彼はこう言ったのだ。

 

『―――――――――筋肉さっ!!』

 

 

   

           ●

 

 

 

「―――筋肉さ」

 

 

 結論は出た。隣の席が真人なのも幸いし、

 

「真人! この僕と筋肉の無限の可能性について語り合おうじゃないか!」

「臨むところだ!!」

 

 申し訳ないな、理子に対してとちょっとだけ罪悪感は持ちつつも、

 

『『筋肉っ!筋肉っ!!筋肉っ!!!』』

 

 真人と筋肉することにした。

 

 

           ●

 

 峰理子は頬を膨らます。

 ちなみに理樹はその動作が可愛いと思っていた。

 

(筋肉って何の答えにもなってないじゃん)

 

 理子は前々から思っていたことだが、

 

(どうしてたかが『筋肉』で押し通せるんだろう?)

 

 筋肉二名は持ちネタが一つだけなのに、とバカキャラとしてなぜか敗北感がある。

 理子は秘密を探るのが好きだ。『情報泥棒』とまで呼ばれている。だから、

 

(いつか絶対見せてもらう……待っててね!!)

 

 理子はひそかに企んでいた。

 筋肉、筋肉、筋肉!そう言っているバカどもの立場を秘密をいつか見つけてやる。

 


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