Scarlet Busters!   作:Sepia

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バカテス3.5巻のお話です。


Mission46 喫茶店トロピカルレモネード②

 ヒマすぎず忙しすぎず。

 いいペースで喫茶店トロピカルレモネードは回っていた。

 

「いらっしゃいませっ!」

 

なんとか噛まずに言えるような見事(?)な成長を見せた理樹は、入ってきたお客さんに笑顔で対応する。

入ってきたのは、

 

「……何してんだ直枝」

 

 キンジだった。

 一緒にアリアと白雪もいる。

 ルームメイトとはいえ一応お客さん。 

 きちんと頭を下げてから席に彼らを案内し、お冷やとメニューを出した。

 

「それでは、ご注文がお決まりでしたらお呼び下さい」

 

 会釈してウェイターの定位置に戻るとカウンターで氷を割っていた謙吾か話しかけてきた。

 

「どうしたの謙吾?」

「ドリンクなんだが、今日はミルクの搬入が遅れているようでもう在庫がない。来ヶ谷が真人に確認に行かせていたが、注文が入ったら気をつけてくれ」

「わかったよ」

 

 新鮮なミルクはこの店の売りだったはず。予想よりもミルクを扱う注文は多いかもしれない。

 ふと、理樹は来ヶ谷の方に意識を向けた。

 

『ご注文はお決まりでしょうか?』

『えっと、ブレンドコーヒーとアイスミルクティーを一つずつお願いします』

『申し訳ございません。只今ミルクを切らしておりまして、アイスミルクティーはアイスティーになってしまいますが、それでも宜しいでしょうか?』

『え?んーと、ならブレンドコーヒー二つでお願いします』

『畏まりました。少々お待ち下さい』

 

 対応がやたら手慣れていてプロだと思った。

 

(なるほど。ああやって断りを入れるのか)

 

 感心していたら、キンジたちの方から注文を呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「お決まりですか?」

「俺は、アイスコーヒー」

「わ、私もキンちゃんと同じでっ!」

「ならあたしは……そうね、いつもならコーヒーだけどたまには違ったものもいいわね。なら、このオススメにかかれてるアイスミルクで」

 

 キンジと白雪は問題なし。

 だが、アリアの方で早速ミルクを用いるものがきた。しかし理樹はここで慌てるような少年ではない。彼は先程プロの対応を見たばかり。彼は何一つ動揺せずに告げた。

 

「お客様、申し訳ありません」

「……ん? どうかした?」

「只今ミルクを切らしておりまして、アイスミルクはアイスになってしまいます。ご了承下さい」

「それただの氷よね!?」

「では、少々お待ち下さい」

「話を聞きなさい!どこいくの直枝!?」

 

 頭を下げてカウンターを戻る。飲み物ばかりのせいかスグに出来上がった。

 

「お待たせしました。アイスコーヒーです」

「おう」

「ありがとう直枝くん。えへへ、キンちゃんとお揃いだ」

「どういたしまして。そしてこちら、アイスになります」

「いらないわよ!」

 

 アリアさんはなぜか怒りだした。

 

(何かサービスでもするか。ミルク切れはこっちの落ち度だし)

 

 考える。できるサービスといえば、

 

「ご安心下さいお客様。料金は半額で結構ですよ」

「これお金とるの!?」

 

 せっかくのサービスなのにやたら驚かれた。

 

「ミルクないならブレンドコーヒーちょうだい!」

「畏まりました」

 

 伝票に追加としてブレンドコーヒーを記入してからカウンターに戻る。

 

「謙吾――――ってあれ?謙吾?」

 

 カウンターに謙吾の姿がない。

 どうしたものか。

 謙吾が帰ってくるのを待つのも選択肢としてはアリだろうけど、今のアリアを放置するのはマズイ気もする。アリアという少女は、気に食わないことがあればすぐ発砲することくらいは寮生活で分かっている。

 

「……仕方ない。自分で作るか。でもブレンドってどうやって作るんだろう?」

今までにブレンドコーヒーを飲んできたことはあるが、成分なんて知らない。ブレンドなんだからSomethingを混ぜ合わせていることは分かるけど。

 

(……さっき来ヶ谷さんが注文をとったお客さんも、ブレンドコーヒー注文してたよね)

 

 理樹は謙吾が作り置きしたコーヒーを片手にブレンドコーヒー作成作業に移り、完成させてカップに入れてトレイに載せた。

 

「お待たせしました。ブレンドでございます」

「えぇ、待たされたわ」

 

 アリアは偉そうにふんぞり返りながらカップを手にした。

 

「おいしいわね。ところで、このブレンドには何を入れてるの?」

「アイスコーヒーとホットコーヒーでございます」

「その二つは混ぜたらぬるくなるだけでしょ!?」

「でもアリア。今おいしいわねって」

「き、気のせいよ!」

 

 動揺するアリアをよそにして、理樹は入口の扉に意識を向けた。

 カランコロンッ!と音がして、新たな二人組のお客さんが入ってきたのだ。

 

「早く入りましょうよ!!」

「そんなに急がなくてもいいだろう?」

 

 その人物の一人に見覚えがあった。

 

「……岩沢まさみさん?」

 

 昨日、地下倉庫(ジャンクション)で助けてくれた人だった。この人がいなかったらどうなっていたか分からない。恩人だ。

 

「……直枝、だったか?アルバイトか?」

「まぁそんなものです」

「岩沢さん、知り合いです?」

「昨日ちょっとな」

 

 入口で話をしても仕方ないので席に案内しようとしたら、

 

「まさみ嬢!!」

 

 カウンターから来ヶ谷さんが出てきた。

 彼女は岩沢さんのすぐ隣の人物を見て瞳を輝かせた。

 

「よう来ヶ谷。お前もバイト――――ってのはないな。ペナルティか」

「そんなことはどうでもいいことだ!それより、隣のカワイイ娘は?」

「……へ? あたし?あたしってやっぱりカワイイですか?カワイイですよね!」

戦妹(アミカ)

「ユイちゃんきたぁ――――――!!」

 

 来ヶ谷はユイを全力で抱きしめた。

 ユイは特大オパーイの感触を味わい、

 

「――――おおぉ。なんだかとてもふくよかで幸せな気分に。で、でもユイにゃんは浮気しないぞ!岩沢さんから浮気しないぞ!」

「そこであたしの名前が出てくるのか。日向のやつ泣くぞ」

 

 岩沢(大人びた少女)はユイの彼氏から恋仇だと思われている現状を理解していない。

 

「まさみ嬢! ユイ君ちょっと借りるけどいいな!?」

「ご自由にどうぞ」

 

 来ヶ谷はユイをガッシリとホールドしたまま、厨房に向かった。

 

      ●

 

 

『小毬君!小毬君!!』

『どうしたのゆいちゃん?』

『どうしてあたしの名前知ってるんです?さてはあなた、あたしのファンですね!?』

『……へ?』

『このカワイイ娘が知り合いの戦妹(アミカ)のユイ君だ。ゆいちゃんだと名前被るだろ!?だからゆいちゃんはもう勘弁してくれっ!』

『そっか、そうだね。名前被っちゃうね』

『分かってくれたか小毬君っ!』

『あ、だったらわかりやすいようにしよう!そうしたら大丈夫!』

『え……ど、どんな』

『んっとね、特徴を押さえて「CUTiE★ユイちゃん」と「Lovely☆☆ゆいちゃん」で』

『冗談だよな!?そんなメルヘン丸出しの名前冗談だよな!?』

『カワイイと思うよLovely☆☆ゆいちゃん』

『あたしはCUTiE★ユイにゃんでお願いしますね』

『……ゆいちゃんでいいです。いいですから絶対にやめてくださいお願いしますっ!』

 

 

        ●

 

 

 しばらくして、ふらふらの来ヶ谷さんが厨房から出てきた。

 

「ど、どうしたの?」

「強烈な精神攻撃を受けてな」

「……お前、花火大会のことといい災難続きだな」

 

 ふらふらの来ヶ谷さんを前にしても岩沢さんはマイペースでメニューを見ていた。

 ユイ、と呼ばれている後輩が戻ってくるまで待っていたようだ。

 

「ご注文はお決まりですか?」

「オススメ二人分」

 

 なんて男らしいんだ。

 

「岩沢さん!どうしたんですか!? 今日は太っ腹じゃないですか!いつもなら水とか言うくせに!」

「いつもは付け合わせに塩も頼んでいるだろう?」

 

(……オススメか。何かあったかな)

 

 そういえば、

 

「前に遠山くんとアリアさんがここに来たとき、クレープ辺りがおいしかったと」

 

 ガシッ!

 右肩に背後から手が置かれた。

 なぜだろう。ものすごく嫌な予感がする。

 恐る恐る振り返った理樹は、満面の笑顔の白雪な姿を見つけた。

 

「……な、なんでしょうか、お客様」

「直枝くん。その話――――詳しく聞かせてもらってもいい?」

 

 笑顔なのにどうしてかやたら恐かった。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

 アリアによって白雪から引き離された理樹は、アリアからマバタキ信号によるコンタクトを受けとった。

 

(……いい!?話をあわせなさい!決して白雪にはあたしとキンジが二人きりでこの店に来たことはバレないようにしなさいね!)

(よ、よくわからないけど分かったよ!)

 

 喫茶店トロピカルレモネードをどこぞの探偵科(インケスタ)寮にするわけにはいなかい。第一次喫茶店トロピカルレモネード大戦なんてまっぴらだ。理樹とアリアは、喫茶店を守るための防衛ミッションに挑む!

 

「直枝、あなたも一緒だったわよねっ!」

「そうだね、あの時は来ヶ谷さんもいれた五人で来たんだったね!」

 

 ゴキン!!

 理樹はアリアにより左肩の関節を外された。

 

「ぐわぁあああああああああ。か、肩が、肩がぁああああああああ」

「なんでアンタはそんな底の浅い嘘しかつけないのよ!!リズはすぐそこにいるんだから確認されたらバレちゃうでしょうが!!」

「……なぁ、ちなみにオススメって結局なんなんだ?」

 

 関節を外されて悶え苦しみバカを前にしても、岩沢さんは合も変わらずマイペースだった。

 ちっともぶれない。

 

「直枝くん。あと一人は誰?」

 

 白雪は笑顔のままだ。

 怪我人を前にして笑顔ってどういうことだろう?

 理樹の特殊系超能力のせいで、慌てて魔術による治療をされても効果はないとは思うけど。

 

「あ、あと一人はあの人だよね」

「そ、そうだよ。えっとね、」

 

 必死に足りない頭を動かす。

 最近ていたらくが目立つ彼ではあるが、こんなでも探偵科(インケスタ)ではAランク相当なのだ。

真人とのコンビで探偵科(インケスタ)としてはSランクあるんじゃないかとも言われる優秀(笑)な生徒。

でもどうやらバカ正直な性格のせいで騙しあいはサッパリのようだ。

 

(か、考えろ。この場にいる連中は確認されるからダメだとして、僕らと繋がりがないのは現実味にかける)

 

 探偵科(インケスタ)では、現実味にかける嘘はすぐにばれると教えられた。

 

(理子さん……は、名前を出した時点でアリアさんからしばかれそうな気もするから除外して、鈴は人見知りだからアウト。それにこの店にくるのは村上君みたいに野郎よりも女の子の方が自然だから。あ、そうだ、星伽さんの護衛関連の人なら問題ないんだ。つまり、)

 

「えっと、綴先生と一緒に来たんだよ!」

 

言った瞬間にアリアに左肩の関節をハメられて、また外された。

 

「ぎゃあああああああ」

 

無表情になった白雪はバカを放置してキンジを問い詰める。

 

「キ、キンちゃん? 綴先生と一緒にお茶ってどういうことですか?」

「え、な、なんのことだ!? どうしてそんな話になってるんだ!?」

 

来ヶ谷さんは爆笑している。助けて下さい。下手打ては死人(理樹)がでそうな一発触発の雰囲気の喫茶店に、救世主が現れた。

 

「君達! 一体何をしているんだっ!」

 

 芯のこもった力強い叱咤だった。来ヶ谷さんすら爆笑をやめ、白雪も静かに落ち着く。

 

「お客様の前で何をしているっ!」

「て、店長?」

「人が倒れている間に何をやってるんだ。お客様の前でこんな真似をしているなんて、何を考えているんだ!」

 

力強い声に思わず背筋を伸ばしたいところだが、左肩の関節が外された理樹はキリってできない。

 

「直枝君。どうしたのだ」

「右肩の関節が外されました」

「見せてみろ」

 

ゴキン!

店長は見事に関節をハメ治してくれた。

弱っていたとしても、元武偵の店長は頼もしかった。

 

「お客様、大変失礼致しました。どうぞお気になさらずごゆっくりと」

 

 店長が頭を下げてフォローに入る。これでなんとか喫茶店が戦場になることもなく平和なものになるだろう。

そう思って理樹が胸を撫で下ろしていたら、

 

カランコロン

 

 新たなお客様が来店した。

 

「ここってわたしのおじ様が経営している喫茶店なんですよ」

「へぇ、志乃ちゃんの家ってすごいんだねぇ。実家も豪華だったし」

 

 入ってきたのは二人組の武偵の女の子だった。

 ユイはその二人組を見て声をかけた。

 

「あ!あかりちゃーん、志乃ちゃーん!」

「あら。ユイさんこんにちは」

「こんなとこで会うなんて奇遇だねユイちゃん!」

 

 女の子特有のキャハハウフフの空気に喫茶店が包まれる。

 この喫茶店、さっきから変貌が大きすぎる。

 

「昨日は無理だったので紹介しますね、こちらがあたしの岩沢さんです!」

「……どうも」

「うわ、ずっごい美人」

「別嬪さんだね。あ、白雪お姉様、いらしていたんならちょっといいですか?」

「アリアせんぱーい! 友達に自慢したいので来てもらってもいいですかー!」

 

 あかり、志乃、ユイ。

 それぞれが己の大好きな戦姉(アミカ)を自慢する空気の中、戦姉(アミカ)達の対応はそれぞれだ。

 

アリアは後輩たちの前では完全無敵の強襲科(アサルト)Sランクの出来る女を演じ。

白雪は東京武偵高校の代表たる生徒会長として何一つ恥じることなどない日本美人の大和撫子の姿に。

 

「ねぇ、注文したオススメまだ?」

 

 岩沢は我関せず。マイペースでブレない。

 

 先程までの危険人物が落ち着く中、店長が女の子たちの一人に話かけた。

 

「……し、志乃?」

「あ!おじ様! お元気でしたか?」

「……しばらく来なかったから心配していたんだぞ」

「ごめんなさいね、おじ様。最近あかりさんとやることが多くて多くて」

「そうだね。最近はずっと一緒だったね」

「これからも私はずっと一緒ですよ」

「うん!よろしくね志乃ちゃん!」

 

 

 どうやら店長の姪っ子とは志乃のことのようだ。

 店長の視線はあかりへのシフトした。

 

「あの、店長?」

 

 店長の敵意すら感じられる視線に理樹は嫌な予感を感じた。

 

「……貴様が、」

 

 店長は、

 

「貴様が志乃をたぶらかす女かぁああああ」

 

 地獄の底から響くような小さく低いささやき声の後、暴走した。

 

「店長!店長!!落ち着いて下さいっ!下手すれば、また星伽さんあたりが暴走しかねなっ」

「ボクは聞いていたんだっ!志乃が悪い奴に騙されている可能性があるって!!」

「店長!店長!!『志乃をたぶらかす女』という言葉はどこかおかしいことに気づきましょうよ!志乃さん女の子ですよ!?ねぇ!?ねぇってば!?」

 

『ねぇ、アリア。やっぱりキンちゃんと二人だけでこの店に来たんじゃ……』

『ち、ちがうんだから!』

「店長!落ち着いて――――って店長!?その刃物で何をするつも――――」

 

『来ヶ谷。爆笑してないで水くれ』

『岩沢さん。こんな状況でゆったりしてるなんて大物です!素敵です!』

『お前らも大概だな』

 

「や、やめて店長!だ、誰助け――――っ」

 

 

 結局、喫茶店は混沌に支配されることになった。

 

 





というわけで、バカテス3.5巻のお話をやってみました。
当然、ごめんなさいは言っておきます。
でも、どうしてもこいつらでやってみたかったんです。
弁明はしません。

流石にまずいと思われる場合は遠慮なく指摘してください。

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