今回は「ハーメルン」にて掲載中の草薙先生の作品、『緋弾のアリアー緋弾を守るもの 』より、あのキャラが登場します。クロスオーバーの許可をいただき、草薙先生への感謝の気持ちをこめて、書かせていただきました。
なお、原作ではレキは二年Cクラス所属でしたが、この作品ではレキは二年Fクラスの所属です。よろしくお願いします。
直枝理樹と棗鈴の二人は困りながら二年Fクラスへと向かう廊下を歩いていた。
困っているというのは他でもなく、人探しだ。
「医療技術が使える人ってったってねぇ」
「見込みは0だな」
アドシアードに向けて、どこかの委員会に所属している人達は皆かり出されているらしい。例えば保健委員のような医療関係者だと、急なけが人が出たときのための対処や、自分の委員会の病院に緊急連絡してなんとか治療できるかどうかなどの打ち合わせで忙しいらしい。委員会の一員どころか、委員会のトップたる委員長である来ヶ谷唯湖なんてもう一般科目の授業すら出ていない。いや、彼女の場合はいつも通りであったか。
「恭介と真人はローマ武偵高まで調べ物にいっちゃったしね」
「あの筋肉は役に立つのか?」
「さぁ?」
鈴のひどい発言を軽く流しつつ、理樹は学校全体の雰囲気を見てみる。活気づいていた。
(……やってるやってる)
アドシアードの期間までは授業は午前中のみ行われる、午後はそれぞれ準備の時間となる。
例えばクラスメイトのレキは狙撃競技の日本代表ででるからその練習を行っているし、風紀委員会を自前で持つ二木佳奈多なんて忙しそうだったという目撃情報があった。
「理樹、誰か心当たりがあるのか?」
「何、心配ないよ。素直にクラスメイトに聞けばいいさ」
チームメイト、ルームメイト、そしてクラスメイトは仲間と呼ぶには十分すぎる存在。理樹は素直にクラスメイトに、医療関係者で手の空いている人間は誰かいないかを聞くつもりであった。人知りの鈴はこういう事に対しては全く役にたたない以上、理樹は僕が何とかしないと、と張り切っていた。
『おい!アドシアードのイベントのことだが……』
『チアの配置は大丈夫!?』
己のクラスである二年Fクラスへと向かう最中に、他のクラスでどんな活動をしているかはわざわざ覗くまでも無かった。空気で伝わってくる。
(……いいな、この雰囲気。大騒ぎは好きだ)
Fクラスでもアドシアードに向けて大騒ぎしているのかもしれない。確か二年Fクラスからはアドシアードの出場選手は狙撃科のレキだけだったはず。もし会議の途中だったら少し邪魔しちゃうかもしれないし、そうだったら申し訳ないなと思いつつも理樹は教室へ向かう。
「さて、我が二年Fクラスに到着だ!」
「理樹。それはいいんだがな」
理樹は気分を弾ませながら扉を開けて、見てしまった。
「……だれもいないぞ、理樹」
二年Fクラスには、
「……なん……だと!?」
誰ひとりいなく、教室の電気すら消えていた。
他のクラスとは違って、活気なんて微塵も感じられなかった。
●
・パワー『ねぇ!?どういうこと!?なんでFクラスだけ人がいない上に電気すらついてないの!?』
・剣 道『俺が知るか』
・パワー『謙吾は二年Fクラスのクラス代表でしょ!!何か知らないの?』
・姉 御様が入場しました。
・姉 御『ん?そりゃそうだろう』
・パワー『なんで?』
・姉 御『二年Fクラスの諸君はこの私の手足となって働いている最中だからな』
・パワー『あなたの仕業か!!』
・姉 御『なんだ、誰かに用だったのか?』
・パワー『クラスメイトに聞きたいことがあってね……』
・姉 御『なら、今から少年も来るがいいさ。みんな視聴覚室にいる』
●
『クラスメイト一同が教室に誰ひとりいない』というアドシアードという一大イベントの前とは思えない珍行の謎を説き明かすべく、チャットでチームメイトから聞いたことを頼りに視聴覚室に向かった理樹は見た。
「なんだ……これは!?」
理樹が鈴を連れて視聴覚室に向かえば、二年Fクラスのクラスメイトたちの大半がそこで仕事していた。皆真剣な様子だ。
「来ヶ谷さん? これはいったい……」
「うむ。我が二年Fクラスからアドシアードの出場選手がいることは知っているな」
「レキだろ?」
なんと極端な人見知りの鈴が即答した。レキは鈴が普通に話せる数少ない一人でもある。
(……そういえば鈴ってレキさんとは話せたんだった)
どこに接点があるかというと、やはりというか接点となるのは恭介だった。
恭介は依頼でイギリス行ってみたりしたり、昔から何かといなくなることが方が多い人物だが、その分恭介のネットワークはかなり広くなっている。だから恭介は単なる調べ物に「ちょっとローマ行ってくる」みたいなことを言うのだ。レキさんは恭介の知り合いの妹らしく、いろいろと面倒を見てるらしい。
「……で、レキさんがどうかしたの?」
「我々二年Fクラスはレキ君を応援すべく日々水面下で行動しているのだ!」
何っ!と慌てて理樹はクラスメイトたちの作業を凝視する。
応援ポスターの製作やアドシアード出場記念品を作っていた。
「ここにいる人達は……」
「西園女史みたいに依頼でそもそも帰っていない人が何名かいることも確かだが、そんな連中を除けば全員いる。少年と鈴君に謙吾少年には恭介氏から言い渡された仕事があるから伝えていなかった。悪いことをしたか?」
「そんなことないよ」
悪いことをしたな、と思ったのは理樹の方だった。何しろ理樹は他のクラスとは違いアドシアードのイベント準備で午後は自由時間となっている中何をしているのだと思っていたのだから。
「く、来ヶ谷さん!僕は……僕はこのクラスの皆のことを誤解していたよ!」
(このクラスは……二年Fクラスは最高のクラスだ!)
僕も早く人探しを終らせてFクラスの一員として協力しよう。そう思った理樹は、
『来ヶ谷!盗聴器と盗撮器の準備は完了したぞ』
「うむ。ごくろう」
(…………うん?)
聞いてはいけないフレーズを聞いた気がした。
『ふぅ。やっと一段落したぜ』
『まだまだだ。レキ様の麗しい姿をこの眼に焼き付けてはいない』
『そうだな。レキ様のために、我らがこの程度でくじくるわけにはいかんのだ』
おかしい。とうとう幻聴が聞こえるようになってしまったのだろうか?理樹はさっき最高のクラスだと思った二年Fクラスに違和感を感じてしまうようになっていた。
「配置はどうなっている?」
「女子寮にはさすがに手が出せないが、すでに校内に至るところに設置は完了した」
「女子寮は佳奈多くんがうるさそうだし止めておこう」
「分かった」
どうやら思い違いではないと少年は確信した。
「なにやってるのさ」
「見て分からないのか?」
「僕には盗撮器を仕掛けてるように見えるんだけど」
「分かっているじゃないか。その通りだ」
悪びれもせずに平然と答える姉御に対し何も言えないでいる理樹に、さっき姉御に話し掛けていたFクラスの男子生徒が話し掛けてきた。村上だ。
「直枝、ひょっとしてお前は勘違いをしているのではないか?」
「勘違い?」
「そうだ。別に俺達は盗撮器を学校の至るところに設置したが、使うのは来ヶ谷一人だ」
「来ヶ谷さん?」
「あぁ。放送委員の仕事だ。私は二日目以降、解説担当として葉留佳くんと一緒に実況をやることになっているのだが、そのためにはいろいろな場所を映すためのカメラが必要なんだよ」
「何っ! 来ヶ谷さんがまともに国の仕事をしているだって!?」
「……少年は私をどんな風に思ってるんだ。これでも私は、ちゃんと職についていて責任ある立場にある人間なんだぞ」
とは言えそういうことなら理樹としては納得するしかない。
きっと彼女も仕事で仕方なく――――
「まぁいい。そしてこの私は可愛い女の子の写真は取り放題だということさ」
「……ん?」
「二年Fクラスの諸君! 協力感謝する! ではこの私の写真館『覗きの部屋』をしばらくしたら始めることとする!」
「「「いいぃやっほうー!」」」
歓喜をあげるFクラスの皆に「待ってください」と理樹は思わず敬語で話しかけていた。
「どうかしたか少年?」
「どうもこうもないよっ!皆揃いも揃って何してるのさ!」
「今まで隠してたが――――私は可愛らしい女学生が大好きなんだ」
「知ってるよこのバカ!」
まさかこの才女に「バカ」と叫ぶことになるとは思わなかった。
「直枝、落ち着くんだ」
「落ち着くべきは僕じゃなくて君達だと思うんだけど……」
「まぁ待て。これを見てみろ」
そう言われて理樹が村上から渡されたのは一枚の写真だった。
「……」
レキの写真だった。
レキといえば無表情、無口、無反応とあだ名は「ロボットレキ」とすら言われている女の子なのだが……かなり可愛かった。いや、かなり可愛いく写るように撮られていた。
「分かったか少年?」
「何が?」
姉御は理樹の肩に手を乗せ、自信満々に言い切った。
「可愛らしい女の子の写真を撮るということにおいて、この私を越えられると思うなっ!」
「これ来ヶ谷さんが撮ったの!?」
「もちろん。そして私が可愛らしい女の子の写真を隠し撮るために校内に隠しカメラを葉留佳くんに設置させたんだが……」
「ゴメン。どこからツッコメばいいか分からない。あと三枝さんも一体何をやっているんだ……」
もうどこから突っ込みを入れるべきかもわからないが、とりあえず一つ一つ聞いていくことにする。まずは……
「放送委員の仕事というのは?」
「そんなものバレた時の言い訳に決まってるじゃないか」
まともな返事が返ってくると思ったのに、姉御はどうどうと私欲丸出しであると言い切った。
「皆!どうして来ヶ谷さんの願望極まりないことに協力してるのさ!?」
なぜこんな堂々としているのかと、おかしいのではないかと理樹はクラスメイトたちに訴えると、二年Fクラスの仲間たち一同を代表して村上という名の少年が答えた。
「いいか直枝。よく聞けよ」
「うん」
「俺達はな、ただ純粋に――――――――――――レキ様の写真が欲しいんだ」
うんうんと頷くクラスメイト一同を見て理樹は違和感を感じないわけにはいかない。
「来ヶ谷に協力したらレキ様の写真を我らが手に入れやすくなるからな」
「『我ら』?」
なんだ知らないのか、とクラスメイト一同から哀れみの視線をうけたバカは、
(……どっちが可哀相なのかなぁ)
とか考えつつ、『我ら』の正体を聞くこととなる。
リーダー格の少年村上を筆頭にクラスメイト達は宣言する。
「我々は!」
『『『レキ様のストーカーにあらず!』』』
「我々は!」
『『『レキ様を愛でる宗教にあらず!!』』』
「そして我々は!」
『『『己のすべてわ彼女のために!!!』』』
「故に我々は!」
『『『レキ様を影から支える集団!!!』』』
「その名も」
『『『レキ様ファンクラブRRR!!!!』』』
理樹は迷わず逃げ出した。
●
直枝理樹は走っていた。全力で走り続けていた。
(……僕のクラスメイトが……最高だと思っていた二年Fクラスのクラスメイト達がっ……)
評価が『最高のクラスメイト達』から『ただの変態集団』へと一分足らずで堕ちたのだ。
彼が現実から目を背けて逃げ出したくなるのも無理はないだろう。
理樹はどこに向かうかも決めず走りつづけ、二年Fクラスの教室近くで比較的常識人を見つける。
謙吾だ。
「理樹、どうかしたか?」
「謙吾……どうしてここに?」
「星伽の護衛で引っ越しがあるから手伝ってくれと前に言ったのはお前じゃないか。真人は恭介とバチカン行ったしな」
(やっぱり謙吾はまともだ)
クラスメイトが一人でもまともでよかったと思うが、理樹は気づいてしまった。
謙吾は相変わらず袴姿だった。よく考えたら頭がおかしい。
「うわぁあああぁあ――――ん」
「あ、おい、理樹!」
謙吾を置いて理樹はもう嫌だとDashした。
●
「ハァ……ハァ……ここで一息つこう」
しばらくはクラスメイトには会いたくないと理樹が避難したのは屋上だった。
(風が気持ちいいな)
空には雲一つない青空が広がっていて、嫌な気分など吹き飛んでしまいそうだ。
「まさか二年Fクラスが変態集団だったなんて……」
だがよく考えてみたら、
「僕も充分なバカじゃないか!」
昔から真人や恭介みたいのと遊んでいたから無駄な特技も多い。
「よし!今度村上くんたちにレキさんの魅力について語り合ってみようか」
勝手に自己解決したバカは大丈夫、僕はあのクラスでもやっていけると間違った方向に決心していると、ガン!!という音を聞いた。何かが何かにぶつかった音だ。
「ん?」
何だろうか。聞こえた場所から考えて、
(屋上に入るドアの上にある給水タンクかな?)
気になったからついている梯子で上ってタンクの様子を見てみると、頭を押さえている女学生がいた。地面には大量のお菓子が転がっていて、本人はなぜかタンクと地面の間に存在する空間に入っている。
(……さっきのは頭をタンクにぶつけた音だったのか)
大丈夫?と聞こうとしたが、聞く前に向こうがしゃべった。慌てて言い訳をするかのような声だ。
「ご……ごごごごめんなさいっ!」
こちらを見もせずになぜか謝ってきた。
「世の中には不思議なことがたくさんあって、これもきっとそうなんです! お菓子とかお菓子とかお菓子さんとかが降ってきました――!」
そんなことを口走った女の子は痛みがようやく引いたのか、こちらの方にようやく顔を向け、ニッコリと日だまりのような明るい笑顔を向けてくれた。
というわけで、レキ様ファンクラブRRRとその会長村上が登場しました。
草薙先生からは、「今後も自由に登場させても構わない」というありがたいお言葉をいただいたため、彼らは今後も出てきます。
では、改めて彼らへの敬意をこめて。
では!