Mission20 探偵科寮大戦!
「神崎……ホームズ……アリアだって?」
「そう。あたしはシャーロック・ホームズ4世よ!で、あんたはあたしのパートナー、J・H・ワトソンに決定したの!」
ロンドン武偵局の連中から逃げきったキンジとアリアの二人は探偵科の寮に帰ってきていた。走り回ったせいで疲れきっている。
(……ありえんだろ、こんなホームズ)
シャーロック・ホームズというのはイギリスで活躍した名探偵の名前だ。
拳銃と格闘術の達人であり、武偵というものの基礎を構築したとされている。ホームズはフランス語ではオルメスと発音するらしい。だから理子がアリアを狙った理由がなんとなく理解できたキンジではあったが、
(……こんな……ちっこかわいいホームズ!)
正直、世も末だと思う。
「お前、まさかと思うがここにまだ住むのか?俺がお前のパートナーになったんだから、ここにいる理由はもうないと思うが」
「『武偵殺し』の一件はまだ解決していないでしょ?理子を捕まえるまでよ」
走った疲れと精神的な疲れが一気にきたキンジであるが、疲れることというのは続くのが世の中である。キンジは疲れてソファーに座るとピピピという音がした。メールだ。
(……うわ、溜まってる)
しばらくメールを見てなかったから、大量のメールが溜まっていた。迷惑メールならまとめて削除で終わりなのだが、
「……逃げろ」
メールは未読が58件。留守番サービスが23件。しかも発信元はすべて同一人物。
『星伽白雪』と表示されていた。
内容は
『キンちゃん、女の子と同棲してるってホント?』
『さっき恐山から帰ってきたけどね、神崎・H・アリアって女がキンちゃんをたぶらかしているって聞いたの!』
『……キンちゃん、どうして返事くれないの?』
メールがだんだん狂喜じみていく。
恐怖で急にガタガタ震える男は、どどどどどという急接近する足音を聞いた。
「ア、アリア、逃げろっ!」
そして、金属音と共に玄関のドアが斬り開けされた。
そこにいたのは巫女装束の幼なじみ、星伽白雪。
ぜーぜーと息を切らせた巫女はバーサーカーとなり、
「この泥棒猫っ!」
アリアに襲いかかった。
●
その日の少年、直枝理樹の機嫌はよかったのだ。
風紀委員の監視の元での書類の山から解放され、来ヶ谷唯湖という新たな仲間ができたのだ。しかも、夕飯にバーベキューを楽しむとい充実極まりない生活を送れたのだ。
今日は本当にいい一日だったと思うのは何一つ不思議なことではない。
「バーベキュー楽しかったね、真人」
「ああ」
ルームメイトである真人と一緒に自室に帰ってきた理樹は、あとはぐっすり眠るだけだと思っていたが、彼は見てしまった。
「……」
「……」
ドアが文字通り一刀両断されている。
『白雪!なに勘違いしてるんだ!』
『キンジ!何とかしなさい!あんたのせいでしょ!?』
『キンちゃんは悪くないっ!』
中の様子を確認すると、乱闘が繰り広げられていた。
「……な、直枝!井ノ原!ちゅうどいいところへ!白雪を止めてくれ!」
キンジから理樹たちへ救難信号が発っせられた。
だが、理樹は聞き入れない、だって理樹が見てるのは……
「僕の……部屋が……テレビが……せっかく仕入れたソファーが……」
切り刻ざまれ破壊された日用品の数々。
探偵科の寮ゆえ比較的平和だから、防弾加工をしなかったのが裏目に出たか。
「……真人」
「おう!」
真人は防弾学ランのポケットから防弾グローブを装着し、理樹は下駄箱を開け、大量の魔術爆弾を取り出した。
『天誅ぅ――――ッ!』
『何なのよこの女っ!?』
ホームズと巫女の戦いが過激化するなか、バカは叫んだ。
「天誅はこっちのセリフだバカヤロウッ!!」
●
暴走巫女に襲われていたアリアは、バカが何か投げてきたのを見た。
なんだと思ったが、
アリアは魔術に疎く、それが魔術爆弾だと見てわからなかったが回避はできた。
「爆弾っ!? 何考えてんのよアンタ!」
「うるさいっ! 直撃しても死にはしない!せいぜいアフロになる程度だっ!」
アフロは嫌だ。アリアは最優先対処事項を巫女からバカにChangeして、バカに向かって発砲したが、
「――フンッ!」
隣の学ラン筋肉に拳で打ち返された。
(――――い!?)
拳で防御、ではなく打ち返してきた。まるでそのまま銃で撃ったかのような速度で飛んできた銃弾を慌てて避け、こう思う。
(あいつ、なんてバカ力なの!?)
銃弾を弾くだけでも大変な力がいるのに、打ち返すときた。
「オレの筋肉の力はまだまだこんなもんじゃないぜ」
しかも、当の本人は筋肉の力と断言した!
二丁拳銃で連射しても、すべて両手で打ち返してきた。
しかも、打ち返す場所は狙いをきちんと定めている。
(なんであんなヤツが強襲科じゃなくて探偵科なの!?)
どうするか、と考えたアリアは巫女がバカに切り掛かるのを見た。
●
「邪魔をするなぁー!」
星伽の巫女は武装巫女だ。神社というのは神を敬うものだから、神の奇跡、すなわち魔術を代々受け継ぐことがある。星伽神社は鬼道術という魔術を受けづいている。
もちろん単純な肉体強化の魔術もあるので、白雪は爆弾を捌きつつ投げてるバカに切り掛かろうとしたが、
「!?」
わりとあっさり回避される。ウソ、と思うが理由はすぐに思い浮かぶ。謙吾くんだ。
普段から最高峰の剣技を見て特訓してきるから、白雪の剣技ではバカどもを捉えられないのだ。
それどころかてりゃ!とカウンターぎみにチョップをくらった。
チョップ自体は威力皆無。何しに触れたんだという感じだったが、
(…………え!?)
白雪の力が抜ける。薬か何かを打たれたというよりは、
(……私の鬼道術が術式ごと消された!?)
体を覆っていた術式が強制Cancelされた挙げ句破壊された。これは理樹の本人すらよく分かっていない能力のせいだが、白雪は知らないがゆえ困惑する。
キンジが探偵科に移籍する際に理樹&真人の部屋に移ると聞いて、彼ら二人のことを調べた時のことを思い出す。この二人は一発芸バカであるが、タッグを組んで戦えば強襲科相手でも平然と返り討ちにするだけの実力があるらしい。聞いたときは不思議だったがその理由が今なら分かる。
直枝くんに魔術的な何かがある以上、単純な物理攻撃は井ノ原くんがすべて弾き返し、魔術攻撃は直枝くんが対処する。しかも、幼なじみゆえに息は抜群!その上、近接戦闘では爆弾や筋肉が無双する。
(確かに、強いっ!)
二人の強さを知った上でも、暴走巫女は止まらない。
だって、キンちゃんのために泥棒猫を排除しなければならないのだから。
「邪魔をするなら、あなたから消しますっ!」
「部屋をなんてことにしてくれたんだぁーっ!!」
話は平行線。ゆえに白雪は切り掛かかるが、今度は理樹が慌てて回避したため、左手にもっていた大量の魔術爆弾を床に落としてしまった。
「あ」
直後、防弾ガラスが割れる大爆発が起きた。
●
「え―。これから話し合いを始める」
悲惨なことになった部屋を見ながら、遠山キンジは休戦を提案した。
先程まで戦っていた四人は、このまま続けたらより悲惨なことになると大爆発により悟り、休戦した。
大爆発があったとはいえそれは見た目だけで、威力はさして強くもなかったようだ。
キンジは防弾物置にニートして、直枝は能力で無傷、井ノ原は筋肉ですぐに隠れ、アリアは防弾テーブル(白雪に切られて半分のサイズ)を盾にして回避した。白雪に至っては魔術で強引に爆風を吹き飛ばしたらしい。あれだけ派手に爆発して全員が無傷というのがさすが武偵といっておこう。
「では、こちらの要求はただ一つ」
直枝が言う。言う内容にキンジは緊張せざるを得ない。
なんだかんだでこの部屋の主は直枝理樹その人なのだから。
こいつに出ていけと言われたら素直に出ていかなければならないだろう。
「三人で用意しておいてね」
直枝は紙になにか書き込み、三人に見せる。請求書だった。かるく100万は越えている。
「な、なんであたしが用意しなきゃいけないのよ!?あたしは被害者よ!」
「別にアリアさんが払わなくても遠山くんが全額用意してくれたら問題ないよ」
爆弾つかったやつがスゴイこと言ってる。
対して素直に反省するやつが一名。
「キ、キンちゃん様!死んでお詫びしますっ!」
白雪だ。
「キンちゃん様が私を捨てるんなら、アリアを殺して、私も死にますっ!」
相変わらず意味不明だ。
「……捨てるとか何言ってんだ?」
泣き顔巫女は、顔を上げ、
「キンちゃんと恋仲になったからっていい気になるなっ!」
「恋仲!?」
恋愛苦手ホームズは真っ赤になり、絶叫する。
「ババカ言わないでよ!あ、あああたしは恋愛なんてどうでもいいし憧れたことなんかないんだから。憧れたことないんだから!憧れたことないんだから!」
「じゃあキンちゃんとはどういう関係!?」
「キ、キンジは私の奴隷よ!」
場が完全に固まった。
冷たい雰囲気が支配するなか、最初に反応したのは井ノ原という名前の筋肉さんだった。
井ノ原という筋肉はわなわな奮え、キンジに対して裏切りのような視線を向け、
「遠山……この部屋を……オレと理樹の友情の巣を、お前の女との愛の巣にしようというのか!」
「何言ってんだ!?」
「そ、そんな……。キンちゃんにそんなイケナイ遊びまでさせてるなんて」
誤解した井ノ原と白雪相手にキンジは弁明を開始する。
「いいかよく聞け。俺とアリアは武偵同士一時的に組んでるだけだ」
「……そうなの?」
「もちろんだ。俺のあだ名を言ってみろ」
「……女嫌い」
「だろ?」
「でも……」
これで説得できると思ったが、従順巫女が珍しく口答えする。
キンジとアリアの二人のポケットを見た涙の巫女は叫んだ。
「ペアルックしてるううう――――!!」
かつてゲーセンでとったレオポン君だった。
「ペアルックは好きな人同士ですることだもん!私、私!何度も夢見てたのに!」
「だーかーら、あたしとキンジはそんな関係じゃない!」
「何ぃ!?オレと理樹だってペアルックしてるんだが、これは仲良しの証じゃなかったのか!?」
筋肉さんがアリアに吹き飛ばされた。
真人!真人!というバカの声を無視し、キンジは話し合いを元に戻そうとする。
「こら白雪。俺のいうことが信じられないのか?」
「そ、そんなこと……信じてます……」
一安心した暴走巫女だったものは笑顔になり、
「じゃあ、キスとかはしてないのね」
(キスか。ですか。キスですか)
キンジはアリアと顔を見合わせ、黙ってしまう。
「えぇ!?何!?二人とも!? 僕が必死に命かけながら理子さんと相対していたときにそんなことし――(ドガッ)」
直枝が吹き飛ばされ、筋肉さんの上に落ちた。
「し……た……のね?」
巫女の瞳孔が開き、表情は失われ、うふふ、うふふふ、うふふふふと笑う。
流石に命の危険を感じたアリアもキンジに加勢して弁明を開始する。
「そ、そういうことはしたけど、で、でも、大丈夫だったのよ!」
アリアは弁明した。
「子供はできていなかったから!」
白雪の中からかつて白雪だったものが抜け落ち、真後ろに倒れる。
「……もらった……ぜ」
筋肉とバカと巫女の三人が倒れ、部屋も何とか原形を留めている程度の中、最後にバカはなぜか勝ち誇ったような顔をして眠りについた。アリアの問題発言が携帯で録音されていて、公開されたくなかったら部屋をすべて元に戻せ(金はキンジ負担)とキンジが理樹に脅されたのは翌日の話。
巫女だけでなくみんな頭おかしいような気がします。