ハルバート。
たしか日本語では槍斧、斧槍、鉾槍だなんて呼ばれている武器だったか。
斬る、突く、鉤爪で引っかける、鉤爪で叩くといった使い方が豊富であり、昔の線上においては鉤爪で鎧や兜を破壊したり、馬上から敵を引き摺り降ろしたり、敵の足を払ったりすることのできる多芸な武器。
しかし、見た目からも推測できる難点が一つ。
この武器はとても重い。
なにせ、槍の先端に斧がついているような武器だ。
これで軽ければ詐欺でしかない。そんなことができるとしたらせいぜいプラスティック製のおもちゃくらいだ。
軽々と振り回せるような武器ではないはずなのだが、
(……くるくると回してるな)
鈴と美魚の二人の前に立つ少年は、なんてことのないように武器を手にしていた。
「もう一度言う。さぁ、俺と一緒に来てもらおう」
「あ、あなたは一体誰なんですか?」
「誰でもいいだろう。俺が言われているのは、お前を連れて来いということだ。女相手だろうが、嫌がるなら無理やりにでもつれていく。これで最後だ。俺と一緒にこい」
脅える美魚を守るようにして一歩前に出た鈴は、美魚とともに逃げ出すことはしなかった。
美魚が運動をするタイプではないので逃げきれないだろうということもあるが、鈴としては望むところではあったのだ。美魚の空白の一ヶ月を知る手がかりを逃がすわけにはいかない。だが、鈴は元々口がうまい方ではないのだ。口達者な人間ならもうちょっとクラスメイトとコミュニケーションを取ろうとするだろう。それゆえに、鈴の方針は単純だ。
(こいつを締め上げて、それから吐かせよう)
頭を使って会話で情報を探り出していくのは恭介とか理樹がやればいい。
鈴自身の性分として、何も考えずにボコボコにして聞き出した方が話は早い。
鈴が戦いが好きなわけではないのだが、それでも会話よりは楽かなと思う程度のことだ。
自分から仕掛けるのは気がひけるが、相手が暴力でくるのならそれに応じてやるつもりだ。
そういう意味では、彼女の本質は脳みそ筋肉である真人と何も変わらないのかもしれない。
「そういえば、こっちも一つ聞いておきたいことがある」
「なんだ?」
「理樹と真人はどうした?」
自分たちをつけてきている連中がいると、それの迎撃に向かった理樹と真人の二人は一向に帰ってきていない。 現状最も考えられる可能性として、返り討ちにあったと考えるのは妥当なのだろうが、
「誰だ?そいつら」
「弱そうなのと筋肉しか取り柄のなさそうな奴の二人組だ」
「知らん。逆に聞きたいな、お前は誰だ。西園美魚が誰かと一緒だとは聞いてないぞ」
あいにくと、心当たりがないようであった。
(あいつらホント、今一体何してるんだ?)
理樹と真人に一体何があったのかが気にはなるが、それはひとまずは置いておくこととする。
何だかんだで相当たくましい連中だ。
問題が起きていたとしても、二人で勝手に何とかするだろう。
殺されたとは到底考えられない。
「棗さんは私の学校のクラスメイトです!」
「クラスメイト?なるほど、偶然遭遇したから一緒にいるのか。おい女!西園美魚は今、抗争の真っただ中にいる。こいつと一緒だと危険だ。今なら離れていれば、安全だ。とっとと去るがいい」
「いやだ。誰かも分からない奴に渡してたまるか」
「……警告はしたぞ」
ハルバートを持った少年が鈴に切りかかってくるが、鈴は特に動く様子はない。
幼い頃から真人や謙吾を一緒にいたため、鈴は
それでも、今回は相性が悪い。
鈴が真人相手でも案外いい勝負ができるのは、鈴が猫のように身軽に動けるからだ。
鈴一人ならむしろ有利に戦いを勧められるだろうが、今は美魚がいる。
下手に動き回ることができない上に、鈴ではハルバートのような重量兵器を真っ向から受け止めることはできない。
鈴一人なら攻撃をかわしながら戦うことができるが、美魚がいるため下手に距離をとれば鈴が放置されて美魚が狙われる。そのため鈴に逃げ場など無いのだが、それでも鈴の表情は変わらない。
なにせ、そもそも美魚を鈴一人で守る必要はないのだ。
理樹と真人がいなくなったとしても、まだ一人残っている。
「―――――――――ッ!!」
鈴と美魚に迫りくる少年に割り込むような形で、バレーボールほどの大きさをした固まった水がいくつも飛んできたのだ。
「……人払いの結界が張られていたはずだが。日向の野郎、しくじりやがったのか」
「人払いの結界は、魔術を知る者には効果がないことがある。確かにこのハートランドという街において観光客すべてを別の場所に人知れず移動させた手腕は認めるが、俺には通用しなかったようだな」
現れた少年の名前は宮沢謙吾。
理樹と真人で互いの行動を見ていたのと同じように、今回美魚の護衛にあたって鈴と少しだけ距離を置いて見守っていた少年である。
「遅いぞ謙吾」
「悪かった。結界に穴をあけるのに少々手間取った」
「新手か。なら――――――まずはお前からだッ!!」
ハルバートを手にした少年は標的を鈴ではなく謙吾に変えた。
鈴を無視して美魚だけを連れて行こうとしても、遠距離から魔術を使われたら面倒だとでも判断したのか、それとも男の謙吾の方が個人的ににやりやすいと思ったのか。
「来るなら来い。こちらとて、ようやく釣れた手がかりを逃しはしない」
謙吾は背負っていた剣を右手に取る。
名刀『雨』。
来ヶ谷唯湖の持つイギリスの準神格霊装や、佳奈多の使う双剣『双葉』のように霊装としての能力があるわけでもない普通の刀であるが、謙吾にとってはそれで十分だ。
あくまで剣士である謙吾には、剣そのものに能力を求めてはいない。
剣士を名乗る者にとって信じるべきは自分自身。
武器の性能が必要のない要素とは言えないが、あくまでそれは付属品にすぎない。
そもそも武道とは自分の心を鍛えるもの。
星伽神社の分家の一つの生まれ、魔術を継承してきた一門の宮澤道場の跡取りである謙吾ではあるが、受け継ぐものの本質は魔術ではなく剣術。
星伽の炎の魔術を抑える水の魔術を使うからといって、彼は水の魔術師を自分から名乗ることはない。
「そらッ!」
謙吾の持つ『雨』の刃からしみ出すような形で水が現れ、水をまとった剣が現れた。
謙吾がその状態で一振りすると、水の刃がハルバートを持った少年へと向かっていく。
(躱すなら躱せ。その時に、思いっきりくらわしてやる)
水というものは魔術としては単品ではあまり役に立たない分野であると言える。
炎や雷だとしたら、触れただけで人間は大きな傷を負ってしまう。
対し、水は日常生活で飲料として口にするようなものだ。
単体で触れても大した威力は持たない。
水の魔術と言えば、せいぜい大量の水を出して押しつぶしたり、銃弾のように早く発射することぐらいしか攻撃手段としては使えない。
あくまで水は、操ることによって攻撃手段をようやく得る。
よって、水の魔術とは、水を操る魔術のことを一般的には指す。
だが、謙吾は水を『生み出す』魔術師。
元は星伽神社の星伽巫女たちが炎の魔術により、自身が特別な人間であると錯覚しないようにと戒めとして生み出したピンポイントメタ魔術。
何よりも炎を消すことに特化した水を作り出す。
つまり、聖水の類に近い水を作り出すことができる。
謙吾が生み出す水の刃は切れ味こそ皆無であり、直撃しても服が濡れる程度の切れ味だ。風船を着れるのだって怪しい。だだ、触れただけで力を奪う効果がある。生き物は触れれば触れるだけ力を奪われていくのだ。
(―――――――悪く思うなよ)
水の刃を受け止めようとしたら、水は形を失い降りかかる。
水の刃を躱そうとしたら、その隙に謙吾の剣が迫りくる。
近接戦において、ハルバートという重要武器が剣の速度に追いつけるはずがない。
そうでなくとも剣とハルバートの打ち合いならば謙吾の望むところ。
水の魔術と併用すれば、相手を無力化することくらい容易であるはずだ。
実際、ハルバートを持つ少年は水の刃を見ても気にせず謙吾に向かっていく。
(どう対処するつもりか知らないが、次の一手で決めてやる!)
水の刃は横に振るった。
そのためジャンプして回避するか、それとも何か障害物で受け止める必要がある。
どのみち水に触れた時点で謙吾優位で戦いが進む――――――――はずだった。
「Guard Skill ―――――――――『Distortion』」
水の刃に対して少年が行ったことといえば、特に何もない。
何やらつぶやいて謙吾に向かってそのまま突き進んだだけ。
それだけで、水の刃は少年に当たろうとした瞬間に、空間そのものがねじりまわったかのように変な方向に曲がって拡散していった。
「なッ!」
「そらよ!」
驚く謙吾をよそに、ハルバートが振り下ろされる。
謙吾は一歩踏み込むのをやめ一歩下がるだけでその一撃を回避するものの、ハルバートが刺さった地面には大きな地割れを起こそうとしていた。
(……今のは一体なんだ?水の刃がゆがめられた?俺の水は魔術であってもその威力を弱める。水の規模そのものが変わらなかったことを見るに、水そのものには干渉していないのか?)
まるで空間そのものが歪ませて水を避けたような芸当に、謙吾はもう一度試してみることにした。
『雨』に水をまとわせたままの状態で、ハルバートと打ち合いになる。
一太刀一太刀の速度が違うため、鍔迫り合いの状態へと持っていくことは簡単なことだった。
「剣士としては邪道もいいところだが――――――――お前の魔術、見極めさせてもらうッ!!」
鍔迫り合いの状態から、謙吾は『雨』にまとっていた水を目の前の少年に向けて槍を突き出すように発射した。
こんなものは不意打ちであり、剣で勝負する剣士としては名折れであるが、今は勝負を早く終わらせる必要がある。いざとなれば戻ってこない理樹と真人を追いかけていく必要もあるし、なによりも美魚の安全のためだ。若干の罪悪感とともにこの手を使った謙吾であるが、彼にとって一番大切なのはリトルバスターズの仲間たちだ。彼らを前に、謙吾自身の剣士のプライドなど安いものだ。
「Guard Skill ―――――――――『Distortion』」
「空間そのものをゆがめている……というよりは、自分の近くに力場でも発生させているのか」
「はッ!詳しいことは俺も知らねえよッ!!」
謙吾はこのまま水を放出していても体力の無駄だと判断し、『雨』まとわせる水の生成をやめた。
その瞬間、
「今後はこっちの番だ。Guard Skill ―――――『Over Drive』」
謙吾はハルバートを抑えることができずに、そのまま吹き飛ばされてしまう。
「謙吾!」
「ふん。まさか魔女連隊の『厄水の魔女』が男だったとは思わなかったが、次は仕留める。覚悟するんだな」
「……厄水の魔女?オマエいったい何を言ってるんだ?」
「…………」
言われていることの意味が分からない鈴であったが、謙吾はというと分かったこと―――――というより思い出したことが一つある。自分は今受けた技を見たことがある。この技を使った人間は、かつて自分がピンチに陥った時に理樹とともに天井をぶち抜いて助けにやってきたこのがある人間だ。謙吾は立ち上がり、ハルバートを持つ少年の正体を宣言した。
「お前―――――――――ハートランドの『
「なに、『
もともとリトルバスターズが名古屋にきたのはハートランドのリニューアルオープンイベントに参加するためであるが、予定を早めてハートランドに入ることにしたのは美魚の安全を確保するために『SSS』の力を借りるため。だが『SSS』が美魚を狙っている相手となると、前提が崩れ去る。
「何を分かり切ったことを。このハートランドで勝手しようとする連中が他にいるわけがない。これを見ろ」
ハルバートを持つ少年は肩に着けられているワッペンを謙吾たちに見せつける。
そこには、「rebel against the god」の文字が書かれていた。
「俺たちはゆりっぺのために、命を懸けて戦う戦士。俺たちはゆりっぺを標的にしたオマエラ魔女連隊の手の者を許しはしない」
「ち、違います!棗さんも宮沢さんも東京武偵高校のクラスメイトです!魔女連隊の人ではありません!」
「西園美魚とか言ったな。お前は今記憶が混乱しているはずだ。よって、お前の言葉など今は聞くに値しない」
「そんな……」
「どのみち、ゆりっぺの障害となりうるものは、この俺がすべて叩き潰す!」
話を聞く気が向こうには聞く気がないと判断した謙吾は、人まず相手を倒してから話を聞いた方が早いと判断した。
「俺たちは魔女連隊のものではない。だが、お前がその気ならこちらも黙ってはいない。だが、一つ聞いておく。恭介、またはレキという名に心当たりは?俺たちは以前岩沢という人物に助けられたことがだってある。お前たちの仲間だろう。あと、来ヶ谷や三枝という名前も知らないか」
「聞いたことがあるような、ないような。……まぁいいか。すぐに出てこないってことは大した意味はないはずだ。岩沢がハートランドの人間だっていうことは、誰だって知っていることだし、それがお前たちの潔白の証明にはならない。それに、難しいことは日向や音無にでも考えさせときゃいいんだよ。俺の仕事は、そこの女を連れて行くことのみだ」
「そうか」
共通の知人でもいてくれたらまだ話は早かったのだが、いないことにはどうしようもない。
それに頭を一回冷やさせる必要がありそうだ。
それに、
「野田!加勢に来てやったぜ!」
「藤巻か。ふん、こんな奴ら、俺一人で充分だ」
「そういうな。ゆりっぺのためだ。ここは確実に俺たちで仕留めるぞ。いつも音無ばっかりいいところを見せて若干悔しいんだ」
「おう!俺たちでこの『厄水の魔女』たちを始末するッ!!」
新手として、長ドスを持った少年まで現れた。
様子を見るにこいつも話を聞いてくれそうな感じがない。
「「いくぞッ!!」」
「……蹴り飛ばしていいか?」
「あぁ、このわからずやどもには一度痛い目を見せてやろう」
いい加減じれったくなったのか、鈴は冷たい目で目の前の少年たちを見つめ、謙吾もそれを肯定する。
「鈴。これ以上わからずやが増えるようなら、俺は奥の手の一つを―――――――『花鳥風月』を使う。その時は西園と二人で退避してろ」
「別にいい。もう面倒だ。あたしが自分で蹴り飛ばす」
野田、と呼ばれたハルバートを持つ少年には謙吾が。
藤巻と呼ばれた長ドスを持った少年に対しては鈴が。
それぞれ自分の相手を見据えて、駆けだした。
最初に交差したのは謙吾と野田の二人。
水を飛ばしてもどうにもならないと分かっていても、謙吾にとっては大した問題ではないと判断した。
(水を防いだのは身体の表面に力場でも発生させたからだ。なら、直接峰で当ててやれば一向に問題ない)
謙吾の一撃一撃は、次の攻撃を前提として軽いものを中心とした。
それでも謙吾の剣は、重たい武器で受けきれるようなものではない。
いつかは決定的な隙を生む。
「もらったッ!」
「なめるなッ!Guard Skill『Delay』!」
謙吾の剣が野田の身体に当たる者の、剣は野田の身体をすり抜けた。
野田の身体は謙吾のすぐ横に移動していて、今謙吾が切ったのは魔術によって残っていた残像だったのだ。
「Guard Skill 『Over Drive』ッ!これで貴様の負けだッ!」
ハルバートの最も威力を発揮できる距離にて放たれる一撃は、防御していたとしても打ち砕く斧となる。
たとえ謙吾の力をもってしても受け止めきれないだろう一撃であったが、謙吾は受け止めもしなかった。
――――――パサァ……
防御もせずにハルバートの一撃を受けた瞬間、謙吾の身体は水となり崩れ落ちていった。
「???」
「水面に映る影だよマヌケ」
野田がディレイという魔術で残像を残していたように、謙吾も水面に自分の姿を映す魔術によって相手の隙を生んだのだ。
「しまっ―――――――」
「これで終焉だッ!!」
野田と謙吾の戦いだけでなく、鈴と藤巻の戦いも終わりを迎えようとしていた。
「ええいちょこまかと……」
「うっさい沈め」
棗鈴は葉留佳のように超能力に頼る戦い方はしない。
あくまでも、彼女は堅実に戦う。
謙吾が魔術を受け継ぐ家系出身と言うことで、恭介は魔術を遊びとしていろいろ使うようになったし、鈴だって教えてもらわなかったわけでもない。理樹のような体質上の都合で魔術が使えなかったわけではない。それゆえに、魔術だっていくつかは使える。
だが、魔術には頼るつもりはなかった。
真っ当に戦って普通以上の結果が出せるのなら、わざわざ魔術なんて必要もないのだ。
「そらッ!」
鈴は基本的に臆病だ。だから銃も剣も怖い。
相手が自分に武器があるからといっても、それで恐れがなくなるタイプではない。
ゆえに、棗鈴の戦い方とは、千日手のような几帳面な戦い方となる。
「ッ!」
相手が銃を手にしたなら銃を持つ手をまず蹴り飛ばす。
相手がナイフを手にしたなら、ナイフをまず叩き落す。
感覚を研ぎ澄まし、相手の行動を見て一つ一つ対処する。
そのような堅実な戦いが、鈴の戦いだ。
それゆえに、藤巻はドツボにはまったといえる。
藤巻は右手に長ドスを、左手に銃を持ち、奥の手として『SSS』の魔術『ガードスキル』を使うという器用な戦い方をする。
だが、一度に使えるものは一種類。
銃と剣の同時攻撃を行おうとしてもわずかにずれる。
それなら、一つ一つ鈴は対応していける。
「そこッ!!」
鈴は藤巻の持つ銃を蹴り飛ばし、これで終わりだと駆けだした。
謙吾も鈴も、相手を仕留められると確信した瞬間であったが、その時にカキンッ!という音が響いた。
「――――――ッ!レキ?」
野田を仕留めようとする謙吾の『雨』に、銃弾が当てられたのだ。
それによってわずかにずれた謙吾の剣は、野田の『ガードスキル』を貫けずに空振りに終わった。
そして、鈴の前には
「ハイマキ?」
鈴と藤巻と呼ばれた少年の間を遮るようにしてレキの銀狼が、ハイマキが現れたのだ。
ただし、鈴に向かってハイマキ立っている。
そして、レキの登場とほぼ同時にギターの音が一瞬響き渡ったと思えば、ぎゃああああああという野田と藤巻の悲鳴が聞こえてきた。
「……全く。一体何してるんだか。悪かったなレキ。止めてもらうことになって」
「いいえ。一向にかまわないですよ。それよりももっと早く連絡をつけておくべきでしたね」
「あ、いたいた。鈴ちゃーん!美魚ちゃん!」
その後、美魚の背後から三人の人間が現れる。
「あなたは……」
「えっとお前は確か……アドシアードの時に
「あぁ。あの時はありがとうございました」
「そして、そっちは……鈴か」
「へ?」
「あたしのこと、覚えてるか?」
「え、えっと、あの……」
「……覚えてないなら、いい。別に一緒に遊んだとか、仲良しだったとかそんな関係じゃなかったかさ。でも、明るくなってなによりだ」
「???」
話しかけられても、心当たりなど特になかった鈴であったが、今大切なのは鈴ではなく美魚である。
「えっと、君が美魚でいいのかな?」
「はい。えっと、あなたは……」
レキと小毬の二人と一緒にやってきた人間が名乗る前に、その名前を美魚は知ることになった。
倒れている野田と藤巻をつかむと、オラァアアアアと怒鳴りつけている人物がいたからだ。
「おいテメエラ!なに岩沢さんに迷惑かけ取るんじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「迷惑とは何だ。俺はゆりっぺへの愛に生きる戦士だ。ゆりっぺのためにやったことだ」
「そうだぜユイ。俺たちは日向からの伝言通り、美魚ってやつを無理やりにでも連れて来いという言葉を実行したまでだ」
「オマエラがそんなだからゆりっぺ先輩は一人で旅に出ることにしたんだろうがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「「「……」」」
先ほどまで戦っていた相手だとは思えないくらい緊張感が抜ける会話をしながらも、岩沢は一切気にせずに宣言した。
「あたしの名前は岩沢。ハートランドの守護者である『SSS』のメンバーの一人だ。美魚。君は今、とある理由で魔女連隊に狙われている。私たち『SSS』は、理不尽は決して認めない。だから今起きた行き違いは『SSS』の一員として謝罪する。そのうえで宣言するよ」
彼女が次に言う言葉は、『SSS』の方針をはっきりとするものであった。
「あたしたち『SSS』は、リーダーである仲村ゆりの名に懸けて、全面抗争になってでも魔女連隊から君を守る」