Scarlet Busters!   作:Sepia

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シンクロ次元の民度はもう、さすがシンクロ次元としか言いようがありませんね。
下手すると、民度自体はアカデミアの方がかわいいものだったりして。

それはそうと、エドがエクシーズ次元編で出てくるみたいですね。
これはD-Hero強化が来るか!?
OCGではDではなくE-Heroがまた強くなりそうとは思っているけどここは思ってないといっておきます、はい。


Mission104 吸血鬼の眷属

 

 そいつは突然現れた。

 三枝葉平にとっては、満身創痍の葉留佳を仕留めるには彼女一体何をしようと何も変わらないはずだった。

 たとえ葉留佳がナイフを持って差し違えるつもりでいたとしても、彼女では自分を殺すことはできないだろうという自信が葉平にはあったのだ。

 

 だが。

 

 三枝葉平が直観的に感じている感情は勝ったという確信ではなく、早く逃げろというアラームにも似た危機感でしかなかった。

 

「――――――――ッ!!」

 

 このままでは殺される。いいから身体を動かせ。

 意識ではそう思っていても、身体は言うことが聞かなかった。

 勿論葉平の身体自体は今も動いている。全く動けていないなんてことはない。

 いやむしろ、彼の身体は今、早く動き過ぎていた。

 

 テレポートという超能力は、こと戦闘においては間違いなく最強の超能力の一つであろう。

 だが無敵というわけではない。

 本人の耐久力は普通の人間となんら変わらないということもあるが、実というと欠点は他にもある。

 それは、亜音速にも勝る速度に身体と意識が普通はついて行くことができないということだ。

 三枝一族の超能力は、元々体質ありきで生まれた超能力ともいえるため、三枝一族の人間は大抵高速戦闘に身体と意識がついて行く。でもそれは、あくまでその他の人間と比較した場合優れていると言える、という程度のものでしかないのだ。科学的に証明されているわけでもなんてもなく、完全に克服しているわけでもないのだ。

 

 事実、三枝一族の超能力者(ステルス)といえど、完全に身体がついていけているわけではなかった。

 葉留佳のように空間を飛び越えるタイプのテレポーターの場合、一瞬にして見えている景色がガラリと変わるため、彼女をもってしても超能力を乱発すると酔ってしまう。葉平のように高速移動を極めて一瞬で遠距離を移動するようなタイプの場合、意識よりも先に距離を詰めてしまうことがある。勿論三枝一族のような特異な体質を持っていなかったら、自分の好きな場所で止まることなどできずに走り続け、どこかの壁にでもぶつかってしまうだなんてマヌケな状況が起きてしまうだろう。それでも、テレポーターはどのタイプであろうとも、超能力の発動直後は著しく変化する周囲の状況についていけないのだ。

 

 だから、実を言うとテレポーターはカウンターに弱かったりする。

 

 自動車を運転していたり、自転車に乗っているときは見えている景色が全然違うのと同じだ。

 スポーツだって、動体視力は普段の視力とは全く別のものとして扱われていることからも分かるだろう。

 テレポーターはその速度故に能力発動直後の空間把握能力がどうしても落ちてしまうため、立ち止まっているときならなんてこともないものですらも認識しずらくなっている。つまり、テレポーターは超能力の発動中こそが最大の弱点となる時間帯ともいえるだろう。もちろんそんなものはコンマ数秒の、普通ならだれにも認識できない時間に過ぎない。

 

 だが、その瞬間に割り込めるような人間がいたら?

 銃弾なんて、簡単に見切り弾きとばすような人間が相手だとしたら?

 

 それは、テレポーターにとっては間違いなく相手にしたくない人間であることは間違いないだろう。

 事実、葉留佳と入れ替わるようにして現れたそいつを前に、葉平は今更高速移動(テレポート)を止めることなどできなかった。

 コンマ数秒の世界において、そいつは葉留佳ではないと直観的に悟ることぐらいしかできなかった。

 

「…………」

 

 そいつは、葉平とは違い、立っている場所から一歩も動かない。

 それはそうだろう。彼女はわざわざ動かなくていいのだ。

 彼女がその場から一歩も動かずとも、向こうが勝手に亜音速で突っ込んできてくれる。

 

「―――――――――『青葉(あおば)』」

 

 取り出した、というよりは出現させたともいうべき形で一瞬にして一本の小太刀を取り出したそいつは、カウンター気味に葉平の心臓部へと小太刀を突き刺したのだ。

 

「――――――――――ガハッ!?」

 

 葉平は自分が刺された、という認識をするよりも先に、痛みが全身に回る方が早かった。亜音速で刃が突き立てられたこともあり意識が飛びかけ足元がふらつくが、その隙を見逃すほど小太刀を握りしめた少女は優しくはなかった。彼女は小太刀を手放すとすぐに身体を一回転させ、遠心力をつけて全力で釘をハンマーか何かで打ち付けるかのようにして、葉平に刺さっている小太刀の柄頭を葉平ごと蹴り飛ばした。

 

 心臓を貫かれたのだ。

 ブラドみたいな吸血鬼ならともかく、まともな人間ならまず生きてはいまい。

 葉平を殺したことになるのだろぷが、かといって彼女は何か言うこともなくただ倒れ伏した親族の男を見下ろしていた。

 

「…………かなた、お姉ちゃん?」

 

 静かに倒れ伏した男を見下ろしているのが一体誰なのか、葉留佳はわざわざ確認するまでもないことであった。けど、風紀と書かれたクリムゾンレッドの腕章をつけているその少女が今どんなことを考えているのかなんて葉留佳には全く分からなかった。葉留佳に分からないことはそればかりではない。むしろ分からないことばかりだ。昔は分かることといえば最愛の姉のことばかりであったはずなのに、今は佳奈多のことは全くといっていいほど分からない。

 

 今だってそうだ。

 今の葉平の高速移動(テレポート)で、自分は死んだと思ったのだ。

 さっきまで高速移動(テレポート)を認識すると葉留佳自身の超能力が勝手に起動していたから、また勝手に起動したのかとも思ったら、少し後方へと転移していた。そして、自分は助けられたのだと気づくのに、もうしばらくかかってしまった。

 

「あ、あの……わたし……わたし、かなたに……」

 

 言いたいことがある。聞きたいことがある。どうしても確かめておきたいことがある。

 なのに、具体的な言葉が全く出てこない。

 似たようなことが前にもあった。

 かなたが親族たちを殺したあの夜、わたしはかなたが何を考えているのか全く分からなかった。

 今だってそうだ。

 背中を向けているかなたは、一体どんな表情をしているのだろう。

 その答えがすぐに出てくる。考えるより先にかなたがこちらに振り向いたのだ。

 そして、その表情を見て、わたしの息は止まってしまう。

 

(……かなた、お姉ちゃんッ!)

 

 かなたは。

 一目で見て分かるほど――――――――――――ほっとしたように息を吐いたのだ。

 

 あなたが生きていてよかった。

 

 決して口には出さないが、かなたがそう思っていると葉留佳は感じると同時、葉平が言っていたことがすべて、本当のことであったのだと悟る。あの夜、親族たちを殺したのも、その後イ・ウーに身を置いたのも。そのすべてが、私を死なせないためにやったことなのだろうと、葉留佳は理解してしまった。

 

「かな――――――――――かなたッ!!」

 

 なんて言ったらいいのだろうか余計に分からなくなっていた時、葉留佳は見てしまう。

 心臓部を小太刀で貫かれたはずの葉平が、小太刀を引き抜いて佳奈多にすぐそばまで迫っていたのだ。

 それも、高速移動(テレポート)を使用してのことだから、コンマ数秒のことだったはずだ。

 

 でも、葉留佳の方を向いたままの佳奈多は、すぐ後ろまで迫っていた葉平を振り向きもせずに、特別変わったことなど何もないように再びカウンター気味に蹴り飛ばした。葉平は十メートルは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

「……さすが最年少で公安0に入っただけのことはあるな、佳奈多。相変わらず容赦がない」

「お久しぶりです、叔父様。少しお聞きしたいのですが……どうして生きていらっしゃるのですか?最初の一太刀で()ったと思っていたのですが」

 

 葉平の心臓部からは今もドクドクと血が流れ落ちたままだ。

 だが、数秒として時間が過ぎると傷がふさがっていく。

 

「なッ!」

 

 葉留佳はその光景を見て、葉平がもはや人間ではない得体のしれない化け物のように思えてならなかった。そういえばさっきもそうだった。葉留佳の『空間転移(テレポート)』で三十メートルは上空から地面へとたたきつけられて、死ななかったばかりか傷も完全に修復していた。

 

「これも佳奈多、お前を殺すために手に入れた能力(ちから)だよ。お前は一族を暗殺した。まともに戦ったわけではない。お前と殺すために必要なものは、三枝一族唯一の弱点である耐久力を改善することだ。そうだろう?」

「……吸血鬼の力か」

「そうだ。お前を殺す。そのための力を手に入れる。ただそれだけために、俺は吸血鬼(ブラド)の眷属となったのだッ!!」

 

 葉平がそういうと同時、彼の身体の筋肉が膨れ上がる。そして、彼の口には大きな牙が生え、爪は刃のように鋭い形へと伸びていった。

 

「ひッ!」

 

 正真正銘の化け物と化した葉平を前に、葉留佳は震えが止まらない。もともと葉留佳は親族たちに虐待同然で育った身だ。過去のトラウマは、普通と向き合っているだけでも彼女を襲い掛かっていた。佳奈多への愛情や、親族たちへの怒りでそれを今まで抑え込んでいたが、一回それが外れてしまえば恐怖は心の底から留まることなく湧き出してくる。どれだけ自分に大丈夫だと言い聞かせても、もはや葉留佳に迫りくる恐怖にあらがうすべなどなかった。

 

「これが、この姿こそが人類が到達できる能力の完成形。銃弾にも勝る速度、何もされても回復する身体、そして……」

 

 葉平は佳奈多に突き立てられた小太刀を両手でつかむと、バキッ!と力任せに叩き折った。

 

「この、金属すら粉砕する圧倒的な力。佳奈多、この時を待っていた。お前を殺す、この時を」

「か、かなた!」

 

 剣を素手で折るような怪物を前に、葉留佳はもう戦うような意思はなかった。

 こんな怪物にはどうやったって敵いっこない。今すぐここから一緒に逃げよう。

 それから、ずっとどこかで身を潜めて一緒に生きていこう。

 そんなことを葉留佳は思ったのだ。

 きっと不自由なことはたくさんあるだろうけど、佳奈多がいてくれるならもう何もいらない。

 何も私は望まない。

 だから、一緒に逃げよう。

 

 そう言おうとしていた葉留佳とは対照的に、佳奈多は怪物と化した葉平を前に眉一つとして動かさなかった。葉平からは決して目を離しはしなかったが、それでも葉平を無視して葉留佳に彼女は伝えた。

 

「葉留佳。そこを動かないで」

「え?」

「心配しなくていいわ」

 

 佳奈多は本物の怪物と化した人間と前にしても何一つとして気負うこともなく、淡々と述べた。

 

「すぐ、終わるから」

 

 

         ●

 

 無限罪のブラド。

 こいつを倒すには、四つある魔臓を破壊する必要がある。

 しかも魔臓は魔術的な相互作用の修復効果があるため、同時に破壊しなければ意味がない。

 理樹の右手で一つは完全に破壊できたから、残りの魔臓はあと三つ。

 四つならともかく、三つならば二人いるだけでもまだ何とかなるレベルだ。

 

 実際、四つすべての魔臓を粉砕し、あのブラドを倒したと思い心の底から安心したからこそ、理子の絶望は大きかった。

 

「あぁ……あ……あ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「理子さん……理子さん……ッ!!」

 

 理子の隣にいる理樹が必死に呼びかけているが、満身創痍で言葉にならない悲鳴を上げている理子に届いているとは思えなかった。

 

「直枝!理子を連れて逃げろッ!ここは俺がやるッ!」

「キンジ!でも、一体どうするの!あいつにはもう銃弾なんて効かないのよッ!」

「そんなことは分かっている!けど、やるしかないんだよッ!」

 

 どうしたらいいのか分からないのは理子だけではない。正直ヒステリアモードのキンジでもそうだった。理屈は分からないが、今のブラドは体中が金属のように硬質化している。さっきだって、キンジの銃弾はブラドの舌すら撃ち抜けずに弾き飛ばされたのだ。

 

(いざとなったら、体当たりでもなんでもしてあいつをこのランドマークタワーから一緒に飛び降りてさせてやるッ!)

 

 勝算があるとしたら、理樹の右手の能力だろう。

 ただ、それには理樹が一度づつブラドの魔臓に触れる必要があるが、それができるとは思わなかった。

 ブラドとしても、魔臓をもう一つ失うこととなろうとも、ブラドは理樹さえ始末できれば敗北は絶対にない。

 下手な援護では理樹の行動の邪魔になるだけで、ブラドは気にも留めないだろう。

 実際、ブラドは勝ちを確信したのかすぐには行動せず、理子をあざ笑うだけであった。

 

「ははは。無様だな四世。お前は結局、どうしようもない失敗作だ。そんな奴は、希望を持ったのがそもそもの間違いなんだよぉ。そう、遺伝で最初から決まっているんだからなぁ!」

「遺伝遺伝とうるさいやつね!あたしはあの子と戦ったから分かるの!あの子は本当に強い子よ!理子に本当に何の遺伝もなかったというのなら、それはあの子が生きた、まぎれもない証拠よブラド!」

「それは、欠陥品だからこそそう感じるのだろう?だが……お前の場合、遠山という欠陥を補うためのパートナーがいる。ホームズ家の人間が誰かと二人組の時は警戒しろ、と聞いたことがある以上、まずはお前から始末しようか、遠山キンジ」

 

 ぎろッ、と黄金の双眸(そうぼう)がキンジをとらえ、

 

「ワラキアの魔笛まてきに酔え―――――――――!」

 

 ブラドは大きく、大きく身体をソラし、ずおおおおおおおッと巨大なジェットマシンのような音と主に空気を吸い込み始める。ブラドの胸がバルーンのように膨らむという光景に、誰もが動けずにいた。

 

  ビャアアアアアアアアアウヴィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイ――――――――――――――――ッ!!

 

 怪物の、咆哮。

 それはランドマークタワー全体を振動させるばかりか、低く垂れこめた雨雲の一部すら砕くほどの大音声であった。しかもそれはキンジたちの服が風ではなく音でパタパタと揺れてしまうほどのもの。ケースの中で振られたプリンのようにキンジの脳みそはぐらぐらし、全身の血液がかき回されているのが感じ取れた。一応鼓膜が破れないようにと耳をふさぎ、眼球が飛び出さないようにと瞼を閉じて、ショックで転倒しないようにと踏ん張ってはいるが、キンジはあることに気づく。

 

(……萎えて、しまっているッ!)

 

 キンジの生命線ともいえる切り札、ヒステリアモードが、解除されてしまっているのだ。

 きっとブラドはヒステリアモードを自分のもとにしてから、解除する方法についても発見したのだろう。

 だから、ブラドはキンジのヒステリアモードが解除されていることに気づいたのか、キンジを見てにやりと笑う。

 

 こうなってしまっては、キンジにはもはや打つ手がない。

 本格的に理樹の右手の能力にすべての望みをかけるしかないわけだが、肝心の理樹はといえば、理子のそばから動けずにいた。別に理樹が怖気づいたのではない。理樹の右手を握りしめている理子が、その手を放そうとしないのだ。

 

「……理子さん。この手を放して」

「ダメ……ダメだよ。そしたら理樹くん行っちゃう……理樹くん殺されちゃう……もともと理樹くん何の関係もなかったのに、理子のせいで理樹くん死んじゃうよ……みんなみんな、理子のせいでいなくなっちゃう」

「でも、何もしなくてもこのままでみんな死んでしまうよ?遠山君もアリアさんも、三枝さんだってどうなったのか分からない」

「でも、ダメ。言っちゃダメッ!いかないで!あたしを一人にしないでよ!」

 

 希望が完全に砕かれたからなのか、理子は今パニックに陥っている。

 普段の理子ならまずこんなことは言わないだろう。

 弱音を他人には吐いたりしないというものあるし、何より言っていることがちぐはぐなんてことはありえない。

 そうなってしまったのは、それだけ理子にとってブラドが恐怖そのものにも等しいということだ。

 そもそも理子は一度砕かれてしまえば二度ど立ち上がれないような勇気とともに立ち上がったようなものだった。そして今、なけなしの勇気で振り絞った希望が砕かれた以上、こうなってしまったのは誰が責められようか。そして、先ほどのブラドの咆哮だ。大声はそれだけで相手を威圧する。ただでさえブラドにおびえている理子が、心が折られても仕方のないことだ。それでも理樹としては、理子が手を放してくれないことにはどうしようもなかった。だから、決めた。

 

「ごめんね、理子さん」

 

 それが一体何に対する謝罪なのか、理子は分からない。

 それでも自己嫌悪の言葉が次々と心の底から湧き上がってきては理子の口に出てきていた。

 けど、それも理子の意思とは関係なく、ふさがれることになる。

 

「へ?何言ってるの理樹くん。どうせブラドには最初から勝てなかったんだよ。あたしなんてどうせ何をやってもダメだって最初から―――――――――ッ!!」

 

 だって。

 理子の口が、理樹の口によって無理やりふさがれてしまったのだから。

 

「……え?」

「落ち着いた?いい、理子さん。よく聞いて」

 

 起きた出来事に対し、理子は今置かれている状況を忘れてしまうほど放心してしまう。

 それは理樹の作戦でもあった。

 パニックに陥っている理子を正気に戻すには、彼女によほどのことをしなければならないと思った。

 これくらいのことでもしないと、理子が手を放してくれないと思った。

 

 ―――――――本当に、それだけ?

 

 この行動にどんな思いがあったのか、理樹本人とて分からない。

 別にこんなことはしなくてもよかったような気はする。

 理子が嫌がったとしても、無理やり理子の手を振り払うことだってできたかもしれない。

 それに、これが今生の別れになるだなんてことも思わない。

 

 だって、理樹自身、ブラドに負けたとは微塵も思ってはいないのだから。

 

 それでも、理子に伝えておきたいことがあった。見せてあげたいものがあった。

 かつて自分が救われたように、君は一人じゃないんだと教えてあげたかった。

 理子の全く知らないところで、ブラドに勝ちました、ですべてを終わらせたくはなかったのだ。

 こんなこと、理子本人に伝えたら馬鹿にされても仕方ないと思う。

 結局自分のエゴのようなものにだって思う。それでも言いたいことは、伝えたいことは言っておこう。

 

「理子さん。君は強い。僕よりも、ずっと強い。けど、強いからこそ分からなかったんだ」

 

 理樹は自分が優秀な人間だとは微塵も思っていない。

 ヒーローに憧れていないとなれば嘘になる。ヒーローになりたいとも思っている。

 けど、今の自分はヒーローでもなんでもなく、ただの弱い一人の人間に過ぎないのだとも思っていた。

 自分にできることはきっと、他の誰かにだってできることなのだろう。

 右手には固有の能力が宿っているけど、そんなものがあるから優れているだなんて言いたくはない。

 そんな、何の努力もなしにいつの間にか持っていただけのものをオンリーワンのアイデンティティにしたくない。

 

「僕ら一人一人の力なんて大したことはない。一人ではつらいから、寂しいから。だから誰かと二つの手をつなぐし、それでもまださみしいからみんなで輪になって手をつないだりもする」

 

 そういう理樹の瞳には、希望が満ち溢れていた。

 

「そうして出来上がったのが、僕たちリトルバスターズだッ!ブラドッ!お前は自分の自分の力を過信し、僕のような他愛もない人間相手に遊び過ぎた、時間をかけすぎた。それがお前の敗因だッ!」

「一体何を言っている。たとえお前たちが力を合わせたところで、どうにもならないことはわかりきっているだろうに」

 

 ブラドから侮蔑の視線を受けてもなお、理樹は全く動じることはない。

 むしろ今の状況を前にして、先ほどよりも生き生きととしてきたぐらいだ。

 そう。まるで理樹は、自分たちの勝ちを確信しているかのようであった。

 

「理子さん。そういえば、さっき君の名前を聞いたけど、僕ら(・・)は名乗っていなかったね」

 

 理樹はブラドを前にして、宣言する。

 

僕ら(・・)は、リトルバスターズだ!」

 

 僕ら。

 その言葉に含まれている人間が、キンジたちではないとブラドは悟った。

 事実、理樹はブラドの方向を見ているようでを見てはいなかった。

 理樹が見ていたのは、ブラドの後ろに来ていた新たな乱入者であった。

 

「誰だ?」

 

 こいつこそが理樹の自信の源なのだろう。

 ブラドはそう判断し、とりあえず聞いておくことにした。

 すると、そいつは何一つとして隠すことなく言い切った。

 

 

「リトルバスターズリーダー、棗恭介。さぁ、満足させくれよ」

 

 




年末のターンエンドから二話しか立っていないのに随分と状況が好転した気がします。
葉留佳サイドも理子サイドも援軍が一人登場しただけで、戦闘なんてほとんどやってないのに!

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