【完結】深紅の協奏曲 ~ディアボロが幻想入り~【IF投稿中】   作:みりん@はーめるん

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―Ⅱと二と7で奏でる輪舞曲 2―

「ふーん、外の世界から来た人ねぇ。なるほど、凡夫だわ」

「ちょっと霊夢、そういう言い方はないんじゃない?」

「でも実際そうじゃない。おっとりしてて、なーんか特徴ない感じ」

「うーん……そういわれても僕はあまり否定できないかな。ここの人たちと比べれば随分おとなしいと思うもの。もっとも、これくらいが外では普通なんだからね」

「そうですね。私の周りの男子もそんな感じだったと思います。んー、いわゆる草食系男子といいますか」

「僧職系?」

「霊夢さん、違います。私たちは神職系です」

 

『戦いを終えた後は、後腐れなく杯を交わす。これも幻想郷の常識。楽しく騒げればそれでいいじゃない?』

 自分が負け、さらにそれは二人がかりと罠という卑怯とも思われる手段でありながらも、霊夢は特に気にした様子を見せずにそう言いのけた。

 直接対峙した早苗、罠を仕掛けたアリス。そして観客であり、来客でもあるドッピオ。皆を本殿へ誘い、茶を勧めた。

 痛みもあるだろうし、勝負の熱っぽさから禍根もありそうなものなのだが。

 ドッピオはそうも感じたが、アリスがドッピオのために作業をしていることを見ると早苗は率先して霊夢の茶の用意を手伝いに行った。

 その様子だけを見れば、先まで戦っていた敵同士とは思えない。聖が言っていたスポーツ感覚というのも、目の当たりにすれば納得はいく。

 

「ま、そんな普通の人がすぐに居着けてよかったわ。もしどこかで倒れてしまったのなら寝覚めが悪いもの」

「あら、霊夢が人の心配するなんて珍しいわね。雨でも降らしたいならパチュリーに頼んだ方が早いんじゃない?」

「倒した妖怪を退治しなくちゃいけないでしょ? 眠るのが遅くなれば起きるのも遅くなっちゃうじゃない」

「外の人の前でそんな物騒な話やめてくださいよ。霊夢さんは仮にも一応管理者なんですから。自覚が足りないとはよく言ったものです」

「……まあ、今のところ危険な所には行っていないし、危険な時間には動いてないからね。僕には幻想郷が危険な場所もあるとはとても思えないよ」

 

 お茶を飲みながら他愛ない話を弾ませ、お茶請けである煎餅を齧る。

 霊夢達との対話を楽しんでいると、会話に入りながらも手を休めていなかったアリスが顔を上げる。

 

「できたわ。うん。……うん、上出来!」

 

 アリスの手の中には、先ほどまでは確かに少女を模した人形だったものが、今は手のひら大の大きさにデフォルメされた、ドッピオの姿を模した人形となっていた。

 前の人形と等身こそは変わっていないが、傍から見れば元は少女人形だったとは思わないだろう。

 顔のそばかす、特徴ある前髪、胸と腹部の見える衣服。まさしく本人であるだろうと思えるほど精巧に作られていた。

 人形は二体作られ、そのうちの一つをドッピオに手渡す。

 

「ドッピオ。あなたの霊性や魔力量、人間性に合わせて調整してあるわ。これを使えばどこでだってあなたの声を届けることができる。このアリス・マーガトロイド。自信の傑作よ」

「ありがとう。助かるよ。へぇ、見れば見るほどそっくりだ。ホント、上手なんだね」

「わぁ、かわいい! アリスさんって、本当何でもできますよね! 前作ってもらった諏訪子様のお人形もケロちゃんみたいで可愛いし」

「ほー、よくできてるわね」

 

 その姿が公開され、思い思いの感想を述べる。

 デフォルメされているとはいえ自分の姿をした人形を褒められていることに、すこし恥ずかしさを覚えながらドッピオはその人形を見つめる。

 

「で、どうするのそんなの」

 

 霊夢が何も知らないからこそ当然ともいえる言葉を口に出す。

 事情を聴いていたのはアリスだけであり、霊夢と早苗はその間弾幕ごっこを興じていたため、詳しい内容を知らない。

 

「僕はいつでも連絡を取れる状況にしておきたい人がいてね。あちら側は連絡できる状態ではあるんだけど、僕の方が何も持っていなかったからできなくって」

「ふーん」

 

 特に怪しまれないように。それでも疑われないように。

 自然と身についているその隠匿は、ここでも平然と行われる。

 何も知らないドッピオは、ボスの事を伝えずに目的を話した。

 

「さっそくだけど、かけてみてもいいかい?」

「性能テストは当然ね。基本構造は魔理沙に渡したのと同じだから問題ないと思うわ」

 

 アリスの言葉を受け、ドッピオは自分を模した人形を耳元に寄せる。

 

「そういえばさ、私も紫からそんなんもらったけどどういう構造なの、それ」

「私が解析した限りでは自分と同一に近しい存在に音声・映像を送受・共有しているシステムみたいね。あの人形はただの人形じゃなくて、限りなくドッピオに近いものなの。

 ほら、藁人形あるじゃない? あれと同じようなものよ。あれも藁人形に相手の情報の一部を埋め込んで相手と共有させ、そこに打ち込んだ想いを同調させる。

 それを人形同士で行わせているわけね。ドッピオに直接通じていないのはさっきも言った通り、ドッピオに近い、けれどドッピオではない物だから。

 糸を介して情報を伝えるのは私でもできるし、藁人形の呪いの儀式のように手筈を踏めば何の力もない者でも行えるけど。

 ちなみに、それらの力の原動力はドッピオからもらっているわ。さっきの調整はそのためね。誰からでもその原動力の収取ができれば汎用性はさらに高まるのだけれど。

 ……悔しいけど、私一人じゃここまでできないからね。できなくはないけど、ポンと出すことなんてできない」

「なるほど、わからん。よくわからないけどその割には簡単にできたわね? あと、人形攻撃したらドッピオに攻撃したってことになるの?」

「まあ、それは元々あるものを改変するだけだったからね。ゼロから作るのは難しいけど、複製体なら難しくはない。

 後者はね、藁人形に声をかけても相手に声は届かないでしょ? あちらは感覚の共有。こちらは音声と映像だけね」

「とぅるるるるるるるるるるるん」

「なるほど……携帯電話がなくてもそういうものがあるんですね。これはもう河童の技術もいらないんじゃないですかね」

『とぅるるるるるるるるるるるん』

「それとこれは技術体系がそもそも違うから。私もよくわからないままで言うのもあれだけど。……ドッピオ?」

 

 テストをしているドッピオをよそに会話を始めていた三人の言葉が止み、視線が一つに集中する。

 そこには、人形を耳に当て、通話を試みているドッピオがいる。

 傍から見れば奇妙なその声と共に。

 

「とぅるるるるるるるるるるるん」

『とぅるるるるるるるるるるるん』

 

 ドッピオが通話音を発すると共に、アリスの傍らに置いてある人形からドッピオの声がする。

 

「とぅるるるるるるるるるるるん」

『とぅるるるるるるるるるるるん』

「と、とぅるるんるるんるるるるん、?」

 

 ドッピオが通話音を発するのを、何故か早苗は真似る。

 

「とぅるるるるるるるるるるるん」

『とぅるるるるるるるるるるるん』

「……え、何。なんなのこれ」

 

 ドッピオが通話音を発して、霊夢はそれを訝しげに見つめる。

 

「とぅるるるるるるるるるるるん」

『とぅるるるるるるるるるるるん』

「「「…………」」」

 

 三人は皆、その光景を何も言わずに見つめていた。何も言えずに見つめていた。

 

「とぅるるるるるるるるるるるん、ぶつっ」

『とぅるるるるるるるるるるるん、ぶつっ』

 

 六度目の通話音を発した後、ドッピオは人形を耳から離し笑みを浮かべながらアリスの方へ向く。

 

「こりゃすごいよ。音もクリアだし、通信状態もしっかりしている。申し訳ないけど僕たちが使っている電話の方がすごいと思っていたけどその考えを改めなきゃいけない。

 ありがとう、アリス!」

「……え、あ、まあ」

 

 アリスはその笑顔に対して、やや引きつりながらも平静を保とうとしていたが、どうしても先の違和感を拭いきれない。

 

「今はあちら側が留守なのか取れないのか、出なかったけど。まあいつもは忙しい人だからね。今の着信でこちらがいつでも電話できるようになったことが伝わってればいいんだけど」

「ああ、うん。たぶん伝わってるわよ。なんでかわからないけどきっとそう」

 

 霊夢もうれしそうなドッピオの姿を見るが、何がどううれしくなったのかよく理解できないといった表情を浮かべる。

 

「ところで、さっきのあれなんですか?」

 

 真顔で早苗はその疑問をぶつけた。その質問に対しドッピオは

 

「え?」

 

 と不思議そうな顔を上げる。

 無理もない。彼からすれば『特に変わりのないこと』であるから。

 

「さっきのとぅるるるるるんって。ただ声をかけるだけで通ってるみたいですよ? こちらのお人形からもとぅるるんとぅるるん聞こえましたし。

 テストのパフォーマンスだからって、そこまで大仰にやらなくても」

「……?? ああ、まあわかったよ。次からはもう少し小さくやるね」

「そういう意味じゃあなくって。声量じゃなくてコール音の真似の事ですってば」

「変かな? 電話をかけてるんだからコール音くらいするじゃないか」

「しませんよ!!」

 

 要領を得ないドッピオの発言に、早苗は大声を上げて返す。

 

「電話口の方からとぅるるるんって音が鳴るのは普通に認めますけど自分の口でそんなこと言う人なんていませんでしたよ!! てかそれ電話じゃないですからいらないでしょう!?

 私の電話からそんな声がしたら気持ち悪くて切っちゃいますよ! 許されませんよ!!」

「ちょ、ちょ、待って、何に怒ってるの!?」

「変なことを変って言って何が悪いんですか!」

「落ち着きなさいよ、早苗。別に個人のやり方なんだからどうでもいいでしょう? 私もおかしいとは思うけど」

「そーよ。別に誰かに迷惑かけてるわけじゃあないんだから。紫とかがあんな風に使ったら鬼縛陣だけど」

 

 怒る早苗に対して、霊夢とアリスの二人が抑える。

 ドッピオは未だに何に対して怒っているのかはわからず、早苗も「二人がそういうなら……」と折れる。

 まだ不服そうではあるが、霊夢の「誰かに迷惑かけてるわけじゃあない」という言葉が、彼女を留めたようだ。

 

「……なんだかんだで。しっかり通話はできてるみたいだから問題はないわ。これ二つ、あなたに渡しておくから。その話したい人に渡しておけばいつでも話はできるわ」

「どうもありがとう。……ところで、これ元は魔理沙とアリスが会話するためのものだったんだろう? 今更言うのもなんだけど、もらっちゃっていいのかい?」

「あいつに渡してたらうるさいままだったから最近では使わなかったし、返してもらいたくなったらそのまま返してもらうわ。

 もしくは、紫からもらったオリジナルは手元にもあるし、また一から作り直すのも手だしね」

「わかった。ありがとう」

 

 

 

 外を見ると日はすっかり傾いており、空からは暗闇が差し込み山の合間から僅かな夕日が見えるのみとなっていた。

 

「話し込んでたらもうこんなに暗くなっちゃいましたね。そろそろ帰らないと神奈子様に怒られちゃう」

「そーね。こんなに暗くなったら神社も閉店の時間よ。帰れるやつはさっさと帰りなさい」

「まあこれ以上ここにいる理由もないしね。早苗、あの話は帰りながらでもいいかしら? 最悪、守矢神社で厄介になるかもしれないけど」

「二柱とも話さないと少しこんがらがりそうですからね。それは構いませんよ」

「ドッピオ、あなたはどうするの?」

 

 早苗とアリスはそのまま帰宅する話をしている。

 対してドッピオは少し考える時間になってしまった。

 幻想郷では夜は危険である。なぜなら妖怪の時間だから。もし帰れるなら命蓮寺に帰ってくればいいけど、帰れなさそうなら神社に泊めてもらいなさい。

 人里を発つ前に一輪が伝えてくれたことだ。

 ……が、短い時間だがここで過ごしていて、少し気になることがあった。

 

「えーっと、唐突に聞くけどさ。ここの神社って、君以外に誰かいないの?」

「? 私一人だけど」

 

 霊夢一人。

 それを考えると、二人で過ごすのはすごく気恥ずかしい気もする。

 

「それがどうかしたの?」

「ああ、そのう」

 

 しどろもどろするドッピオを見て、早苗は唇の端を吊り上げ、顔を歪ませる。

 

「ああ、なるほど。良かったですね霊夢さん。あなたのような人でもそういう風に思ってくれる人がいて」

「は?」

「いや、そういう意味じゃないよ!」

 

 早苗の指摘に霊夢は理解不能といった表情を浮かべるが、その指摘をされ、ドッピオは逆に慌て始める。

 

「違うんですか? そのキョドり方からてっきりそういう意味かと思ったんですけど」

「全然そういうのないから!」

「その焦り具合から特定余裕ですね。話には聞いていたけど霊夢さんってあんまり浮いた話が上がらなかったので。これを機に霊夢さんにも彩りある暮らしが生まれるといいですね」

「ちょっと! その既成事実を作ろうと僕が行動しているような仮定はやめてくれ!」

「一体何の話をしようとしてるのよあんたら」

 

 勝手に霊夢を中心にして盛り上がる二人に、渦中の人物が割って入る。

 普段は気にはしないものの、先の会話で意識が集中してしまい、彼女を見るドッピオの顔は、少し赤みが差している。

 同じくらいの年齢、普段見ない異国の姿。自国と違う丸みを帯びた雰囲気。

 ここに来てから騒ぎが続いたために落ち着いて見られなかったが、意識してみると彼女は女性としては非常に高水準である。つまりかわいいのだ。

 もちろんそれはここで今まであった者たちも同じなのだが、二人きりで泊まろうとすること、そしてそれを囃し立てることによって尚更彼女にとってのその意識が集中される。

 

「霊夢さん、力の無い外来人の方を夜中にほっぽり出しますか?」

「しないわね」

「じゃあそんな外来人さんは安全に帰る当てが無い。どうしますか?」

「まあ、家に泊めるわね」

 

 早苗の質問に対し、霊夢は淡々と答える。そして、ある程度早苗の予想どうりの答えが返ってきているのか、にんまりと微笑みながら次の質問に移る。

 

「それが同じくらいの男の子でも?」

「何かそれが関係あるの?」

「あなたのことが少なからずと好意的に解釈している男の子でも?」

「別に気にしないけど」

「……今目の前にいる男でも?」

「一人で帰らせるわけにはいかないでしょうが」

 

 本心から『心底気にしていない』というのが感じ取れるほどに、表情も言葉の調子も変えずに答える。

 

「(……僕の考えすぎかなぁ。というよりは、もしかしたらあっちはこういった出来事に慣れきってるのかもしれない)」

 

 その様子にドッピオは自分が馬鹿みたいに気にしていることを考え直す。

 が、あまりに気にしない霊夢の様を見た早苗は、

 

「……草食系女子」

「肉くらいたまには食べるわよ!!」

 

 うろんげな目線をしながらぽつりと蔑みの言葉を呟くことくらいしかできなかった。

 

「早苗、霊夢なんて元々そんな奴よ。いつまでも相手にしていないでそろそろ帰りましょう」

「そうします」

「なんか言い方が気に入らないから、次はもっといい物持ってきてね」

「はいはい」

 

 本殿前まで二人を見送る。

 アリスと早苗は別れの言葉を告げると、自然に飛翔して西の方へ帰ってゆく。

 ドッピオと霊夢でそれを見送ると、再び中へ入っていく。

 

「んで、泊まってくんでしょ?」

「え、ああ。お願いしてもいいかな」

「構わないわ。実際いろいろ泊まっていくし、中には勝手に泊まって寝ていく奴もいるくらいだから。そういったことしないだけ、あなた達の方がマシよ」

 

 ね? と霊夢はドッピオに相槌を求める。

 

「宿泊施設じゃあないんだしね。そんな勝手なことはできないよ」

「外の人はまともで助かるわー。とりあえずごはんの準備してくるから、さっきの所で待ってて」

「あ、何か手伝おうか?」

「お客さんにそんなことはさせられないわ。大丈夫だから座っててね。……あ、嫌いなものがあってもちゃんと食べてね。捨てるのもったいないから」

 

 そう告げると、霊夢は台所へ向かっていく。

 その言葉に甘え、ドッピオは別れ、居間に戻っていく。


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